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第33話 激戦の代償

日は傾き、島の空洞に差し込む日差しが弱くなっていた。

空洞内には再び静けさが戻っている。


「船に戻ろう。」


「ええ。」


ジンはそう言うと空へ至る魔法(フルトーレ)で静かに空へ向かう。

フリーシアもジンに続き、静かに宙へと体を滑らせる。

少し進むと、ジンはロイスがついてきていないことに気付く。


「フリーシア、ロイスは?」


その言葉でフリーシアもロイスがいないことに気付いた。


「お姉様、来てないわ。」


2人で空中に止まると顔を見合わせる。


「フリーシアは船に戻ってて。」


ジンはそう言うと折り返し、島の空洞へと向かう。

空洞の中が視野に入ると、そこにはロイスが座り込み、頭を抱えているのを見つける。


「ロイス、大丈夫か?」


ジンはロイスの隣に静かに降り立ち、背中にそっと手を添える。


「なんだか、上手く魔法が使えなくて・・・。ふらふらするの。」


ロイスはジンに笑顔を見せるが、その瞳は僅かに揺れ、どこか焦点が合っていない。


「きっと無理しすぎたからだ。・・・乗って。」


ジンはそう言うとしゃがんで背中をロイスに差し出す。


「ありがとう。」


そう言うとロイスはジンにおぶさる。


「しっかりつかまっててね。」


「うん。」


ジンはロイスを背負ったまま、空へと戻っていく。

ロイスのつかまる力が、僅かに強くなった気がした。


やっぱり・・・。大きい背中・・・。

ロイスはジンの背中に軽く顔を埋める。


フリーシアは心配そうに船の甲板で行ったり来たりしていた。


「フリーシア!」


空の遠くの方からジンの声が聞こえた。

フリーシアはそちらに視線を移し、ロイスが背負われているのを確認すると、フリーシアの表情が少し明るくなった。

ジンとロイスは船の甲板に静かに着地すると、フリーシアがすぐに駆け寄って来る。


「お姉様、大丈夫?」


「ええ、大丈夫。」


ロイスはフレーシアの問いに笑顔で答えると、フリーシアに笑顔が戻った。


「大丈夫か!?」


そう言って駆けつけてきたのはガルシアだった。


「奥に横になれるスペースがある。」


ガルシアはそう言うとすぐに案内してくれた。

そこはベッドが置かれるだけの狭いスペースだった。

ジンはそのベッドにロイスをそっと寝かせる。


「ジン、ありがとう。」


「ゆっくり横になってて。」


ロイスは頷くと目を閉じる。


「お姉様は私が見てるわ。」


フリーシアはジンにそう言い、ベッドに腰掛ける。


「やっぱりお前らすげぇな。帰って来るとは思いもしなかった。」


ガルシアは両手を腰に当て、感心するように3人をみる。


「ええ、おそらく空を飛べたので何とかなった気もします。森には凶暴な魔物もいそうな雰囲気でした。」


「空を・・・?そうか・・・。」


ガルシアはジンに視線を向け、それにも感心していた。


「よし、じゃぁ船を出そう。」


そう言うとガルシアは操舵室に向かった。


「じゃぁ、僕は甲板にでてるね。」


ジンはロイスとフリーシアを残し、船の甲板へと向かった。


夕日が沈み闇が辺りを呑み込もうとしていた頃、一行はフラトスの港に帰って来た。


「ガルシアさん、今回はありがとうございました。」


3人はガルシアに深くお辞儀をする。


「いいやぁ、こっちこそいい経験が出来たさ。もし、またなんかあった時はいつでも言ってこい。」


ガルシアは笑いながら片腕をあげた。

3人はガルシアと別れると宿を探した。


「ロイス、具合はどう?」


「うん、だいぶ良くなったと思う。でも・・・。」


ロイスは片腕に抱きつき、介護しているフリーシアに視線を向ける。


「フリーシア、ちょっと大袈裟じゃない?」


「お姉様?またいつ倒れたりするか分からないからこのままでいいの。」


フリーシアは介護と偽ってロイスにくっついていた。

3人は宿屋を見つけると中に入っていった。

1階は食堂になっており、賑やかな声があちこちから飛んでいる。


3人は空いてる席に腰を下ろした。

運ばれてきた暖かい料理の香りが、疲れた体にじんわりと染みる。


「・・・美味しい。」


ロイスはそう呟くと、少しだけ表情を緩めた。


「お姉様、ちゃんと食べてね。」


フリーシアはそう言いながら自然とロイスの皿に料理を取り分けている。


「フリーシア、ちょっと過保護過ぎない?」


ジンが2人の様子を見て苦笑すると、フリーシアは少しだけ頬を膨らませた。


そんなフリーシアを見て、ジンとロイスは顔を合わせて微笑む。


食事を終えると、部屋へと戻ることにした。

ロイスとフリーシアは同じ部屋へ。

ジンは別の部屋へと別れる。


「お姉様は絶対私が見るから。」


フリーシアはロイスの腕をしっかりと抱いたまま、部屋へと入っていく。


「お願いするよ。」


ジンは2人を見送り、自分の部屋に入る。


「お姉様、横になって・・・。」


フリーシアはそっと、ロイスをベッドに寝かせる。


