第25話 残り9体のクリフォティカ
──城内、魔導評議室には重たい空気が流れていた。
円卓を囲むように座っているのは、この国の中枢に位置する者たちだった。
中央に座るのは女王であるアスタリア。
その左右には魔導部隊隊長、そして魔導研究員の解析官が控えている。
その対面にジン、ロイス、フリーシアの3人だった。
総勢6名。
静寂の中魔導部隊の隊長が、被害報告を読み上げていた。
「報告いたします。対象個体と魔獣は討伐完了。周囲被害は甚大であるものの、フリーシア様及び同行者の迅速な対応により、都市部への拡大は回避されました。ただし・・・。対象の個体は通常の魔人と異なります。」
「異なるとはどう言う意味かしら?」
アスタリアは静かに質問した。
「魔法を模倣し、戦闘中に学習する個体です。さらに、こちらの攻撃を受けた後、その構造を記録している様子が確認されています。」
隊長が話を切り、ジンに目配せする。
それに気づき、ジンは口を開く。
「実際に見ました・・・。僕の雷の剣を見た瞬間、剣を同じ形に再現してました。しかも・・・。ただの模倣じゃない。さらに洗練された形で・・・。新しい魔法を使う度、一度硬直して額の核が鈍く輝いていました。」
「さらに洗練された・・・。」
アスタリアは小さく呟く。
「同じ魔法でも、こう・・・ぐわーっと・・・いえ・・・。」
ロイスは言葉を選んで話そうとしている。
「例えるなら、相手の方が完成形みたいな魔法でした。」
ロイスは自分の魔法が通じなかったことを悔しそうに小さく拳を握る。
「通常の魔人も魔法は使いますが、その範疇ではありません。それに、姿、形が異彩でした。都市戦闘に移行した場合、被害は制御不能になります。」
3人の話に興味を持った解析官が静かに口を開く。
「興味深いですね・・・。これは模倣ではなく、戦闘データの保存と再構築。言うなれば・・・そうですね、記録する魔術構造体、ですかね。」
解析官の言葉を聞き、アスタリアは眉をひそめる。
「記録する魔人・・・と言うこと、かしら。」
解析官はアスタリアの方を見て、深く頷く。
「現時点では、その表現が最も適切かと・・・。」
アスタリアは目を閉じ、俯く。
「そうですか・・・。」
そして・・・静かに言った。
「国家案件として扱います。」
そう言うとジンに視線を向ける。
「ジン、その核は王都魔導研究所で管理します。」
ジンは魔晶核をポケットから取り出し、それを見つめる。
アスタリアの言葉を聞き、解析官が立ち上がる。
「それじゃぁ、僕が預かるよ。」
そう言うと解析官は手を出した。
ジンは魔晶核を見つめ、解析官に渡す
彼は底と蓋に魔法陣が刻まれた瓶を取り出し、魔晶核を入れる。
ジンは気まずそうに声を漏らす。
「あの・・・。実はそれに触れた時、声を聞いた気がするんです。でも言葉になってなくて・・・。」
解析官はジンを見下ろし、顎に手を当てる。
「うーん、それは興味深いですね・・・。」
彼は小さく、口角をあげた。
「では会議を終わると致します。引き続き、街と結界の復旧と核の解析、お願いするわ。」
会議は終わりに近づいていく。
しかし、封印の瓶に入れられ、解析官のポケットに仕舞われた魔晶核は、薄っすらと明滅した・・・。
魔導部隊隊長と解析官が退席し、アスタリアと4人が残された。
「フリーシア、ジン、ロイス。よくこの王都を守ってくれたわ。それに・・・。」
アスタリアはフリーシアの方に歩みより視線を落とし、見つめる。
かつてのフリーシアは誰に対しても1戦を引くような冷たい視線をしていた。
必要以上に他者へ近づかず、感情を奥に押し込めるような閉じた瞳。
それが今や、ジンやロイスの言葉に反応し、僅かに眉を動かし、時折僅かに視線が揺れる・・・。
「お母様?」
見つめるアスタリアにフリーシアは首を傾げる。
アスタリアの瞳から一筋の涙が流れ落ちる。
