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第41話 子供の姿をした魔人

「ジン!だめ!」


ロイスがジンの前に立ちふさがる。


「ロイス、落ち着いて聞いてくれ。この子供は魔人だ。」


ロイスは首を横に振る。


「でも、まだ子供なの。それに、この村になじんでる!」


「子供でも・・・。」


ジンは自分のマギア体を切った魔人の親子を思い出し、唇を強く噛む。


子供でも魔人は魔人・・・。


ジンが一歩前に出た時、騒ぎを聞きつけた村長が駆け寄って来る。

村長はジン達を見るなり、魔人の子供に近寄り、膝をついて抱きかかえた。


「お止め下さい!」


その光景を見たジンは、力が抜けて魔力武器化(アルマニティ)が解かれた。


「ロイス・・・。魔人と人間は、共存できない・・・。」


ジンは苦しそうな顔でロイスを見つめた。

フリーシアはジンの肩にそっと手を置き、ジンを落ち着かせようとする。


「事情を、聞いてみましょ・・・。」


「──ばか、放っておくと後から大変な目に・・・。」


──ゼン、分かってる。

でも、ここは手を引くしかないんだ・・・。


ジンは大きく息を吸い、そして大きく吐いた。


「事情を・・・お聞かせ下さい。」


ロイスは両手を胸の前で組み、ホッと溜息をついた。

三人は、村長の案内で村長の家にお邪魔した。


三人はテーブルに座ると、村長がお茶を入れたコップを並べてくれる。


「私は、グラモン。ここの村長をしています。」


「グラモンさん、なぜ・・・この村に魔人が?」


グラモンは俯き、しばらく沈黙する。

しかし、すぐに説明を初めてくれた。


「5日程前に、あの子が村の前で倒れていたのを村の一人が見つけたんです。村長である私が引き取り、看病しておりましたが、彼が目を覚ました時、記憶が無い・・・と、そう言ってたのです。」


グラモンは言葉を切り、お茶をすすると続ける。


「外の方にはおかしく見えても仕方ないでしょう・・・。しかし彼はまだ幼い子供です。記憶の無いまま放っておくこともできず、家が引き取りって記憶が戻るまで育てよう、そう思っていました。」


「魔人だと・・・知っていたのですか?」


グラモンは深く頷くと答える。


「はい、人間と同じものを食し、今は娘とも仲良く暮らしています。何より、家畜の手伝いなどもしてくれているんです。そんな子が、村を襲うようなことはしないと判断しました。」


グラモンは少しだけ視線を落とし、俯く。


「では、数日の間だけ・・・。見守っていてもよろしいでしょうか?」


ジンの言葉に視線を上げるグラモンは、小さく頷いた。


「ロイスとフリーシアも、良いかな?」


二人も小さく頷く。


「では、今使われていない家がありますので、そこを使って下さい。」


三人はグラモンに案内さて空き家の中に入った。

戸建ての一軒家で少し広めの平屋だった。

三人は家の中を見て回った。


「お姉様!お風呂があるわ!」


フリーシアはお風呂があることに、大喜びしていた。


「早速入りましょう!」


「ちょ。フリーシア!?」


そう言うとフリーシアは強引にロイスを連れて、浴室に姿を消した。

ジンはそんな二人を見て、思わず笑ってしまった。


「まったく、フリーシアは・・・。」


ジンはリビングにあるソファに腰掛け、横になる。

風呂場から二人のキャッキャと楽しそうにしている声が聞こえた。

その後二日は問題なく、村は穏やかに時間が過ぎる。

その間、ロイスも子供達に混ざって楽しそうにはしゃいでいた。

しかし、三日目の夜、狂気は突然動き出した。

三人がリビングで食事しながら談笑していると、村のどこかから悲鳴が聞こえた。

三人は急いで家を出て、悲鳴の上がった場所へと走る。

一件の家が騒がしい。

何かが倒れる音や物が壊れる音。

それを聞いたロイスの身に異変が起きる。


「いや・・・。嫌だ!・・・聞きたくない!!」


ロイスは家から聞こえてくる音に拒否反応を示し、震える手で耳を塞ぎ、地面に崩れ落ちた。


「ロイス、大丈夫?落ち着いて・・・。」


ロイスのこの過剰な反応は・・・トラウマ?

