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オルビス・ファンタシア~魂の交差~  作者: 蒼香 海斗
第3章 失われたもの
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第68話 残された想い

「ええい、厄介じゃの。目の前に見えるのは幻覚。しかし、本体がどこにおるか感知できん・・・。」


カサリスはウェリタスの能力の分析をしつつ、攻撃をかわし続けている。

範囲魔法で周辺ごと、ウェリタスに攻撃をしようとした時だった。

ウェリタスの幻が歪み、消え去った。

後ろからウェリタスの分身体が姿を現し、そして黒い塵となって消え去って行く。


「やりおったか・・・。」


カサリスは学校の方角に視線を移す。


裏にはでは、土煙が風に吹かれて行き、ジンの立ち姿が影となって浮かんでくる。

それを見た人達は、ゴクリと固唾を呑んだ。

やがて土煙は晴れ、ジンの姿と、胸の魔晶核を水の剣が貫通し、突き立っている。

その足元には、倒れて黒い霧となって宙に散っていくウェリタスの姿が現れた。

生徒達は歓声を上げた。

ジンはふらつき、力無く地面に倒れ込む。


「ジン!」


遠目から見ていたフリーシアは、ジンの側まで駆け寄る。

ロイスはジンを見つめながら、立ち上がろうとし、体を止めた。

そのまままた座り込み、ヤナに視線を移す。


「ヤナ、敵はジンが取ってくれたよ・・・。」


ロイスはヤナに笑顔を向け、涙を浮かべた。


「ジン。ジン大丈夫?」


フリーシアはうつ伏せで倒れているジンを、そっと仰向けにして上半身を膝の上にもたれかかせる。


「フ・・・リーシア。僕は、大丈夫。」


フリーシアはジンに意識があることを確認すると、ホッと、小さく息を吐いた。

遠くで先生達の声が聞こえる。


「倒れてる生徒、負傷している生徒から運んで!!」


「傷が深く、出血の多い人をこちらに!」


と、負傷者達を一か所に集めていた。


「僕はまた、助けられなかった・・・。」


ジンは左手で顔を覆った。


「そんなこと無いわ・・・。見て、こんなにたくさんの人を助けてる。」


ジンは指の間から、生徒達や先生達を見ると、現実を拒否するかの様に目を閉じる。


「でも、ヤナは帰って来ない・・・。」


ジンのその言葉に、フリーシアは何か伝えようと口を開くが、きゅっと口を紡ぎ、俯く。


「・・・しもよ。」


フリーシアは小さく呟く。


「私も、側に居ながら守れなかった・・・。」


フリーシアの声が大きくなる。


「貴方だけじゃないの!一番悲しいのは・・・。お姉様よ!」


いつになく、感情を露わにするフリーシアの目から涙が伝い、ジンの頬を流れる。

ジンは目を開け、そして大きく見開く。


戦場で意識を失い、倒れた人数は生徒のは半数近く。

残った者の中で負傷者は二百人以上に上り、重症者は三十名を超えた。

そして死亡した者は・・・。

ヤナ一名のみだった。

戦況が長引けば、出血多量での死亡者がもっと増えていたそうだ。


ヤナの土葬は、翌日に行われた。

暗い雲が空を覆い、見送る人々の悲しみを現しているかの様に淀んでいる。

ヤナの入った棺に、土が被さって行く。

その音だけが静寂を破り重く響き渡る。

親を始め、ヤナと関りのあった生徒達が胸の前に手を組み、黙祷を捧げる。

その中に、ジン、ロイス、フリーシアも居た。

ロイスは涙を堪えようと、組む手に力が入っているのが分かる。

フリーシアは、たった一日話しただけだったが、ヤナの側にいたのに守れなかったこと、そして失ったことに悔やんで、涙を流せていた。

ジンは二人を見て思う。


ロイスのたった一人の親友を守れなかった。

僕に無く資格があるのか・・・?


学校の廊下で、ヤナとの指切りしたことをふと、思い出す。


僕の代わりに、君が守ってくれたんだね。

大丈夫、君との約束は必ず守って見せる。

必ず、ロイスを・・・そして、フリーシアもだ。


土葬が終わると、ロイスがヤナの親の元へと歩き出す。


「ロイス・・・。」


ロイスはヤナの母親の視線から目を離したが、両手を握ってヤナの母親に向き直す。


「ヤナは、私を庇ってくれました。」


ヤナの母親は、ロイスの言葉を聞くと、口を両手で覆って涙を流した。


「私は、ヤナに助けられました。ヤナは、ヤナは・・・。」


我慢していたはずの涙が、ロイスの意志に関係なく、流れ始めた。


「私が居なければ、ヤナは・・・。」


ロイスは両手で顔を覆い、声をあげて泣き始めた。

静かにフリーシアがロイスの横に立ち、ロイスの背中にそっと手を添える。


「ヤナは、学校から帰ってきたら、貴方の話ばかりしてたの・・・。」


ヤナの母親も、ヤナを思い、涙を流して体を縮める。

それを見たヤナの父親が、母親の背中にそっと手を添える。


「貴方が旅立って、ヤナは元気がなくなっていたの。そしたら昨日、すごく笑顔で帰って来てね、ロイスが帰って来たって、はしゃいでたの。」


ヤナの母親は、細く目を開け、ロイスを見た。


「本当に、ヤナは貴方が大切だったのね・・・。」


ロイスの隣に、カサリスが歩いて来た。


「今回の件に関しては、わしの責任だ。ロイスを、この子を責めんでやってくれ。」


カサリスはロイスの頭に優しく手を置いた。


「カサリス校長・・・。」


ロイスはカサリスを見上げた。

その表情にはカサリスの憤りが滲み出ていた。

カサリスは、ロイスから手を離すと、深くお辞儀をする。


「大変、申し訳なかった・・・。」


ヤナの母親は、その言葉を聞き、足の力が抜けてその場に崩れ落ちた。

ただ、娘がもう帰って来ないという現実だけが、胸を締め付けた。

ヤナの母親は、振り絞る様にロイスに伝えた。


「ロイス。ヤナが守った貴方の命、大切にしてね。」


「ロイスは僕が守ります。そしてフリーシアも。」


ロイスが答えるよりも早く、ジンが答える。

ジンはいつの間にかフリーシアの隣に立っていて、その決心は自分自身に言い聞かせる様にも聞こえた。


「ヤナの、彼女の想いは僕が受け継ぎます。」


その顔は、真剣そのものだった。

ヤナの母親は、声も無く、大きく二回、頷いた。

葬儀が終わり、休校の校舎に一人、ロイスは歩いていた。

ふと、気づくとヤナと過ごした教室の前で立ち止まっていることに気付く。

ロイスは教室を窓越しに覗くと、自分が座っていた席に目が止まる。

そこには、ロイスが座り、ヤナが机に腰掛けて楽しそうに笑っている光景が浮かんだ。

ロイスは一通り、校内を歩くと、正門に向かった。

正門から出て少し歩いた時、風がそっとロイスの視線を正門に向かわせた。

ロイスはその先を見て、目を大きく見開く。

正門の端で、ヤナが手を振っていた。


「君なら大丈夫。」


ロイスはそう言ってくれている気がした。


「うん!」


ロイスは強く口を紡ぎ、頷くと、自分の家に向かって歩き出す。

ロイスはもう、振り返らずに歩き進める。

その先には、ジンとフリーシアがロイスを待っていた。

ヤナは笑顔を浮かべながらも、どこか寂しそうにロイスを見送っていた。

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