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第28話 人の姿をした魔人

──翌朝

朝日の柔らかい日差しを受けて、城の庭に広がる芝は1面露を纏い、無数の小さな宝石のように煌めいていた。

ジンは荷物を従車に積み込み、ロイスは従魔や装具の確認をしている。

出発の準備が整った頃、


「準備は出来ましたか?」


アスタリア女王とランズが見送りに来てくれた。

アスタリアの隣にフリーシアもいる。


「はい。」


ジンとロイスはアスタリアの前に立つと、フリーシアがロイスの隣に移動する。


「この先、困難にぶつかることもあるかも知れません。」


アスタリアは一度言葉を区切り、3人の顔を見つめる。


「3人で乗り越え、無事に帰って来ること。・・・よろしいかしら?」


「はい!」


3人は息ぴったりに同時に答えた。


「3人の顔を良く見せて頂戴・・・。」


そう言うとアスタリアはロイスの前に立ち、そっと両手をロイスの頬に触れる。


「貴方のお陰でフリーシアは戻ってきました。本当に感謝しています。」


「私は・・・。私のやりたいようにしただけです。」


ロイスはそう言うとアスタリアに笑顔を向けた。

アスタリアは頷くと、次はジンの前にたち、同じように両手を頬に当てる。


「貴方を見ていると懐かしい顔を思い出す・・・。」


アスタリアは目を伏せ、すぐにジンに視線を向ける。


「この世界を救ってください。」


ジンは父さんのことだろうか、と考えたが・・・。

この世界を救う・・・最も過酷な運命を受け入れるかのように真剣な眼差しで、迷いなく答えた。


「はい!」


アスタリアは頷き、最後にフリーシアの前に立ち、両手を頬に当てる。


「フリーシア、この旅は貴方が世界を知るきっかけにもなるでしょう。力を合わせて、無事で帰って来なさい。」


「お母様・・・。」


フリーシアの瞳が潤んだが、ぐっと堪えた。


「お母様、行ってきます。」


3人は従車に乗り込み、城を後にした。

朝日に照らされた庭園の輝きは、いつまでも彼らの背を見送るように揺れていた。

王都を抜けた時、ジンはふと胸に手を当てる。


「どうしたの?」


その様子を見て不思議そうにロイスが尋ねる。


「いや、王都に来てからあった、胸の奥の違和感が消えたんだ・・・。」


「あの時の・・・。」


ロイスは王都に入った時、ジンが胸を押さえて苦しんでいたのを思い出した。


「でも、無くなったのならよかった。」


ロイスは柔らかく微笑んだ。


「そう・・・。だね。」


気にするのはやめよう・・・。

ジンは窓の外を眺める。


「ねぇ、ジン。旅立ったのは良いんだけど、目的地ってどこなの?」


フリーシアは何処に向かうのかを聞いていなかった。


「そっか、フリーシアにはどこに向かうか言ってなかったね。」


ロイスが優しくフォローする。

ジンは1枚の地図を取り出す。


「目的地・・・と言うより、カサリスが言うには北側が酷いらしいんだ。だからとにかく、北を目指してる。情報はそれぐらいで、後はこの前戦った魔人が言ってた・・・。」


「アルヴォル・クリフォティカ・・・ね。」


フリーシアが食い気味に答える。

ジンは深く頷く。


「相手の情報が少なすぎるから、通りの村や町で聞き込みながら集めるしかないのか・・・。」


ロイスは口を尖らせ、人差し指を唇の下に当てる。


「そうだね。」


「でも・・・。お姉様がいるから大丈夫よ!」


フリーシアはそう言うとロイスの腕を抱き込み、身を預ける。


「フリーシア!?」


ロイスはフリーシアに驚き、ジンの方を見て頬を薄くピンク色に染めた。


「昨日も一緒に寝てたみたいだけど・・・。いつの間にそんなに仲良くなってたの?」


ジンは2人を見て少し呆れた顔をしていた。


「いつからも何も、最初からよ。」


フリーシアの言葉が冷たくジンに刺さる。

その時だった。

従車は大きく揺れ、停止する。

従魔は低く警戒するかのように吠える。


「──魔人だ。」


頭の中にゼンの声が響く。


「魔人だって!?」


ジンの言葉にロイスとフリーシアが驚く。


「魔人!?」


3人は従車から降り、辺りを警戒する。

左側の草むらがガサガサと動き出した。

そこから出てきたのは・・・。

男の子と、その父親であろう人が出てきた。

その二人の目には、光が宿っていなかった。

ジンは警戒を解き、二人に近づいた。


「──ばか!近づくな!」


魔人だなんて・・・ただの人間じゃないか。


「こんなところでどうされたんですか?」


「道に迷ってしまって・・・。」


従車の反対から出てきたフリーシアがその3人を目にする。


「ジン!ダメ!」


鋭いフリーシアの声に反応し、ジンは半身でフリーシアの方を見る。

その瞬間、父親の口角が上がった。

──切られた

だが、痛みは無い。

