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お姉さまの車が止まったのはとある米軍基地の敷地内でした。止まった車からサングラスをかけたお姉さまが降りてきたのを見て、天さまがその前に着陸しました。
「引き分けのようだね」
「そのようですわね」
そう言ってお姉さまはサングラスをぐいっと上げてカチューシャのように髪に差しなおしました。格好良くて素敵なのですが、ちょっと目が回って気持ち悪いのでそれどころではないです。天さまが体を制御しているので平気そうに立っていますが、中身は限界なのです。
よく見ると、墨ちゃんも美雷さんもぐったりして座り込んでいます。それから、黒塗りの車からも誰も出てこようとしません。
「お、お姉さま、誘拐犯の人たちは?」
「ん? あ、あの車に乗ってた人たち? それがどういうわけか、私が運転していたらみんな寝てしまったわ」
窓から中をのぞき込むと、そこには黒服の死体が3体……ではなく、黒服のエージェントが3人気絶していました。恐らく、みんな車酔いか恐怖に気絶したかのどちらかだと思われます。
「この人たちはどうしてお姉さまを誘拐したのでしょう?」
「うん。それについてはここで詳しい話を聞かせてくれるということらしいわ」
ここ、というのは米軍基地のことです。何か軍関係の事件に巻き込まれることになるんでしょうか? とんでもないことにならなければいいですけれど。主に米軍が。
しばらく待っていると、墨ちゃんも美雷さんも黒服の人たちも動けるようになったので、全員で米軍基地内の司令官さまに会いに行くことになりました。
司令官さまは金髪碧眼の恰幅のいい外国人の人でした。部屋に入るなり"Hello, Nice to meet you!"と言いながら握手を求めてきたのには驚きましたが、現代の知識に外国人とはこういうものという知識があったので悲鳴を上げたりはしませんでした。
"Are you the Princess Kaguya?"
"Yes, sir."
司令官さまは相手が日本人であるにも関わらず英語一辺倒で困りましたが、お姉さまはさすが英語もペラペラで事なきを得ました。私はどうにか会話についていくのがやっとでしたのに。墨ちゃんと美雷さんが白目を剥いていたのは内緒です。
ということで、ここからの会話はtranslated by Yukinoでお送りいたします。
『天児屋命という者を知っていいるかね?』
『雨がどうかしまして!?』
米軍司令官さまの口からいきなり懐かしい神様の名前が出てきたときには驚きました。お姉さんもさすがに驚いたようで目を丸くしています。
『昨日のことだが、その者が我が国の戦略ミサイル原子力潜水艦をハイジャックしたという連絡が入った』
『は?』
目が点というのはこのことを言うのだと思いました。雨さま、何やってるんですか!?
『その者から原潜の対価として要求されたのが、理想の彼女を連れてきてデートさせろということだった』
『理想の彼女ですか?』
『うむ。読み上げる。漆黒色の黒髪黒目。腰まで届く長髪。スタイルはぼんきゅっぷりっで特におっぱい超重要。肌は抜けるように白く、目は切れ長で大きく、唇はやや小ぶりでも血色色艶がよく、頬には朱が差す。立ち姿がきれいで、性格はお姫様然としていてちょっとS気が強い。言葉遣いは美しいが、たまに男っぽい言い方が混じることがあり、それが逆にドキッとさせられる』
『はぁ』
『この条件に最もよく合致するのがかぐや姫、あなただったのだ』
『雨のやつ、何を考えて……』
『どうかかぐや姫、私たちに力を貸していただきたい』
司令官さまはそう言って深々と頭を下げた。司令官さまといえば近衛中将さまのようなものなので、これほど深く頭を下げるということは相当なことです。




