死ぬんじゃありませんわ!
久しぶりに作りました氷像は、我ながら惚れ惚れする出来ですね。どうせ魔術でどうにか回復出来るのでしょうから、溶かすだけで良いでしょうかね?
「口ほどにもありませんわね、私はまだ全力ではありませんわ」
ギャラリーに聞こえるように言ってから氷を溶かしました。若干血液も凍っていたので無理やり循環させておきます。おそらく痛いとかそのようなレベルを遥かに超えた苦しみに見舞われると思いますが、気にする気はありません。煽ってきたのはドグレイさんの方ですしね。
「ボサっと見ているのは構いませんが、放っておきますと彼、死んでしまいますわよ?回復を邪魔する気はありませんもの。お早めにどうぞ」
なんだか、周りが唖然として誰一人として動かなかったので催促してみたんですけど、まだ動かないのは何故でしょうか?マジで死にますよ、というより心臓が止まってますので、私が強制的に循環させてるのを止めたら終わりますよ、これ。
しかも視線で早くしろと言おうにも視線を向けた先から腰抜かして恐慌状態ですからね。やりすぎたのでしょうか?ちょっと考察してみましょう。
いつもの流れで調子に乗った新人をギルマスがお灸を添えに動き出したとたんフルボッコからの高速で氷像化。
……あ、やべえ。普段の様子を知らなくてもやばいのが分かります。とりあえずこのまま彼に死なれると本気でやばいです。今よりさらにやばくなります。なんとしてでも復活させないといけませんね。
そうですね、ここでいきなり心臓マッサージしに行っても確実にトドメを刺しに行くか、死体で弄ぼうとしていると考えられるかの二択ですので、少々苦労しますが遠隔で蘇生を試みてみます。
まずは仰向けで倒れているままだと心臓マッサージしにくいので、一旦浮かせます。次に心臓を構成している水分を操って、鼓動を再現―――さすがに初めてですし、鼓動を意識したことは無いのでギャラリーの鼓動を確認して、それを真似―――しました。呼吸は適当に、肺の中の空気を循環させておきます。
これを5分程やっていたら、奇跡的に自発鼓動が始まりました。案外やってみるものですね、普段奪う側でも蘇生は出来ちゃうものです。
「……っぐはっゴホっ!」
「目が覚めまして?」
きっと全身が痛むのでしょう、顔が酷くゆがんでいます。彼が回復するまでしばらく待っていてあげましょう。この後彼の口から問題が無かったことを言わせれば、私も晴れてこの世界で文明的な活動が可能になります。
・-・-・-ゴロツキA・-・-・-・-・-・-・-・
最初はまた自信過剰な新人が来たのかと思って、いつも通りに脅してみたんだ。いつも俺が脅し役だしな。恨まれもするし、若干心苦しいが、新人の為に俺は犠牲になっている。
だが今回の嬢ちゃんは頭がおかしいんじゃないかと疑いたくなるようなやつだった。
「あら、なんて屈強な方でしょう!あなた、私と一緒に活動するつもりはありません?」
長年脅してきたが、初めて好意的な反応をされた。それだけなら、可愛い嬢ちゃんだったし嬉しくなるはずなのに、どこと無く不気味な雰囲気がしたせいで引き気味に対応してしまった。
その後の受付との話を見てたら、異色の魔術と言う。当然興味が湧いてその場にいたほとんどの奴が試験を見学しに、当然俺も見学するためについて行ったさ。
いつも通りに新人の全力を出させる流れになったのに、嬢ちゃんはそこそこ離れた所で腰だめに拳を構えるだけだった。
ありゃどうみたって素人丸出しだし、駆け寄るのなら遠すぎるしこしだめにする意味もない。当然ギルマスもそれを指摘したんだが、嬢ちゃんはハッタリを……いや、ギルマスの様子がおかしいな。
……っては?魔力だって動いてないのに、魔術が、魔術なのか?とにかく何かを受けてギルマスの動きを止めているらしい。これは確かに異色だ、ってか異常だな。
でもギルマスの馬鹿力の前には無駄だったみたいだな、あっさりと破られて驚いてやがる。慌てて氷柱を飛ばしたりしているが、スイスイ避けられ……て………………は?
どういうことだ、ギルマスがいきなり凍りつくなんて、意味が分からない。相変わらず魔力は微動だにしないし、ギルマスの動きだって一瞬で静止した。
と思ったら氷が解けてギルマスが出てきたけど、バタリと倒れちまった。嬢ちゃんが何かを言ってたが、動転してて聞き取れなかった。
しばらく呆然としてたら、また何の前ぶりも無く、ギルマスの体が浮かび上がった。何が起きるのか、固唾を呑んで見守っていたら、ギルマスが咳き込んで落っこちた。
「目が覚めまして?」
その一言が、俺にはまるで悪魔が楽しそうに玩具で遊んでいるかのような、そんな一言に聞こえちまった。
・-・-・優衣-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
しばらくのた打ち回っていたドグレイさんですが、やっと起き上がってくれました。
「……ぐぅ、俺はいったい……」
「先ほどまで凍って死んでいましたわ」
親切な私は真実を教えてあげる事にしました。後で他の人から無様な負け様を教えれられるより、負けた本人から言われたほうが後には残りませんしね。それと先ほどまでの状況ですが、細かく言えば死んではいませんでしたが、ほとんど死んでいるも同然でしたし、説明としてはこれでいいと思ってます。
「…………………………」
黙りこくってしまいました。やっぱり気絶と言っておいた方が穏便だったでしょうか?周囲は逆にどよめいてます。さっきまでは静かだったのに、今度は煩いですね。よくよく聞いてみると、悪魔だ、なんだと聞こえます。他には、神だとか言っているお馬鹿さんもいます。
「この試験はどうなんです?一応ギャラリーの方々に回復を促しましたけれど、唖然としたり恐慌するばかりで死んでしまったので、蘇生したのですわ。」
やっぱりだんまりです。これ、実は蘇生に失敗して立ったまま死んでいるなんていう落ちではありませんよね?……大丈夫です、ちゃんと心臓は動いています、生きてます。
「…………そ、そうか。蘇生魔術が使えるのか、嬢ちゃんは」
「使えませんわ。一部の特殊な条件に合致すれば、今回のように蘇生することは出来ますが、まあほぼ不可能ですわ。それより、試験の話をするべきですわ。それともこのギルドでは人の商売道具を全て晒さなければいけませんの?」
喋るのにも苦労しているようなのに、人の質問に答えずに違う事を聞いてくる彼には若干というかそこそこストレスがたまりますね。




