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オルビス・ファンタシア~魂の交差~  作者: 蒼香 海斗
第3章 失われたもの
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第55話 残る感触

部屋は静まり返り、床には血の池が広がっていた。

鉄の匂いがまだ消えない。

ジンの手はまだ震えていた。


あの感触が手から離れない・・・。


気づけばジンは二人を強く抱きしめていた。

ロイスはまだ僅かに肩を震わせていた。

フリーシアは深く顔を埋めていて、服越しに熱い何かを感じる。


「ちょ、ジン。苦しいよ。」


ジンは思わず力が入っていたことに気付かず、二人を抱きしめていた。

二人をぱっと離す。


「ご、ごめん。つい、力が入ってしまった。」


「えっち・・・。」


フリーシアは頬を赤く染め、そっぽ向いてボソッと言った。

しかし、それは安心から出て来たテレを隠す為の言葉だった。

そっぽ向いたフリーシアは僅かに目を伏せている。


「え、ええ。僕はそんなつもりじゃないよ!?」


ジンはフリーシアの言葉に慌てていたら、ロイスが顔をずいっと近づけてくる。


「ロ、ロイス?」


何かを確認するロイス。


「瞳の色が両方とも薄い紫色・・・。」


そう呟くとジンから離れる。


「それに口調もいつものジンだ!」


ロイスはその確認を終えると、ジンに微笑みかける。

しかし、その微笑みは何処かぎこちなさを残していた。


「二人共、ちょっと待ってて。」


ジンは二人をベッドに座らせると、カリフィスの子分達から服をはぎ取り、動けない様に手足を縛り付けると、その服をロイスとフリーシアにかける。

そして、倒れているカリフィスに近づき、血まみれになった服をゴソゴソと探ると、魔道具の鍵を見つける。

ジンは立ち上がり、カリフィスの遺体を見つめると、その視界は僅かに揺れていた。


僕たちが殺した・・・。


「─守る為さ。」


─だとしても、ここまでしなくてもよかった。


「─いいや、ここまでしないとまた繰り返す。」


─それでも殺す必要は無かった。


「─この先、そんな中途半端な気持ちじゃ、やっていけないぜ?」


ジンは左手を見つめた。

左手に残る感触が、強く意識に焼き付いている。

そしてカリフィスへと視線を戻すと、目を閉じた。

これは逃げる為じゃない、刻み付ける為に。

そして再び目を開くと、前を向いて歩き出した。


それでも進むしかない・・・!


