第19話 静寂に潜む影
──日が登り気持ちのいい風が草原を撫でる。
従魔は草をむしり取り、無心にむしゃむしゃと食べている。
ジンは焚き火の火を消そうとしていた時、従車から目を擦りながらロイスが降りてくる。
「よく寝れた?」
「うん。」
ロイスは小さく頷く。
「見張り番ありがとう。」
ロイスはジンが火を消そうとしているところをじーっと見つめる。
「あ、火はまだ消さない方がいい?」
ジンは慌てて消すのをやめた。
ジンの慌てようを見て、ロイスはクスッと笑った。
「朝ごはん用意するね。」
そう言うと、従車からコンセルリーフで包んだ肉を二つ持ってきた。
一度開き、スパイスをかけて包み直す。
ロイスはそのまま焚き火の上に乗せる。
「・・・昨日の星、凄く綺麗だったね。」
ロイスはジンの隣に座る。
「うん、あんな星空初めて見たよ。」
ジンは明るくなった空を見上げる。
火にかけたコンセルリーフの包がシューシューと音を立てて湯気が立ち上る。
「そろそろかな・・・。」
そう呟くと、ロイスは火から包みを取り上げた。
「コンセルリーフの包み焼き。旅の朝の定番なんだから。」
ロイスはにこっと笑い、ジンの前に置いてくれた。
コンセルリーフを広げると、爽やかな香りがふわりと立ち、肉とスパイスの香りに重なる。
ジンはフォークを刺すと、ホロっと肉が崩れる。
一口食べるとコンセルリーフの爽やかさと肉の旨みが口いっぱいに広がり、香りが鼻から抜ける。
「これも美味い!」
ジンは夢中になって食べている。
ロイスはご機嫌そうに笑い、食べ始める。
その穏やかな時間がこれからの旅の始まりを優しく包み込む──
二人は食べ終わると、火を消して立ち上がる。
「じゃあ、行こっか。」
従車に乗り込んで出発する。
従魔が低く唸り、再び道を走り出した。
ジンは従車の操縦をロイスに任せ、睡眠を取る。
しばらく進むと小さな村が見えてきた。
「ジン、あれ村かな?」
ロイスが指差す先には、木造の家々が並んでいる。
村の入口に着くと、ジンは従車から降りた。
「ここで待ってて。」
「うん、気をつけてね。」
ロイスは窓から顔を出してジンを見送る。
村の中へ足を踏み入れると、土の道がまっすぐ続いており、木造の家が並び、煙突からはゆらゆらと煙が立ち上っている。
どこかの家からは、食事の支度をするいい匂いが漂ってきた。
井戸の側では数人の村人が談笑している。
子供達が走り回り、その笑い声が静かな空気に溶け込んでいた。
「普通の村・・・って感じだな。」
ジンは小さく呟いた。
「見かけない顔だね、旅人かい?」
村の一人がジンに気づき、声を掛けてきた。
「はい。グルナーレの方から来ました。」
「グルナーレからか!しかし・・・。」
村人は考え込むように顎に手を置きながらジンのことを見つめる。
「若いな・・・。」
ジンはその言葉に困惑しながらも答える。
「え?ええ。15です。」
「そうか、15だったか!ちょうどいい。」
そう言うと村人はジンの肩を二回、叩いた。
「着いてこい、村長に合わせてやる。」
ジンはその村人に案内され、村長の元を尋ねた。
「村長!いるかい!?」
玄関のドアを力強く叩く。
しばらくすると、ドアノブが回り、ドアが開かれる。
「どうした?」
ぶっきらぼうな低い声が聞こえた。
村長が姿を現す。
「村長、旅人が来たぞ。」
「旅人?珍しいな・・・。」
そう言うと村長がジンを見る。
「君か・・・。」
ジンは軽く頭を下げ、自己紹介する。
「ジンと言うのか、私はこのアルタル村で村長をやっているバルクだ。」
「立ち話もなんだ、中に入りなさい。」
バルクはそう言うと、ドアを大きく開けた。
「失礼します。」
ジンは一礼し、そのまま家の中へ足を踏み入れる。
中は広く、大きめのテーブルと暖炉があった。
暖炉からパチパチと火が爆ぜている。
「かけてくれ。」
ジンはテーブルの椅子に腰かける。
バルクは向かい側に座り、話始めま。
「グルナーレから来たと言ったな。」
バルクは腕を組みながらジンを見る。
「はい。」
「あそこからここまで、何もなかったか?」
ジンは少し考える。
「いえ、特には。」
その答えを聞いたバルクは僅かに眉をひそめた。
「・・・そうか。」
バルクの奥さんが、お茶を持ってきてくれた。
ジンは軽く頭を下げる。
「実はな、この村の周辺で魔獣の被害が出てるんだ。」
「魔獣・・・ですか。」
ジンの表情が少し引き締まる。
「ああ・・・だが、ただの魔獣じゃない。」
バルクはそこで言葉を切った。
「人を襲わず、・・・家畜の魔物ばかり襲われている。」
魔物ばかり襲う魔獣・・・。
「ジン、来たばかりの君にこんなことを頼むのは心苦しいが、依頼を受けてはくれないだろうか?」
ジンは真剣に考える。
「このままではいずれ村が立ち行かなくなる・・・。」
バルクは腕組を解き、拳を作ってテーブルに押し付ける。
「報酬は出すつもりだ。調査だけでも・・・。」
ジンは一度目を閉じ、決心したかのように目を開く。
「分かりました。依頼を受けます。」
バルクはその言葉を聞き、頭を下げる。
「ありがとう・・・。」
話が終わり、ジンは村長の家を出て、従車へ向かおうとする。
「──魔獣はおそらく、村の南東にある森に潜んでいるはずだ。」
ジンは顎に手を当てながら、考え込む。
人を襲わず、魔物ばかり襲う魔獣・・・。
「ジン!!」
ロイスは息を切らしながらジンを呼ぶ。
「ロイス!?」
ロイスが走ってジンの元へやって来た。
「ジン、なんだか嫌な感じがするの。従魔が落ち着きなくて・・・。」
ロイスは両手を膝について息を整える。
「ロイス、この村に魔物だけを襲う魔獣が出るらしい。村長の依頼を受けたよ・・・。」
魔獣と聞いてロイスは息を呑んだ。
「魔獣・・・。」
「ごめん、勝手に依頼受けて。」
ロイスは首を横に振る。
「ううん、ほっとけないもんね。」
二人は従車まで戻って来ると、従魔の様子を伺う。
従魔は地面を掻き、息を荒くして落ち着きがない。
ジンとロイスは南東にある森を見つめる。
森は静かだった。
静かすぎるほどに・・・。
風が吹いているはずなのに、葉の擦れる音がほとんど聞こえない。
鳥の鳴き声も無い。
まるで、そこだけ時が止まっているような違和感。
「変だな・・・。」
ジンは小さく呟く。
その時、従魔が低く唸り、後ずさる。
明らかに何かを拒んでいる動きだった。
ロイスはその様子を見て、不安そうな表情を浮かべる。
従魔はやけに森の方を気にしているようにも見えた。
その先は、村長が言っていた南東の森だった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます
コンセルリーフの包み焼、美味しそうですね!
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