野外演習の時、森で見たロイスと似た反応をしてる・・・。

ジンはロイスの側でしゃがみ込む。


「大丈夫、何も怖くないよ・・・。」


そう言うとジンはロイスの背中を、そっと優しく撫でた。

騒ぎを聞きつけた村長も駆けつける。


「何があった!?」


「村長・・・。あの家で何か・・・。」


ジンはロイスの側でしゃがんだまま、視線だけを騒ぎのあった家に向ける。


「ユラドさんの家だ・・・。」


次第に村の人々がユラドさんの家の前に集まって来る。

騒がしくしていたユラドさんの家の中は既に静まり返っていた。

村の人々のざわつきが収まり、静かになった時、ガチャ・・・。家のドアが静かに開かれた。

そこから出て来たのは・・・。

グラモンの家で面倒を見ていた子供の魔人だった。

彼は全身に返り血を浴び、その腕にはその家の娘を抱えている。

その光景を目の当たりにした人々はざわつき、視線が一気に子供の魔人に集まる。

子供の魔人は、その家の娘を抱えたまま、ゆっくりとした歩調でグラモンに近づいた。


「その・・・子は・・・?」


グラモンは子供の魔人に質問する。


「プレゼントです。」


そう言うと、その娘をグラモンに差し出した。

村長はその言葉に首を横に振り、目の前の光景を受け入れられない、という表情に変わっていく。


「なぜ・・・?」


村長は悔しそうな表情を浮かべ、体を震えさせた。

魔人は首を傾げると淡々と答える。


「おいしいものを食べて欲しくて・・・。こういう子供の女の子の肉が一番おいしいです。」


子供の魔人はグラモンに一歩近づき、続ける。


「お父さんとお母さんに、プレゼントです。」


グラモンはその言葉を聞き、崩れ落ちた。

村の人々はざわつき、化け物を見るような目で子供の魔人をにらみつける。

フリーシアはその光景を見ていいられず、視線を逸らす。

ロイスは震えながら、「いやだ、だめ・・・。」と、呟きながら涙をこぼす。

子供の魔人は周囲を見渡し、グラモンや村のみんなが彼の思っていたこととは違う反応をしたため、少し戸惑っているようにも見えたが、表情は一切変わらなかった。


「僕、何かおかしいことしましたか?」


子供の魔人は周囲の人々にきょとんとした眼差しを向ける。


「ロイス、ごめん。もう、我慢できない・・・。」


守れなかった・・・。


その悔しさがジンの中に広がっていく。

ジンは子供の魔人の殺した理由を聞き届けると、雷の剣を作りだした。


ボクが止めたから・・・。

あの時ジンを止めずにいたら犠牲者は出なかったかもしれない・・・。


そんな無力さが、ロイスの中に広がっていく。

ロイスは俯いたまま、小さく頷いた。



「うん・・・。」


それを合図に、ジンは一気に子供の魔人へと踏み込む。

ジンは子供の魔人胴体を切り裂く。

それと同時に、胴体を切り裂かれた勢いで腕から娘が僅かに離れ、体に強い電撃が走る。

ジンはその隙を突いて女の子を奪い去った。

その女の子の息を確認するジンだったが、既に息絶えていた。


間に合わなかった・・・!


その現実が胸の奥に重く広がる。

ジンは歯を食いしばり、目を閉じると、その女の子をそっと地面に寝かせて、胴体が切り裂かれ倒れている子供の魔人に近づく。

子供の魔人は痺れる体を必死に起こそうとし、グラモンを見て、手を伸ばす。


「助けて・・・お父さ・・・。」


その姿を見てグラモンは目を見開く。

ジンは子供の魔人の腹部を挟むように跨り、雷の剣を目の前に構えて子供の魔人に質問をした。


「何故、お父さん・・・なんだ?」


子供の魔人はほんの僅かに口角を上げ。答えた。


「人間はこの言葉に弱いって、知ってるから。」


ジンはその言葉を聞き、雷の剣を子供の魔人の心臓を目掛け、勢いよく振り下ろし、突き刺した。

子供の魔人は力を失い、伸ばした手が地面に落ちる。

子供の魔人は心臓の傷口から黒い塵となり、宙へと消えていく。


その場に残ったのは、理解しようとした証と、どうしようもない現実だけだった。

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