第拾肆話 夏といえば海!海と言えば水着!
―――地球 南沢総合病院
転移のエフェクトに包まれたメリーは、目を開けると、白い天井の病室。ヘッドギアは隣のテーブルに置かれている。一気に上半身を起こすと、部屋は薄暗く、窓の外ではこれから太陽が昇ってくるらしかった。
いつの間に寝てしまったのだろう。睡眠により、時間経過で【セイヴァー・ルージュ】が落とされ、定期健診の為に出入りするナースの内の誰かが外し、置いてくれたのだろう。
ふと、何を思ったのかメリー、巳弥は布団から足を出し、夜明け前の肌寒さを感じながらひたりと冷たい床に足を置いた。そして数日ぶりになる歩行を実行しようとベッドから立ち上がり、窓に近寄る。最近は筋トレなどを暇つぶしにしているからか、幾分か筋力が上がったような気もする。
学校や住宅街を挟んだ水平線ギリギリに見える光を反射する水面を視界に入れ、呟いた。
「……海に、行きたい」
思い立ったら直ぐ行動。病室に取り付けられている電話を取り、ナースステーションにつなげる。
『はい、此方南沢総合病院ナースステーションです』
「私、三番病棟の抄神宮巳弥という者なんですが……」
『さ、三番病棟!?い、今担当の者につなぎますので少々お待ちを!』
「あ、はい」
少しすると子供が喜びそうな音楽が電話を通して聞こえ、更に三分ほど経ち、ガチャリという音の後男の声が電話を通して聞こえてきた。
『もしもし。担当の黒井です。どうかなされましたか?』
「あ、私海に行ってみたくて、ダメ……ですかね?」
黒井と名乗った男は電話の向こうで少し考えるように言葉を途切れさせ、言う。
『申しわけないですが、私の一存では決められるようなことではなくて……ですが今週中に返答させていただきます。くれぐれも一人で許可なく外出なされないでください。では』
そう言って電話をガチャリと切られた。「私の一存では決められない」という言葉に少し突っかかったが、特に気にも留める事無く忘れていくのだった。
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―――セーフティーエリア スファーレ
「で、どうしたの?寂しくなったの?」
アリアがニヘラと笑い、対面しているメリーはシステムメニューを開き、増えたアイテムストレージのアイテムを整理しながら愚痴るようにして言う。
「いやさ~、俺アリアと海行きたかったのに、「一存では決められない。」ってはっきりと、それも今まで連絡も無いままで放置されてるんだよ?ほんとに最悪だよ」
人差し指と中指を伸ばしてクルリと手首を回し、ステータスメニューを消す。そしてグダリと机に置かれたスライムのように突っ伏すとアリアは目を丸くし、
「こっちで行けばいいじゃない」
とんでもなく冴えた考えを言った。メリーは弾かれたように立ち上がり、アリアの手を握る。
「すぐ行こう!今すぐ行こう!!マーメイドになっておくれよ!」
欲丸出しの言葉を叫ぶ女と嫌々ながらも少し笑っている女。傍から見れば同性愛者の狂った愛情のようにしか見えないのだが……やっている本人たちは全くそんな事を思われていようとは知りもしないのだ。
「わかった、わかったから。少し時間をもらっていいかしら?」
「ん?いいけど……まぁ、早く海に行きたいから早くしてくれよ?」
「馬鹿ね、女の子の準備には時間がかかるものなのよ」
「そういうもんなのか?」
興奮冷めいらない様子で急かすメリーに頬を少し赤く染めたアリアはそう言って転移エフェクトに呑まれ、何処かに転移していった。先程の彼女の言葉から推測するに自室だろう。
一部始終を見ていた彼ら、スファーレの住人やプレイヤーなどが「お前も女だろう!?」と心の中で思っていたなどと、知る由もなくメリーも自室に転移していった。
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―――十分後 スファーレ
スファーレの町中心に大きな噴水がある。これはこの町の中央から東西南北全ての大通りがぶつかった中心に位置していることから、『恋人達の再開の場』と呼ばれるのだ。本当にこのゲームは非リア充には優しくない。だが、去年まで嫉んでいた彼にとっては幸せな空間になっている。そしてメリーは何時間か掛けて選んだ服を着て(ご想像にお任せする)アリアを待っていた。待ってる間インターネットを開き、web上で出来るチェスで遊んでいた。
メリーの通り名は『グランドマスター』勿論公式ではない為、実際に通り名だけなのだが……先程現『グランドマスター』と名乗るプレイヤーから対戦を申し込まれ、現在進行形で対局しているのである。
この対局は生放送され、今や視聴人数は二万を軽く超えている。滝のように流れるコメントを呼んでいる暇なんぞない。流石現『グランドマスター』を名乗る事だけの事はあるようだ。
脂汗の浮かぶ額を拭う事も出来ず、途轍もない集中力をチェスに注ぐ。そして――
―――――チェックメイト。あなたの勝ちです。
そう、メッセージが浮かび、途轍もない達成感がメリーを包んだ。
「よっしゃあああああああーーーーー!!!!」
人目を気にせず嬉しさを体全身で表し、両手を空に突き上げた。すると周囲のプレイヤーも生放送を見ていたのだろう。ゲーム内『グランドマスター』が現実の現『グランドマスター』相手に勝利を収めた瞬間に途轍もない大声で叫んだのだ。正体がばれても仕方がないのだろう。周囲のプレイヤーが祝福してくれた。そして更に胴上げまでも。悪い気は、一切しなかった。
「……ねぇ、なにしてるの?」
熱のこもる『恋人達の再開の場』で一際冷えた声が歓声を突き破ってメリーの耳に届く。ピタリと止む歓声、先程まで熱狂の渦であった場所とは思えない程の冷気が吹き抜ける。
その中で空気の読めてない筋骨隆々の男が言う。
「こんなめでたい瞬間なのに水を差すなよ、今な、非公式のゲーム内で『グランドマスター』って呼ばれる奴が、公式な試合で本物の現『グランドマスター』相手に勝ち星を挙げたんだよ!」
興奮冷めいらないように語る男は何処か憧れた、キラキラとした目を空に向けていた。それは兎も角、これでは不味い。何故ならメリーはこの後海に行くと約束していたのに全く知らないところで現『グランドマスター』と対局し、更に勝ってしまうとは、流石のアリアでも堪忍袋の緒が切れたようで、素早くシステムメニューを出すと、アイテムボックスからPVPで使用した細剣を――
「って、マジで剣出してんじゃねぇよ!?しかも俺に向かって切っ先を向けんじゃねぇ!!」
胴上げ状態から抜け出し、切っ先を向けてくるアリアに対し、物凄いスピードで逃げた。それはもう、大通りのど真ん中を音速で駆け抜けるプレイヤーなんぞがいたら、それはもう二度見するだろう。そんなこんなで、海へと行きそびれたメリー等でした。
ちゃんちゃん。
「ちゃんちゃんじゃねぇええええええ!!!」
全く、アリアちゃんを困らせるなんて悪い奴ですね。
タイトル詐欺で申しわけない。水着回はまた次の話、ということでお願いします。
ではでは、みんなもポ〇モンゲットじゃぞ~!
そんなこんなで元最強を今後もよろしくお願いします。




