第4話 暴走と温もり
熱い・・・。苦しい・・・。
焼けるような熱が全身を包み込む。
「っ・・・。」
気づけば目の前にはあの魔獣がいた。
ジンは息を荒げた。
逃げなきゃ・・・。
そう思っても足が言うことを聞いてくれない。
まるで地面に縫い付けられたようだ。
喉をグルルと鳴らし、よだれを垂らした魔獣がゆっくりと迫ってくる。
また──死!!
その時。
「何してる・・・。」
頭の奥にあの声が響く。
「ゼン・・・?」
「次はお前が戦え。」
冷たく突き放すような声。
「無理だよ・・・。僕に勝てるわけない!」
「次はお前が戦え。」
「戦え・・・お前が」
「・・・戦え。
」
ゼンの声が繰り返し頭に響き渡る。
「嫌だ!死にたくない!」
目の前の魔獣が咆哮を放ち、衝撃波が全身を突き刺す。
終わった──
そう思った瞬間、閃光が走り白く弾けた。
「・・・!!」
ジンは勢いよく目を見開いた。
荒い呼吸、心臓がうるさいほど鳴っている。
それと同時に、体の内側で何かが反応した。
──バリバリバリバリッ!
息をつく間もなく、ジンは自分の異変に気付く。
「ぐっ、あぁ・・・!」
指一本動かせず、体が硬直したまま痙攣する。
熱い・・・。苦しい・・・。
夢の感覚が、そのまま感情に流れ込んでくる。
「なん・・・だよ、これ!」
視界が、ぼやける・・・。
上手く・・・呼吸が・・・でき、ない。
「──それは俺じゃない。お前の中の反応だ。」
ジンの頭にゼンの声が響く。
現実と夢の境界が崩れていく。
その時──
バンッ!!
勢いよく扉が開いた。
荒く、息を切らしながらロイスが部屋に飛び込んでくる。
「ジン!?どうしたの?今の音は・・・。」
目の前の光景に、言葉が詰まる。
「・・・ジン!!」
体中から電気を発し、ベッドの上で硬直したまま震え続けるジン。
「ジン!しっかりして!!」
ロイスは駆け寄り、ジンの肩を掴もうとした瞬間──
バチッ!!
ロイスの手は弾かれ、腕に電撃が走った。
「きゃっ!!?」
ロイスは、その場で崩れ落ちた。
「つっ・・・!あ・・・。」
痺れる腕を押さえながら、息を呑む。
「・・・ス。だい、じょ・・・ぶ・・・から。」
自分自身も訳の分からない状況に合いながら
ジンはロイスを安心させようと、ニコッと笑って見せた。
その笑顔がロイスの頭の奥に焼き付いた光景と重なった──
倒れていく背中、届かなかった手・・・。
ロイスの手が震える。
また、失うの・・・?
そんなこと、もう嫌だ・・・!
ロイスは顔を上げて立ち上がった。
「・・・イス、だ・・・めだ。」
かすれた声でロイスを拒絶する。
しかし、その瞳には迷いは無かった。
「ダメなんかじゃない!!」
そう、強く言い切る。
しかし、まだ手先が震えている。
「怖いけど・・・それでも行くから。」
「今度こそ、絶対に離さないから!」
さっき弾かれたはずの手を再び伸ばす。
バチバチッ!
再び走る電撃。
「うっ・・・!」
痛みで顔を歪めながらも、ロイスは止まらない。
そのまま──
ジンを強く抱きしめた。
「大丈夫・・・だよ。」
震える声、それでも確かに届く声。
「大丈夫・・・。大丈夫だから。」
電撃が体中を走る。
それでもロイスは決して離さなかった。
「もう、一人じゃない・・・!」
ロイス自身に言っているようにも聞こえるが、その言葉はジンの奥深くに沈んでいく・・・。
とても・・・温かい。これはロイスの温もり?
