第65話 断絶の魔人 ウェリタス
生徒達は、ウェリタスの強大な魔力の重圧に耐えきれずに泡を吹き、意識を刈り取られ、卒倒していく。
その数は生徒の半数近くに及んだ。
ウェリタスはそんな生徒達には目もくれず、片手に携えた鎌を両手に持ち替え、その場で上から斜めに大きく振りかざし、空を切る。
その軌道は因果を断ち切る一閃だった。
「因果断絶」
頭の中に再びウェリタスの不気味な声が響く。
フリーシアはその動作が何の意味を持つのか分からず、身構える。
一人の生徒が一歩前に出た。
その時・・・。
右足のふくらはぎの肉が断たれる。
激痛の叫びは届かず、地面に倒れ込む。
ウェリタスは振り下ろした刃を返し、下から上に空を切る。
すると、別の生徒の腕の肉が突然断たれ、血飛沫が舞う。
「お姉様!逃げて!」
フリーシアの呼びかけは虚しくもロイスには届かない。
「お姉様!?」
フリーシアはロイスに触れようとすると、その手はすり抜けた。
「どういうこと!?」
フリーシアはもう一度ロイスに触れる。
確かにそこにロイスが存在している・・・。
しかし、フリーシアの手はまたしてもロイスをすり抜けた。
「そんなっ・・・。」
フリーシアは生徒たちに視線を向ける。
一部の生徒は腰が抜けて動けない状態で、残りの生徒達は何故か散り散りに走って逃げている。
先生達は応戦して魔法を放っている。
しかし、一人は空へ、一人は校舎に向けて、一人は生徒達に向かって・・・。
と、フリーシアの目には先生達がばらばらの方向に攻撃している様に見えた。
声が聞こえず、触れることも出来ない。
隔離された世界に、そこに確かに存在するウェリタスに向かって。
「皆・・・。どこに攻撃してるの!?」
フリーシアは生徒達の上に存在するウェリタスに視線を向ける。
ロイスはウェリタスの圧力に震えながら、ヤナの手を握ろうとする。
「ヤナ?」
しかし、その手はすり抜けてしまう。
「フリーシア・・・?」
次はフリーシアの背中に触れようと手を伸ばす。
が、やはりその手はフリーシアの体をすり抜ける。
ロイスは辺りを見回す。
気絶して倒れている生徒、次々と血飛沫をあげながら倒れて行く生徒。
ロイスは恐怖と孤独感に支配され、力なく崩れた。
フリーシアは呼吸を整え、違和感の正体を探るように視線を走らせた。
お互いの声が届かない、触れることも出来ない・・・。
ウェリタスの魔法かしら・・・。
生徒達が居るから範囲魔法は使えない。
なら・・・。
フリーシアは、そう考えながら両手を天高くかざし、空中に氷の矢を無数に作りだす。
「氷霊の尖槍」
フリーシアは両手を前に振りかざした。
無数の氷の矢は放たれ、ウェリタスに襲い掛かる。
・・・が、その氷の矢は虚しく、ウェリタスをすり抜け、校舎の壁に突き刺さり、強烈な冷気を放つ。
「魔法が・・・すり抜けた!?」
フリーシアは息を呑んだ。
「いえ、そんなはずないわ・・・。」
フリーシアは再び空に氷の槍を生成する。
上げた両手を振り下ろすと、それを号令に氷の矢がウェリタスに向かって襲い掛かる。
しかし、その槍は再びウェリタスの体をすり抜けた。
「なら・・・。」
フリーシアは両手を添え、氷の剣を作り出す。
「氷霊の零剣」
走り込もうと、一歩前に出た時、フリーシアの背中が裂ける。
「!?」
ヤナは辺りを見回す。
ヤナは同じ空間に居るはずなのに、互いが別の位置に存在している様に感じがしていた。
何か嫌なモヤモヤが胸に広がり、辺りを見回す。
少し離れた所に、蹲っているロイスを発見した。
「ロイス!」
ヤナは蹲るロイスの側に近寄り、ロイスの背中に触れる。
「ロイス、しっかりして!?」
「ヤナ・・・?」
ロイスは顔を上げて、ヤナを見る。
「やっと見つけた。」
ヤナは優しく、震えているロイスを包むと、近くで氷の剣を作り出したフリーシアに声をかける。
「フリーシア!?」
しかし、その声はフリーシアには届かなかった。
フリーシアの背中に、空間がかみ合って無い場所がヤナに見えた。
その直後、フリーシアの背中が裂け、血飛沫が宙を舞う。
「フリーシア!」
ヤナは息を呑んだ。
その時、目の前の空間だけが、僅かにズレて見えた。
フリーシアは地面に跪き、肩に手を添える。
激痛に、息が荒くなり、顔が歪む。
それでもウェリタスへ視線を向け続けていた。
私が、何とかしないと・・・。
ジンに、頼まれたのよ。
フリーシアは自分自身を奮い立たせ、立ち上がった。
「くっ・・・。」
これ以上出血しない様に、自分の背中を凍らせる。
フリーシアは息を整える為に大きく深呼吸し、集中しようとした。
この間にも、生徒、先生達はウェリタスに裂かれ、倒れて行く。
だめ、これじゃ集中できない。
私一人じゃ何もできないの・・・?
フリーシアは唇をかみ、両拳を握る。
唇から一筋の鮮血が流れ落ちる。
ロイスは立ち上がると、ヤナに抱き着いた。
「皆が倒れてく・・・。でも、ボクは何もできない・・・。」
「大丈夫。ロイスには仲間がいる。それに、私だって貴方の親友よ?」
ヤナはロイスを抱き返し、頭を撫でると、ロイスを離して真剣な表情になる。
「でも、ここから逃げないと。フリーシアが何とかしようと頑張ってくれてる。」
ロイスは小さく頷く。
「行こう。」
ヤナがロイスの手を取ろうとした時、ロイスとヤナの頭の中にウェリタスの声が反響する。
「断絶した空間で、何故繋がれる?」
その瞬間、ロイスの背中の空間が裂けた。
「ロイス!」
ヤナは咄嗟にロイスの手を引き、自分との場所を入替える。
「ヤナ!」
ロイスは体制を崩し、ヤナの手が離れる。
その刹那、ロイスの世界の音が遠のき、時間が引き延ばされた。
倒れながら必死に手を伸ばし、ヤナの手を取ろうとするロイス。
しかし、その手は触れることなく離れて行く。
ヤナが笑顔を向けたのをロイスは確かに見た。
ゆっくりと、ヤナの口元が動く。
何かを伝えようとしたことをロイスは理解できた。
しかし、その言葉はロイスには届かなかない。
「ずっと一緒だよ。」
その瞬間、ヤナの腹部が断たれた。




