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第26話 凍絶の魔女とお姉様

翌日、ロイスはベッドから起き上がり、着替えをしていた。

コンッ、コンッ、コンッと軽やかなノックが響く。


「お姉様!」


勢いよくドアが開き、フリーシアが飛び込んできた。


「ねぇ、お姉様。下街に出かけましょう。」


「フ、フリーシア、お姉様ってちょっとこそばゆいからやめてくれない?」


ロイスは服を着ながら頬を赤く染めている。


「いやだ、だってお姉様はお姉様だから。」


フリーシアは後ろに手を組み、そっぽ向く。


「ん~・・・分かったわ・・・。」


ロイスは頬を赤らめたまま、少し困り笑顔でフリーシアを受け入れた。


「お姉様!!」


フリーシアは喜びのあまり、ロイスに抱き着く。


「ちょっ、フリーシア!?まだ着替えてるから・・・。」


フリーシアはあの事件以来、長い間人とは関わりを避けてきた。

その反動か、今はロイスに甘えることを止められなくなっている。


「でも、フリーシアが街に出たら色々と大変なことにならない?」


「大丈夫!このマントがあれば私だってバレないから。」


どこから取り出したのかフリーシアはマントを広げた。


「このマントには認識阻害の魔法陣が編み込まれてるの。」


フリーシアは自慢げにマントを被る。


「ほんとだ、フリーシアなのに、誰だか分からないね。」


「でしょ?これがあれば大丈夫。」


フリーシアは片足で1回転、回って見せた。


「そうだ、ジンも誘ってみようかな。」


ロイスの顔がぱっと明るくなった。

それを見たフリーシアの表情がほんの僅かに曇った。


「・・・お姉様が言うなら・・・仕方ないわね。」


ジンの部屋のドアがノックされる。


「はーい。」


ドアを開けると、そこにはロイスが立っていた。


「ロイス!おはよう。」


「ジン、おはよう。実はこれからフリーシアと下町に行くんだけどジンも行かない?」


ロイスの誘いに返答しようとした時だった。

ロイスの後ろからフリーシアがとても不機嫌そうにジト目でジンを見つめてきた。


「ぼ、僕はやめておくよ。・・・二人で楽しんできな。」


ジンは慌てて2人から視線をそらし、頭をかいた。


「そう・・・。」


ロイスは少し落ち込んだ様子に変わる。

それを見たジンは咄嗟に付け加える。


「また次の機会で一緒に行こう。」


「うん!分かった!」


ロイスはその言葉でぱっと明るくなった。


それに、この二人なら大丈夫だろう。

喧嘩を売る方がかわいそうなくらいだ。

ジンは2人が魔法で相手を一方的に圧倒する光景が浮かび、思わず笑ってしまった。


「今の笑い方、何か嫌・・・。」


フリーシアはジト目でジンを見続ける。


「そ・・・そんなことないよ。」


ジンは焦って視線を逸らす。


「そ、ならいいわ。さ、お姉様いきましょ。」


フリーシアはロイスの腕に抱き着きロイスに笑いかける。


「気を付けてね。」


ジンはそう言い、二人を見送る。

廊下の向こうへ消えていく二人の背中を、どこか微笑ましく思いながら。

2人の姿が見えなくなると、ジンは静かにドアを閉めた。


──下街の露店通り

行きかう人でごった返し、あちこちから呼び込みの声が飛び交う。

露店には客が群がり、笑いと喧騒が絶えない。

店からは香ばしい匂いが立ち昇り、食欲を刺激した。


「わぁ、初めて来たわ。」


色々な店をフリーシアは目を輝かせながら見渡している。


「私が住んでたところより人が多い・・・。」


ロイスもグルナーレより規模が大きく、知らない店などを見て感心している。


「お姉様!食べ物があるわ!」


そう言うとその店に颯爽とかけって行くフリーシア。


「ちょっと待って!」


ロイスはその後を追うように走る。


「この肉の串を2本下さい。」


「あいよ。」


露店の店主は肉串を焼き始める。

その匂いがたまらなく美味しそうにジュウジュウと焼けていく。


「へい、お待ちどう。2本で1000リルだ。」


「えっ・・・。お金、かかるの!?」


フリーシアは慌ててポケットを探す。


「なんだい嬢ちゃん、一文無しか?」


慌てるフリーシアの横で、ロイスはそっと硬貨を差し出した。


「はい、1000リルです・・・。」


その様子を見て、フリーシアはきょとんと目を瞬かせる。


「・・・お姉様、ありがとう。」


ロイスはフリーシアに笑いかける。


「行こうか。」


2人は露店を見回しながら歩く。


