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第31話 言霊の魔人 エンティア

「お話はもう済んだのですか?」


エンティアが首を傾げ、3人を見据える。


「何が目的だ。」


ゼンは冷静にエンティアの出方を伺う。


「ええ、目的・・・。そうでしたね。私はアルカムプルビトゥを取りに来ました。必要なのでね。」


エンティアはゼンの持つ果実に目を移す。


「何の為に。」


「私にはわかりません。ただ、取って来いと。」


エンティアは肩を落とすし、小さく溜息をつく。


「人使いが荒いですよね・・・。」


「思った以上に、よく喋るんだな。」


エンティアはゼンに視線を移す。


「ええ、お話は好きですよ?」


エンティアは笑顔を浮かべるが、目が笑っていない。


「ゼン、話の途中で悪いけど、行くわよ。」


フリーシアはそう言うと両手を掲げ、空中に氷の矢を無数、作り出す。


「おや、そこのお嬢さんは氷の魔法ですか・・・。」


「いい気になってるんじゃないわよ!」


フリーシアは両手を前振りにかざす。


氷霊の尖槍(テルミス・ハスターク)


その所作と呼応するように氷の槍がエンティアへと襲い掛かる。


「──その氷はすり抜ける。」


フリーシアの魔法の衝撃で冷気と土埃が舞う。


「やったかしら・・・。」


警戒を解かず、体が強張る3人。

徐々に土埃が収まる。

そこにはエンティアの姿があった。


「ふむ、これはあったた対象を貫き凍らせる性質もかねているのですね・・・。」


エンティアの足元に突き刺さった氷の矢が地面とエンティアの足を凍らせていた。


「待って、直撃したはずよ!?」


「ええ、当たっていましたとも・・・。」


エンティアのの口角が上がる。そして


「──氷は解ける。」


エンティアがその言葉を口にした時、足元の氷が瞬時に溶けた。


「言葉で事象を操る魔法か・・・。」


ゼンは小さく呟いた。


「ロイス、強化魔法は使えるか?」


ゼンはエンティアに視線を向けたまま、ロイスに尋ねる。


「ええ、少しの時間なら。」


「じゃあ、あいつの気をこっちで引くから、言葉を発する前に叩き切ってくれ。」


ロイスは小さく呟いた。


「フリーシア、援護を頼む。」


ゼンは魔力武器化(アルマニティ)で剣を作り出す。


水神の剣(ディヴィナ・アクエ)


「分かったわ!」


フリーシアはさっきよりも多くの氷の槍を空気中に生成する。

ゼンは地面を蹴り、エンティアとの距離を縮める。

ロイスは強化魔法を発動するタイミングを見計らう。


「ふむ・・・。」


エンティアは目を閉じ、少し俯いた。


「──ゼン、君はフリーシアに攻撃する。」


その言葉を聞いた途端、体が止まり、フリーシアに向かって駆ける。


「体が・・・勝手に・・・。」


「ゼン!」


ロイスが咄嗟に叫ぶがゼンは止まらない。


「──そしてフリーシア、君はそのままゼンを攻撃する。」


その言葉をきっかけに、フリーシアが作り出した無数の氷の槍はゼンに向かって放たれる。


「だめ!待って!」


フリーシアは制御しようとするが自分の魔法が言うことを聞かない。

フリーシアは息を呑んだ。

走ってくるゼンにフリーシアの魔法が直撃する。

冷気がゼンの体を覆う。


エンティアは目を開くと感心したように


「ほう、そのような方法で・・・。」


包んでいた冷気は晴れ、そこには水の盾で攻撃を防いだゼンがいた。


「攻撃・・・じゃなくて防御なら命令そのものが意味を持たなくなる・・・。」


ゼンは攻撃の意思を消し、防御するという意思でエンティアが放つ言霊の呪縛を解いた。

無事なゼンを見て、フリーシアはほっと溜息をついく。


2人のやり取りに興味を持ったエンティアの視界にロイスがいなくなっていることに気付かなかった。

瞬時にエンティアの目の前に現れるロイス。


紅蓮の焔閃(フルゴ・ルベル)


