第11話 野外演習に迫る影
今日はロイスのクラスとジンとの合同で行う野外演習の日。
学校の門でみんなが集まるのを待つ。
「ねぇ、ロイス。野外演習ってよくやるの?」
ロイスは、口を尖らせて人差し指を唇の下に押し当てる。
「んー・・・そんなに頻繁ではないけど、よくあるかな?」
「そうなんだ。」
ロイスと話していると、少し遠くの方から
「おい!お前・・・!」
そう言いながら近づいて来る男子生徒がいた。
「カリフィス!?」
ロイスが驚いた。
カリフィスはロイスの隣の席に座っている男子生徒だ。
「お前、ジンとか言ったか?調子に乗ってロイスに馴れ馴れしくするな!」
ジンはなんの事はさっぱり分からなかった。
「普通に話してるだけだけど?」
ジンはロイスの方に視線を移す。
ロイスは少し頬を赤らめながらも呆れた顔をしている。
「お前、ロイスに何のつもりだ。」
カリフィスはロイスの方を向く。
「ロイス、こいつに何かされたのか?だから仕方なく一緒にいるんだよな!?」
「違うよ・・・。」
ロイスは首を横に振る。
カリフィスはその否定を見て見ぬ振りをしているのか、彼は止まらない。
「おいこの異端児風情が!」
カリフィスがジンの胸ぐらに掴みかかる。
「ちょ、カリフィス・・・やめて!」
咄嗟にロイスが止めに入る。
「ロイスには関係ないだろ!」
カリフィスはロイスの手を振りほどき、ジンに殴りかかろうとした時だった。
手を叩く音が辺りに響く。
「はーい、そこまで!」
先生の声を聞いた後、カリフィスはジンを睨みつけ、押しのけるように手を解いた。
「ロイスはお前みたいな奴を相手にする女じゃない・・・。」
そう言い残し、カリフィスは翻してその場から姿を消した。
「はい、では全員揃いましたね。私は、リンクス。今日の演習担当になります。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
生徒達の声が重なる。
「では、行きましょう。」
「はい!」
全員が声を合わせた。
一行は街を出て、草原を歩き、森の方へと進んでいく。
リンクスは森の手前で止まった。
ここには草原が広がる森の入口だ。
「さて、ここは魔物も少ない場所です。まずは木剣による模擬戦闘を行います。その後、四人で班を作り、森で一晩の野営訓練を行います。」
生徒を見回しながらリンクスは続ける。
「食料、水の確保、火起こし、全て自分達でやること。」
リンクスは一回手を叩き、
「評価は戦闘力と生存本能の両方です。では、それぞれ木剣を持って輪になって下さい。」
そう話し終えると、生徒たちは各々木剣を手に持ち、円になる。
ジンの隣にロイスが来た。
「ジン、剣は使えるの・・・?」
ロイスは不安そうな表情をしている。
「大丈夫、カサリス校長にみっちり鍛えられたから。」
不安そうなロイスにジンは笑いかけた。
「そっか・・・。」
ロイスは安心し、いつものように微笑んだ。
そこに鋭く、刺すような視線を感じたが、気にしなかった。
「はい、では模擬戦の説明をします。」
がやがやしていた生徒たちが静まり返った。
「まずは基本的には木剣で模擬戦を行います。ただし、補助や身体強化が使える人は使用してよしとします。」
リンクスは続ける。
「高威力の魔法は禁止。相手を戦闘不能、または武器が破壊されたら終わりとします。」
身体強化・・・。
そんな事も出来るのか!
ジンは関心していた。
「では、第1試合・・・」
木剣での模擬戦が始まり、二組の模擬戦が終わる。
三組目でロイスの番になった。
「ロイス、大丈夫?」
「大丈夫、見てて。」
そう微笑むと円の中央へ向かった。
「お願いします。」
「お願いします。」
ロイスの木剣から静かに炎立ち昇る。
それは激しく燃える炎ではなく、まるで呼吸するかのように揺らめく淡い紅。
対戦相手の男子が1歩踏み込む。
「火なんて剣で押し切れば・・・!」
向かって来る相手にロイスは剣を構える。
ガッ!
