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オルビス・ファンタシア~魂の交差~  作者: 蒼香 海斗
第3章 失われたもの
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第61話 忘れていても

雨上がりの匂いが、まだ街に残っていた。

家の中は静かな空気が流れている。

ジンとフリーシアは何も言えず、ロイスとヤナを見ていた。


「ロイス・・・?」


ヤナはロイスに微かな違和感を感じ、ゆっくりとロイスを離し、両肩を持ってロイスの顔を覗く。


「ごめん、なんか、勝手に涙が出ちゃった・・・。」


ロイスは片方ずつ、涙を拭った。

ヤナは首を横に振る。


「ヤナ、話があるんだ。」


ヤナはロイスからジンに視線を移した。

ジンは少し気まずそうな顔をしていて、そんなジンを見てヤナは口を紡ぎ、頷いた。


「話すと長くなるから、座ろう。ロイスも、フリーシアも。」


ジンがダイニングにあるテーブルの席に腰掛けると、ヤナがジンの前に座り、ロイスがその隣に腰掛ける。

フリーシアは残ったジンの隣に腰掛けた。

ロイスはヤナの隣で、不思議そうにヤナを見つめる。

ジンは全員が席に着くと話を始めた。


「ヤナ、落ち着いて聞いて欲しい。」


ジンは真剣な顔でヤナを見つめる。

ヤナはゆっくりと頷いた。


「今のロイスは・・・。」


ジンは言葉に詰まり、少しだけ眉を寄せてロイスに視線を送る。


「ロイスお姉様は、記憶が無いの。」


言いにくそうにしていたジンの代わりにフリーシアが答えた。

ジンは右こぶしを握り、ヤナは目を大きく見開いてロイスを見た。


「記憶が・・・ない?」


ロイスは申し訳なさそうに、ヤナから視線を逸らして俯く。


「うん。だから記憶を呼び起こす為に、ここまで帰って来たんだ。」


「そう、だったんだね・・・。」


ヤナは目を伏せた。


「でも・・・。」


ヤナは言葉を詰まらせた。何を言ったらいいか、何を伝えたいのか。

少し沈黙した後、ヤナは真っ直ぐにロイスを見る。


「でも、生きててくれてよかった。」


ヤナはロイスに笑顔を向け、ロイスに抱き着いた。

ロイスもヤナを抱き返し、小さく「うん」と呟く。

ジンとフリーシアは顔を見合わせ、小さく息を吐いた。

ヤナはロイスをゆっくり外すと、ジンに視線を向ける。


「所でジン?何で可愛い女の子が一人増えてるの?」


ヤナのその声は少し低く、目を細めてジンを見つめる。

その視線に、ジンは思わず体を逸らす。


「話せば長くなるというか・・・。」


ジンは体を逸らせたまま、視線を横に逃がす。


「そ、そうだ!ヤナとフリーシアは初対面だし、ロイスも記憶を失ってるから自己紹介・・・なんてどうかな?」


ヤナは目を閉じると、大きく息を吐いた。


「分かったわ・・・。」


ジンは苦笑いを浮かべていた。


「二人共、こちらの女性がロイスが子供の頃からの親友・・・。」


「私はヤナ・セキア。よろしくね。」


ヤナはロイスとフリーシアに笑顔を向けた。


「ヤナ、ヤナ・・・。」


ロイスは俯き、ヤナの名前を呟くように繰り返し呼んだ。


知らない名前・・・。

でもどこか懐かしい名前。


ロイスはヤナの横顔を見つめた。


「それで、僕の隣に座ってるのが旅の仲間で・・・。」


「フリーシア・エル・イリシアよ。安心して、私はお姉様一筋よ!お姉様の親友に会えるなんて、嬉しいわ!仲良くしましょ。」


フリーシアは右手を前に出した、ヤナは戸惑いながらも手を差し伸べて、二人は握手を交わした。


「それにしても、イリシア・・・って、王都の名前よね?」


ヤナは不思議そうな顔でフリーシアを見つめる。


「あ、うん。フリーシアは王女だからね。」


「王女!?」


ヤナは驚きのあまり、椅子から立ち上がった。


「そうとは知らずに・・・。失礼を致しました。」


ヤナは丁寧に頭を下げる。


「今更水臭いわ。私にもジンやお姉様みたいに接して頂戴。」


フリーシアはヤナに笑顔を向けた。


「そう言う・・・事なら・・・。」


ヤナはゆっくりと椅子を引き、座り直す。

しかし、表情は何処か強張っていた。

ジンはロイスの記憶をなくした経緯と、記憶を呼び覚ます為に立ち寄った所を辿って戻ってきたことを話した。


今、カリフィスのことを話すのは藪蛇だな・・・。


そう判断したジンはカリフィスの話は除外して話した。


「そうだったんだ・・・。それで、ロイスはどれぐらい思い出せたの?」


ロイスは唇の下に人差し指を当て、考えた。


「ん~・・・。なんとなく、覚えてたり、懐かしく感じたりかな?」


「そう、じゃぁまだ全部は思い出せて無いのね・・・。」


ヤナは少し寂しそうに視線を落とした。


「でも、唇の下に指を当てて考える癖は、抜けないのね。」


ヤナは何処か嬉しそうに微笑んだ。

その笑顔の目じりから、涙が溢れそうになり、ヤナはぐっと堪えた。

ジンは少し目を見開いた。


「ほんとだ、当たり前すぎて気づかなかったよ。」


「流石、お姉様の親友ね!」


フリーシアは嬉しそうに体を前に出した。

ロイスは癖のことを言われ、顔が少し赤くなる。


「もう、ヤナったら・・・。」


その言葉にヤナの胸が小さく跳ねた。

ヤナは目を見開いて驚く。

しかし、すぐに笑顔に戻る。


記憶を無くしても、ロイスはロイスなんだね・・・。


ヤナはそう思いながら、そっとロイスの隣に座り続けた。


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