あの事件以降、ずっと凍りついていたものが、ゆっくりと形を取り戻していく感覚。
フリーシアの瞳は暗く閉ざしたはずの、その白に溶け込むように淡いピンクの瞳の奥に、光が確かに戻ってきている。
「戻って・・・来たのね。」
アスタリアは喉を詰まらせながら、かすれた声で小さく零した。
フリーシアはハッと驚くと、
「お母様!!」
そう叫ぶとフリーシアはアスタリアに強く抱き着いた。
アスタリアも強く、しかし優しくフリーシアを包み込む。
「良かった・・・本当に・・・。」
アスタリアは優しくフリーシアの頭を撫でる。
「お母ぁ様ぁぁー」
フリーシアは声を上げて泣いた。
長い時間、彼女はずっとこうしたかったかのように・・・。
しばらくの間、二人に言葉は無かった。
ただ、互いの体温だけがそこにはあった。
その様子を、ジンとロイスは静かに見守っていた。
「・・・さぁ、フリーシア、顔を上げて。」
「はい、お母様。」
フリーシアはまだ少し、嗚咽しながらアスタリアから離れる。
アスタリアの視線はジンとロイスに向けられた。
そこには、安堵の表情が浮かんでいた。
「ジン、ロイス・・・。今回は本当に助かったわ。」
「いえ、当然のことをしただけです。」
ジンは首を横に振る。
「フリーシアが無事でよかったです。」
アスタリアはジンとロイスの顔を交互に見ながら
「ありがとう・・・。」
アスタリアは小さく頷き、扉へと歩き出した。
「2人の、部屋・・・。案内、するわね。」
フリーシアは涙を拭きながら震える声で言った。
3人は魔導評議室を後にする。
ジンとロイスは、フリーシアに案内され、ジンの部屋でくつろぐ。
「あの魔人・・・すごく強かった・・・。」
ロイスは紅茶を飲みながら言う。
「確かに。でも・・・何とかスキを見つけれて良かったよ。」
ジンはお菓子に手を伸ばしながら答える。
「そう言えば・・・ジンは後から来たから知らないと思うけど、あの魔人|アルヴォル・クリフォティカ第4層のリコルディアって名乗ってた。」
フリーシアは2人の前でまた泣いたことが恥ずかしいのか、頬を赤らめ、俯いている。
「第4層・・・?」
「ええ・・・。」
ジンは顎に手を当て、考え込む。
「数字が入ってる・・・。」
「数字?」
「うん、僕がいた世界は数字も読み方がいくつかあって・・・。」
ジンは紙をとペンを探して書き出した。
「向こうの世界では1~10をこう書くんだ。そして今回の魔人、フォースは4番に当たる。だから・・・。」
「あと何体か、今回のような魔人が存在する・・・と言う事ね。」
フリーシアはジンの書いた紙からジンへと視線を移す。
「・・・そう。でも・・・。」
ジンは言葉を切り、考える。
「インバース・・・。逆転・・・?数字に逆転、それにクリフォティカ・・・。」
「何か閃いたの?」
フリーシアが食い気味に質問する。
「昔、オカルト・・・つまり悪魔とか天使が好きで色々調べてて数字と逆転に思い当たる節があるんだ。確定では無いけど・・・。」
ジンは紙にクリフォトの樹を書いた。
「なぁにこれ。見たことない。」
ロイスが絵を見て首を傾げる。
「クリフォト・・・。これは生命の樹の対となる歪んだ領域の名。それぞれの丸い所が階層と呼ばれ、数字が振られてる。」
「つまり、敵の数が見えてくるってこと?」
ジンはフリーシアに視線を向け、頷き、クリフォトの樹に数字を記していった。
この数字を見たロイスが呟く。
「残りのアルヴォル・クリフォティカは全部で9体・・・。」
ロイスはジンに視線を送る。
ジンは頷く。
「推測が正しければだけどね。」
3人はジンの書いたクリフォトの樹を見つめる。
「あんな魔人が・・・あと9体・・・。」
ロイスが小さく呟く。
「これ、本当に魔人なの?」
フリーシアの言葉で3人の空気は一気に重くなった──
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