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第29話 忌避される果実

アルカムプルビトゥ

それはマギア体すら修復する神秘の果実。

だが、その実が世に現れるのはまれで、機会は10年に1度在るか無いか。

そして、その力を発揮する時、必ず他の魂が昇天する・・・。


「それってつまり・・・。」


その話を聞いてロイスが息を呑む。


「ああ、誰か、或いはジン自身が死ぬってことだ。」


「そんな・・・。」


ロイスの腕を抱いているフリーシアの力が強くなる。


「正直、俺でも良いと考えてる。俺は歪みそのものだからな。」


ゼンは背もたれに体を預ける。


「それはダメ!貴方だって生きてるんだもん!」


ロイスがそれを否定する。


「それは、その時考えましょ?何か他に手があるかも知れない。」


フリーシアは少し俯く。

沈黙が従車の中に広がる・・・。


──従車を走らせ、4日程経つ。

その間に訪れた村の魔道具屋に顔を出し、アルカムプルトゥが市場に回ってないか訪ねては

首を横に振られた。


夕暮れ──

従車は安全な場所に止まり、ロイスとフリーシアの2人が降りる。


「ここは安全そうね、夕食にしましょう。」


ロイスは手をたたき、薪に火をくべる。

ロイスはせっせと肉の串を作り、スパイスをかけて火にかざす。

その様子フリーシアはを隣で見つめる。

油が滴り、火に落ちるとジュウジュウと音を立てて香ばしい匂いを漂わせる。

ロイスは従車に視線を送る。


「ゼンも、ジン・・・なんだよね・・・。」


ロイスは小さく呟いた。


「フリーシア、焼き加減見てて・・・。」


そう言うとロイスは立ち上がり、従車へと向かった。


「ゼン?貴方も食べないと、体がもたないよ?」


「いや、俺は・・・。」


ロイスは何か言いたげだったゼンの言葉を切るかのように、腕の服を引き、従車から引きずりだす。


「ちょ、ロイス・・・。」


「いーから、ここに座って・・・。ね?」


ゼンはロイスの圧に負けて渋々、焚火の前に腰掛けた。


「それでよろしい。」


ロイスは機嫌を取り戻し、ゼンに笑顔を向けた。

そんなロイスを見たゼンは戸惑い、視線を逸らす。


「さ、焼けたわよ。」


そう言うとフリーシアは串をゼンに突き出す。


「あ、ああ・・・。」


ゼンは戸惑いながらその串を右手で受け取ると、一口かじった。

ゼンの目が僅かに開かれ、かむ動きが止まった。

しかし、すぐに何事もなかったように食べ始める。


「あれは美味しいってことかな?」


それを見たロイスはこっそりフリーシアに耳打ちした。


「そうかも。」


フリーシアはロイスに耳打ちで返した。

ロイスとフリーシアは顔を見合わせ、微笑んだ。

ふと、ロイスはゼンの方を見るとどこか違和感を覚えた。

口を尖らせ、人差し指を唇の下に当てて考える。


「お姉様、どうしたの?」


「ん~・・・。ゼンの食べる姿みてなんかしっくりこなくて・・・。食べ方?・・・違うかな。」


フリーシアもゼンを見て首を傾げる。


「な、なんだよ、普通に食べてるだけだぜ?」


ロイスの表情がぱっと明るくなった。


「そうか!ゼンは右利きなんだね!」


ゼンは右手に串を持って食べている。


「ジンは左利きなの!」


フリーシアもゼンが右手で食べているのを見て思い出す。


「そう言えばそうだったわね。」


そんな会話をしながら3人は串を食べていたが、フリーシアがふと、疑問を投げかける。


「そう言えば、ゼンって何でそんなに物知りなの?」


フリーシアの問いに、ゼンは食べている串を下ろし、答える。


「ここに渡って来た時、この世界の情報が頭の中に入って来たんだ・・・。」


ゼンは焚火を見つめながら続ける。


「俺はどうやらこっちの世界で産まれるはずだった魂らしい・・・。」


焚火がパチパチと弾ける。

誰もすぐに言葉を返せなかった。


「そう、だったの・・・。」


フリーシアは少し俯き。小さく呟いた。


「なぜ、ジンの中に産まれたのかは分からない。ただ、王都に行った時、知らない場所なのに懐かしい・・・いや、違うな。上手く言えないが・・・。」


王都・・・。

ロイスは王都に足を踏み入れた時、ジンが苦しみ、ジンとは違う、もう一つの魂の波動を感じたのを思い出す。


「そうだったんだ。なぜ、ジンの中だったのか・・・この先でいつか答えが見つかるといいね。」


ロイスはゼンににっこりと笑いかける。

その言葉にゼンは目を大きくし、その視線を避ける。


「ああ・・・。・・・それと。」


ゼンは焚火に視線を向け、見つめながら続ける。


「魔獣や魔人の情報はあいまいだった。100年ほど前から出現が始まったこと。魔獣は見分けるには2人は知ってると思うが、魔人は人型が一般的だということと、使う魔法は個々によって違う事・・・それぐらいだ。」


