第九話 建国祭II
リュエル君が居なくなってすぐに、父様の元へ行った。
父様はすぐに兵士達を城壁付近に配置し、騎士達にリュエル君の捜索をさせた。
僕はずっと俯いて座ったまま、大人達の会話を聴いていた。
初めてのお友達が攫われた……
アスリー伯母様は、目を赤くしながらも涙を流さなかった。
だから僕が泣く訳にはいかないのに、悔しくて悔しくて……喉の奥がチクチクとして、苦しくなった。
「アル……」
「ルーカス兄様……」
ルーカス兄様の優しい目が、僕は悪くないって言っている気がした。
「もう遅いから、寝ようか。アル」
僕は首を横に振る。
ルイス兄様に抱き上げられて、王城のルーカス兄様の部屋に入ると、兄弟3人でベッドに転がった。
兄様達の手が暖かくて安心したのか。
兄様達以外いないから糸が切れたのか、ボロボロと涙が溢れて止まらなくなった。
リュエル君が攫われたのは、僕のせいだ。
アレクシスさんが居るから、王城内だから大丈夫って勝手に思い込んで、何が起こるか分からない事は僕が1番知っているのに。
僕がリュエル君を街に連れ出さなければ、何か変わったのかな。
僕が街で怪しい人を見つけてすぐに、捕まえていたら。
僕が王城へ戻って、リュエル君と離れなければ何か変わったのかな。
昨日の夜、光を見た時、ちゃんと調べていれば……何か……
僕が……
四歳の僕に何が出来るんだろう。
僕が未来を変えれると思ったのに、変えてしまったら、別の人が危険な目に遭うのかな。
兄様達も妹も父様も母様も、ニアもみんな、みんな失いたくないっていうのは贅沢なのかな。
多分全部間違いだったんだ。
「アル、アルが何を抱えているのか、私には分からないけれど、きっと大丈夫。大丈夫だよ」
「それに、リュエル殿下も無事だって!なぁ、兄上!」
「うん、無事だよ」
2人の根拠のない言葉に縋ってしまいたい。
「ルーカス兄様、ルイス兄様。僕が死ぬまで死なないで……ずっと生きてそばに居て……何処にも、行かないでっ」
二度の人生で見た、2人の最期を思い出して、更に涙が溢れる。
一度目……
ルーカス兄様は聖信国の聖女に陥れられて、愛した人に胸を刺されて亡くなった。
僕は聖女が帝国の王子と繋がっているのを知りながら、聖女と居るルーカス兄様が、本当に幸せそうに笑っていたから、僕は見て見ぬふりをしたんだ。
それが兄様の幸せだと、思ったんだ……
ルーカス兄様を殺したのは聖女だけれど、兄様は僕のせいで死んだ。
兄様のためだなんて勝手に思い込んで、僕は何も言わなかった。
ルイス兄様は、父様亡き後、軍を率いて帝国軍の進軍を阻止しようと自ら最前線へ行き、ドゥウム騎士に扮した帝国兵士に後ろから斬りつけられた。
本当は、国王になったルイス兄様ではなく、僕が戦地に赴く予定だった。
けれど僕は、人を殺めることが出来なかった。
何度軍を率いて戦地へ行っても、剣を振り下ろすことが出来なかったんだ。
いつもリアに助けてもらっていた。
その報告を受けていたルイス兄様は、僕の代わりに戦地へ行って亡くなったんだ。
僕が根性なしだから、ルイス兄様も亡くなった。
僕は12歳で1人になって、13歳で国王になった。
ルーカス 享年19歳
ルイス 享年24歳
二度目……
僕はルーカス兄様と聖女の婚約をさせないように根回しをして、ルーカス兄様は僕が死ぬ半年前までは生きていたんだ。
ルーカス兄様は国王になって、2人で家族のお墓に花を供えて、これから2人で国を守ろうと約束した日のことだった。
僕は全ての料理を解毒して食事をしていた。
でも、昔から王城で仕えてくれていた使用人が作って持って来たデザートに、僕は油断して魔法をかけなかったんだ。
ひとくち、食べた瞬間。
僕はすぐに吐き出して自分に治癒魔法を使った。
ルーカス兄様は、血を吐いて倒れていた。
僕は解毒をして治癒を続けて、一命は取り留めたけど、夜、捕えていた使用人が牢を抜け出し、眠っている兄様を刺した。
