第21話 王都イリシア
──早朝、太陽が顔を出し、空を淡いピンク色に染めている。
朝もやが村を包み込み、まるで寝ているかのように静かである。
そんな中で、ジンとロイスは出発の準備を進めていた。
「ジン、もう旅立つのか?」
村長のバルクが話しかけてきた。
「ええ、はい。・・・そうだ。村長、町に向かいたいのですが、この先どう行けばいいですか?」
「町・・・か・・・。ここからだとイリシアの王都が近くだ。しばらく一本道で、途中に3つ又に分かれた道がある。そこを右に行けば王都に着く。従車なら4日ほどだろう。」
「──イリシア・・・か?」
王都の名前を聞いてカサリスの言葉を思い出す。
イリシア・・・。
ジンの中で何かが引っかかる。
「ありがとうございます。」
「道中、気を付けてな。」
バルクは手を差し出す。
ジンはそれに応えるように、バルクと握手を交わす。
バルクは窓からこちらの様子を伺っているロイスに目を向ける。
「嬢ちゃんも気を付けてな。」
「・・・はい。」
ロイスは少し驚いたように、頭を下げる。
「それでは、また。」
「ああ。」
ジンは従車に乗り込み、村を後にした。
半日ほど走り、やがてバルクの言っていた3つ又の分かれ道に辿りつく。
ジン達は迷うことなく、右の道を選んだ。
従魔を休ませながら走らせること三日。
「ジン!見て!」
外を覗くと、高く積み上げられた石の塀に囲まれた王都が見えてきた。
王都の門の前まで来ると人の列ができている。
「検問!?私達、身分証持ってないよ!?」
ロイスは慌てたが、ジンは逆に冷静だった。
「ロイス、大丈夫。」
そう言うと、ジンは一枚のカードをロイスに差し出した。
「これは?」
ロイスは不思議そうにそのカードを受け取る。
「グルナーレ学校の卒業証明だよ。カサリス校長が身分証になるから持って行けって。」
ロイスは黙り込んでカードを見つめる。
「私の分まで・・・。」
カードを見つめるロイスに、
「カサリスは・・・。ロイスも一緒に旅立つって、分かってたのかも知れないね。」
「え・・・?」
ジンはロイスの持っているカードに視線を落とす。
「だって、身分証なら僕の分だけで良いはずなのに、わざわざ2人分用意してるのは、最初から2人で行く前提だったってことだと思う。」
ロイスは胸の奥が急に熱くなるのを感じる。
「さ、行こうか。」
2人は従車から降り、ジンは従魔に手綱をつけて引いて歩く。
自分たちの検問の番になると、二人は門番にカードを見せる。
「グルナーレの卒業証明か・・・。」
門番の声が僅かに低くなる。
二人の証明書をまじまじとみつめる。
もう一人の門番に目配せすると、その男は足早に町の中へと消えて行った。
前にいた者達はすぐ通されていた。
自分たちだけが足止めされている・・・。
その事実が、じわじわと不安を募らせる。
もう一人の門番がなかなか帰って来ない・・・。
やがて、後ろの列がざわざわつき始めた。
「どうした?」
「何かあったのか?」
ざわめきは次第に広がり、どよめきへと変わっていく。
ロイスは思わずジンの袖を掴んだ。
「大丈夫かな・・・。」
ロイスは不安を小声で漏らす。
「大丈夫さ、きっと。」
そう答えながらもジンの視線は門番から離れなかった。
しばらくして、もう一人の門番が帰ってきて、耳打ちする。
目の前の門番は少し目を見開いたように見えた。
「通れ・・・。」
静かにそう言うと門番は道を開けてくれた。
「よかった・・・。」
二人はようやく安堵し、深くため息をつく。
門をくぐるとそこには・・・。
道は石畳で綺麗に舗装され、従車が行きかう。
石で積み上げられた建物は、3階、4階と空へ伸びている。
下層は分厚い壁に支えられ、上階は僅かにせり出すように建てられていた。
狭い通りの上では建物同士が覆いかぶさるように影を落としている。
「凄い・・・。」
2人は呆気にとられ、立ち並ぶ建物の上を眺めるその時だった。
──ドクン!
胸の奥が激しく脈打つ。
「ぐっ!!」
胸の奥が・・・焼けるように、熱い・・・。
「はっ、はっ、はっ・・・」
ジンはその場で膝をつきそうになり苦しさに胸を押さえ、呼吸を荒げる。
頭の奥で声が響く・・・。
「ここは──。」
「!?」
ロイスの表情が変わる。
今・・・空気が揺れたような・・・。
いや、何か違う。
・・・魂が脈打った感覚。
あの時と同じだ。
不死鳥の炎環でジンの魂に触れた時の・・・魂の波動。
ロイスはすぐさま振り返る。
そこには胸を押さえて今にも倒れそうなジンの姿があった。
「ジン!どうしたの!?」
ロイスは苦しそうなジンの背中をそっと手を当てる。
やっぱり、この感じ・・・ジンの中から・・・。
「・・・大丈夫。・・・すぐ。収まる・・・。」
荒い呼吸の中で、ジンはなんとか言葉を絞りだす。
ジンは深く深呼吸し、息を整える。
次第に脈は正常に戻り、荒かった呼吸も落ち着きを取り戻した。
しかし・・・。
胸の奥の違和感だけは消えなかった。
「ロイス、ありがとう。もう・・・大丈夫。」
「ほんとに?」
ロイスは心配そうにジンの顔を覗く。
「うん。本当に大丈夫。」
そう言うとジンはロイスに笑顔を作って見せた。
「ならいいけど・・・。」
ロイスは心配そうな表情のままだった。
「すみません、そちらのお2方?」
「はい!?」
突然の声掛けに驚き、2人は声のする方を見た。
そこに立っていたのはスーツを着た、身分の高そうな人だった。
「ジン・ウィアトル様とロイス・サナティ様ですね?」
「はい、間違いありません。」
2人は驚きの表情のまま、顔を見合わせる。
「申し遅れました。私、ランズ・ラクトルと申します。女王がお二人のをお呼びになっております。」
「女王!?」
「女王!?」
二人は声を合わせて耳を疑うように聞き返した。
「はい。」
ランズはそう言うと頭を下げ、続けた。
「どうぞ、こちらへ。従車を用意しております。」
ジンは戸惑いながらも聞いた。
「僕達も従車があるのですが・・・。」
ランズは頭をさげ、
「こちらでお預かり致します。」
と答えた。
ランズは頭をあげ、後ろの従車に乗るよう手を添える。
その従車は金が散りばめられ、豪華な装飾を纏っている。
「では、こちらへ。」
二人は案内されるまま、その従車に乗り込む。
中は広く、座るとふわっとしていてとても乗り心地がいい。
二人が乗ると、従車はゆっくりしかし力強く動き出した。
しばらく走ると、周囲の建物が次第に変わっていく。
石造りの壁はより白く、より高く。
行き交う人々の服装もどこか上品になって行った。
「場違いだね・・・。」
ロイスが小さく呟く。
やがて従車は巨大な門の前で止まる。
見上げる程の城壁、その奥にそびえる白亜の城。
「ここが・・・。」
ジンは城の大きさに圧倒され、言葉を失う。
女王はジンとロイスに一体どんな用事があるのか。
二人は白を前に緊張して体を震わせていた。
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