ゼンはそう言うと串を食べだす。


「アルヴォル・クリフォティカのことは?」


フリーシアの質問に、ゼンは首を横に振る。

沈黙が訪れ、パチパチと当たりを橙色に照らす焚火の音だけが3人を包む。


──翌日

3人は従車を走らせ、最南端のルミリア・ルネートへと船を出せる漁港都市に向かっていた。

そこからは2日ほどで到着することができた。


潮風の街、フラトスへと足を踏み入れる。

石畳で舗装された道路に石材の家や木材の家が折り重なるように立ち並ぶ。

その街を通る風は磯の香りと魚の匂いが混ざっている。

活気溢れる露店には見たことのない新鮮な魚や海藻、貝などが売られている。


「お姉様!初めて来たわ。磯の香りが良い匂い・・・。」


「私も初めてだよ。」


フリーシア初めての街にはしゃいでいた。


ゼンたちは従車を預けれる店を聞き込み、従車を預ける。


「まずは魔道具屋に行こう。念の為にポーションを買っておきたい。」


ゼンは従車宿の店主に魔道具店の場所を聞き、3人はそこに向かう。


魔法具店の扉がギィィ・・・と音を立てて開かれる。

広い店の壁には様々な魔法具が置かれ、中央のテーブルには何種類ものポーションが並んでいた。

奥のカウンターには白髪の老婆が椅子に腰かけていた。


「いらっしゃい・・・。」


老婆は3人を見つめる。


「探し物かい?」


そう言うと立ち上がり、3人のそばまで歩いて来た。


「ああ、ポーションと・・・亜空間バックを3つだ。」


「おお、亜空間バックがお目当てかい。ちょっと待っておれ。」


老婆はそう言うとカウンターのさらに奥へと姿を消した。


「凄いわね・・・。」


ロイスとフリーシアは物珍しそうに壁の魔道具を物色している。

ゼンはフルポーションと魔力ポーションを15本ずつ並べて店主を待つ。


「ねえ、ゼン?亜空間バックって何?」


ロイスが初めて聞くバックに興味があるようだ。


「亜空間バックは見た目の容量より遥かに物を入れれるバックだ。例えば、ポーチ程の大きさでも、従車1台分の荷物は余裕で収まる。重さも形も変わらない。」


「えっ!そんなに入るんだ!」


想像以上の容量にロイスは愕然とした。


「そして・・・風属性の、しかもほんの僅かな数の人にしか作れない代物だ。」


ロイスはゼンの話に感心していた。

その時、店主が奥から姿を現した。


「待たせたのう、うちにあるのはこれが一番大きい。」


カウンターに出されたのは小さいものからポーチ程の大きさのものが並んだ。


「じゃあ、これを3つで。」


ゼンは即決でポーチ程の亜空間バックを指さした。


「3つで30万リルだ。」


「さ、30万!?」


ロイスはその値段に目を丸くして驚く。


「本来ならもっと高いんじゃが、ずっと奥で眠っとるより、誰かに使って貰った方が道具も幸せじゃろう・・・。」


ゼンは硬貨の入った袋を手テーブルに出す。

このお金は王都を旅立つ日、


「──ジン、旅にはお金も必要です。持って行きなさい。」


そう言われ、受け取った硬貨だった。


「ゼン、このお金・・・。」


「カサリスとアリシアから受け取ったお金だ。50万リルある。」


ゼンはそう言うと、30万リル分を取り出し、店主に渡す。


「まいど・・・。」


「ところで聞きたいことがあるんだ。」


ゼンは亜空間ポーチをロイスとフリーシアに渡しながら店主に質問する。


「アルカムプルビトゥは・・・取り扱ってないか?」


店主はその名前を聞き、目を見開く。


「お前さん・・・。なぜその名前を・・・?」


店主は俯き言葉を続ける。


「いや、忌避される果実はもうずっと扱っておらんよ。」


「わかった。」


そう、言葉を残すとゼンたちは魔道具屋を後にした。


「アルカムプルビトゥ・・・。ずいぶん久しい名前じゃの・・・。」


店主はゼンたちが出て行った扉を見つめる。


「あれを追うものは例外なく、厄災に見舞われる・・・。」


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