手に持つ炎の剣でエンティアへと切りかかる。

エンティアは目の前で起きた光景に口角を上げ、詠唱を始める。


「──その剣は・・・。」


言葉を言い終わる前にロイスの炎の剣が弧を描く。

斜め下から右肩に向かって出来た切り口から炎が吹きあがる。

ロイスは2人の所まで下がり、地面に膝をつく。


「これ以上は・・・強化魔法、無理・・・。」


ロイスは息が上がり、肩で呼吸している。


「はははは!」


エンティアの不気味な高笑いが周囲を埋め尽くす。


「強化魔法ですか。よもや私がここまでやられようとは!」


「──炎よ消えよ」


エンティアの体から噴き出していた炎は跡形もなく消え去った。

フリーシアは咄嗟に魔法を発動した。


氷霊の断界(テルミス・グラキエ)


「──私は凍らない。」


フリーシアの攻撃も虚しく、冷気だけがエンティアを呑み込んだ。

ゼンは片手を上に突きあげ、大気中の水分を集めるように魔力を練り上げる。


「これならどうだ!水神の鉄槌(マレウス・アクエ)


巨大な水の塊が、エンティアの逃げ道を塞ぐように頭上に現れる。


「深度1万mの圧縮された水だ!」


そう言うとゼンは右腕を振り下ろす。

エンティアはその水の塊に手を向け


「──その魔法は発動しない。」


そう唱えた途端、水の塊は宙で爆散した。

ロイスはこの一瞬のスキを見て空へと駆け上る。


攻撃範囲ギリギリ、声の届かない所まで・・・。


「おや、またあのお嬢さんが姿をくらましましたね。次は何を見せてくれるのか・・・。」


エンティアは鋭く唱えた。


「──君たちは絶対に動けない。」


ゼンとフリーシアの体が硬直する。

ロイスは・・・。

エンティアの声が届かない所まで上空に飛び立ったので効果が及ばなかった。

強化魔法で少なくなった魔力を回復する為、亜空間バックから魔力ポーションを取りだし、飲み干す。


「全力最大で・・・。」


ロイスのありったけの魔力が一点に集約されていく・・・。

集中しながら、ロイスはその時に備えた。


ゼンはさっきと同じように動こうとせず、止まるように意志変換を行おうとするが

それでも動けない。


「なっ・・・く!」


「なによ・・・これ・・・。」


フリーシアも何とか呪縛を振りほどこうともがいてみるが意味をなさなかった。

エンティアの右目から一筋の血液が零れ落ちる。

エンティアはその血をぬぐい、無言で手に付いた血を眺める。


「さぁ、君たち、ここからどう戦うのですか?あのお嬢さんの魔力は感じませんね・・・。」


エンティアは顎に手を添えながら2人にゆっくりと近づいて行く。


「まぁ、良いでしょう。さっきも言いましたが私は話すのが好きだ。私を楽しませてくれた褒美としましょう。」


エンティアは2人の間をゆっくりと通り抜けながら続ける。


「私の能力は気づいている通り、言葉を発して事象を書き換えることができる能力。その能力は2段階。」


エンティアは反転し、今度は後ろから二人の間を通り抜けようとした時

ドスッ!と重たい音が響く。

フリーシアの腰からお腹をエンティアの腕が貫通する。

ゼンの目の前でフリーシアはエンティアに刺された。


「ごはっ・・・。」


フリーシアの口から鮮血が吐き出される。


「フリーシ・・・ア・・・。」


ゼンの声がか細くその名前を呼ぶ。

その声はフレーシアには届かなかった。


血の味・・・初めて。

止めようとしても喉の奥からどんどん溢れてくる。

意識が・・・朦朧として・・・。

痛み・・・感じない。

私、こんなところで死んじゃうのかな・・・。

やだよ、おか・・・様。


フリーシアの意識はそこで途絶えた。


くそ・・・。

フリーシアがやられた・・・。


ゼンは動くこともできず、ただただ、フリーシアを見つめるしかなかった。

エンティアは貫通した腕を引き抜くと、そこから大量の血液が滴り始める。

フリーシアの血が付いた腕を眺めながら言葉を続ける。