「これ・・・お姉様の分。」


フリーシアは恥ずかしそうに肉串をロイスに差し出す。


「ありがとう。」


ロイスはフリーシアに笑いかけ、受け取る。

フリーシアが一口かじると


「おいしい!!」


フリーシアの顔がぱっと明るくなる。

とご機嫌に串を食べる。

フリーシアの無邪気な横顔を見ながら、ロイスはくすっと笑った。

フリーシアってこんなに無邪気笑うんだ・・・。

そう考えながらロイスはフリーシアを見つめる。

それに気づいたフリーシアは頬を赤くし、視線を逸らす。


「は、初めてだから・・・仕方ないでしょ・・・。」


「そうだったね。」


ロイスはニコニコしながら串をかじる。


「うん、美味しい!」


「でしょ!?」


フリーシアはロイスの言葉に、どこか満足げな顔をしている。

露店を歩いていると、フリーシアがスイーツの店を見つけた。


「お姉様、次はあそこに行きたい!」


そう言い残すとフリーシアまた颯爽と店の中に消えて行った。

ロイスは困った顔をしたがその中に笑顔も混ざっていた。

店の中は人がたくさんいて、甘い匂いが立ち込めている。

2人は奥の開いている席に座った。


「いらっしゃいませ。こちらのメニューからお選び下さい。」


と従業員のお姉さんが優しく接客してくれた。

2人は、アイスクリームを注文すると、すぐに出てきた。

フリーシアはアイスクリームを一口・・・。


「ん~・・・冷たくて、甘い・・・。」


そう言いながら頬に手を当てる。

アイスを食べ終わった2人は店から出て、再び露店を回った。

フリーシアの腕の中にはいくつもの食べ物が抱えられていた。

2人は楽しそうに会話しながら歩く。

気づけば人通りは減り、細い路地へと入り込んでいた。


「おいおい、こんなところにかわいい子が2人か?」


後ろからの声にロイスとフリーシアは振り向く。

そこに街のチンピラが4人立っていた。


「ここはお前たちみたいなかわいいガキが来ていいところじゃないぜ?」


更に前から声が聞こえる。


挟まれた・・・。


チンピラたちが前後からじりじりと距離を詰めてくる。

2人は背中合わせになってどう乗り切ろうか考えていた。


「あなた達、誰に手を出そうとしているのかわかってるの!?」


フリーシアがチンピラたちに魔法を使おうとした。


「フリーシア!!」


ロイスがフリーシアを止める。


「お姉様っ。」


フリーシアの視線がロイスに向かう。

ロイスは首を横に振った。


「フリーシア?あの凍絶の魔女か!?」


「凍絶の・・・魔女?」


ロイスはチンピラからフリーシアに視線を移す。


「あの王女様なら城に引きこもっててこんなところには来やしねぇさ。」


フリーシアが下唇を強く噛み、鮮血が滴る。

僅かだが呼吸が乱れる。


「ええ、そうよ。私がフリーシア・エル・イリシアよ。」


そう言うとフリーシアは認識阻害のマントを脱ぎ棄てた。


周囲の空気が冷たくなる。

チンピラたちの顔が徐々に青ざめていく・・・。


「薄い水色に銀が溶け込むような髪、白に溶け込むような淡いピンクの瞳・・・。まさか・・・。」


「そうよ。私が凍絶の魔女、フリーシアよ」


フリーシアの眉が険しくなり、鋭く冷たい眼光を飛ばす。


「や、やべぇ!ずらかるぞ!!」


そう言うとチンピラ達は2人の前から姿を消した。

フリーシアは俯き、その瞳が陰る。


「フリーシア・・・。」


ロイスは無意識にフリーシアを抱いた。


「あなたはもう、魔女なんかじゃないよ。大丈夫。ジンやアスタリア女王、それに・・・。」


ロイスはフリーシアに顔を埋めて頭をそっと優しく撫でる。


「違うって、私も知ってるから。」


「お姉様・・・。」


お姉様はまた、こんなふうに・・・。

フリーシアは目を閉じ、小さく笑いながらロイスを強く抱きしめ返した。


「・・・行こっか。」


「え・・・?」


ロイスはフリーシアの手を取る。


「まだ見てないお店、いっぱいあるでしょ?」


そう言うとロイスは優しく笑った。

ロイスに引かれてついて行くフリーシアのその瞳にはもう、影は無かった。

2人は再び、活気ある露店通りに姿を消していった。

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― 新着の感想 ―
ジン君は空気の読める男なんですね!見習わなくては(笑)ロイスに懐いているフリーシアも可愛いし、魅力的なキャラが多いですよね。
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