第54話 殺意の先に
「いいだろう、相手してやるよ。模擬試験とは訳が違うんだ。」
カリフィスはベッドから降り、魔力武器化で風の剣を作り出して相対する。
「こっちの台詞だ。」
「こっちの台詞だ。」
カリフィスの言葉をそのまま返すと、右手を前にかざす。
その瞬間、カリフィスは後ろに吹き飛ばされ、石造りの壁にめり込む。
「かはっ!」
カリフィスはその衝撃で吐血し、倒れかかる。
しかし、左手に即座に雷の剣を魔力武器化し、一瞬で距離を詰め、カリフィスの右肩に突きたて、倒れることを許さない。
「があっ!!」
カリフィスの体に激痛と電撃による痺れが走る。
「何・・・者だ、お前・・・。」
カリフィスは必死に言葉を振り絞る。
「何者でもないさ。ジンだ。」
「何者でもないさ。ゼンだ。」
「ジ・・・ゼ?」
ジゼは少しの間カリフィスの歪んだ表情を覗いた後、雷の剣を切り上げ、右腕を切り飛ばす。
「ぐああああ!」
カリフィスは床に倒れ、激痛に右肩を抑える。
切り口からは大量の血液が噴き出るように流れ出る。
カリフィスの呼吸が、荒く、浅く、そして早くなる。
ジゼはそんなカリフィスを冷たく、冷めた目で見下ろしていた。
「何で、ロイスなんだ。」
「何で、ロイスなんだ。」
カリフィスはその問いに、高らかに笑って答えた。
「ロイスは、俺を・・・見てくれたんだ!・・・だから、俺だけ・・・見てればよかった。お前が、お前さえ、いな・・・ければ!」
カリフィスのその答えを聞き、大きく息を吐く。
「くだらないな。」
「くだらないな。」
ジゼは冷たくそう言い放つと、雷の剣を構え直したその時・・・。
「んんー!」
ロイスが懸命に首を横に振っている姿が視界に入った。
ロイスのその頬に、涙が流れていた。
ロイス・・・。
カリフィスにとどめを刺そうとしていたジンの意志が僅かに揺れる。
その隙を突いてカリフィスは風魔法で刃を放つ。
しかしそれはジゼの魔力により、簡単に弾き返される。
カリフィスの魔法では構えている姿すら微動だにしなかった。
─だめだ!殺しちゃ・・・。
「─もう遅い。」
ジンは振り下ろそうとする手を止めようとしたが、それは叶わなかった。
ゼンは雷の剣を迷いなく振り下ろした時、ロイスは強く目を閉じる。
カリフィスの首は、ゼンによっていとも簡単に跳ね飛ばされた。
人の首を跳ねたその感触だけが、ジンのてに残る。
切り飛ばされた頭がゴトリ、と床に落ちる音が響く。
カリフィスの体はピクピクと動き、切り口からは血液が溢れ出して床に血の池を作る。
あまりの出血の量に、鉄のような匂いが部屋全体を満たしていく。
「お頭!」
血の匂いに満たされた部屋で、その声が場違いに響いた。
騒ぎを聞きつけたのか、カリフィスが従えていた子分達が三人、部屋の中へと入って来る。
ジンはその三人に視線を向ける。
「お前達か・・・?」
その声は確かにジンの声だった。
しかし、次の言葉はジン一人の声では無かった。
「お前達だな。」
「お前達だな。」
先程までの温度の無い、重なった二人の声に戻っていた。
ジゼは静かに魔力を開放すると、部屋の空気は震え、窓ガラスが割れる。
魔力に弾かれた子分達は、石造りの壁にめり込む。
ジゼは魔力を開放したまま、カリフィスの血でできた血の池をぴちゃ、ぴちゃ、とゆっくり歩いて子分達の方へ向かう。
近づく度、魔力の圧力が強くなり、部下たちはじわじわと、さらに壁にめり込んでいく。
彼らの意識は既に断たれていた。
子分達の方へ向かっている時、ロイスとフリーシアが2人で「んんー!」と叫んでいるのが聞こえた。
二人に視線を向けると、二人は必死にジンを止めようと叫び、首を横に振っている。
二人は恐怖、葛藤、屈辱、そう言った気持ちよりも今は、これ以上ジンとゼンに人を殺して欲しく無いという強い思いがあった。
二人のその目をしばらく見つめた後、ジゼの魔力が大きく揺らぐ。
「ぐっ・・・。」
ジゼは頭を押さえてその場で立ち止まる。
部下たちは魔力の揺らぎから圧力が抜けて床に倒れ込む。
ロイスとフリーシアはベッドに落ちていたカリフィスのナイフで、魔法が使えなくなる魔道具以外の拘束を解くと、ロイスはよろめきながらジゼの前に立ち塞がる。
「ジン、お願い。もういの。」
フリーシアもロイスに続いてジゼの前に立塞がった。
「貴方はこんなことするような人じゃないわ。」
二人の声により、ジンの心が揺らぐ。
「ぐああっ!」
先程よりも強い頭痛に、ジゼは頭を押さえたまま、前のめりになる
「─殺せ。」
─ゼン、もういいだろ・・・。
「─根絶やしにしてやる。」
苦しそうにしているジゼを見て、ロイスが体をジゼに預ける。
「私たちは大丈夫よ。だから、もういいの・・・。」
ロイスは小さく呟いた。
フリーシアもジゼのすぐ前に立ち、ジゼの胸に頭を軽く、預ける。
「ええ、もう終わったわ。私たちは助かったの。だから戻って来て。」
二人の言葉を最後に、ジゼの周りから音が消えた。
気が付けばそこは白い空間だった。
ジンとゼンは向かい合い、何か温かいものに包まれていく。
混ざりあっていたものがゆっくりと解けていく。
交差した二つの魂は静かに離れ、分かれていった。
「はぁっ、はぁっ・・・。」
ジンは荒くなった呼吸を整えると、思わず二人を抱きしめた。
「二人共。ありがとう・・・。無事でいてくれて。」
ジンの声も、体も震えていた。
しかし、抱きしめる両手は、二人を力いっぱい抱きしめていた。
ロイスも、フリーシアもまた、僅かに体が震えていた。
あの感触が離れない。
魔人とはまた違う、人を切る感触が・・・。
それでもジンは二人を強く抱きしめた。




