第43話 再び王都へ向けて
「う・・・ん。」
ロイスはフリーシアの腕の中で目を覚ます。
窓から柔らかい日差しが入り込み、鳥たちが騒がしく朝の訪れを教えてくれる。
ロイスは目を擦り、目を細める。
ボク、寝ちゃったのか・・・。
ロイスはゆっくりと起き上がると、フリーシアに目線を向ける。
フリーシア・・・。
ロイスはふと、手を伸ばし、寝ているフリーシアの頬に手を添える。
「ん・・・。」
フリーシアは仰向けに寝がえりを打ち、口をごもごもとする。
ロイスはそんなフリーシアの寝顔を見つめ、小さく微笑んだ。
それほど長くは無い時間、ロイスがフリーシアを見つめていると、フリーシアは一度強く目を瞑り、静かに目を覚ます。
ぼやける視界の中、見つめているロイスの顔が視界に入る。
「お姉様・・・。」
「おはよう、フリーシア。」
フリーシアは「んー!」と、体を伸ばすと、起き上がった。
「お姉様、おはよう。」
フリーシアは起き上がっても少しだけぼーっとしていた。
「お姉様、良く寝れた?」
「うん、お陰様で。」
ロイスはフリーシアに笑顔を向ける。
フリーシアはその笑顔を見て、少し安心したのか、ホッと息を漏らす。
その時、部屋のドアがノックされた。
「二人共、起きてる?」
「ジンだ!」
ロイスは掛け布団を勢いよく剥がし、ドアへ駆ける。
「あっ!お姉様!」
ロイスはその勢いでドアを開く。
フリーシアは慌てて掛け布団で体を隠す。
「ジン、おはよう!」
「おはよう、ロイ・・・ス!?」
フリーシアはそれを見てまたか・・・。
と顔を右手で覆う。
「お姉様・・・。」
ジンはロイスの姿を見てすぐに視線を斜め上へと逸らし、顔を赤らめる。
そう、ロイスの寝間着はスカート丈の薄着一枚である。
ロイスは焦っているジンをきょとんと見つめる。
「ろ、ロイス、格好、上を着て・・・。」
ロイスは自分の姿を見たが首を傾げる。
「変かな?この格好、かわいいと思うの。」
ロイスは無邪気にジンの顔を見る。
ジンはロイスと顔を合わせれず、もじもじしていた。
「ジン、いい加減閉めてよね。」
フリーシアが低い声でジンに冷たく言い放つ。
「あ、ああ、うん。」
ジンはどもりながらドアを急いで締める。
ロイスは不思議そうな顔をしながら、フリーシアに視線を向ける。
「ジン、どうしちゃったの?」
「う、ううん?何でもないわ。」
フリーシアは苦笑いしながら首を横に振る。
前は凄く恥ずかしがってたのに・・・。
フリーシアは小さく溜息をつくと、
「お姉様、着替えましょ。」
と言って布団から出てくる。
二人は、着替えてリビングに顔を出す。
「ジン、お待たせ!」
ロイスはにこやかにリビングに入って来る。
「う、うん。」
ジンは困り笑顔をロイスに送ると、フリーシアに視線を移すと、フリーシアはジト目でジンを見ていた。
テーブルに座ると、ジンはまじめな顔に変わり、ロイスを見つめる。
ロイスは首を傾げながらジンを見つめ返した。
いつものロイスに戻ってる・・・。
フリーシアが、ロイスを繋ぎ止めてくれたのかもしれない・・・。
ジンはフリーシアに視線を向けると、まだジト目を止めずにジンを見ていた。
ジンは一度目を閉じて俯いた後、二人に話始めた。
「二人共、今日、ここを立とうと思うんだ。」
フリーシアはその言葉を聞き、ジト目を止めて真剣な表情に変わる。
「分かったわ。それで、相談なんだけど。」
フリーシアはジンから一度ロイスに向け、すぐにジンに戻す。
「一度、王都にも寄って欲しいの。お姉様と下街に行ったことがあるから、もしかしたらそこで思い出してくれるかもしれないわ。」
ジンはフリーシアの提案を聞き、顎に手を当てて考える。
「王都はグルナーレに向かう途中だし・・・。うん、分かった。」
ジンは小さく頷くと続けた。
「それに、ロイスとフリーシアが初めて出会った場所だもんね。」
ジンはそう言うと、フリーシアに笑いかけた。
フリーシアはそれを見て、「な、なによ・・・。」と、呟いて視線を逸らす。
ロイスは二人の会話を交互に視線で追っていた。
「そうと決まれば、早速支度しましょ。」
「それじゃぁ、僕は村長に挨拶してくるよ。」
「ええ。」
話が終わると、二人は立ち上がった。
「お姉様、支度しましょう。」
「分かった。」
ロイスも二人に続いて立ち上がり、二人は出発の支度を始める。
ジンは言葉通り、すぐに村長の家に向かう。
村長の家に到着すると、ジンはドアを三回ノックした。
「村長、居ますか?」
ジンが声をかけ、しばらくするとドアが静かに開いた。
「ジン君か・・・。」
グラモンの声は低く、少し俯いていた。
「はい。村長、僕達は今から旅立とうと思いましたので、挨拶に来ました。」
「そうか、旅立つのか・・・。また、いつでも寄ってくれ。私たちはいつでも歓迎するよ。」
