第12話 燃え盛る記憶を断つ雷
──夕刻
生徒達は各班ごとにテントを貼り、野営の準備をしていた。
ロイスは集めて来た木の枝をひとつにまとめ、人差し指をかざす。
そうすると、ボッと焚き木に火が付いた。
「火属性ってこんな時便利なんだね。」
その様子を見ていたジンが感心していた。
ロイスは少し照れている様子で、
「そうかな?」
と、くすっと笑った。
突然、ジンの後ろからもたれかかるように抱きついてきた女子生徒。
「おわっと?」
突然の重みにびっくりするジン。
「お二人さん、熱いねぇ・・・。」
女子はニヤニヤしながら2人をからかった。
2人は同時に頬を赤くし、ロイスが慌てた口調で
「ヤナ!?そっ!そんな事ないよ!」
と両手を前に出し手を振って全力で否定した。
ヤナは「ふーん」と意味ありげに目を細めた。
「っ・・・と。」
ヤナはジンから降り、隣に座った。
「じゃあそういう事にしとくよ。」
と、ニヤニヤしている。
「もう・・・。」
ロイスは恥ずかしいのか、ジンから目を離す。
「私、ヤナよ。よろしくね、ジン。」
そう言いながら手を差し伸べる。
「よろしく。」
ヤナと握手をするジンは何処か恥ずかしさを見せていた。
「さっきの、スカッとしたよ!」
ヤナはそう言いながらジンの手を引っ張る。
体勢が崩れたところに、ヤナはそのまま抱きついた。
ロイスはそれを見て目を見開く。
やっぱり、分かりやすい・・・。
ロイスの反応を見て、うっすらと口角を上る。
そしてジンから離れた。
「カリフィスってさ、ロイスに付きまとってる嫌なやつで。メタメタにしてくれてスッキリしたよ。」
と続けた。
ジンはヤナの距離感にドギマギしている。
「あ、ああ・・・うん。」
そんなジンを見てロイスは眉間にシワを寄せ、頬を膨らます。
「俺も忘れてくれるなよぉ。」
間の抜けた声が背後から聞こえた。
同じ班の最後の1人だ。
その男子は焚き火を挟んで向かい側に座った。
「俺はヘディン。ジン、よろしくな。実は俺もスカッとしてたんだ。」
ヘディンは笑いながらそう言った。
4人の談笑はしばらく続き──
「そろそろご飯の準備しましょうか。」
そう言うとロイスは立ち上がった。
「調理は女性陣に任せておいて。」
ヤナもロイスに続いて立ち上がった。
「じゃあ、夜も長いことだし、俺たちは薪でも拾ってきますか・・・。」
ヘディンとジンも立ち上がり、二人は別の方向へ分かれて薪を集めにいった。
ヤナとロイスは、冗談を交わしながらも自然に手が動く程には、息の合った様子で料理を進めていた。
料理を作りながらヤナがロイスに尋ねる。
「ねぇ、ロイス。あなたジンのこと好きでしょ。」
ヤナはニコニコしながらロイスの顔を覗く。
ロイスはその質問にびっくりし、包丁を落としてしまう。
「え!?そ・・・そんなこと、無いよ!?」
ロイスは頬から耳まで赤く染める。
その様子にヤナはふふっと笑い、続ける。
「ロイス、本当に分かりやすいよね。」
「そんなんじゃ、ないから・・・。」
そう否定しながら包丁を拾うロイス。
「この子ったら、自覚無いのね・・・。」
ヤナは少し呆れた顔をし、ボソッと呟いた。
男性陣が薪を集めて帰って来る。
「お帰り、晩御飯できてるから食べましょ」
4人は焚火を囲んで晩御飯を食べた。
ジンはふと、ロイスに視線を移す。
ロイスはジンの目を見て顔を赤くし、目線を逸らすように下へ俯く。
ジンはロイスに声をかけようとしたが、2人が居ることに気づき、口を紡ぐ。
──ご飯を食べ終わり、ロイスが口を開いた。
「私、水汲んでくるね・・・まだ明るい内に行っておかないと。」
そう言うとロイスは立ち上がった。
ここにいると、恥ずかしさと気まずさが混ざり、顔が火照っているのを収める為だった。
「僕も行くよ。」
ジンは立ち上がろうとしたが
「ジン!・・・は、いいの。一人で行ってくるから。」
それを聞いたヤナがジンの手を引っ張り、座らせる。
「女の子はね、一人になりたいこともあるの。」
そう言うとジンの腕に抱き着いた。
