第24話 記録する魔人 リコルディア
「そんな炎、消して見せるわ。ついでに貴方も凍ってしまいなさい!」
「氷霊の断界」
フリーシアは左から右へと腕を滑らせる。
「既に記録済み・・・。」
リコルディアはフリーシアの真似をし、小操作で同じ軌道をなぞる。
「なっ・・・。」
それを見たフリーシアは目を見開く。
冷たい冷気同士がぶつかり、そこに氷の壁を生成される。
拮抗している・・・はずだった。
押されたのはフリーシア側だ。
氷壁が音を立てて軋む
ミシ・・・ミシミシッ!
その亀裂は外側からではない。
内側から侵食されていくように広がっていく。
「うそ・・・!?」
耐えきれず壁ごと押しつぶされるようにフリーシア側の氷壁は砕け散った。
「同じはずなのに、どうして・・・!?」
フリーシアが驚いていると、氷の上から火球が降り注ぐ。
パキンッ!
乾いた音と同調するように冷気が周囲に広がる。
「氷姫の凍絶」
フリーシアだけの時間が凍結される・・・。
リコルディアの炎にフリーシアは包まれる。
「フリーシア!!」
ロイスは駆け寄り、炎を振り払う。
フリーシアは服に傷1つ、塵ひとつ付けずに立っていた。
「お姉様、大丈夫よ。」
氷の壁が崩れ落ちる。
リコルディアはもう一度炎の球を空中に作り出す。
それを見たロイスは、同じように、同じ数を作り出す。
「打ち消す・・・!」
同時に放たれる炎。
空中でぶつかり合い、爆ぜる・・・はずだった。
しかし、ロイスの炎がまるで押しつぶされるように歪んだ。
「そんなっ!!」
同じ魔法のはずなのに・・・。
圧倒的に質が違う。
リコルディアの炎は、異様な程揺らぎがない。
無駄が削ぎ落とされた、洗練された最適解の炎だった。
押し負けた炎は弾け、残った火球がロイスへと襲い掛かる。
「何で・・・火力が、違うの・・・。」
ロイスはリコルディアの火球を浴びる。
この炎・・・熱い・・・。
ロイスは膝をつき・・・倒れる。
「まさか、私たちのコピーした魔法をより洗練した形で!?」
フリーシアは冷静に相手の能力を分析していた。
リコルディアは右手に炎の剣、左手に氷の剣を魔力武器化する。
その形はロイスとフリーシアが使う形そのままの剣だった。
リコルディアは踏み込み、瞬時に2人との距離を詰める。
フリーシアは倒れ込むロイスに視線を移す。
── あなたが大切なものを凍らせてしまったら、私が溶かしてあげる・・・。
あの時そう言って優しく抱きしめて、温もりを思い出させてくれた人・・・。
その温もりを、失いたくない・・・!