「ありがとう。でも、もう大丈夫よ。」


ロイスはそう言って微笑むが、その声に僅かな力の無さが混じっていた。


フリーシアはロイスのベッドにそっと腰掛ける。


「お姉様、私を助けてくれてありがとう。」


フリーシアはそっとロイスの手を握る。


「ううん、自分の出来ることをしただけだよ。」


ロイスはフリーシアの手を握り返す。


「そうやって無茶して・・・。」


フリーシアはどこか困ったように笑みを浮かべる。


「お姉様、今日はゆっくり休んで。」


「うん、ありがとう。フリーシア。」


ロイスはそう言うとゆっくりと目を閉じた。

フリーシアはその様子を見つめたまま、手を離さなかった。


──翌日、ジンの部屋のドアが力強く、何か緊迫しているかのように叩かれる。


「ジン!お姉様が!」


ジンは急いでドアを開ける。

そこにはいたフリーシアの表情は目は大きく開かれ、口元は上手く言葉に出来ずに震えていた。

その表情に驚くジン。


「何があった?」


「いいから、早く来て!」


フリーシアはジンの腕を無理やり引っ張り、自分の部屋に連れて行く。

ジンの視界にベッドで横になっているロイスが入る。


「ロイス?」


横になっているロイスは早く、荒く呼吸をし、少し苦しそうに汗が滲み、顔が赤くなっている。

魔力が強くなったり弱くなったりと安定していないのも感じる。

ジンはロイスの額にそっと手を当てる。

その額は汗ばみ、熱くなっていた。


「熱だ・・・。」


フリーシアはどうしたらいいからわからず、あたふたし、落ち着きがない。


「フリーシア、すぐに治療師を読んで来るから、ロイスの看病をお願い。」


「わ、わかったわ。」


ジンはそう伝えると急いで宿屋の1階に向かい、店主に治癒士が居る場所を聞き出し、治癒士の元を尋ねた。

フリーシアは濡れたタオルでロイスの汗を拭き取り、水の入ったバケツにタオルを浸して、ロイスの額にそっと乗せた。


「少し冷たい方がいいかしら・・・。」


フリーシアはロイスの額のタオルに手を置き、その手に僅かな冷気を宿した。

冷やし過ぎないように、慎重に力を抑える。

しばらくして、ジンが治癒士を連れて帰ってきた。


「こちらです。」


ジンは治癒士にそう伝えると、部屋の中に入ってくる。

フリーシアは席を開けるため、立ち上がり、ジンの隣に立ち、見守る。

治癒士は譲られた椅子に腰掛け、ロイスの体にそっと手を添えると、手が水色に光だす。


「お姉様、大丈夫かしら・・・。」


フリーシアは不安のあまり、ジンの袖を掴んだ。

その指は微かに震えている。

ジンはその震える手に気づき、そっとフリーシアの頭を撫でた。


「きっと大丈夫。」


そうすると、フリーシアの震えがほんの僅かに落ち着いた。


「うーん・・・。」


治癒士の手から発せられていた光は無くなり、2人の方へと向く。


「これはかなり珍しい症状ですね。」


「珍しい?」


ジンが聞き返すと治癒士は頷く。


魔力行使(エクセリウム)疲れです。魔法の使いすぎでたまに現れる症状ですね。」


初めて聞く症状に2人は戸惑いを隠せなかった。


「それは、どんな症状ですか?」


「ええ、魔力消費の激しい魔法を何度も使うと、マギア体に通う魔力が一時的に乱れ、高熱を出してしまうんです。」


2人は治癒士の言葉を静かに聞き、問いかける。


「治るんでしょうか?」


「ええ、早くて数日、遅くても1週間位で良くなります。」


「良かった・・・。」


ジンとフリーシアはそっと胸を撫で下ろした。


「しかし・・・。この乱れ方は異常ですね・・・。魔力の乱れが激し過ぎます。」


治癒士が顎に手を当て、考える。


「ここまでの状態であれば薬剤を投与した方が良いかもしれませんね。」


「効く薬があるんですか?」


治癒士は顎から手を離し、ジンに視線を向ける。


「ええ、ただ・・・。魔力行使(エクセリウム)疲れ自体珍しいもので、現状では薬剤に使用する素材がありません。」


「この辺で取れる物ですか?」


ジンはこの辺りでは無くても採取しに行くつもりで治癒士に質問をした。

薬剤師はさらに深く考え、ゆっくりと言葉にする。


「ええ、海の反対の山の奥に揃っているはずです。資料を取りに行きたいのですが・・・。」


「では、僕が一緒に行きます。フリーシアはロイスのこと、見てて貰えるかな?」


フリーシアは静かに頷く。


ジンと治癒士は治療院に戻ると、治癒士は資料を漁りだす。

しばらくして・・・。


「ありました。これが素材の資料です。ちょっと厳しいかもしれませんが・・・。」


そう、治癒士から渡された資料は3枚。

1枚目はリクテ草。

山の山頂付近の日当たりの良いところに群生している薬草。

2枚目はレメティウ茸

湿気が多く、日光が届かない暗所に自生する。

3枚目は・・・

ジンはその資料を見て目を見開いて驚いた。


「竜種の・・・血液・・・!?」


そこに記されていた素材は竜種の血液だった。

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