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オルビス・ファンタシア~魂の交差~  作者: 蒼香 海斗
第3章 失われたもの
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第60話 知らないはずなのに

深夜から雲が陰り、満天の星空だったのが嘘だったかのように雲が空を覆い隠す。

早朝から雨が降り始め、外で見張りをしていたジンは従車の中へと避難する。

屋根で雨が弾け、雨音が従車の中に響き渡った。

ロイスとフリーシアは体を寄せ合い、毛布に包まって静かに寝息を立てている。

ジンは二人を見ると小さく息を吐くと、表情が緩むと、二人から視線を外す。

雨水が滴る窓越しに暗い雲に覆われた空を見つめた。


「ん・・・。ジン?」


ロイスはぼやける目を擦りながら雨音で目を覚ます。


「ごめん、起こしてしまった?」


「ううん、雨の音で目が覚めたの。」


ロイスは首を横に振る。


「お姉様・・・?」


ロイスの体が動いたことで、フリーシアも目を覚ました。


「ジン・・・?」


「フリーシアも起きてしまったか。」


「ええ。」


「雨が降って来たから避難したんだ。」


ロイスは雨の降る外を窓から覗いた。


「わぁ、結構降ってるね。」


「うん。二人共起きたから、少し早いけど従車を出そうと思う。」


「分かったわ。」


ジンが従車を走らせ始めた頃、ピシャッ!と空が光ると同時に轟音が窓を揺らす。


「近すぎるな・・・。」


呼吸を置く間も無く、再び外が光る。

ロイスは雨水が流れる窓越しにぼやける外を見て不安そうな表情を浮かべる。

草原を抜け、森の中へと入る。

雨は弱まる気配も無く、木々に遮られた空は昼間だというのに薄暗かった。


「そうだ、この森で初めてロイスと魔物を狩ったんだよ。」


「どんな魔物を狩ったの?」


フリーシアはロイスの話になるとすぐに反応する。


「猪の姿をした魔物だったよ。その後ロイスがこれ食べれる魔獣だ!って言って解体し始めたんだ。」


ジンは思い出しながら笑った。


「え?ボクが!?」


ロイス自分のしたことに少し驚いていた。

ジンは頷くと続けた。


「その後、待っててって言われてロイスは森の中に入って行ったと思ったら、コンセルリーフをいっぱい背負って帰って来たんだ。たくましいなって驚いたよ。」


「流石お姉様ね!」


ロイスはフリーシアに視線を送られたが、きょとんとした表情をしていた。

それからどれぐらい走っただろうか。

気づけば雨は止み、空は夕焼けに染まり始めていた。

その頃、森を抜けてグルナーレの街が見えて来た。


「ここが僕が育った街・・・。」


ロイスは遠くに見えるグルナーレの街を窓から眺めていた。

グルナーレに入ると、従車はゆっくりと街の中を進んだ。

多くの人が行き交い、活気のある声が街を包んでいる。

ジンは学校の鉄門の側に従車を止めた。

三人は従車から降りると、辺りを見回した。


「結構大きい街ね・・・。」


「魔法学校がある街だからね。」


「ここに止めても大丈夫かな?」


ロイスは他の迷惑にならないかを心配していた。


「大丈夫・・・。だと思う。」


ジンは少し自信なさげに答えた。


「さぁ、ロイスの家に行こう。」


ジンは先に歩き、二人を先導する。

しばらく歩くと露店の通りに差し掛かる。

人々が行き交い、露店呼びかける活気ある声が飛び交う。


「変わらないな・・・。」


ジンは小さく呟いた。

ジンの後ろで歩いているロイスとフリーシアは、露店のあちこちに目を移していた。

露店の通りを抜け、少し歩いた所に在る、一件の家の前でジンは立ち止まった。


「ここだ・・・。」


後ろに付いていた二人も足を止める。


「ここが、ボクが住んでた家・・・。」


ロイスはその家を見つめる。


「ロイス、鍵はある?」


「鍵・・・。」


ロイスはポケットを探り、一つだけある鍵を見つける。


「多分、これ・・・。」


ロイスは家の鍵をポケットから取り出し、ドアのカギ穴に差し込み、回す。

カチャッと静かに開いた。

ロイスは驚き、ジンに視線を送る。

ジンはロイスの視線を受けると、笑顔を向け、頷いた。

ロイスは視線を戻して震える手でドアノブを握ると、目を閉じて大きく深呼吸をすると、意を決してドアノブを回してドアを開いた。

玄関の先はダイニングになっていて、食事をするためのテーブルと椅子が置かれていた。

家の中は少し埃っぽく、しばらく使われていないことがすぐに分かった。


「ここがお姉様の育った家・・・。」


ジンとフリーシアが中に入った時、ロイスは不思議と引かれたのか、何も言わずに自分の部屋の前まで行くと、ドアを開ける。

ロイスの視界に自分の部屋が移ると、少し目を見開き、何かを言おうとして、それでも何を言おうとしたか分からずに、口を開いたまま、自分の部屋を見つめた。

ジンはロイスの隣に立ち、肩に優しく手を添える。

ロイスは、はっとジンに視線を移す。

フリーシアは後ろで、両手を口もとでぎゅっと組み、息を潜めるように見守っている。


「ここがロイスの部屋だよ。」


ジンにそう言われると、部屋に視線を戻す。


「不思議なの・・・。なんだか懐かしい気がする・・・。」


その時、玄関のドアがゆっくりとノックされた。


「誰か・・・居るの?」


それはジンには聞き覚えのある声だった。

ジンはゆっくりと玄関のドアを開けると、そこには長い黒髪をポニーテールでまとめた、琥珀色の瞳をしている、白と黄色を基調とした服を着たヤナが立っていた。

両手を胸の前で組んで不安そうな表情をしている。


「え?ジン!?」


「やぁ、ヤ、ナ!?」


ヤナはジンと認識したと同時に、抱き着いた。


「帰って・・・来たんだね・・・。」


ジンは突然ヤナに抱き着かれてどうすれば良いか分からず、あたふたしていた。

フリーシアは二人を見て、目を丸くして驚いている。


「でも、ジンが居るってことは・・・?」


ヤナはジンに抱き着いたまま顔を上げた。


「あ、ああ、うん。ロイスも居る。でも・・・。」


「だぁれ?」


ジンが言い終わる前に家の奥からロイスの声が聞こえた。

ヤナはジンの横をから覗く様に中へ視線を向ける。


「ロイ・・・ス?」


ヤナは視線の奥でロイスを見つけると、すぐに家の中に入り、ロイスに駆け寄って懐に飛び込んだ。


「ロイス!」


知らない顔、知らない声。

なのに、何故か胸が締め付けられる。

ロイスはゆっくりとヤナを抱き返した。


「あれ?おかしいな・・・。ボク・・・。」


知らないはずなのに、頬に涙が伝う。

記憶が無いはずなのに、心だけが覚えていた。

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