第44話 それでも思い出したいもの
野営をしながら従車を走らせること二日、ジン達は王都イリシアに到着した。
フリーシアは門番に王女の証である、首飾を見せる。
「フリーシア様!お帰りになられたのですね!」
「ええ、お母様には通達は不用よ。直接帰るから。」
門番は敬礼すると、三人を通した。
ジン達は王都に足を踏み入れると、すぐに従車に乗り、城を目指した。
従車の中で、ジンは自分の胸に手を当てて俯く。
「ジン、どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
今回、王都に入った時の胸の違和感が無かったことに疑問を抱いていたが
「─王都に行った時、知らない場所なのに懐かしい・・・いや、違うな。上手く言えないが・・・。」
ゼンがそう言っていたことを思い出し、今回は違和感が無いことを妙に納得した。
ロイスは街の景色に目を奪われたのか、城に着くまで窓からずっと外を見ていた。
三人は城門の前に到着すると、一度従車を止めた。
城の門を守っている魔導部隊の団員が従車に寄って来る。
従車の窓から顔を出したフリーシアを見て、団員は敬礼をし、「おかえりなさいませ!フリーシア様!」と、挨拶をすると、門を開けてくれた。
ジン達を乗せた従車はゆっくりと門の中へ入っていき、城の扉の前で止まった。
三人は従車から降りる。
「凄い、大きなお城・・・。」
ロイスは城を見上げて、思わず呟いた。
フリーシアは無邪気に城を眺めるロイスを見て、ふふっと笑う。
城内へ入る正面扉は装飾こそ少ないが、その重厚な存在感だけが際立っている。
「入りましょう。」
そう言うと、フリーシアはその重厚な正面扉を開いて中へ入る。
それに続いてジンとロイスも中へ入った。
中へ入った途端、外の喧騒がスッと遠のいた。
高い天井と石造りの広間が三人を迎える。
広間にいた従者達が王女の帰還に気づき、皆がその場で頭を下げる。
フリーシアは1番近くの従者に声を掛けた。
「お母様はどこ?」
従者は頭を上げて女王の居場所を答えた。
「アスタリア様は現在謁見中でございます。」
「そう、なら謁見終わり次第応接室で待ってることを伝えてちょうだい。」
「かしこまりました。」
従者はそう答えると、頭を下げた。
三人は従者に伝えた通り、応接室でアスタリアが来るのを待つ事にした。
応接室のソファーに腰掛けるや否やロイスが口を開いた。
「フリーシアって女王様の娘だったの!?」
ロイスは目を輝かせてフリーシアを見つめる。
「え、ええ。実はそうなの。」
フリーシアはロイスの言葉と視線に少し困惑しながら答えた。
「フリーシアって凄かったのね!」
ロイスは無邪気な笑顔でフリーシアを見ていた。
「ロイス、記憶を失う前にここに来たことあるんだけど見覚え、無いかな?」
ジンはロイスに話しかけると、ロイスは唇の下に人差し指を当てて少し考える。
「ごめんなさい、覚えてないの。」
ジンは首を横に振る。
フリーシアはロイスの言葉に少し不安そうな表現を浮かべた。
「覚えてなくても大丈夫、謝ることは無いよ。そのうち、きっと思い出すはずだから。」
「ボクは今でも楽しいよ?」
その一言が、ジンの心を強く揺らした。
このままでもいいのか?
イルジーオが言っていた、ロイスは自ら記憶を閉ざしたと。
熱に侵された時、暴走した原因・・・。
このまま記憶を失っていた方がロイスも苦しまずに済むのではないか?
