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第45話 視線

アスタリアの視線にロイスは恥ずかしそうにしながら頭をかく。


「ええ、アルヴォル・クリフォティカと戦って、無茶をしたの・・・。」


そう言うとフリーシアは少し俯いた。


「あの王都を襲った魔人と!?」


アスタリアはその言葉に目を見開いて驚いた。


「そう・・・。この短い間で色々あったのね。」


アスタリアは俯くフリーシアの頬に手を優しく添えた。


「わかったわ。後で詳しく聞かせて貰いましょう。」


「アスタリア様。そろそろ次の会議が・・・。」


ランズが一歩前に出て耳打ちをした。


「ええ、わかってるわ。」


そう言うとアスタリアは立ち上がった。


「三人とも、ゆっくりしていくといいでしょう。羽根を伸ばして休んでちょうだい。」


そう言い残すと、アスタリアはランズと共に応接室を後にした。


「フリーシア、まだ夜まで時間があるけど、どうする?」


「そうね・・・。」


フリーシアは少し考えると、思いついたかのように手を叩く。


「まずはお風呂に入って、それから出かけましょう!」


そう言うと、フリーシアは立ち上がってロイスの腕を掴み、無理やり引っ張って立ち上がらせる。


「ちょっ、フリーシア!?」


「お姉様の背中は私が流すわ。」


「自分で歩くから・・・。」


そう話しながら二人は応接室を出た。

ジンはやれやれと、苦笑いをして立ち上がって応接室を後にした。

ロイスは風呂場のドアを開けると、思わず息を呑んだ。

そこに広がっていたのは、風呂と言うよりも広間だった。

大理石で作られた床と壁が光を淡く反射し、湯気がゆったりと空間を満たしている。

中央には透き通った湯を湛えた大きな浴槽があった。

片側の壁には一面にシャワーも完備されている。


「凄い!これ、本当にお風呂!?」


ロイスは風呂場のあちこちに視線を向け、目を輝かせていた。


ロイスは、シャワーに興味を持ったのか、シャワーの方に走って行く。


「お姉様、走ったら転ぶわ!」


フリーシアは滑らないように歩いてロイスを追う。


「フリーシア!私これ初めて見た!」


ロイスはシャワーの前で立ち止まり、指を差す。


「お姉様、そこの椅子に座って?」


「これ?」


ロイスはフリーシアの言う、椅子に座ると、フリーシアはシャワーの蛇口を捻る。


「きゃぁっ!」


ロイスはシャワーから突然出てきた暖かいお湯に驚きながらも楽しそうにはしゃいでいる。



フリーシアは椅子をロイスの後ろに置くと、そこに座ってロイスの髪を濡らす。


「お姉様、洗ってあげるね。」


そう言うとフリーシアは石鹸を泡立て、ロイスの髪を洗いだした。

湯気の中で柔らかな時間が過ぎて行った。

二人が風呂場から出ると、外にジンが待っていた。

三人は集まると、下街の露天街へと足を運んだ。

活気ある声があちこちから聞こえ、香ばしい美味しそうな匂いが辺りに立ち込めている。


「どお?お姉様、ここには一度来たことあるんだけど・・・。」


フリーシアは少し不安そうな表情でロイスに聞いた。


ロイスは目を閉じて耳を澄ませる。


「ん〜・・・。なんとなく、聞き覚えがあるような感じがする。」


「そう!」


フリーシアは認識阻害のマントを被ってのでジンとロイスには表情が見えなかったが、パッと明るくなった。


「それに、匂いも嗅いだことのある感じがするの。」


フリーシアは嬉しくなり、思わずロイスの腕に抱きついた。


「僕も初めて来たけど、大きいな・・・。」


ジンは露店のあちこちに視線を飛ばす。


「こっちよ。」


フリーシアは初めてロイスに買って貰った串屋へと向かう。


「あら?お嬢さん、久しぶりだね!今日は金持ってるのかい?」