ジンはロイスの方を不安げな表情で見つめる。
しかし、ロイスはそのまま森の奥に消えて行ってしまった。
森の中はひんやりと冷たい空気を流し、静まり返っていた。
もう、ヤナったら、何で急にあんなこと言うのよ・・・。
恥ずかしくてジンの顔が見れなくなったじゃない。
ヤナとくっついてた時のジン・・・なんだかモヤモヤしちゃった。
私、ジンのこと・・・。
そんなことを考えながら水を汲み終わり、戻っている最中。
1つの影がロイスの前に現れた。
「やぁ、ロイス。」
その影はカリフィスだった。
「なぁ、ロイス!」
カフィリスは大きな声を出しながらロイスに近づく。
「何であいつなんだ?なんで俺じゃない?」
カリフィスはそう叫ぶとロイスの肩を力強く掴む。
ロイスの手から水の入ったバケツが落ちる。
「痛い!なんのこと!?」
ロイスはカリフィスの手を何とか振りほどく。
「見たぞ。あいつが水晶を壊すところ。あんな異端な奴、危険すぎる!それなのに・・・。」
「ジンは異端なんかじゃない!」
ロイスは真っ直ぐにその言葉を否定する。
「何で、何でまたあいつを・・・。」
その時、ロイスの背後に赤く、怪しく揺らめく光がカリフィスの目に止まった。
──その頃、ジンたちは寝る支度をしていた。
「ロイス、遅いわね・・・。」
ロイスの心配をするヤナ。
もうすでに日は落ち、暗くなっていた。
ジンは焚火が切れないよう、薪を入れている。
妙な胸騒ぎがして森の方を見る。
その時、森の奥から大気を揺らし、耳をつんざく程の咆哮が聞こえた。
3人は顔を合わせる。
ヤナの表情が一気に不安な表情へと変わった。
「2人はここから動かないで!何かあったら先生に!」
そう言い残すとジンは森の中へと姿を消した。
──鋭い咆哮が周囲の木々を揺らし、ロイスとカリフィスは耳を塞ぐ。
その咆哮はこの場を動くことを許さない。
赤く揺らめく光は、魔獣のものだった。
ロイス達よりも遥かに大きい、熊の姿をした魔獣。
咆哮が止み、魔獣がロイスに襲い掛かる。
ロイスは間一髪避けた。
振りかざされた爪が地面を揺らし、抉る。
「な・・・んで、こんなところに・・・?」
カリフィスは足が震え、腰を抜かす。
このままだとカリフィスが、野営してるみんなが危ない。
ロイスは炎を作り出し、魔獣にぶつける。
しかし、その炎はいとも簡単に弾かれた。
ここで大きな炎は使えない。
でも、みんなが逃げる時間を作らなきゃ・・・。
「カリフィス!お願い、手伝って!」
ロイスはカリフィスに手を伸ばす。
カリフィスはロイスの顔をみる。
しかし・・・カリフィスはロイスの手を取らなかった。
「無理だよ・・・。」
カリフィスは腰を抜かしたままじりじりと後ずさる。
「勝てるわけ・・・ない。」
そう言うと、カリフィスはロイスを置いてその場から逃げ出した。
「カリフィス・・・!」
私一人でも時間をつくらなきゃ!
ロイスは何度も炎をぶつける。
しかし、魔獣は更にもう一度咆哮を放つ。
魔力武器化をしようとするが、手が震えて上手くできない。
気づけば炎は草木に引火し、辺りを明るく照らしながら煌々と燃えていた。
その光景を目にしたロイスはその場で膝をつく。
──燃え盛る村
炎の中で手を伸ばす誰か・・・。
焼け落ちる木が軋む音・・・。
呼吸出来ない程の熱・・・。
止めようとしても止まらない炎・・・。
脳裏に蘇る、幼少期の記憶・・・。
「また・・・私は・・・。」
魔獣は戦意喪失したロイスに容赦なく、爪を振りかざす。
ロイスは目を閉じジンの顔を思い出す。
「助けて・・・。ジン・・・!」
一閃──
魔獣の肩に電気を帯びた槍が突き刺さり、電撃を放つ。
バリバリバリバリ!
グオォォォ!
電撃は魔獣の体を巡り、その巨体を痺れさせ、留める。
「ロイス!」
間一髪でジンが間に合った。
魔獣が痺れて動けない間に──
「ロイス!今のうちに逃げよう!」
しかし、ロイスにはジンの言葉が届かない。
ふと、魔獣の方に目を向ける。
血のように光る瞳孔と目が合った
──ドクン!
