13.帝王切開前日
妊婦あるある、というタイトルで進めてきたこのエッセイ。
妊婦卒業……すなわち分娩のお話一話ぶんで締め括ろうと思っておりましたが、思っていた以上に出産というのはいろいろあるもので。
帝王切開という、妊婦さんの二割ほどしか経験しないお産の方法をとったということもあり、ラスト一話の予定を拡大してお送りさせていただこうと思います。
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八月のとある日、私は帝王切開の前日を迎えていました。
不思議なくらいに落ち着いていて、明日赤ちゃんに会えるというワクワク感も、手術だというハラハラ感も、ほとんどありませんでした。
当日の朝入院ということもあり、全然実感がわかなかったんですよね。
あまりにも普段と変わらないものだから「明日なんだなぁ」と、朝から何度も自分に言い聞かせるように呟いたりもしていました。
夫が「二人きりで食べる機会なんて、しばらくないだろうから」と、ゴハンをごちそうしてくれて、ようやくそこで“いよいよなんだな”と、実感してきた感じです。
明日、もしも逆子が直っていれば、普通分娩(また逆子に戻る可能性もあるので誘発剤をかけて、下からのお産)。
このまま直っていなければ、帝王切開。
人生はじめての手術です。
ここまで直る兆しがなかったので、きっと帝王切開だろうな~なんて、腹をくくっておりました。
夜は二十一時まで飲食可なため、ぎりぎりの時間にゼリーを食べて、ちょっとテレビを見て、早めに夫と共に寝室へ。
夫もソワソワしているのか、普段はとんでもなく寝付きがいいのになかなか眠れない様子。
結婚式の前夜、布団に入り「緊張して眠れないね」と隣を見たら、すでに眠っていたというエピソードを持つ夫でも、さすがに出産の前日となると気が高ぶってしまうようです。
そんな夫は突然もごもごとしだし「明日は……」なんて、遠慮がちに話しかけてきました。
何だ何だと思っていたら「……頑張ってください」と申し訳なさそうに言ってきて、思わず笑ってしまいました。
痛いのは私だけだから「頑張れ!」なんて偉そうに言えないし、手術かもしれない状況で「楽しみだね!」とも言えなくて、その結果がこれなんだろうな~なんて、微笑ましくて。
変に元気が出て「どっちのお産になっても、頑張るよ!」と告げ、眠りに就いたのでした。