木剣と木剣がぶつかる音が弾ける。
しかし・・・。
相手の木剣がバターのように切れ、その先端が宙を舞う──。
切り口は焼け焦げていた。
「そこまで!」
ロイスは木剣を払い、火を消した。
「ふぅ・・・。」
ロイスは静かに息を吐いた。
「ありがとうございました。」
「あ、ありがとうございました。」
相手の男子も頭を下げる。
ジンはロイスの戦いに呆気にとられ、見とれていた。
ロイスが戻ってくる。
「ねっ?ちゃんと勝てたでしょ?」
そう言うとにこっと笑った。
「次はジンだね。」
ロイスの模擬戦の後、四組の模擬戦が終わり、最後の組でジンの番が回ってきた。
「では、最後の模擬戦。ジンとカリフィス、前へ。」
ついにジンの模擬戦が始まる。
「ジン、頑張ってね。怪我・・・しないでね。」
ロイスが背中を押してくれる。
「もちろんだよ。行ってくる。」
相手はカリフィスだ。
カリフィスは鋭い眼光でジンを睨みつける。
彼は剣先をジンに向け、こう叫ぶ。
「異端児が!この模擬戦で俺が勝ったら、金輪際、これ以上ロイスに近づくな!」
カリフィスの発言に周りは騒つく。
近くなって言われても、同じ家に暮らしてるしな・・・
カリフィスの言葉に困ったジンはふと、ロイスの方に目をやるとロイスは困惑した表情を浮かべている。
「始め!」
周りのガヤに負けず劣らず、リンクスの声が響く。
その言葉と共にカリフィスの周囲がふわっと揺らめく。
身体強化魔法を使ったのだ。
「行くぞ!」
カリフィスが踏み込む。
──早い!
ジンは何とかカリフィスの攻撃を受け流す。
「ちっ!」
カリフィスはもう一度踏み込む、だが先程とは別の角度から木剣を振るう。
次も何とか受け流す事ができた。
カサリス校長に比べればついていけないスピードでは、無い。
集中しろ・・・。
しかし、カリフィスの動きは早いだけじゃない。
無駄がない・・・経験で削られた動きだった。
「受けてばかりじゃ勝つことは出来ないぜ!?」
カリフィスの猛攻が続く。
ジンは感覚的にカリフィスの魔法の流れを感じ、何とか攻撃を受け流す。
「ジン!」
ロイスは不安な顔をしている。
その時、ロイスの声と呼応するかのように
「──その程度じゃ守る前に死ぬぜ?」
頭の中にゼンの声が響く。
ジンの瞳が一瞬揺れ、魔力が暴れる。
カリフィスはその異様な圧を感じ、一歩退く。
そんなの嫌だ!
ジンは思考を巡らせる。
木剣、そうかこれに魔力を流し込めば・・・
今までの修行で魔力武器化は難しかったけど、形があるなら・・・。
カリフィスが一歩引いた隙に、木剣へと魔力を流し込む。
バリバリバリ!!
空気を裂く、乾いた音が響き渡る。
ジンは踏み込みカリフィスとの距離を一気に詰める。
カリフィスは驚き、木剣を上から振りかざした。
ジンはそれを弾くよう、下から振り上げる。
バキッ!
と言う音と共に、カリフィスの木剣は腕ごと上に弾かれる。
ここだ──
その一瞬、カリフィスは負けを予感した。
「──くそっ!負け・・・」
ジンは一回転し、カリフィスの空いた横腹へと木剣を振り抜く。
ドッ!
踏み抜いた瞬間、紫電が弾け、カリフィスの体に電撃が流れる。
バリバリバリバリ!
「ぐっ、ああっ!!」
カリフィスは体が痺れ、地面に膝から地面に倒れ込む。
「それまで!」
「おお~!」
歓声が沸いた。
ジンは少し息を荒らげ、両手の痺れを感じた。
少し両手を眺め、
「ありがとうございました。」
頭を下げ、背を向けた時、
「お・・・前は、危・・・険だ。」
カリフィスは痺れる中、上半身だけを上げてジンに言葉を放った。
ジンは顔だけをカリフィスに向け、その言葉を受け取った。
ジンは息を整えながら、静かにロイスの隣へと戻る。
「ジン!凄いよ!」
ロイスは喜びで軽く跳ねていた。
「これを持って模擬戦は終了します。さて皆さん、これより班ごとに別れて、野営の準備に入りましょう。」
リンクスの声が響く。
生徒たちの空気が一気に緩み、荷物の準備へと動き始めた。
「野営かぁ・・・ちょっと楽しみだね。」
ロイスは頷いた。
「そうだね。それに、一緒の班で良かった。」
ロイスはどこか嬉しそうだ。
「うん!でも・・・今日の夜は冷えるって言ってたし、油断出来ないね。」
ジンがそう返事を返すと、ロイスはくすっと笑った
──その時だった。
森の奥、何かがそこに居ると言う気配だけが漂っていた。
ジンの視線が無意識に森に向く。
・・・だが、そこには何も無い。
「どうしたの?」
「いや・・・なんでもない。」
ジンはそう言って視線を戻した。
しかし、暗闇の奥で赤く、揺れる眼光が2つ、ゆっくり瞬きをしてこちらを見据えている──
最後まで読んで頂きありがとうございます。
野営でいったい何が起きるのでしょうか?
次の話は山場です!
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