でも確かに切られたというその感覚だけが、ジンの中に残った。


「え・・・?」


ジンは親子の方に視線を向ける。

父親の手には白い魔法で作られた剣を握り、振り切った後だった。

白い剣が霧散していく。

ジンは自分の体が切られてないことを確認するが、感覚だけが気持ち悪く残る。

ジンは力が抜け、膝から倒れ込み、両手を地面につける。


「はっ、はっ、はっ・・・。」


ジンの呼吸が荒くなる。

力が入らない、それに魔法も使えない・・・。

ロイスがフリーシアの声を聞き、従車の反対側から姿を現し、ジンの姿を見て息を呑む。


「はっはっ!騙されてくれたな人間!!」


彼らは・・・人型の魔人だった。


「ジン!」


ロイスが駆けつけようとした時・・・。

ジンの荒い呼吸は止まり、不気味なほどの静けさを纏っていた。


水神の剣(ディヴィナ・アクエ)


ジンが立ち上がり、振られたその右手には・・・水属性の魔力武器化(アルマニティ)された剣を持っていた。

その剣は2人の魔人を一度に両断する。


「そんな・・・魔法は使えんは・・・ず・・・。」


2体の魔人は黒い塵と化し宙へと消えていき、魔結晶を残した。


「水属性!?」


フリーシアはジンの使った魔力武器化(アルマニティ)を見て驚きの表情を隠せずにいた。

ロイスは息を呑む。


「あれが・・・。もう一人のジン・・・?」


頭では理解していてる。

でも・・・。

ロイスは胸の奥がざわつく。

ジンじゃない誰かに、ジンの体を預けているような・・・。

そんな不安が、胸を締め付けていた。

ロイスは一歩踏みかけた足を止めた。

その気配は、あの時感じたジンのもう一つの魂の波動・・・。

だが今目の前にいるそれは、知っているはずのジンとは、明らかに違っていた。


ゼンは剣を払うと水の剣は霧散する。

振り返り、ロイスとフリーシアを見る。

その瞳には深い青色の光が宿っていた。


「だから言っただろ。」


ゼンの声は静かだった。

だが、その奥に、僅かな苛立ちが滲んでいる。

ゼンは大きく溜息をつく。


「ロイス、フリーシア、従車に乗ってくれ。出すぞ。」


そう言うとゼンは1人、先に従車に乗り込んだ。

2人は慌てて従車に乗り込む。

従魔は低く唸り、力強く地面を蹴った。


従車の中、ゼンは地図を広げる。


「貴方、ジンじゃないわね?」


フリーシアは冷たい視線をゼンに向ける。


「説明は後だ。目的地を変更する。」


「変更って貴方・・・。」


ロイスがフリーシアの手を引く。

フリーシアがロイスに視線を向けると、ロイスは首を横に振った。


「お姉様・・・。」


ロイスはフリーシアの腕を引っ張り、座席に座らせる。


「彼は・・・ゼン。ジンのもう一つの魂の人格なの。私も今日、初めて会った。」


ロイスの不安そうな顔を見たフリーシアは言葉を呑み込んだ。


「ああ。そうだ。」


ゼンは2人に視線を向けず、答える。


「でも、目的地変更ってどういうつもり?」


フリーシアはゼンに質問を投げかける。


「ジンの、あいつのマギア体が切られた。」


「マギア体が切られる!?」


2人は同時に息を呑んだ。


「そうだ。マギア体が傷つくと魔法が使えなくなる。」


「そんなことが・・・。」


ロイスとフリーシアは顔を見合わせる。


「魔人は、俺たち人類と違い、独自で魔法を開発する。それが今回じゃマギア体を切る魔法だった。」


ゼンは静かに続ける。


「マギア体が傷ついたせいで、ジンとの入れ替わりもできなくなった。」


「回復魔法で治せないの?」


ロイスはフリーシアを掴んだ手に力が入る。


「回復魔法は肉体にのみ、効果を発揮する。俺も試してはいるが今はできない。」


ロイスはその言葉を聞き、俯く。


「あるいは、ロイスの不死鳥の炎環(オルビス・リゼネイト)なら治るかも知れないが・・・。多分無理だろう。」


そう言うとゼンはロイスに視線を移す。


「試してみる価値があるのね・・・。」


ロイスは立ち上がり、ゼンの肩に両手を乗せる。

目を閉じ・・・集中する。


「・・・あれ?できない・・・。ジンじゃなく、今いるのがゼンだから?それとも傷として認識できてない・・・?」


ロイスは座席にドッと座り、俯く。


「お姉様・・・。」


フリーシアは心配そうに、ロイスの腕を優しく抱いた。


「やっぱりだめか・・・。だが、方法は無いこともない。ここ、地図の最南端、ルミリア・ルネートにある1つの果実、アルカムプルビトゥだ。」


「最南端のルミリア・ルネート・・・。」


ロイスとフリーシアはゼンの指した地図の小さな島をみる。


ジンを・・・助けなきゃ。

ロイスはそっと拳を握る。

その隣でフリーシアもまた、静かに頷いていた。

従車は新たな目的地へと走り出す。

その選択が更なる絶望へ繋がるとも知らずに──

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