鼓動が激しく、大きく跳ねる。
「魔・・・獣・・・。」
ここに来たばかりのことを思い出し、足がすくむ。
呼吸が荒くなり視界が揺れる。
足が強張り、動けない。
しかし、ロイスの方に視線を戻す。
ジンは強く目を瞑る。
「──次はお前の番だ。」
ロイスの家での、ゼンの言葉が頭を過ぎる。
「違う・・・今は違うんだ。動け!足!!」
ジンは自分の足を思いっきり殴りつけた。
またあの時と同じだ・・・
でも今は違う!守る力を持ってるんだ。
ロイスを、ロイスを失う訳にはいかない・・・!
その気持ちが、自然と足が動かせた。
「ロイス!」
ジンはロイスのそばに駆け寄り、肩を揺らす。
ロイスは遠くを見ていた。
「全部・・・。燃えちゃったの・・・。」
「また、私が・・・。」
そう言うとロイスは両手で顔を覆い、泣き崩れた。
「ロイス!ロイス!?君の過去に何があったかは、僕は知らない。・・・でも!」
そう言いかけた時、魔獣の痺れが収まったのか、3度咆哮を放つ。
僕は知ってる。暴走した日の包み込むようなロイスの温もりを・・・。
魔獣は手を振り上げる。
ジンはロイスを強く抱き、攻撃から庇う。
「ぐあぁっ!!」
振りかざされた魔獣の爪は、いとも簡単にジンの背骨を断ち切り、抉る。
ジンの背中に激痛が走る。
あまりの衝撃にジンの世界から音が消え
何かが砕ける感覚だけが背中を走る。
熱い、痛い、怖い・・・。
「ゴフッ!」
呼吸をしようとすると、大量の血液が喉を通り口から吐きでる。
口の中に広がる鉄の味と、背中の激痛で意識が朦朧とする。
ぐる、じぃ・・・
・・・それでも!
それでもジンはロイスを抱え、離さない。
「ロ・・・イス・・・。聞いて、くれ。」
耳のすぐ側で聞こえるジンの声は震えていた。
「ジ・・・ン?」
ジンの熱と震えが体越しに伝わってくる。
それでも離さないその腕が・・・。
何よりも強く感じた。
「君の炎は、優しい炎だ・・・。大丈夫、僕が・・・知ってる。」
「優しい・・・炎?」
ジンの言葉が届いたのか、ロイスの体から炎がゆらりと滲む。
ジンは深く頷き、ロイスに笑顔を見せる。
怖い、死ぬかもしれない・・・。
でも、ロイスの手を離すことは出来ない!
片方の肺は潰れ、背中からおびただしい血液を滴らし、吐血しながらジンは力強く立ち上がる。
ロイスが涙越しにジンを見る。
炎に揺らめき、黒い影の彼の背中を・・・。
「大きい背中・・・。」
それは、怖いものではなかった。
ジンはもう一度、魔力武器化で槍を形成した。
「雷の槍!!」
ジンは雷の槍を放った。
その槍は、今までにない程早く、空を裂いた。
魔獣の心臓を貫き、轟音が鳴り響く。
魔獣は霧散し、魔結晶を残して消え去った。
ジンはその場で倒れこむ。
ジンの傷は深く、出血量も酷い。
「ジン・・・!」
ロイスは倒れたジンの元へ駆け寄る。
呼吸は浅く、微かだが息はある。
「ジン、ジン!しっかりして!お願いだから・・・。」
ロイスはジンの傷跡とおびただしい出血を見て、必死に傷口を手で塞ごうとするが意味が無い。
血まみれの両手に目を落とし、涙を浮かべる。
「このままだと・・・本当に・・・。」
ロイスの手が、体が震える。
その時、頭にジンの言葉が過る。
──君の炎は優しい炎だ
ロイスの体から炎が湧き出す。
「私の炎は・・・優しい炎・・・。」
両手は震えている。
ロイスは大きく息を吐き、吸った。
ひんやりしていた空気の温度が一気に上昇していき、辺りは紅に揺れる光へと包み込まれる・・・。
ロイスに伝わってくるジンの魂の波動。
それと共鳴するようにもう一つの波動がロイスに伝わる・・・。
・・・ん?ジンの中に魂が・・・2つ?
重なってるのに別のモノ・・・
いや、今は関係ない、集中しなきゃ。
ロイスは目を閉じ、深く呼吸し、両手をジンに添え、静かに唱える──
ジンを助けて・・・。
「不死鳥の炎環」
周囲の光が強く発光する・・。
骨を断たれ、肺を裂いている傷。
本来であれば助からないはずの無い傷が、みるみる治っていく──
ロイスはジンの傷が治ったことを見届けると安心した表情を浮かべ、意識を失った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
優しいロイスの過去に、一体何が起こったのか・・・?
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