いや、それだけじゃない。これはもっと、別の・・・。
まるで、体の内側で溢れ、流れていた何かが静まっていくような・・・そんな感覚だった。
ああ、なんて優しい娘なんだ・・・。
ジンはその温もりの中、安心と安堵し、落ち着きを取り戻した。
空を裂いていた轟音は次第に小さくなっていき、纏い、放たれていた電撃も次第に収まった。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
ジンの体から力が抜け、ベッドに崩れ落ちるように沈む。
それでもロイスは腕を離さなかった。
「・・・ジン?もう、大丈夫?」
小さく頷くジン。
「うん・・・。」
ロイスはゆっくりと腕を離し、ジンの顔を覗き込んだ。
彼女の瞳に涙が滲む。
「止めようとしても止まらなかった。また、大切な人を失ってしまうと思うと不安で仕方なかった。よかった、よかったよ本当に・・・。」
ロイスは、静かにジンの袖を握りしめたまま肩を震わせていた。
「もう、大丈夫だよ。」
ジンは慰めるようにロイスの頭にそっと手を置く。
「ごめん、ロイス。怖かったよね・・・。それに・・・」
「ジン?こういう時は、ありがとう。だよ?」
ロイスは涙を拭きながらジンの言葉を遮った。
「そうだったね。ロイス、ありがとう。」
ロイスはその言葉を聞き、にっこりと笑いかけた。
ああ、いつものロイスだ・・・。
ロイスは何も言わず、そっとジンの手を握った。
温もりに包まれながらジンの意識は沈んでいく・・・。
今度は恐怖のない眠りだった。
「もう、失わないから・・・。今度こそ・・・。」
──昨晩の疲れがドッと来ていたのか、ジンは夕方頃に目を覚ました。
外を見ると日が傾き、炎炎と夕日が燃えている。
ふと、手を握っていてくれたロイスのことを思い出す。
部屋には・・・。
ロイスの姿は見当たらない。
ジンは部屋を出た。
「ロイス?」
ダイニングにもロイスの姿は無い。
ジンは意を決して、ロイスの部屋を訪れることにした。
ロイスの部屋の前に立ち、緊張するジン。
コンッ、コンッ、コンッ
と扉をノックした。
──が、何の返事も返って来なかった。
「ロイス?」
呼びかけてみたが、それにも返ってくる返事は無かった。
流石に・・・、勝手に入るのはな・・・。
そう思い、ジンは部屋に返ってベッドへと横になった。
それからしばらくして、家の玄関がガチャっ!と開く音が聞こえた。
ロイスが外出から帰宅した音だ。
ジンは部屋からでて、ロイスを出迎えた。
「お帰り、ロイス。」
ジンが出迎えてくれたことに少し驚いた表情をし、頬を赤らめた。
「・・・ただいま。」
昨日、必死だったとはいえ、抱きしめてた感触がまだ残っている気がして、ジンとまともに目を合わせることができなかった。
「あっ・・・。」
ロイスの様子を見て、柔らかい温もりが、ふと蘇る。
思わず視線を逸らした。
短い沈黙が流れる──
「もう、動いて平気なの?」
その沈黙を破ったのはロイスだった。
「おかげさまで、もう大丈夫だよ。」
ジンは恥ずかしさを紛らわすかのように、頬を軽くかいた。
「ジン、お話があるの。・・・座って?」
ロイスは、どこかかしこまったように椅子に座って、ジンも座るように促した。
ジンが椅子に座るとロイスが話始めた。
「ジン、ここに来て間もないって言ってたよね?だから魔力をコントロール出来なくて暴走しちゃったんだと思うの。」
ロイスは続ける。
「ジン、学校に通って欲しいの。」
「学校?」
ロイスは頷く。
「うん、魔力の制御を学べる所。ジンには必要だと思うの。」
ロイスは少し視線を下にずらし、
「昨日の事話したら、校長先生の許可が貰えてね、ジンも学校に通っていいことになったの。」
ロイスは深く頭をさげる。
「勝手に話進めててごめんなさい。でも、ジンのこと、何とかしたくて・・・。」
ロイスはジンの左腕に視線を移す。
「それに、ジンの怪我も学校に行った方が絶対よくなると思うの。」
ロイスはここまで考えていてくれたのか・・・。
改めてロイスの優しさに、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「・・・ありがとう、ロイス。」
ジンは静かにそう言った。
「ううん、私がしたくてやったことだから・・・。」
そう言いながらも、どこか照れくさそうに視線を逸らす。
ジンは少しだけ考え込むように目を伏せる。
「・・・正直、怖かったんだ。」
ぽつりと本音が零れる。
「また、あんな風に暴走したらって・・・思うと・・・。」
無意識に拳を握り締めるジン。
そんな彼の手にそっと温もりが重なった。
「大丈夫。」
ロイスの手だった。
「一人じゃないって、言ったでしょ?」
優しく、まっすぐな言葉。
ジンはその手を見つめ、それからロイスの顔を見る。
逃げ場を作らない、強い瞳がジンに決意させた。
「・・・うん。行くよ、学校。」
その言葉に、ロイスの顔がぱっと明るくなった。
「ほんと!?よかった・・・。」
安心したように胸に手を当てるロイス。
「じゃあ、明日から一緒に行こ?私が案内するから」
学校──
それは、この世界を知るための場所。
そして自分の中にある魔力を制御するための場所。
遠くから学校の鐘が鳴り響く。
ジンの新たな日常が静かに動き出そうとしていた──
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
ジンの暴走を止めたのはロイスの必死の覚悟、痺れますね!
次の話から学校編へと突入します。
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