二人の元へ、迷いなく歩み寄る。

ロイスとフリーシアの魔道具を外し、ようやく二人は解放された。

二人は子分の服で、裂かれた前を隠しながら立ち上がる。

三人はこの部屋を後にし、路地裏へと出て来た。


「ジン、この件は王女とその仲間の拉致監禁罪。そして貴方はそれを助けてくれた仲間。殺したことは正当防衛として、処理するように報告するわ。城へ戻りましょう。」


ジンは頷くと、ロイスに背中を向けてしゃがむ。


「ロイス、おぶさって。」


ロイスは一瞬、戸惑ったがジンの背中におぶさった。

二人は空へ至る魔法(フルトーレ)を使い、静かに路地から空中へと体を滑らせた。

城に着いた三人は、魔導部隊の隊長を応接室に呼び、フリーシアとロイスは着替えてやって来た。

フリーシアは魔導部隊の隊長に今日起こった出来事を全て話した。


「本来なら公にしないといけないけど、静かに処理して欲しいの。責任は私がとるわ。」


「承知いたしました。この件、裏で処理いたします。」


隊長は立ち上がり、一礼すると応接室から出て行った。

フリーシアは小さく溜息をつく。


「これで、何とかなりそうだわ。」


ジンは小さく頷いた。


「うん・・・。」


応接室に沈黙が訪れた。

フリーシアはジンに何か言いたげではあったものの、言葉が見つからずに口を閉じた。

ロイスも二人の様子を見ながら、少し俯いている。

ジンは二人の様子に気付いているも、何と声をかけていいかが分からず、沈黙を続けた。

少しの間沈黙が続いたが、ジンが口を開く。


「二人共、今日は疲れただろ。ゆっくり休もう。」


ジンの声はいつもより少し低かった。

二人の反応を待たず、ジンは応接室を出て自分の部屋へと戻る。

ジンは自分の部屋に入ると、仰向けで倒れるようにベッドに横になる。

静かに左腕を上げると、ジンはその左手を見つめる。

カリフィスを切った嫌な感覚が気持ち悪く左手に残っている。


初めて人を切った。

止められなかった。

でも二人を守る為だった。

本当にそれだけか?


ジンは左手を強く握り、額に当てる。

目を閉じると、カリフィスの首を切る感触と、頭が飛ぶ光景が何度もフラッシュバックする。


「・・・っ!」


呼吸が上手くできない。

ジンの呼吸は荒く、浅くなる。


二人はどんな気持ちだっただろうか・・・。

泣いていた・・・。

あんなことされて怖かったに違いない。

悔しかったに違いない。

あの光景を二人にも見せてしまった。

二人を守ったと言えるのか?

守ったじゃないか。

断ち切ったじゃないか。

でも、カリフィスを殺したいと一瞬でも思ってしまった。

殺したかったんじゃないのか?


「違う・・・。違うはずだ。」


ジンは小さく呟いた。

しかし、その言葉は何処か頼りなかった。


くそ、いくら考えてもきりがない・・・。


ジンは、ふと気づくと部屋は薄暗くなっていた。

窓に視線を移すと外は既に夕日が落ちて夜を出迎えていた。


「こんなに時間が経っていたのか・・・。」


ジンが起き上がろうとした時、ガチャ・・・。

部屋のドアが静かに開かれた。

ジンは驚いて起き上がり、ドアの方を見ると、ゆっくりとロイスが部屋の中に入って来る。


「ロイス!?」


「ジン・・・。少しだけ、ここにいてもいい?」


ロイスのその声は、僅かに震えていた。

ジンはベッドに腰掛けると、ロイスはその隣に、ジンにぴったりとくっつくように腰掛ける。

少し近いな・・・と思いながらジンはロイスに視線を向けると、ロイスは暗い表情で俯き、足に両手を添えて拳を握っている。

ロイスの体が僅かに震えていることが伝わってくる。

ジンは、どう言葉をかけてあげればいいか分からず、ロイスから視線を逸らす。

しばらく沈黙が続き、部屋に静寂が広がる。


「ジン、助けてくれてありがとう。」


ロイスは小さく呟いた。


「でも、でもね・・・。」


ロイスは静かに涙を流し、続ける。


「触られた感触が・・・。消えないの。」


ロイスは両腕で自分をぎゅうっと、抱きしめた。


「洗っても、拭いても。・・・ずっと残ってるみたいで・・・。」


ジンは言葉は途切れ途切れでも、気持ちを伝えようとするロイスを見つめている。


「それに・・・。」


「それに?」


ジンはロイスの言葉を引き出そうと、助力する。


「・・・あの時のジン、冷たい感じがして、少し・・・怖かった。ボク、あのままジンがどこかへ行ってしまうんじゃないかって思うと・・・。」


「ロイス・・・。」


ロイスは涙を拭きながら話続ける。


「でも、あの時・・・。抱きしめてくれた時に全部なくなったの。だから・・・。」


ロイスはジンに視線を向け、腕を掴む。

その手は震え、悲しみと苦しみに満ちた表情をしていた。


「触られた所、・・・ジンで上書きして!?」


涙をためた瞳でジンを一直線に見つめるロイス。

ジンはロイスの言葉と視線に戸惑いを隠せなかった。

ジ部屋のドアの向こうにはフリーシアがノックしようとしていたところでロイスの声が聞こえ、その手を止めた。

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