第59話 思い出の夜空
翌日、朝もやが晴れ、村のあちこちの家から煙が立ち上り、朝食の準備をしている頃。ジン達三人はバルクに見送られてアルタル村を出発した。
従車は土の道を蹴り、草原を駆け抜ける。
「二人共、良く寝れた?」
「ええ、良く寝れたわ。」
相変わらずフリーシアは従車の中ではロイスにぴったりとくっついている。
「うん、お風呂にも入れたし、良く寝れた。」
ロイスは慣れたようにフリーシアの頭を撫でている。
「よかった。」
ジンもこの光景はずっと見て来たので見慣れていた。
「この先、一日走った所に初めて野営した場所があるんだ。」
「初めて野営したところ・・・。」
ジンは頷いた。
「うん、思い出せないにしろ、ここからグルナーレまで二日はかかるからそこで野営しようと思う。」
「それ、いいわね!ね、お姉様。」
フリーシアは嬉しそうにロイスに聞いた。
「うん!ボクも気になる!」
「よかった。」
ジンは二人に笑顔を向ける。
従車は日が暮れ、空が夕焼けと夜が溶け込む頃まで道を走った所で土の道から草原へと逸れた所でゆっくりと止まった。
「この辺りだ。野営の準備をするから少し待ってて。」
ジンは二人にそう言うと、従車から降りた。
手慣れた手つきで地面に少しく窪む程の穴を掘り、その周りに石を敷き詰めて薪を置く。
小枝に電撃を走らせて種火を作り、薪にくべる。
小さかった炎は次第に大きくなり、ぱちぱちと弾ける音を響かせる。
ジンは準備が終わったので従車に居る二人を呼びに行った。
「準備できたよ。」
「ありがとう。」
三人は従車から離れ、焚火を囲んで座る。
「今日のご飯は僕が作るよ。」
ジンはバッグからコンセルリーフを取り出した。
それを見たフリーシアは渓谷でジンが作ってくれたコンセルリーフの包み焼のことを思い出す。
「コンセルリーフの包み焼ね!」
ロイスはきょとんとした顔で二人を見つめる。
「うん、本当は朝作って貰ったんだけど・・・。」
ジンは三人分の包みを作ると、焚火の上に置いた。
「そう・・・。あの時の話はここでの話だったのね!」
フリーシアは何処か嬉しそうにロイスに視線を向ける。
コンセルリーフの包みを眺めていたロイスがその視線に気づく。
「ん?」
ロイスは不思議そうにフリーシアを見つめ返した。
次第にコンセルリーフの隙間からシューシューと湯気が勢いよく噴き出す音が静寂の草原に響く。
「おいしそうな匂い!」
ロイスは嬉しそうにそう言うと、出来上がるのが今か今かと待ち詫びている。
「そろそろかな?」
ジンは焚火からコンセルリーフの包みを取り出し、ロイスとフリーシアに渡す。
「これは初めてここで野営した朝食にロイスが作ってくれたコンセルリーフの包み焼だよ。食べてみて?」
ロイスはジンの言葉を聞き、コンセルリーフの包みを広げる。
そこから肉の油の豊潤な香りに、スパイスとコンセルリーフの爽やかな匂いが混じった香りが立つ。
ロイスはフォークで肉を刺すと、ゆっくりと口に運ぶ。
口の中で弾ける肉汁と、鼻から抜けるコンセルリーフとスパイスの香りに「これ・・・?」ロイスは眉をひそめたが、すぐに表情を緩めた。
「んん!おいひい!」
ロイスは嬉しそうにほうばった。
ジンとフリーシアは、美味しそうに食べるロイスを見て表情が緩む。
「僕達も食べよう。」
「ええ。」
ジンとフリーシアもコンセルリーフを広げ、食べ始める。
三人は談笑しながら食べ進め、静かな夜に包まれていた。
「食べた~。」
ジンは食べ終わると、あの日と同じように両手を広げて仰向けに倒れ、満天の星空を見上げる。
「やっぱり、綺麗だな・・・。」
ジンは星空を見つめて小さく呟いた。
「何してるの?」
フリーシアは不思議そうにジンを見つめた。
「食べた後、二人でこうやって星空を見上げたんだ。」
フリーシアはそう聞くと、ジンの真似をして両手を広げて仰向けに倒れ込む。
「綺麗ね・・・。」
ロイスは何も言わず、倒れている二人を見る。
「ほら、ロイスもやってみて?」
ロイスはジンに言われるまま、同じように仰向けに倒れる。
「わぁ・・・。星に手が届きそう・・・。」
ロイスは右手を出し、星空を掴もうとする。
雲一つない夜空には無数の光が夜空に散りばめられ、強く光る星や光が弱い星が瞬き、優しく輝いていた。
三人はしばらく無言で星空を見上げ、焚火の音だけが静かに夜に響いく。
「なんだか落ち着くね・・・。初めて来たのに、なんかく不思議・・・。」
ロイスが小さく呟いた。
広い草原に風が走り、草原の草を優しく撫でる。
風が心地良く三人を駆け抜けた。