「お姉さまには触れさせない!」
その瞬間──
フリーシアの体は考えるより先に動いていた。
ロイスの前へ滑り込むように踏み出す。
リコルディアの炎の剣が振りかざされる。
「フリー・・・シア!?」
ロイスの発した声は今までに無いほど震えていた。
フリーシアはロイスを強く抱き込む。
逃がさないように、守りきるように。
フリーシアは覚悟を決めて目を閉じる。
その時・・・。
ガキン!という快音と共に衝撃が走る。
リコルディアは後ろへ跳ねた。
「遅れて悪い・・・。」
ジンが避難場所からようやく帰って来た。
その手には雷の剣が握られている。
突然、ずしんとのしかかるリコルディアの魔力。
「何だ・・・この魔力・・・。これが魔人・・・?」
ジンはそのプレッシャーに気おされる。
「新規対象、確認。」
リコルディアが両手に持っていた剣は霧散し、代わりに額の魔晶核が鈍く光を発した。
「・・・記録した。」
今度はリコルディアはジンの雷の剣を魔力武器化する。
「どうなってるんだ?あれは僕の・・・。」
「あいつ、私たちの魔法をコピーするの。しかもより、洗練されて・・・。」
フリーシアはなんとか声を出してリコルディアの能力をジンに説明する。
「そういう事か・・・。」
リコルディアは左手で空を払う。
「ジン!下がって!!」
フリーシアは同じ魔法でリコルディアの氷の奔流を逸らす。
リコルディアはすぐさま飛び上がり、氷の壁を越え、ジンに刃を落とす。
ジンは真っ向から受けようとした。
「ジン!受けちゃダメ!!」
ロイスが叫び、ジンは咄嗟にリコルディアの太刀を受け流す。
ドン!と重たい音と共に土埃が舞う。
その中でリコルディアは静かに立ち上がる。
「これならどうだ!」
ジンは体に魔力を集める・・・。
「雷鳴の竜」
ジンは貯めた魔力を一気に開放した。
竜と成した雷が空気を裂き、リコルディアへと直撃する。
雷鳴が大気を震わせ、地面が抉れる。
「くっ・・・体が、痺れる・・・。」
ジンは体の痺れに耐えきれず、地面に膝をつく。
「やった・・か・・・?」
視界を覆う閃光が消えた時・・・。
そこにはリコルディアが立っていた。
しかし、体は僅かに焦げ、黒い外殻には亀裂が走っており、そこから淡く光が漏れていた。
パキパキッ・・・。
嫌な音が鳴る。
リコルディアの額の魔晶核が鈍く光る。
ジンはその額の核を凝視する。
ひび割れた外殻はゆっくりと再構成されていく。
リコルディアの不気味な声が響き渡る。
「記録完了・・・。」
そう言うと額の魔晶核の光は収まった。
その瞬間を、ジンは見逃さなかった。
「今・・・わざとジンの攻撃を・・・受けた?」
2人の戦いを観察していたロイスが呟いた。
まさか、あの核が光るとき・・・動きが止まる?
ロイスの言葉に、ジンの視線が鋭くなる。
リコルディアは溜めの体勢に入る。
これは・・・さっきの・・・。
「雷の盾」
咄嗟に魔力武器化で雷の盾を作り出し、隠れる。
そんな防御に専念しようとした時だった。
「攻撃が・・・来ない?」
ジンは盾から顔を覗かせ、リコルディアを確認すると、再び魔晶核が鈍く輝いているのを目にした。
「記録完了。」
見た魔法を機械的に記録するリコルディア。
ジンはその隙に、二人の元へ駆け寄った。
「2人共、次であいつを倒す。二人でもどっちかでもいい。合図したらまだ使ってない魔法をあいつに叩き込んで欲しいんだ。」
ジンはそう言うと、立ち上がる。
ロイスとフリーシアも弱弱しく立ち上がる。
リコルディアは再び雷の剣を手にする。
「今だ!」
「炎帝の熱線」
ロイスは両手を前に突き出すと左右に揺らめいていた炎が収束する。
二つの熱が一つに圧縮され、灼熱の光線が一直線に走った。
「氷霊の砕塊」
同時にフリーシアが静かに腕を天へとかざす。
その瞬間、大気が凍りつく。
上空に凝縮していく冷気はやがて質量を伴い、天に君臨するかのような巨大な氷塊を形成する。
逃げ場を奪うように・・・。
無言のまま、彼女が手を振り下ろすと、呼応するように、氷塊が落ちる。
2人の魔法が同時に発動したことで、リコルディアの魔晶核が明滅する。
処理が追い付かない。
──僅かな停止
ここだ!