「─それはお前の選択だ。」
ゼン・・・。
「・・・ン?・・・ジン?」
ジンはロイスの呼び掛けにハッと我に返る。
「ジン、どうしたの?さっきから怖い顔してるよ?」
ロイスがジンの顔を覗き込んでいた。
ジンは何も言えずにロイスを見つめる。
「考えごと?」
ロイスの問に、ジンは小さく頷いた。
ジンはロイスの今の気持ちを、記憶を取り戻したいのか聞こうと口を開こうとした。
しかし、言葉を喉に詰まらせる。
ロイスは不思議そうにジンを見つめる。
「何か相談があるならボクに言って?何でも話聞くよ?」
ロイスはそう言うと、ジンに笑顔を向ける。
ジンはその言葉に目を閉じる。
記憶を失っても、ロイスはロイスだ。
誰かを思い、優しく接する・・・。
ジンは、意を決してロイスに聞いた。
今度は詰まらずにしっかりと。
「ねぇ、ロイス。僕とフリーシアは、君が記憶を失ったことに少しショックを受けたんだ。それで、君の記憶を思い出させたいと思って、今日まで旅をしてきたんだけど・・・。ロイスは失った記憶を思い出したい?僕たちはロイスの気持ちを聞いていなかったから。」
ロイスはジンとフリーシアを交互に少し俯いた後、口を開いた。
「ボクは・・・。」
ロイスはそう言うと口を閉じてしばらく考える。
「ボクは今のままでも楽しいと思ってる。でも・・・。ジンとフリーシアに出会った思い出、とても大切だったと思うの。だから・・・思い出したい。」
ロイスは真剣な眼差しをジンに向ける。
ジンは一度頷くと、さらに問いかけた。
「例え・・・。思い出したくない辛い記憶があっても?」
その問いにフリーシアは立ち上がった。
「ちょっと、ジン!何を・・・!?」
ジンはフリーシアに視線を向け、静かに首を横に振る。
フリーシアはそんなジンを見て、言いたいことを呑み込み、ソファーへと腰掛ける。
二人のやり取りを見ていたロイスが問に答えた。
「例え辛いことがあったとしても、大切なものが思い出せないのは嫌だ。」
ロイスは、そう言い切った。
ジンはその言葉に少し俯き、そして顔を上げてロイスに視線を向けると、「良かった・・・。」そう言い、ロイスに笑顔を向けた。
フリーシアはホッと胸を撫で下ろした。
その時、応接室のドアがノックされる音が響く。
三人は一斉に視線をドアへと向けると、静かにドアが開かれると、ランズが入ってくる。
ランズに続いて、アスタリアが入ってくると、ジンとフリーシアが立ち上がった。
ロイスは二人を見て、後から慌てて立ち上がる。
「お母様!」
フリーシアはそう言うとアスタリアへ駆け寄り、抱きしめる。
「あらあら、この甘えん坊さんはどこの娘かしら?」
アスタリアは少し嬉しそうにふふっと笑い、フリーシアを抱きしめる。
「お母様の娘よ。」
フリーシアはアスタリアを抱きしめたまま答える。
ジンとロイスは二人を暖かい眼差しで見守っていた。
フリーシアとアスタリアは再開の喜びを噛み締めるかのようにしばらく抱き合っていたが、アスタリアがそっとフリーシアの腕を外した。
「さぁ、話があるのでしょう?」
「ええ、お母様。」
二人はジンとロイスの向かい側のソファーへと腰掛ける。
ジンも座り、それに続いてロイスも座った。
「待たせてしまったかしら?」
アスタリアはジンに視線を向ける。
「いいえ。」
ジンは首を横に振った。
「思ってたより早い帰りだったわね。何かあったのかしら?」
アスタリアはフリーシアに視線を向ける。
「それが・・・。」
フリーシアはロイスを見る。
それにつられてアスタリアもロイスに視線を向けた。
ロイスは二人の視線を受け、キョトンとしてしまう。
「お母様、実はお姉様が記憶を閉ざしてしまって、記憶を戻すためにグルナーレに戻ることにしたの。その途中で、帰って来たの。」
「まぁ、ロイスが記憶を・・・?」
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