第57話 夕日に染まる横顔
朝の光が、静かに部屋の中へ差し込んでいた。
薄く開いたカーテンの隙間から差し込む光が、寝ているロイスの顔を柔らかく照らす。
「う・・・ん。」
ロイスは目を覚ますと、起き上がってぼやける視界の目を擦る。
隣にはフリーシアが寝ていた。
「フリーシア?」
ロイスは昨日のことをぼんやりと思い出す。
ボク、寝ちゃったんだ・・・。
「ん?あれ?フリーシア!?」
「お姉様・・・。」
ロイスの声でフリーシアが目を覚ます。
「え?なんで?」
状況を把握できないでいるロイスだが、それもそのはずで驚いていた。
「二人共起きた?」
ロイスは少し離れた所から聞こえたジンの声の方を見る
フリーシアも体を起こし、ジンの方を向く。
ジンはソファーに腰掛けていた。
「どうしてフリーシアが?」
ロイスがフリーシアに問いかけると、フリーシアは「ん~。」と言って視線を逸らし、答える気は無さそうだった。
そんな様子を見てフリーシアの代わりにジンが答えようとした。
「昨日、寝るとき、フリーシアがお姉様の隣は私だ!って・・・。」
「だー!言わないで!!」
フリーシアは急に恥かしくなり、ジンの言葉を遮った。
「もう、いいでしょ!?ね?お姉様・・・。」
フリーシアの頬がほんのりと赤く染まっていた。
ロイスは柔らかく目を細めてフリーシアを見ると、クスッと笑った。
「うん!」
三人はそれぞれ着替え、食堂ホールに向かった。
朝の食堂はまだ人も少なく、静かな空気が流れている。
席に着くと、温かい食事が運ばれてきた。
「ジン、今日はどうするの?」
フリーシアがジンに今日の予定を聞く。
「そうだな・・・。明日、出発したいから今日は買い出しかな?僕一人でもできるけど、二人はどうする?」
「そう、じゃぁ私はお母様の所に行くわ。お姉様は?」
「ふぁに?」
ロイスは朝食を夢中になって食べていて二人の話を聞いていなかった。
ジンとフリーシアはそんなロイスを見て表情が緩む。
「もう、お姉様ったら・・・。」
フリーシアは呆れたように言いながらも、どこか嬉しそうだった。
「じゃぁ、ロイス。一緒に店を回ろう。」
「うん!」
朝食を食べ終わると、フリーシアはアスタリアの元へ行き、ジンとロイスは買い出しの為に街へと足を運ぶ。
ロイスは買い出しの道中、無意識にジンの袖を持っていた。
しかし、魔道具屋ではロイスが間違えて魔道具を発動してしまったり、服屋に引っ張られたりと色々ハプニングなども在ったものの、旅に必要な食糧やポーションなどを一通り買い揃え、気が付けば日も傾き始めていた。
その帰り道、二人は街を一望できる場所を見つけた。
風が気持ちよく流れ、沈む夕日が煌々と燃えている。
「凄い!夕日が燃えて街を包んでるみたい!」
「ほんとだね。」
ロイスは嬉しそうにその景色に見惚れる。
そんなロイスを見つめていると、ふと左手に違和感を覚えた。
ジンは自分の左手を見つめ、握り拳を作る。
目を閉じ、ロイスに視線を移すと、思わず目を見開いた。
夕日に照らされた無邪気なその横顔が、やけに可愛く見え、つい、表情が緩んでしまい、無意識に名前を口にする。
「ロイス・・・。」
「ん?なぁに?」
ロイスの嬉しそうな笑顔がジンに向く。
ジンは、あっ!と無意識に名前を言ったことに気づき、「いや、何でもない。」と返した。
ロイスは不思議そうな表情をして「変なの。」と、笑って夕日に視線を戻した。
温かい風が二人の間を駆け抜ける。
しばらくその景色を見た後、ジンが小さく呟く。
「そろそろ戻ろうか。」
「うん!」
ロイスはジンの袖を引っ張り、ジンは何も言わずに歩き出した。
夕日がゆっくりと夜へと溶け込んでいる中、二人は城へと戻って行った。
──翌朝
ジンは従車の確認を終わらせ、荷物の確認をしていた。
ロイス、フリーシア、アスタリア、ランズの四人が城から出て来た。
「もう準備は出来てるのね。」
アスタリアがジンにゆっくりと歩み寄って来る。
「はい。」
「そう・・・。ジン、生きてまた、ここに帰って来なさい。」
アスタリアの声は柔らかく、母親のようだった。
「ロイス、記憶を取り戻せると良いわね。」
アスタリアはそう言うと、ロイスを優しく抱いた。
「はい!」
ロイスをそっと離すと、にっこりと笑いかけた。
そして最後にフリーシアに向くと、フリーシアがアスタリアの胸に飛び込んできた。
「お母様、行ってきます。」
アスタリアはフリーシアを優しく包んだ。
「ええ、無事に帰って来なさい。」
フリーシアの腕の力が強くなる。
「さぁ・・・。」
アスタリアはそっとフリーシアを離すと、背中を優しく押して見送った。
三人は従車に乗り込むと窓の外を覗く。
アスタリアが手を振り、ランズがお辞儀をしていた。
三人はアスタリアとランズに手を振ると、従車が低くうねり、力強く地面を蹴る。
車輪がゆっくりと動き出すと、地面を回転する。
ジン達は王都を後にした。