ジンは雷の槍をすぐさま形成させる。
「雷の槍!!」
ジンは形成した槍を放つ。
槍は形を保ったまま、閃光へと変わる。
直線、視認した時にはもう遅い。
閃光が走った瞬間にはすでに、リコルディアの魔晶核は貫かれていた。
ロイスの熱線はリコルディアの胴体を焼き、フリーシアの氷塊がそれを押し潰す。
──戦場に静寂が訪れる。
次第にフリーシアが放った氷塊は崩れ、大気へと消えていく
その下にはリコルディアの姿があった。
「ば・・・かな・・・。」
その言葉を残し、リコルディアの体は黒い塵と化し、宙に消えていく。
コロン・・・。
と穴の開いた魔晶核だけがその場に残った。
満身創痍な3人は同時に地面に座り込んだ。
「やた・・・のね。」
フリーシアが息を切らしながら言う。
「核だけが・・・残ってる。」
ジンは穴の開いた魔晶核を手に取る。
手に触れた途端・・・。
「───」
何かが頭の中でしゃべった気がした。
ゼン・・・・?
しかし、何の返答も無かった。
気のせいか、と思い魔晶核を拾い上げる。
それは機能してないはずなのに微かに、鈍く光っている。
所持していると厄災が降りかかるかのように怪しく・・・。
「フリーシア様ー!!」
遅れて魔導部隊が駆けつけてきた。
「魔獣の殲滅、完了いたしました!」
周囲を見渡せば、地面は抉れ、壁には穴が開き、建物も崩れてる大惨事だ。
「後、これを・・・。」
そう言うと彼はフルポーションを3本、フリーシアに渡した。
フリーシアはそれをジンとロイスに渡す。
「飲みましょう。」
フリーシアはフルポーションを一気に飲み干した。
すると・・・体にできた傷が綺麗に元通りになっていく。
それを見て2人も飲む。
「これ、見てくれ。」
そう言うと魔晶核をロイスとフリーシアに見せる。
「これ、持っててよさそうなものじゃなさそうね・・・。」
3人は沈黙し、静かに魔晶核を見つめる。
魔導部隊の隊員たちは、周囲の安全確認を終えるとすぐに動き始めていた。
「フリーシア様。王都へ連絡を。対象は魔人個体、討伐完了。しかし通常の魔人とは明らかに異質です。」
その言葉に、空気が僅かに引き締まる。
「異質・・・とは?」
フリーシアが問い返す。
隊員は言葉を選ぶように間を置いた後、低く答えた。
「魔法の模倣能力・・・それに加えて、戦闘中の学習進化。通常の魔人の域を超えています。」
ジンの視線が、手の魔晶核へと向けられる。
穴の開いたはずのそれは、依然として微かに光を持っていた。
別の隊員がさらに報告を続ける。
「周辺被害、甚大。住宅区画3区画に破損確認。復旧には上層部の判断が必要です。」
戦いは終わった。
だが、後処理はここから始まる。
「それと・・・。」
もう一人の隊員が、少し声を落とした。
「この件は、通常の魔獣、魔人被害として処理できません。王直属の対策会議への上申が必要になります。」
その言葉を聞き、フリーシアの表情が僅かに硬くなる。
「王直属・・・。つまり、中央ね。」
「はい、少なくとも通常の討伐報告では済みません。」
ジンは魔晶核を見下ろしたまま、静かに言った。
「あれは・・・。学習していた。僕たちの魔法を、全部・・・。」
ジンが小さく頷く。
「しかもただ真似をしてるんじゃなくて、もっと洗練されてた・・・。」
その言葉に、誰も否定できなかった。
しばらくの沈黙の後、隊長が一歩前出る。
「では、諸君には王都へ同行を要請する形になります。詳細説明と証言が必要です。」
フリーシアが小さく溜息をつく。
「やっぱりそうなるのね・・・。」
ジンは魔晶核を握り直す。
冷たいはずのそれが、妙に鼓動しているように感じられた。
「これは持っていくんですか?」
その問いに、隊長は即答しなかった。
代わりに少しだけ声を落とし、
「それも含めて、王都で判断されます。しかし・・・。それは回収物というより、証拠物件として扱われる可能性が高いでしょう・・・。」
フリーシアが顔を上げる。
「行くしかないわね、ここで終わりじゃないなら・・・。」
遠く、崩れた町の向こうに、王都の方角が見えていた。
ジンもフリーシアの視線の先に目を向ける。
この時、ジンは気づいていなかった。
握っていた魔晶核が明滅していたことを・・・。
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