グラモンは顔を上げると、無理に笑顔をジンに向ける。
そのなんとも言えない笑顔を見たジンは両拳を強く握った。
「村長、僕からこんなことを言うのは差し出がましいかもしれませんが・・・。」
ジンは一度言葉を切り、肩の力を抜くと、両拳の力をゆっくりと和らげて続けた。
「貴方の選択は、間違っていなかったと思います。」
強く、はっきりと村長に伝えた。
村長はその言葉に目を大きく見開き、ゆっくりと閉じた。
「ありがとう・・・。」
村長へのあいさつと、出発の準備が終わった三人は、ユラド一家の墓の前で胸の前で手を組んで目を閉じた。
その場に、言葉の無い時間が流れる。
ジンは目を開けると、「行こう。」と、二人に呟いた。
三人は従車に乗ると、王都イリシアを目指して村を出発した。
従車の中では相変わらずフリーシアはロイスにべったりとくっついていた。
「ここからだと王都までは二日ほどで到着すると思う。」
ジンは地図を見ながら二人に話す。
「村もちょうど良さそうな所に無いから着くまでは野営だね。」
「そう、それなら仕方ないわね。」
フリーシアは小さく呟き、ロイスの腕に顔を埋める。
ロイスはそんなフリーシアの頭を撫でた。
「お姉様・・・。」
フリーシアはロイスに頭を撫でて貰ってご機嫌のようだ。
「ねぇ、ジン?ゼンって何で魔人と人の区別ができるの?」
フリーシアはふと思った疑問をジンにぶつける。
「うーん、それは僕にも分からない。・・・直接聞いてみる?」
ジンはそう言うと、目を閉じた。
そして、淡い紫色の部屋で目を開ける。
ジンはドアを開けて廊下に出ると、隣のゼンの部屋のドアに手をかける。
一瞬、戸惑いは下が、ゼンの部屋の扉を一気に開く。
部屋の真ん中にゼンが立っていた。
「ゼン・・・。」
ゼンはジンの声を聞いて視線を向けるが、肩を落とす。
「面倒だ。」
ゼンはジンに一言返した。
「そんなこと言わずに、フリーシアが君に会いたがってた。」
ゼンはジンの言葉を聞き、しばらく考えて、「今回だけだ」と言ってくれた。
ジンは自分の部屋に戻った。
「ジン?どうしたの?」
ジンが目を閉じてじっとしていることを不思議に思い、ロイスが声をかける。
すると、静かに目が開かれる。
その時、深い青色の瞳に変わっていた。
「ジンじゃない。ゼンだ。」
ロイスはその言葉に首を傾げる。
「お姉様、ジンは体に二つの魂を宿していて、そのもう一人がゼンなの。聞き手と、魔法属性も違うわ。後、瞳の色もジンは淡い紫色で、ゼンは深い青色の瞳をしているの。」
フリーシアがジンとゼンの説明をするが、ロイスはきょとんとした顔でゼンを見つめる。
「ほんとだ、目の色が青色になってる・・・。」
ロイスはジンででは無いことが分かると、少し警戒した。
「それでフリーシア、俺に何で人と魔人の区別ができるか聞きたいんだ?」
ゼンは少し面倒臭そうな顔をしながらフリーシアを見据える。
「まずはちゃんとお礼をしたかったの。あの時は助けてくれてありがとう。」
フリーシアはゼンの目を見てお礼を言った。
「体が勝手に動いただけだ・・・。」
ゼンはそう言いながらフリーシアから視線を逃がす。
「いいえ、貴方が回復魔法を使ってくれてなかったら私は死んでたかもしれないわ。だからこの言葉を素直に受け取って欲しいの。」
ゼンは視線を外したまま、深く溜息をついて黙り込んだ。
「ゼン、貴方ってプライドが高いのね。」
フリーシアは思わず、くすっと笑ってしまった。
「それで?聞きたいことは良いのか?俺は戻るぞ。」
ゼンは少し不機嫌になり、本題に無理やり話を戻す。
「ええ、ゼンはどうして人と魔人の区別ができるの?」
ゼンは腕を組み、席に体を預けながら、フリーシアの質問に渋々答える。
「俺は水属性だからな。他の属性よりも魔力の流れに同調しやすいんだ。魔人の魔力の流れは質がが違う。だからすぐに感知できる。お前たちも、よく注意しながら魔力感知してみろ。そしたら区別もできるはずだ。」
フリーシアは顎に手を当てて考える。
「私達にもできるのね・・・。」
フリーシアはボソッと呟いた。
「これでいいか?そろそろ俺は戻る。」
そう言うとゼンは目を閉じた。
「え?ええ。ゼン、教えてくれてありがとう。」
「ああ。」
ゼンはその言葉を最後に、ジンと入れ替わる。
開かれた瞳の色は淡い紫色に戻っていた。
ジンは外を見つめる。
向かう先の王都の空が暗く、曇っていた。
「あの雲、嫌な感じがするな・・・。」
「ええ、来そうね。」
フリーシアは窓から外を見て不安な表情を浮かべる。
そんな二人を見てロイスは何かを言おうとして口を開いた。
しかし、それを言おうか躊躇し、二人が見ている外に視線を移して目的地の上空にある暗く沈んだ空を見ると、そっと口を紡いだ。




