第35話 言霊の魔人 エンティア
「お話はもう済んだのですか?」
エンティアが首を傾げ、三人を見据える。
「何が目的だ。」
ゼンは冷静にエンティアの出方を伺う。
「ええ、目的・・・。そうでしたね。私はアルカムプルビトゥを取りに来ました。必要なのでね。」
エンティアはゼンの持つ果実に目を移す。
「何の為に。」
「私にはわかりません。ただ、取って来いと。」
エンティアは肩を落とし、小さく溜息をつく。
「人使いが荒いですよね・・・。」
「思った以上に、よく喋るんだな。」
エンティアはゼンに視線を移す。
「ええ、お話は好きですよ?」
エンティアは笑顔を浮かべるが、目が笑っていない。
「ゼン、話の途中で悪いけど、行くわよ。」
フリーシアはそう言うと両手を掲げ、空中に氷の矢を無数、作り出す。
「おや、そこのお嬢さんは氷の魔法ですか・・・。」
「いい気になってるんじゃないわよ!」
フリーシアは両手を前振りにかざす。
「氷霊の尖槍」
その所作と呼応するように氷の槍がエンティアへと襲い掛かる。
「──その氷はすり抜ける。」
フリーシアの魔法の衝撃で冷気と土埃が舞う。
「やったかしら・・・。」
警戒を解かず、体が強張る3人。
徐々に土埃が収まる。
そこにはエンティアの姿があった。
「ふむ、これはあったた対象を貫き凍らせる性質もかねているのですね・・・。」
エンティアの足元に突き刺さった氷の矢が地面とエンティアの足を凍らせていた。
「待って、直撃したはずよ!?」
「ええ、当たっていましたとも・・・。」
エンティアのの口角が上がる。そして
「──氷は解ける。」
エンティアがその言葉を口にした時、足元の氷が瞬時に溶けた。
「言葉で事象を操る魔法か・・・。」
ゼンは小さく呟いた。
「ロイス、強化魔法は使えるか?」
ゼンはエンティアに視線を向けたまま、ロイスに尋ねる。
「ええ、少しの時間なら。」
「じゃあ、あいつの気をこっちで引くから、言葉を発する前に叩き切ってくれ。」
ロイスは小さく呟いた。
「フリーシア、援護を頼む。」
ゼンは魔力武器化で剣を作り出す。
「水神の剣」
「分かったわ!」
フリーシアはさっきよりも多くの氷の槍を空気中に生成する。
ゼンは地面を蹴り、エンティアとの距離を縮める。
ロイスは強化魔法を発動するタイミングを見計らう。
「ふむ・・・。」
エンティアは目を閉じ、少し俯いた。
「──ゼン、君はフリーシアに攻撃する。」
その言葉を聞いた途端、体が止まり、フリーシアに向かって駆ける。
「体が・・・勝手に・・・。」
「ゼン!」
ロイスが咄嗟に叫ぶがゼンは止まらない。
「──そしてフリーシア、君はそのままゼンを攻撃する。」
その言葉をきっかけに、フリーシアが作り出した無数の氷の槍はゼンに向かって放たれる。
「だめ!待って!」
フリーシアは制御しようとするが自分の魔法が言うことを聞かない。
フリーシアは息を呑んだ。
走ってくるゼンにフリーシアの魔法が直撃する。
冷気がゼンの体を覆う。
エンティアは目を開くと感心したように
「ほう、そのような方法で・・・。」
包んでいた冷気は晴れ、そこには水の盾で攻撃を防いだゼンがいた。
「攻撃・・・じゃなくて防御なら命令そのものが意味を持たなくなる・・・。」
ゼンは攻撃の意思を消し、防御するという意思でエンティアが放つ言霊の呪縛を解いた。
無事なゼンを見て、フリーシアはほっと溜息をついく。
2人のやり取りに興味を持ったエンティアの視界にロイスがいなくなっていることに気付かなかった。
瞬時にエンティアの目の前に現れるロイス。
「紅蓮の焔閃」
手に持つ炎の剣でエンティアへと切りかかる。
エンティアは目の前で起きた光景に口角を上げ、詠唱を始める。
「──その剣は・・・。」
言葉を言い終わる前にロイスの炎の剣が弧を描く。
斜め下から右肩に向かって出来た切り口から炎が吹きあがる。
ロイスは二人の所まで下がり、地面に膝をつく。
「これ以上は・・・強化魔法、無理・・・。」
ロイスは息が上がり、肩で呼吸している。
「はははは!」
エンティアの不気味な高笑いが周囲を埋め尽くす。
「強化魔法ですか。よもや私がここまでやられようとは!」
「──炎よ消えよ」
エンティアの体から噴き出していた炎は跡形もなく消え去った。
フリーシアは咄嗟に魔法を発動した。
「氷霊の断界」
「──私は凍らない。」
フリーシアの攻撃も虚しく、冷気だけがエンティアを呑み込んだ。
ゼンは片手を上に突きあげ、大気中の水分を集めるように魔力を練り上げる。
「これならどうだ!水神の鉄槌」
巨大な水の塊が、エンティアの逃げ道を塞ぐように頭上に現れる。
「深度1万mの圧縮された水だ!」
そう言うとゼンは右腕を振り下ろす。
エンティアはその水の塊に手を向け
「──その魔法は発動しない。」
そう唱えた途端、水の塊は宙で爆散した。
ロイスはこの一瞬のスキを見て空へと駆け上る。
攻撃範囲ギリギリ、声の届かない所まで・・・。
「おや、またあのお嬢さんが姿をくらましましたね。次は何を見せてくれるのか・・・。」
エンティアは鋭く唱えた。
「──君たちは絶対に動けない。」
ゼンとフリーシアの体が硬直する。
まるで、体が凍り付いたかの様に動けなかった。
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