第38話 記憶の喪失
残りのリクテ草とレメティウ茸は帰りながら探し、どちらとも群生地を発見できた為、採取を完了してフラトスの街を目指していた。
日が傾き、夕日がゆらゆらと橙色に空を染める頃、二人はフラトスの街に帰って来ることができた。
2人は急ぎ、治癒師の元へ向かう。
店のドアを勢いよく開くと、「戻りました!」と、ジンが一言。
奥から治癒士が姿を現す。
「ジンさん!戻られたのですね・・・。中へ。」
2人は中に入ると、取って来たリクテ草とレメティウ茸をテーブルに並べる。
「竜種の血液は・・・。」
フリーシアは亜空間バックからイルジーオから貰った血液の入った瓶を取り出す。
その瓶は淡く光を放っている。
「本当に、持ち帰ったのですか・・・?」
「ええ。」
フリーシアは小さく答え、瓶をテーブルの上にそっと置く。
治癒士は確かめるように顔を近づけ、まじまじと瓶を観察する。
「白い竜の血液・・・。こんな竜の血は見たことが無い・・・。」
治癒士の視線が2人に向く。
そのれは2人を疑り深く観察しているような瞳をしている。
「ジンさん、貴方達・・・本当にどこでこれを・・・。」
治癒士の声が僅かに低くなる。
2人は顔を合わせて、その問いにフリーシアが答える。
「幻聖竜─イルージオ、と名乗っていました。」
「幻聖竜?・・・名乗っていた・・・!?」
治癒士の目はみるみる大きく見開かれていく。
名乗っていた、という単語に治癒士は言葉を失った。
「喋る竜!?・・・上位種じゃないか!!」
治癒士は顎に手を当て、その瓶を見つめながら小さく呟く。
「これは・・・。しかし・・・。困りましたね・・・。」
治癒士は独り言を終えると、再び2人に向き直った。
「調合代金などもいりません。お二人はこれほどの素材を調合できる機会を私にくれたのですから・・・。」
イルジーオの血液が入った瓶を手に取り、2人に見せて言葉を続けた。
その手は僅かに震えているのが分かった。
「ただし、これは国家案件の代物です。この血液を入手したことは他言無用でお願いします。扱いを間違えれば貴方達だけでは済みません。・・・いいですね?」
ジンとフリーシアは治癒士の圧力のある言葉に頷き、合意した。
「では、調合には少し時間がかかりますので、宿でお待ち下さい。」
2人はそう言われると、宿に戻ることにした。
ロイスの寝ているドアを静かに、ゆっくりと開く。
最初に入って来たのはフリーシアだった。
それに続いてジンも部屋に入る。
ロイスの様子は・・・。
スースーと寝息を立てて、眠っていた。
2人はその様子を見て、ホッと溜息をついた。
ロイスの傍に椅子を2つ置き、2人はそこに腰掛ける。
ジンはロイスの額にそっと手を当てる。
「まだ、熱はあるみたいだ・・・。」
熱があるかどうか、確認すると額から手を離す。
「お姉様の寝顔、かわいいわ・・・。」
フリーシアはぽつりと呟く。
「フリーシアは、ほんとにロイスが好きだよね。」
ジンは笑いながらフリーシアに聞く。
「ええ、お姉様は世界一よ。」
フリーシアは何処か自慢げに答える
「ねぇ、ジン?そう言えば・・・。ゼンってどうしてるの?」
フリーシアはゼンのことについて気になっているようだ。
ジンは少し俯き、沈黙すると、「まだ眠ってるみたいだね・・・。」と、答える。
「そう・・・。」
フリーシアは少し寂しそうな表情を浮かべる。
「僕が出れない間、慣れない外での生活と、アルヴォル・クリフォティカとも戦ったからね。その内何もなかったように出てくるよ。」
ジンはそんなフリーシアを見て、励ますように言葉を選び、そっと手を伸ばしてフリーシアの頭を優しく撫でた。
「いやらしい・・・。」
「いやっ違うよ!?そんな意味じゃ・・・。」
ジンはフリーシアの頭から慌てて手を離した。
