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第18話 始まりの夜空

従魔が力強く地面を蹴る音、重く軋む車輪の音が響く。

従車の中は静かなままだった。


僕はロイスが来てくれて嬉しい。

でも・・・。

ロイスはずっと通っていた学校や友達と別れた後だもんな。

それに危険な旅になるはず・・・。

ジンは窓の外を眺めているロイスの横顔を見る。

その視線に気づいたロイスはこちらを向き、にっこりと柔らかく笑いかける。


「ロイス、大丈夫?」


ロイスは小さく拳を握り、少し俯いたがすぐに顔を上げる。


「うん。私が行きたいって思ったから。」


そう言うとまた微笑む。

そんなロイスを見て。

心配しすぎだったかな・・・。

と、少し恥ずかしくなり頬をかく。


「従車って、操縦?する人いないんだね。」


「うん、ヘディンから聞いたんだけど、ほぼ自動で動いてくれるらしいよ。操作する時はこれで・・・。」


そう言うとジンは魔結晶を加工された装置を取り出した。

その装置の魔結晶の部分が淡く、滲むように怪しく光っている。


「もしかして、魔結晶?」


ジンの手に持っているものを見たロイスは一目で分かった。


「うん。行き先を伝えたり、止めたりできるんだって。」


「へ~、魔結晶てこんなことにも使えるんだ。」


ロイスはその装置を見て感心している。


「どうりで高く買い取りしてくれるわけだ。」


「え、そうなんだ!」


ジンが驚いていると、ロイスは軽く頷いた。

そんな他愛もない会話をしていると、従車が突然止まり、従魔が低く吠える。

ジンとロイスは外に出て警戒する。

草むらから大きなイノシシのような魔物が姿を現した。


「目が赤くない・・・。魔物か。」


その魔物は荒い息を鼻から吐きながら唸る。

ジンとロイスが目に入ると前足で荒々しく地面を掻いた。

ジンは息を呑む。

標的をジンに定め、魔物は土を蹴り上げて凄まじい速度で突進してくる。

ジンは体を横に逃がし、間一髪で避ける。

すぐさま振り向き、手をかざす。


雷の剣(ブルグ・エンス)


バチバチと音を立て、雷が剣の形を成す。

方向転換した魔物が再び迫る。

ジンは踏み込み、一閃。

雷の軌跡が閃いた。

魔物の首が宙を舞う・・・。

巨体は力を失い、鈍い音を立てて地面に崩れ落ちた。


「ふぅ・・・。」


ジンは腕を払うと雷の剣は霧散し消える。


「つっ・・・。」


魔力武器化(アルマニティ)を使った左腕・・・やはり痺れる。

ロイスは倒れた魔物を見て、


「これ、食べれる魔物だ・・・。」


そう言うと嬉しそうに従車からナイフを持ってきて解体を始める。


「この魔物、柔らかくて美味しいんだよ!」


頼もしいな。

一人で生きてきた強さがそこにあった。

ジンはロイスの逞しさに思わず小さく笑った。


「手伝おうか?」


「うん。」


ジンも従車からナイフを持ってきてロイスを手伝う。


「ジン、こっちの皮をぞりぞりーってお願い。」


「ぞりぞりー、ね。」


ジンはロイスの表現に思わず笑ってしまう。

ロイスのやり方をみて、真似をする。

ロイスは手際よく肉を切り分ける。


「ふぅ~・・・。」


解体が終わると、ロイスは立ち上がって額の汗を拭く。


「全部は食べきらないから燻製にしよう。」


ロイスはそう言うと辺りを見回す。


「森か・・・。」


ロイスは何かを思いついたようにナイフをジンに渡す。


「森の中だから、コンセルリーフがあるかもしれない。」


「コンセルリーフ?」


ジンが聞き返すとロイスは頷く。


「うん、その葉っぱに包んだお肉が3日ぐらいは保存できるの。ちょっと探してくるら待ってて!」


そう言うと、ロイスは森の中へと姿を消した。


「おばあちゃんの知恵袋みたいだな・・・。」


ジンはそう言うと、切り分けた肉を従車の中に運んだ。

しばらくして・・・。


「ただいま!」


ロイスがコンセルリーフを大量に持ち帰って来た。


「お帰り。・・・って、でかっ。」


コンセルリーフはロイスの背丈の倍ぐらいあり、青白く、そして淡く発光していた。

2人はせっせと切り分けた肉をコンセルリーフに包んで出発した。


──日が沈み、夕日が静かにオレンジ色に燃えている

その頃従車は森を抜け、草原が広がった道を走っていた。

ジンたちは道から逸れ、草原の上に従車を止めた。

二人は従車から降り、辺りの安全確認を行う。


「ここなら安全そうだ。そろそろ野営の準備をしよう。」


ジンは地面を少し掘り、石を円形に並べ、その中に薪を組んだ。

ロイスはその薪に火を灯す。

パチパチと薪が弾ける音が、静かな草原に広がる。

やがて炎は大きくなり、辺りを橙色に照らし始めた。


「ご飯にしよっか。」


ロイスは従車から切り分けた肉を持ってきた。

彼女はその肉をさらに小さく切り分て串に刺していく。

ロイスはバッグから紙で出来た小包を取り出した。


「やっぱりこれがないとね。」


「それは?」


ロイスはニコッと笑い、


「スパイスよ。」


「えっ!?いつ用意してたの!?」


ロイスは唇を尖らせ、人差し指を唇の下に当てる。


「本当は最初から行きたい気持ちはあったから、準備だけはしてたの。」


少しだけ照れたように笑ったロイスは肉にスパイスをかけて次々と火にかざす。

じゅうぅ、と音を立てて脂が滴り、香ばしい匂いがふわりと漂う。


「いい匂い。お腹が空く匂いだ。」


ジンは思わず呟く。


「でしょ?この魔物美味しいんだよ?」


ロイスは得意げに笑う。

炎に照らされたその横顔は、昼間とは違ってどこか柔らかく見えた。


しばらくして──


「はい、焼けたよ。」


ロイスが差し出した串を受け取り、ジンは一口かじる。

噛んだとこから肉汁が溢れ、口いっぱいに広がる。

外はこんがりと焼け、中は柔らかく、臭みがひとつもない。

スパイスと相まって肉の甘味を感じる。


「・・・美味しい!」


思わず声が漏れる。


「でしょ?」


ロイスは、嬉しそうに笑い、串を食べ始める。


「うん!美味しい!」


しばらく無言で食べる時間が続き、焚き火の音だけが静かに夜を満たしていた。


「ふぅ~食べた・・・。」


ジンはそう言うと、両手を広げて草原に身を預ける。

それを見たロイスはクスッと笑い、ジンに続く。


その視界には満点の星空が広がっていた。

無数の光が夜空に散りばめられ、まるで手を伸ばすと届きそうな程近くに感じる。

静寂の中で、それらは瞬く度に優しく輝いている。


「向こうの世界だと、こんなに星は見えないな・・・。」


ジンは思わずボソッと小さく呟く。


「・・・ジンがいた世界?」


ロイスはジンの方に視線を移す。


「うん、僕がいた場所。」


広い草原に風が走り、草を押し倒していく音が聞こえる。


「そっか・・・。」


ロイスはもう一度夜空を見上げる。

それ以上は聞かなかった。

ただただ、同じ空を見上げる。


「でも、今は見えるね。」


その言葉に、ジンは少しだけ目を見開き、ロイスを見る。


「うん・・・。」


ジンは短く小さく返す。

ロイスは何も言わず、ただ隣で星を見ていた。

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