「2段階目は絶対命令!どんな強靭な人間、魔人でも必ずこの言葉には支配される。」


エンティアは2人の前に立ち、ゼンとフリーシアに視線を移す。


「まぁ、私自身回復できないことと、多少精神的ダメージは在りますがね。」


ゼンは声を振り絞ってエンティアに話しかける。


「くそ・・・。あんた・・・ほんとに喋るの好きだな・・・。」


ゼンの怒り交じりの言葉に、エンティア目閉じ、頭を少し下げる。


「ええ、そうですとも。能力を話したところで所詮・・・私のことは倒せません。」


ゼンはその言葉を聞き、鼻で笑った。


「語るに落ちたな・・・。」


エンティアはその言葉にピクリと反応し、鋭い視線でジンを見据える。


「この状況で・・・今、なんと?」


ゼンは動けないので視線だけを空に移し、ただ一点だけを見続けていた。


「上さ・・・」


ゼンは小さく呟いた。

エンティアはゼンのその視線を追い、空を見上げる。

太陽が真上にあり、あまりの眩しさに手をかざす。


「何も、ないじゃないですか・・・。」


エンティアはゼンに視線を戻す。

その瞬間、


「!?上空から魔力反応?」


エンティアは再び空を向く。

太陽にかぶさって紅蓮色の熱線が視界を覆いつくす。


「ぐあああ!」


ロイスは熱線を放ちながら空から降りてくる。

その距離が縮むにつれ、より熱く、より強くなっていく。


「そういう・・・ことですか・・・。」


やがてエンティアの肉体は焼き尽くされ、跡形もなく消え去った。

残ったのは地面に空いた焼け焦げた穴と、魔晶核だけだった。

エンティアが消失したことで、ゼンとフリーシアの呪縛が解け、体に自由が戻る。

しかし、フリーシアは力なく倒れ込む。


「フリーシア!」


ゼンはフレーシアを受け止め、仰向けにしてそっと地面に横にする。


「くそっ、出血量が多いな・・・。」


ゼンはありったけのフルポーションを取り出し、フレーシア傷口にかける。


「ううっ!」


傷に染みる激痛でフリーシアは悶える。


「すぐ回復させてやる。耐えろ。」


ゼンはフリーシアの傷口にそっと両手を添える。

その手は微かに震えていた。


聖水の癒し(サナティオ・アクラエ)


ゼンの両手が水色に輝き、フリーシアの傷がゆっくりと、塞がっていく。


「ゼ・・・ン・・・。」


フリーシアの意識が戻りかける。


「フリーシア、今はしゃべるな。」


空から戻って来たロイスは2人を見るなり、一目散に駆け寄って来た。


「フリーシア!!」


ロイスはフレーシアの隣で地面に膝をつけてしゃがみ込む。


「フリーシア!」


ロイスは心配そうな表情を浮かべ、フリーシアの傷口を見る。


「ゼン、フリーシアは?」


ゼンは少しの沈黙の後、口を開く。


「俺の回復魔法じゃ完全には・・・。」


「分かったわ・・・。」


ロイスは残りの2本の魔力ポーションを飲み干す。


「ゼン、変わって・・・。」


いつもより真剣な表情のロイス。

ゼンは場所を譲り、二人を見つめる。

ロイスは目を閉じ、集中する・・・。


「フリーシア、絶対助けるから・・・。」


ロイスはフリーシアと2人で王都の下街に出かけたこと、その夜一緒に寝たことを思い出す。


──お姉様


ロイスの周囲の温度がどんどん上昇し、紅色の光に包まれる。


感じる・・・。

フリーシアの魂の波動・・・。


不死鳥の炎環(オルビス・リゼネイト)


周囲の光が強く発光するし、3人は紅色の光に包まれた。

フリーシアの致命傷のはずの穴の開いた傷は、ゆっくりと、確実に治っていった。


「間に・・・あった・・・。」


フリーシアの傷が癒えると、魔力を使い果たしたロイスは気絶し、静かに倒れる。


「ロイス!」


ゼンは倒れかけるロイスを受け止め、そっと地面に横にした。

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