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第42話 救えなかったもの

村は静寂に包まれていた。

風の音すら遠く感じる程に、誰も言葉を出せずに立ち尽くしている。

黒い塵が風に運ばれて霧散していく中、地面に残る魔結晶と、冷たくなった少女の体だけが、さっき起きた出来事を証明していた。

ジンは魔結晶を見つめて雷の剣を消し去り、深く溜息をつくと、グラモンの側まで歩いて行く。


「村長・・・。」


ジンは崩れて膝立ちをしているグラモンに手を差し伸べる。

グラモンはジンの手を取り、立ち上がる。


「すみません、私があの時・・・。」


グラモンは言葉を詰まらせる。

ジンは首を横に振る。


「いいえ、村長。もしかしたらこうならない未来もあったかもしれません。」


グラモンはジンの両手をしっかりと掴み、俯いて涙を流した。


「この家族を弔ってあげましょう・・・。」


そう言うと、ジンはロイスに視線を送る。

ロイスは少し離れたところで何も言わずにその光景を見ていた。

口を開こうとしては何度も閉じる。

結局声にはならなかった。

その隣には、フリーシアがしゃがんでいて、ロイスの背中をさすっている。

ジンはロイスの側まで歩いて行き、しゃがんでロイスの視線に自分の視線を合わせる。


「ジン・・・ボク、間違ってたのかな・・・?」


その言葉と共にロイスの瞳から一筋の涙がポロリと零れ落ちた。

ジンは首を横に振って応えた。


「ロイスは人として正しい選択をしたと思う。でも、それでも僕達はあの子を止めるしか無かったんだ・・・。」


ジンはロイスに笑顔を向け、ロイスの頭を優しく撫でた。

ロイスはすすり泣くようにして、何度か頷いた。


「お姉様・・・。」


フリーシアはそんなロイスを見て、居ても立ってもいられず、優しくロイスを抱きしめる。


「お姉様、大丈夫・・・。」


ユラド一家を村人総出で弔うことになった。

村の外れにある墓地で、暗い中松明の光を頼りに、皆、無言で穴を掘る。

埋めるのに十分な穴が掘られると、ユラド一家を並べて埋め戻していく。

皆は祈るように両手を顎のあたりに組み、黙祷を捧げる。

ザッ、ザッ・・・。

と、土をかける音だけが周囲に響き渡り、土は重く積もって行った。

ロイスはずっと俯いたままでいた。

ジンの言葉に納得はしたものの、罪悪感は拭いきれなかった。

埋葬が終わった後、三人借りた家に帰ったが、そこに会話は生まれなかった。

ロイスは家に帰ると、そのまま寝室へと向かった。

ジンはその背中に、ロイスを呼びかけようとしたが、言葉が出なかった。

ロイスの背中に差し出した手を少し落とし、ジンは強く握って拳を作る。

フリーシアはそんな二人を見て、ロイスを追って寝室に入ると、ロイスは寝間着に着替えてベッドに腰掛けていた。

フリーシアは気まずそうにロイスを横目にして寝間着に着替え、ロイスが腰掛けているベッドの反対側へ腰かける。

ロイスは俯き、塞ぎ込む。

フリーシアはロイスを気にしてはいるものの、なんと声をかけて良いのか迷っている。

長い沈黙の後、フリーシアはベッドに入り、ロイスを呼びかける。


「お姉様・・・。」


「なぁに?フリーシア・・・。」


ロイスは目線どころか体も動かさずに低い声でフリーシアに答える。

フリーシアは「よしっ!」と小さく呟くと、ロイスを無理やりベッドに引きずり込む。

向かい合わせにし、フリーシアはロイスを強く抱きしめ胸にロイスの顔を埋める。


「ちょ、フリーシア!?」


ロイスは驚いたが、フリーシアの行動に、なぜか拒否することは出来なかった。


「お姉様の気持ちは痛い程分かるわ。私も・・・。初めての体験だったもの。」


フリーシアはロイスの頭を撫でて静かに続ける。


「お姉様はいつも誰かを守りたくて、手を差しの伸ばしたくて、一生懸命で無茶をする人よ」


「フリーシア・・・。」


ロイスの強張る力が徐々に抜けていく。


「今は覚えて無いかもしれないけど、お姉様は私に・・・。私でよければ、いつでも一緒にいるよ・・・って言ってくれて。その言葉に私は救われたの。それからお姉様と一緒に過ごして、お姉様の優しい所、いっぱい見つけたわ。」


フリーシアはロイスの頭を撫でていた手で、そっと抱き込み、その頭に自分の頬を軽く押し当てる。


「お姉様はあの時、誰よりも魔人の子供を助けたいと思ったから止めたのも分かってる。そして、救えなかった三人を守れなかったって思ってる。でも、それはお姉様だけじゃないわ。私も無力だった。それに、ジンだって、同じ気持ちで剣を振るったと思うわ。」


フリーシアの胸元に、熱い何かが広がっていく。


「でも・・・。ボクのせいで・・・。」


ロイスのその言葉にフリーシアは首を横に振る。


「ううん、きっと誰のせいでもないわ・・・。お姉様は誰かを殺したくて止めた訳じゃないでしょ?」


ロイスは静かに頷く。


「誰も、お姉様を責めたりしないわ。それにきっと、お姉様が止めなかったとしても、誰かがまた違う形で傷ついていたかも知れない。だから、もう一人で塞ぎ込むのはやめて?私たちは仲間よ。一人で背負うことは無いわ。」


ロイスはフリーシアの服を強く掴み、フリーシアの胸に深く顔を埋める。声にならない声を上げながら、体を震わせて、しゃくりあげるように泣いている。

フリーシアは少しだけ、ロイスを強く抱きしめ、静かに付け加えた。


「大丈夫、私やジンは、お姉様に救われているわ・・・。」


ロイスはフリーシアの胸の中でひとしきり泣くと、荒かった呼吸が少しづつ落ち着いていった。


「フリーシア、ありがとう・・・。」


ロイスの声はフリーシアに僅かに届く程の小さな声だった。

次第に涙も収まり、呼吸も落ち着いた頃、ロイスはフリーシアの胸の中で眠りに落ちていた。

フリーシアはあの時自分にそうしてくれたように、優しくロイスを抱きしめる。

村を抜ける夜風が窓を叩き、部屋に微かな音を残した。

その音はまるで、誰かが揺らしているかのように・・・。

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