フリーシアは横目で、さらにジト目でジンを見ていたが、頬がほのかにピンク色をしていた。
「まぁ・・・。悪くはなかったわ。」
フリーシアはそう言うとすぐにそっぽ向いた。
ジンは苦笑いをうか浮かべる。
「水、汲んでくるね。」
ジンはそう言うと、バケツを持ち、水を汲みに行く。
水汲みから帰ってきたジンは、ロイスの額にあるタオルを取り、水に浸してタオルを絞り、再びロイスの額に乗せと、椅子に腰かける。
二人に沈黙が訪れる。ロイスのスースーと静かに眠る吐息だけが部屋を包む。
「ねぇ、ジン・・・。貴方は、違う世界から来たのよね?」
フリーシアはロイスを見つめたまま、ジンに問いかける。
「え?うん。」
ジンは突然の問いかけに少し驚き、フリーシアに視線を向ける。
「ジンがこっちの世界で戦う理由ってないわよね?」
フリーシアのまさかの言葉に少し俯くジン。
戦う理由・・・。
それならある。
「フリーシア、僕はこっちの世界に来て初めて出会ったのがロイスなんだ。魔獣にやられて気を失っていた僕を助けてくれた。そして、魔力暴走をした僕を救ってくれたんだ。」
フリーシアの視線がジンに移る。
ジンは両膝に肘を置いて手を組んでいる。
「それで、学校とか行って、色々とあって、ロイスを、そしてロイスの居るこの世界を救いたいと決心した。」
ジンはフリーシアに視線を合わせ、こう続けた。
「その中に、今はフリーシアも入ってるよ。これが僕の戦う理由だ。」
フリーシアはジンのその言葉を聞き、少し目を見開くが、すぐに視線を外し、
「そう・・・。」
と、小さく呟いたその時だった。
コンッ、コンッ、コンッと、
不意にドアが戦える音が部屋に響く。
ジンは立ち上がり、ドアを開くとそこに立っていたのは治癒士だった。
「ジンさん、薬が完成しました。」
ジンはその言葉を聞き、少しだけ表情が緩んだ。
そのまま治癒士を部屋の中へと招き入れる。
「コップと飲み水は在りますか?」
部屋にコップと飲み水が無かったので、ジンは急いで一階の食堂に飲み水の入ったコップを取りに行く。
戻って来てそのコップを治癒士に渡すと、治癒士は煎じた薬を水の中に注いだ。
それを良くかきまぜると、「飲ませるので、体を少し、体を少し起こして貰ってもかまいませんか?」と、ジンにお願いする。
そう、言われるとジンはそっと、ロイスの体を持ち上げる。
フリーシアは息を呑んで三人を見守る。
「ロイス、薬だ。飲み干して・・・。」
ジンはロイスの側で小さな声で伝える。
治癒士はゆっくりと、薬の入った水を飲ませる。
ロイスはゴクッ、ゴクッ、とゆっくりと薬の入った水を飲み干す。
飲み終わった後、ジンはロイスをゆっくりと寝かせる。
三人はロイスの様子を伺うが、しばらくは何もなかった。
しかし、突然ロイスが首を振り、苦しみ出した。
「あ・・・ぐっうう!」
ロイスは声にならない声を上げ、苦しむ。
すると、体から白い光が滲み、やがてロイスを包み込む。
白い光は輝きを強くし、部屋全体を呑み込む。
三人はその輝くに目を開けていられずに、目を瞑る。
やがて輝きは弱くなり、白い光がロイスの中に徐々に納まっていく。
光が完全に消た時、ロイスは落ち着いていた。
「ロイス・・・。」
ジンはロイスに声をかける。
ロイスの指先がピクリと動く。
「お姉様!!」
フリーシアはロイスの指が動くのを見て、その手を取り、呼びかける。
「う・・・ん・・・。」
ロイスの瞼がゆっくりと開かれる。
ロイスは起き上がり、目を擦るとぼーっとジンとフリーシアを見つめる。
「ボクは・・・?」
ぼやけていた視界がはっきりしてきてジンとフリーシアがはっきりと見えた。
ロイスは二人を見て、きょとんと眼を落とす。
「貴方達、だぁれ・・・?」
ロイスの第一声に、空気が凍りついた。
ジンとフリーシアは息を呑み、険しい表情でゆっくりとお互いを見合わせた。




