第3話 静寂を裂く雷鳴
──ジンは目を覚ました。
「・・・また、ここか・・・。」
以前来たことのある鮮やかな黄色の部屋。
ジンは考える前に自分の部屋を出た。
それが正しい気がしたのだ。
ガチャ・・・
見慣れた廊下と目の前にもう1つの扉。
「やっぱりここか。」
すると、ゼンの方の扉がガチャッと開いた。
「2回目だな。」
「ゼン・・・。」
ジンはゼンを見つめ、拳を固く握りしめる。
「・・・魔獣を倒したのは、君?」
ゼンはふっと笑い、答えた。
「なんだ、気づいてたのか。ああ、おれがやった。お前にはまだ早すぎる。」
ジンの握った拳から力が抜け、和らぐ。
「そっか、助けてくれてありがとう。」
ジンはゼンにニコッと笑いかけた。
「勘違いしないでくれ。お前が死ぬってことは俺も死ぬって事だ。それを阻止しただけだぜ?」
ゼンは両手をあげ、呆れたように顔を左右に振った。
「それでも助けてくれたことには変わりないよ。」
ゼンは呆れた顔をした。
「次はちゃんと戦えよ?毎回俺が出るわけじゃねぇからな。」
そう言い残すと、ゼンは自分の部屋へと戻っていった──
扉が閉じた途端、視界がぼやけ、暗くなった。
その瞬間、ジンは息を荒げて目を覚ました。
「はぁっ、はぁっ・・・。」
「次はちゃんと戦えよ?」
ドクン──
ゼンの言葉が頭を過り、鼓動が早くなる。
「・・・っ!」
ジンは胸に手を当て、そのまま服を強く握りしめた。
「はっ・・・はっ・・・。」
苦しい・・・。
息がうまく吸えない。
「ジン!?」
ロイスは水の入った桶を放り投げ、ジンの横へと駆け寄った。
「すごい汗!大丈夫?」
ジンは苦しそうに顔を歪め、荒々しく呼吸をしている。
ロイスはすぐにその背中に手を当て、優しくさする。
「ロ・・・イス。」
かすれた声で名前を呼び、ジンはなんとか視線を向ける。
そこには、心配そうに見つめるロイスの顔があった。
次第に呼吸は落ち着いていき、ジンは静かに息を吐いた。
「もう、大丈夫。ありがとう。」
そういうと、ベッドに身を預けた。
ロイスはまだ不安そうな表情を浮かべたまま、
「タオル、取って来るね。」
とだけ言い、部屋を出た。
部屋に静けさが戻る。
しかし──
胸の奥の熱は、まだ消えていなかった。
天井を見つめていると、ロイスが戻って来た。
「ほら、じっとしてて。」
そう言って、優しくジンの額にタオルを当てた。
ひんりとした感触が熱を奪っていく。
「・・・ごめん、心配かけた。」
「ほんとだよ、びっくりしたんだから。」
ロイスは少しだけ頬を膨らませる。
「それに、こういう時はごめんじゃなくて、ありがとうっていうんだよ?」
ロイスが怒った・・・?ような表情で見つめてくる。
「あ、ありがとう。ロイス。」
「うん!それでよろしい。」
そういうと、ロイスの顔に笑顔が戻った。
「所で、ロイスはどうして僕のことを助けてくれたの?」
たった一人であの森の中に入っていたことが気になっていたのだ。
ロイスは首を傾げる。
「ほら、森で・・・」
ああ!と思い出したのか、ロイスはジンの疑問に答えてくれた。
「私、山菜や木の実を取りに森に入ったの。そしたら、ジンが腕に大けがして倒れてて。
すぐ近くに魔水晶も落ちてるし、魔獣がいるのはもっと深い森だから、何か危険だと思ったの。
それに、見捨てることもできないから、家まで運んだの。」
それを聞いたジンは、少し俯きた。
そっか、普段は安全な森だったんだ。
ほっとしたジンは、すぐにロイスの方を向きこう伝えた。
「僕を助けてくれてありがとう。」
そういうと、ジンはニコッと笑った。
ロイスも「いいえ。」と笑い返した。
「でもさ、ほら。ずっとここに居たら両親にもロイスにも迷惑かけちゃうし・・・。」
「両親は・・・。」
ロイスは悲しそうな顔をした。
それに気づいたジンは咄嗟に
「嫌なことは言わなくても。大丈夫だよ。」
ロイスの反応で分かった。
一人で食材の調達をするロイス、悲しそうな顔をするロイス・・・。
それに、一度も部屋に顔を出さない両親・・・。
きっと何かを理由に親を亡くしてしまったのであろうことが推測できた。
ジンは無意識のうちに、ロイスの頭を撫でていた。
ロイスの体がほんの一瞬だけ固まり、驚いたように目を見開き、ジンを見つめた。
けれどすぐに少しだけ視線を逸らす。
「な、なによ急に・・・。」
わずかに頬を染めながら、そう呟いた。
「でも、ありがとう。」
次の瞬間にはいつものようにニコッと笑っていた。
「そうだ、そろそろご飯の支度しなきゃ。」
そう言ってロイスは立ち上がった。
「僕も手伝うよ。」
ジンはロイスの服の先をつまんだ。
「ジンはいいの。まだ怪我が治ってないんだからゆっくり横になってて。」
そう言って、ロイスはやんわりと手をはずした。
「・・・わかった。」
少しだけ残念そうに呟くジン。
ロイスはその様子をちらりと見て、くすっと小さく笑う。
「じゃぁその代わりに、一緒に食べよ?」
「え?・・・うん。」
少しだけ表情を緩めながらそう答えた。
ロイスは口を尖らせ人差し指を唇の下に押し付けた。
「それに、二人で食べる方がおいしいもんね。」
そう言って、ロイスは軽く振り返りながら部屋を出て行った。
──テーブルに並べられた料理から暖かい湯気が立ち上っていた。
美味しそうな匂いだ。
「いただきます。・・・ってこっちではしないのかな?」
ジンの所作に不思議そうな顔をしているロイスを見てなんだか恥ずかしさがこみあげてくる。
「それ、なにか意味があるの?」
これが文化の世界の違いなんだな、と思いつつ
「これは食材となった命と、それを用意してくれたロイスへの感謝がこもってるんだよ。」
不思議そうに思っているロイスに現実世界の習わしを教えてあげた。
「そうなんだ!それ、とても素敵だね。」
そう言うとロイスは手を合わせて「いただきます」と呟き、ジンに笑いかけた。
「さあ、食べましょう。」
一口食べると思わず表情が緩む。
「おいしい。」
「でしょ?」
ロイスは何処か得意げに笑った。
「傷に効く薬草も入ってるの。本当は、フルポーションが良いんだけど・・・。」
少し悲しそうに俯いた。
「気にしなくて大丈夫。ロイスの料理のおかげでで元気いっぱいだよ!」
そう、言いながらジンは力こぶを作って見せる。
「ふふっ」
二人での食事に穏やかな時間が流れる。
──その夜。
ジンは静まり返った部屋の中で眠っていた。
だが、徐々に息が荒々しくなり、眉間にしわを寄せて、胸が締め付けられるように苦しそうにうなされていた。
ロイスの部屋のコップが揺れる。
重く、ピリつく空気に不安を感じ、ドアの方に視線を移す。
──バリバリバリッ!
突如、空気を割く轟音が部屋中に響き渡った。