店の店主がフリーシアに気づくと声を掛けてきた。


「ええ、ちゃんと持ってるわ!三人分ちょうだい。」


フリーシアは得意そうに串屋の店主にお金を渡す。


「まいど!」


そう言うと、焼きたての串を三本、渡してくれた。

フリーシアはそれを一本づつジンとロイスに渡す。


「ここで初めてお姉様に串を買って貰ったの。食べましょ。」


三人とも一斉に串をかじる。


「うん!美味しい!」


ロイスは嬉しそうに串を食べていた。

フリーシアを先頭に、次のスイーツ店に向かっていた時、ふと、ロイスが立ち止まる。

ロイスが来てないことにジンが気づくと、振り向いてロイスを探す。

見つけたロイスは、不思議そうに路地を見つめていた。


「ロイス!?」


少し先でジンの声が聞こえると、ロイスは何事も無かったかのように二人の元へと駆け寄る。


「何かあった?」


「どうしたの?」


先に歩いていたフリーシアも戻って来た。


ロイスはこの違和感を伝えようか悩み、少し俯く。


「何か、あったんだね?」


ジンの声が少しだけ低くなる。

ロイスはその言葉に小さく頷く。


「さっきから、誰がボクを見てる気がして・・・。」


ジンはロイスの言葉を聞くと、「二人は待ってて」と言うと、すぐさまロイスが見ていた路地に走り込む。

その路地は人の気配が無く、表の騒がしい声が突然無くなったかのように静かだった。

ジンは警戒しながら進んだが、路地にはジンの足音だけが響き渡る。

そして進んだその先は、壁で行き止まりになっていた。

ジンはホッと肩を落とすと、二人の元へと戻った。


「大丈夫、誰もいなかったよ。」


「そう・・・。だったらいいの。」


ロイスはどこか不安気な表情を残し、笑って答えた。

三人はそのまま揃ってスイーツの店えへ向かう。

スイーツの店が見えた時、ズキン!と、ロイスの頭に痛みが走った。


「─お姉様、次はあそこに行きたい!」


フリーシアの声と、ノイズが掛かるかのようにフリーシアかまその店に入っていく映像が頭に浮かぶ。

ロイスはつい、頭を抑えて立ち止まる。


「お姉様、大丈夫?」


フリーシアはすぐに異変に気づき、声をかける。

ロイスは深く深呼吸をすると、「もう、大丈夫。」

と、フリーシアに伝えた。

三人はそのまま店に入ると、「お姉様、ここよ。」

と、奥の空いている席に座る。


「ここ、思い出した。ボク、フリーシアと一緒に来て、アイスクリーム食べたところだ。」


ロイスのその言葉にジンとフリーシアは目を合わせて息を呑んだ。


「お姉様、本当に?」


「うん、少しだけど思い出したの。」


「他には?他に思い出したことはないの?」


ロイスは首を横に振る。


「他には・・・。思い出せない・・・。」


「ロイス、無理に思い出さなくて大丈夫、ゆっくり思い出そう。」


三人がテーブルについたことに気づいた従業員が寄ってきてメニューを渡される。


「いらっしゃいませ。こちらのメニューからお選び下さい。」


そう言われると、三人はアイスクリームを選んだ。

アイスクリームがテーブルに並べられると、フリーシアはフードを脱いだ。

その顔には嬉しさのあまり、笑顔が滲んでいる。

ロイスは困惑していたが、アイスクリームを一口食べると、「美味しい!」と、頬に手を当てて満足そうにしていた。

その帰り道、ふとロイスが周囲を気にする。

ロイスはジンの腕の袖を引っ張って小声でジンに伝える。


「やっぱり、ボクを見てる視線を感じる。」


それを聞いたジンはフリーシアに「今日は早く戻ろう。」そう伝えると、フリーシアは小さく頷いた。


三人は固まり、急いで城に帰った。

しかし、その視線は城に戻るまで消えなかった。

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