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オルビス・ファンタシア~魂の交差~  作者: 蒼香 海斗
第3章 失われたもの
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第66話 記憶の解放

ヤナは腹部を切り裂かれ、力なく地面へと吸い込まれる様に倒れ込む。


「ヤナ!」


ロイスも、ヤナに引っ張られた勢いで倒れ込んだ。

すかさず体を起こしたロイスはヤナの元へ駆けつける。


「ヤナ、ヤナ・・・!」


ヤナの腹部は半分以上切り裂かれ、大量の血液がそこから流れ出す。

ロイスは血の海に膝を付き、ヤナの手を握って必死に名前を呼ぶ。


「ヤナ、ダメだよ・・・。こんな・・・。」


ヤナは口から血を吐き、微かに意識が戻る。


「ロイ・・・ス。」


「ヤナ!?・・・喋っちゃダメ!」


ロイスは辺りを見回し、叫ぶ。


「誰か!誰かヤナを・・・!」


必死の呼びかけも、誰にも届かずに消えて行った。


「もう・・・いいよ。」


「もういいなんて、そんなこと無い!絶対無いんだから!」


「もう・・・十分だよ。」


ヤナの頬からゆっくりと赤みが消えていく。

ロイスが握っている手の中で確かにあった温もりがゆっくりと、少しずつ冷たくなっていく。

涙が零れ落ちるのを必死で耐えた。


「ああ、ロイスともっと一緒に過ごしたかったな・・・。」


「そんなこと言わないで。お願いだから・・・。」


ヤナは少しだけ頭を動かし、ロイスに視線を送る。


「君なら、きっと・・・大丈夫。」


ヤナはロイスに笑いかけ、自分の血で塗られた手を持ち上げて涙を流すロイスの目尻を拭いた。

ロイスの頬に、血の跡を残すと、力を失ったその手は糸が切れたかの様に、ヤナの胸に落ちた。


「ヤナ・・・?」


ヤナの瞳から光が消えていた。

やなからの返事はもう返って来なかった。


「ヤナ・・・。ヤナァァ!!」


ロイスの涙が血の跡を伝い、赤く染まった涙となって流れ落ちる。

その時、風が止み、草が擦れる音は止まり、意識が遠のく・・・。

まるで体から意識を引っ張られ、空に昇って行くように。

気がつくと知らない場所に浮かんでいた。


「ここは・・・?」


声がその空間に反響していく。

自分の体を目で見て確認すると、赤い、オレンジ色をしており、僅かに発光していた。

ロイスが辺りを見回していると、黄色く光り輝く、光の粒子が集まって行く。


「・・・ヤナ?」


その光の粒子はやがて、ヤナの形を作っていく。


「ロイス・・・。」


光の粒子はヤナの姿を形造り、ロイスを呼びかけた。


「ヤナなの!?」


「そうだよ、ロイス。」


「どうして、私を庇って・・・。」


「ロイスを、守りたかったから。」


「そんな・・・。私、ヤナの事覚えてないのに・・・。」


ロイスは俯いて目を閉じる。

その目から涙が溢れ、宙を浮く。

ヤナは静かに首を横に振る。


「ううん、そんなこと無い。ほら、目を開けて見てごらん。」


ロイスゆっくり目を開く。

そこには、シャボン玉の様にふわふわと、ロイスの記憶の断片がたくさん、空中を浮かんでいた。

ヤナとの出会い、学校で過ごした時間、嬉しかったことや悲しかったこと、苦しく、沈んでしまいそうになる記憶・・・。


「楽しいだけじゃない。苦しくて悲しかった出来事もある。でも・・・。」


ヤナはそこで言葉を切ると、ふわっとロイスに近づき、優しく抱きしめる。

すると、シャボン玉の様な記憶の断片が、ロイスの中に入っていく。

ロイスの中に記憶が巡る。

塞ぎ込んでいた記憶や思い出が解放された瞬間だった。


「ボク・・・。私は・・・。」


ロイスは一気に記憶が戻ったことで、一時的な放心状態になる。


「ロイス。」


ヤナは優しくロイスの名前を呼びかける。

ロイスはヤナの呼びかけで我に返った。


「ヤナ、ヤナ?嫌だよ・・・こんなの・・・。」


ロイスはヤナを抱きしめ返し、顔を埋める。


「ごめん、ヤナ・・・。貴方のこと、忘れてて。」


「ううん、いいの。こうして、もう一度出会えたんだから。」


ヤナはそっと、ロイスの頭を撫でる。


「思い出したんだよ?思い出したから、戻って来てよ・・・。」


「ありがとう、思い出してくれて、嬉しいなぁ。」


ヤナの声は僅かに震えていた。

ロイスの瞳から、堰を切った様に、涙が零れ、溢れる。

ヤナは少し困った顔を浮かべ、それを否定する様に、首を横に振る。


「ロイス、君なら大丈夫。辛い時は泣いても良い。挫けてしまっても良い。だって君は、もう一人じゃないんだから。」


「一人じゃ・・・無い?」


ロイスは思い出した。

ジンに出会い、一緒に旅をし、フリーシアと出合い、仲良くなったことを。


「そうだよ、だから大丈夫。ロイスなら乗り越えていける。」


「うん、うん!分かったよ、ヤナ・・・。」


ヤナはロイスを離し、両肩に手を添えて、にっこりと笑顔を向けた。


「私はロイスの中で生き続ける。君が思い出す度、ずっとそばに居られる。」


そして、ロイスの涙を拭って、離れて行く。


「ずっと・・・。一緒だからね。」


「ヤナ・・・。」


ロイスは手を伸ばし、ヤナの手に触れようとした。

しかし、届くまで後僅かの所で光の粒子となって、散って行った。

ヤナは最後までロイスに笑顔を送り続けていた。

ロイスは届かなかった手を引き、その手を見つめる。

すると、体が落ちていく感覚を覚える。

そこにあったはずの空間が、収縮し、真っ暗な闇になる。

気づいた時、ロイスは現実に引き戻されていた。

つい、さっきまで見ていた学校の裏。

裏庭に伏せる、生徒や先生達。

目の前には、ヤナの姿。

神に祈るように胸の前で両手を組むと、ロイスは自分の瞳から流れる涙を拭い、ヤナに手を添えて集中する。


お願い、どうかヤナを・・・。

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