第拾参話 星降りの呪剣、折れた聖剣伝説の始まり
―――セーフティーエリア スファーレ
スファーレの商店街、此処には珍しい物から、メジャーな物まで全て揃うアイテムコレクターたちには大人気のスポット。昔はメリーもその一人で、平日の午前中からよくこの商店街を物色したものだとメリーは思い出に浸る。
「ねぇ、次は何処に行く?」
ニコニコと笑みを浮かべたアリアがメリーの視界いっぱいに広がる。思い出に浸っていた為に気付かず、驚き仰け反った。
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。少し昔を思い出しててな……」
商店街の先を見つめ、拳にチカラを込める。爪が掌に刺さったのか出血のエフェクトが地面に落ちるのだが、勿論セーフティーエリア内では強制的に痛覚伝達装置がオフになるので気が付かない。
「……まーたそういう表情するー」
アリアからの言葉に力の籠っていた拳から力が抜け、メリーはアリアに呆けた表情を晒した。それはアリアに言われた言葉の意味を上手く呑み込めていないからだ。それほど今言われた言葉は今までのアリアからは想像も出来ないくらいの棘を感じ取ったからだ。
あまりの声音に黙り込むメリーに対し、アリアは大きな溜息を吐いた。
「まぁ、私に言えないことなら仕方がないけれど……もし、相談するような事があったら一人で抱え込まないでちゃんと私を頼りなさいよ」
その眼はまるでメリーの行動全てを肯定するように微笑み、アリアは歩を進める。
なにも、言えなかった。
何かわからない、ただ気分が沈み、何も言わずに前を歩いていくアリアの背中をどんよりとした目で追う。得体の知れない感情に混乱しながらもアリアをゆっくりとした足取りで追いかけたのだった。
あの時、一体何に苛立ちを覚えたのか分らぬまま……。
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―――フィールドエリア 魔獣の巣窟
あの後直ぐに買い物を終え、ストレージとアリア個人が所有している倉庫の中にアイテムを仕舞い込み、フィールドに出た。鬱葱と生い茂った木々がまるでその場所を避けるかのようにして出来た一つの空間に辿り着いた。
「此処は一体……」
メリーは目の前に広がる光景を見て息を飲んだ。其処は一見して深そうなで、透き通る湖を囲うようにして花畑が出来ており、小さな人影――妖精が舞っている。だがそんなことより目を引くのは湖に右手を突っ込んだ一人の見覚えのある少年だ。身に着けている服は泥だらけでよく見ると頬に細い枝で切ったのだろう切り傷が見える。
「アーサー…ッ!」
傷だらけの少年――アーサーの容体を確かめるために駆けだした。そんなメリーを発見した妖精は逃げるどころか立ちふさがったのだ、メリーの前に。だがそんなことではメリーの疾走を妨げる事は出来ない。バリケードになる事すら許されず、木の葉のように突風に飛ばされた。
メリーは飛ばされた妖精は既に眼中に無く、目に映るアーサーだけを見つめ、膝を着いた。アーサーに腰に付いているポーチの中から引っ張り出した『上級ポーション』を振りかけた。
『上級ポーション』の効果は直ぐに現れた。頬にあった切り傷は塞がり、出血は止まっていた。ホッとひと息入れる暇も無く、剣を抜刀し敵意を示す。しかし妖精たちは此方に近付かず、寧ろ畏怖しているのだと感じる。その状況を怪しみながら腕に抱えたアーサーを強く引き寄せる。
「オラてめぇら!いつでもかかってこいや!!」
チンピラのような声を上げて妖精を威嚇する。だが妖精たちは臨戦態勢に入るどころか、此方に気を遣うように下がっていっているようだ。その行動に首を傾げた刹那、空から巨大な剣が一本降った。巨大な剣はその重量で空気を裂き、地を割った。とんでもない地震に苛まれながらアーサーを離すまいと胸に抱き、揺れが収まるのを待つ。
『ほぅ……。汝、我らが始祖の子を庇うか……』
強大な威圧を目の前の剣が放った。一言一句、全てを言い終えた頃にはメリーの耐えられる圧ギリギリまで高まっていた。剣が淡い青色に発光し、言葉を発した。不思議な感覚と威圧に耐えに耐え、言葉を返す。
「この子は……俺が、助ける……ッ!」
圧に耐え切れなかった部分もある。その一つが瞳。瞳は充血し、血が滴る。紅の血が頬を伝い、顎から地面に流れ落ちる。重く、息の詰まる空気が急に軽くなり、浅い呼吸を繰り返す。
『我の圧を受けても耐えるか…、面白い。我が御業を授けるとしよう。〈血を吐き、倒れ、人の上に立つ者の資格を持ちし者よ。我、真名を【星降りの聖剣】の名において我が権能、神の御業を与えたもう。受けよ、『Marylean』〉』
キラキラと星屑のエフェクトがメリーに降り注ぐと、システムからのアナウンスが響く。
『初めて神と交信し、友好関係を得たプレイヤーが出現しました。なお、この情報は秘匿され、他言無用とします』
『ユニークスキル『神具宝庫』を取得しました。なお、この情報は秘匿されます』
『全プロセスオールグリーン。クエスト:謎多き少年を強制的に受注します。……受理されました。クエストを開始します』
星屑が消え、大量に届いたシステムアナウンスに頭を片手で押さえながら『星降りの聖剣』と名乗った剣に問いかける。
「お前、一体何をした……?」
『碌な事をしていない、という事だけは言える。だがもう我には時間が残されていないのだ。そして今や我は『星降りの聖剣』ではなく刀身に呪詛を彫り込まれた呪剣、呼ばれたことのある名は『星降りの呪剣』。忌々しい呪いで我の神通力は極限に低下している。故に汝に与えられた権能はそれっぽっちだけなのだ、許せ』
「つまりお前は俺に何を望んでるんだ?」
『我は汝の遺伝子が組み込まれている子が欲しい。詰まる所、お前の子供が欲しいということだ』
一体、この剣は何の話をしているんだろうか?ゲームでは現実のように子は生せない。何故ならそれはゲームだから。簡単な話だ。電子の世界で子を作った所で何が生まれる?得体のしれない何かが生まれる他ない。故にこの剣の言葉には首を傾げるしかなかった。
「俺は子を残せないぞ?だって此処はゲームだろう?」
『げーむ…?一体汝は何の話を――ッ!?』
剣が喋ろうとした言葉を強制的に遮った者がいた。それは黒く、漆黒を纏い、絶望を凝縮したような禍々しい鎌を担ぎ、メリーの背後に立っている。
メリーは振り向き、その姿をした何者かの容姿を捉えたかと思うと、黒き残像を残し、消えた。突風が吹き荒れ、確かにあった背後の物質が消えた。振り向き、背後になった物はただ一つ。巨大な、先程まで会話を交わしていた剣だった。剣は無残にも真っ二つに分かたれ、核を砕かれていた。
「一体、なんだってんだよ、この世界は!!」
アーサーを抱えたメリーが最後に見た光景は、転移のエフェクトを跨いだその先、黒き絶望の化身の残像だった。




