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第13話 その笑顔の裏で

──学校の保健室

ジンはゆっくり目を開いた。


また・・・知らない天井だ。

頭だけをあげ、体を見る。

指を動かす感覚もある、呼吸もできる。

生きてる・・・。

枕に頭を落とし、天井を見つめる。

・・・おかしい。

ジンは違和感に気付く。

背中にあるはずの痛みが全く感じられなかった。

あれほどの傷を負ったはずなのに。

ゆっくり体を起こしかけた時・・・

──ロイス。

その名前が頭に過った途端、心臓が跳ねた。


「ロイス!?」


ジンは勢いよく体を起こし、視線を横に向ける。

そこに──ロイスの姿があった。

隣のベッドで静かに眠っている。

規則正しい寝息、穏やかな寝顔・・・。


「よかった・・・。」


ジンはロイスの姿を見て安堵した。

ジンはそのままベッドに腰を下ろし、しばらくの間・・・。

何もせず、ただただその寝顔を見つめていた。

胸の奥がじんわりと温かくなり、ジンの表情が緩む。


やがて──

ロイスの瞼が僅かに揺れた。


「ん・・・。」


ゆっくりと目を開けるロイス。

ぼやけた視界の中で。最初に映ったのはジンの姿だった。


「ジン・・・?」


「ロイス・・・!」


ジンのその声には隠し切れない安堵が滲んでいた。

ロイスは少し驚いたように目を見開く。


「ジン・・・無事、だったんだ。」


その言葉に、思わず苦笑する。


「こっちの台詞だよ・・・。」


ジンはロイスの頭をなでる。

ロイスの目にじわりと涙が浮かぶ。


「よかった・・・本当に。」


ポロリと涙が零れ落ちた。

ジンは戸惑いながらも優しく言う。


「もう、大丈夫だよ。」


ロイスは小さく頷く。

涙を浮かべながら、その頬はほんのりと赤く染まっていた。


「あの時・・・。」


ロイスがぽつりと呟く。


「私を・・・庇って・・・。」


途切れ途切れだが、ロイスは言葉にしようとしている。

ジンは頷きながらロイスの言葉を最後まで聞いた。


「私・・・また・・・。」


「ジンが死んじゃうんじゃないかって・・・。」


ジンはロイスの目を見つめ、答えた。


「ロイスを放っておけなかったんだ。・・・それに、ちゃんと生きてる。」


その一言に、ロイスの胸がきゅっと締め付けられる。


「でも・・・。」


ロイスはジンを見つめる。


「ありがとう。」


真っ直ぐな言葉だった。

ジンは少し照れたように頬をかく。


「どういたしまして・・・かな?」


バン!

空気を壊すかのように、勢いよく扉が開いた。

二人が目を覚ましていることを確認し、ぱっと顔が明るくなる。


「おっはよーう!」


元気すぎる声と共に入って来たのはヤナだった。


「二人とも無事でよかったー!」


そのままズカズカと近づいてくる。


「もうさ、めっちゃ心配したんだからね!?」


ロイスはびくっと肩を震わせる。


「ヤ、ヤナ!?声大きいよ・・・。」


ヤナはそんなことお構いなしにニヤニヤしながらジンの隣に腰掛ける。


「お邪魔だったかしら?」


ヤナは手で口を隠し、ふふふと意味ありげに笑う。


「そ、そんなことないよ!」


ロイスは全力で否定する。その頬は赤く火照っていた。


「ほんとかなー?」


ヤナは目を細め、横目でロイスを見る。


「命がけで守っちゃったりしてさー、そりゃあもう・・・。」


「ヤナ!!」


ロイスが慌てて遮る。

ジンはというと、完全に困惑していた。


「え、いや・・・その・・・。」


そんな様子を見て、ヤナはくすっと笑った。

しばらく二人を見て、ふと表情が曇った。


「本当に、心配したんだから・・・。」


そう言うと、表情が戻り、


「これだけ元気なら安心ね。」


そう言って2人に笑いかけた。


「おっ、起きたのか。」


そう言いながら入って来たのはヘディンだった。


「よかった・・・。目、覚めたんだな。」


ヘディンの言葉にジンは頷いた。


「心配かけてしまった・・・。」


「いい、いい。無事ならそれでいいよ。」


ヘディンは手を出して振った。

しばらく4人は会話していた。

ヤナがジンにボソッと話しかける。


「話があるから、ついてきて?」


ヤナはそう言うと立ち上がり、


「ごめん、ちょっとトイレ・・・。」


ヤナは手を合わせて、ジンの腕を引き上げる。


「僕もトイレ・・・行ってくる。」


強引に立たされ、保健室の外へ向かう2人。

少し歩いた廊下で、ヤナは壁にもたれた。

ヤナの雰囲気が少し変わった。

ジンはその雰囲気に、きゅっと気が引き締まる。


「ジン、ロイスのこと・・・助けてくれてありがとう。」


ヤナは静かに話し始める。


「放っておけなかったから・・・。」


ジンは視線を斜めに逃がし、頭をかく。


「あの子ってさ・・・。多分、自覚無さそうだけど・・・。」


ヤナは小さく笑った。


「ジンのことかなり特別にみてる。」


「・・・え?」


ヤナからの突然の言葉に、ジンは動揺する。


「ジンに対してだけ、反応違うの気づいてないの?」


ジンはロイスの顔を思い浮かべる。


「あの子があんな顔するの初めてだから・・・。」


ヤナはジンの前に立ち、続ける。


「あの子大人しそうに見えて、結構危ない事にも突っ込んで行っちゃうことあるから・・・。これからもロイスのこと、守ってあげてね?」


視線を少し逸らしながらそう言う。

しかし、すぐにジンと目を合わし、ヤナは人差し指を差し出す。

ジンが不思議そうにその人差し指を見ていると、


「ほら、あなたも指出して。」


そう言われてジンも人差し指をだす。

ヤナはその人差し指に自分の人差し指を重ね、握る。

ジンもそれに合わせてヤナの人差し指を握る。


「約束・・・だからね。」


指切り・・・か。

幻界では小指ではなく、人差し指を絡める。

人を示すその指で、人と人が約束を交わすためだ。


「破らないでよ・・・?」


ヤナはジンににっこりと笑いかける。

その笑顔は何処か切なさを感じた。


「さ、戻りましょ?」


と視線を下に外し、指切りを解く。

その刹那、ヤナが悲しそうな顔をしているのを目にした。

ヤナが先に歩き出す。


「ヤナ・・・?」


ジンはヤナの背中を見つめ、その場に少しだけ立ち尽くす。


「・・・約束、か。」


小さく呟き、ロイスの顔が頭に浮かぶ。

胸の奥が少しだけざわつくのを感じた。

そのままジンはヤナの後ろを追った。

保健室の扉の前、一瞬だけ足が止まる。


さっきまでと、同じはずなのに・・・。

ほんの少しだけ違う気がした。

そして・・・。

ジンは保健室に入る。

保健室に戻ると、ロイスとヘディンが何か喋っていた。


「お、戻って来たか。」


ヘディンが気づいて声をかける。


「うん・・・。」


ジンはそう答えながらベッドに戻る。

無意識にロイスの方を向くと、目が合った。

ロイスは少しだけ驚いたように瞬きをして、ふっと優しく微笑んだ。

その時、ジンはなぜか言葉が出なかった。


──この後、自分に課せられた使命と向き合うことになるなど、今のジンはまだ実感していなかった。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

ジンとの約束の後に見せたヤナの悲しそうな顔。

彼女はジンのことを・・・?

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