騎士が何人も見張っていたのに、どうやって侵入したのかどれだけ調べても分からなかった。
僕は国王のルーカス兄様を裏で支えながら、何年も何十年も暮らしていけると思った。
前回亡くなった年から、7年も経ってもう大丈夫かもと、心の何処かで思ってしまっていたんだ。
ルーカス兄様を刺した使用人は、刺してすぐ自害していた。やるせなかった。
僕のこの怒りはどうしたら良いのかと、その使用人を空が白けるまで眺めていた。
息が苦しくて喉の奥がチクチクと痛むのに、不思議と涙は流れなかった。
ルイス兄様は、帝国貴族学院へ通っていた際、
何者かに操られた帝国の男爵子息3人に襲われ、意識が薄れる中、地下牢に入れられた。
食事も与えられず毎日毎日他国の貴族子息から殴られたり蹴られたりと、暴力を受け続けて亡くなった。
この時は、一度目にルイス兄様が亡くなった時より3年も前だったから、僕は油断していたんだ……
ルイス兄様が行方不明になった日から、僕とルーカス兄様は毎日毎日毎日、探していた。手は尽くしたのに、見つけられなかった。
帝国貴族寮の地下に、魔封じの部屋があってそこに監禁されていた。
外からも中からも魔法を使えない部屋。
ルイス兄様は、どんな思いでその部屋に1人、過ごしていたのかな。
ルイス兄様が亡くなって、遺体がドゥウム寮の目の前に置かれていた。
その日のルーカス兄様の顔を僕は多分、ずっと忘れられない。
マッシュに呼ばれて外へ出たルーカス兄様は、ルイス兄様を抱きしめて叫んだ。
怒りと悲しみの混じった声だった。
その声で目を覚ました僕が、兄様の元へ行くと騎士達に見えないよう止められた。
騎士達の隙間から見えたルイス兄様の身体は、あざだらけで、遠目から見ても骨が折れているのが分かった。
ルーカス兄様の顔には、何があっても明るく笑ってくれていたいつもの兄様の面影は無く、怒りに満ちた目をしていた。
裁判で加害者生徒は無罪となった。
人を殺しておいて、無罪なんて有り得るのかとルーカス兄様は何度も何度も進言した。
僕は隣でずっと座っているだけで、帝国貴族を眺めていた。
『死ねばいいのに』そう呟いていた。
そんな僕を見て、ルーカス兄様はそれ以降ルイス兄様の話はしなかった。
僕が壊れたと思ったのかもしれない。
大丈夫だったよ。大丈夫だったんだよ。大丈夫、大丈夫。
ただ本当に、正面に座っている貴族たちが、ヘラヘラと笑っていて、口をついて出てしまっただけなんだ。
『ルイス兄様と同じように死ねばいいのに』って。
ルーカス 享年26歳
ルイス 享年21歳
兄様達が何したって言うのかな。
ただ、ドゥウムという森は昔、強い魔物が多く、誰も開拓したがらなかった土地だった。
けれど曾祖父がその森を開拓して、国を作った。
その森が、開拓してみたらダンジョンも多く、有益な土地だったからって、後から欲しがって。
軍事力の高いドゥウムが邪魔だからって……
何度も何度も、家族を殺した人達を殺そうと思った。
けれど、死ぬ時の痛みを知ってしまった僕は、剣を握れなくなった。
震えが止まらなくなるんだ……体が熱くて、血がドクンドクンと音を立てて流れて、汗が止まらなくなる。
何も食べていなくても、吐き気を催した。
息が苦しくて、何度もリアに抱えられて部屋へ戻った。
ただ僕は、大切な人に生きていて欲しいだけなのに。
守る為の剣を握れない……
僕は泣き疲れていつの間にか眠っていた。
僕は知らないけど、ルーカス兄様とルイス兄様は目を泣き腫らして眠った僕を、抱きしめながら眠ってくれていた。
──建国祭四日目
僕が目を覚ますと、ルーカス兄様が僕を抱きしめて転がっていて、ルイス兄様は紅茶を飲んでいた。
「おはよう、アル」
「苦しいです、ルーカス兄様」
「えぇ〜!!アルと一緒に寝るの初めてだから、離れたくない〜!!」
僕はそんな気分じゃないのだよ!ルーカス兄様!
「リュエル君は?」
ルーカス兄様は気まずそうに目を逸らす。
ルイス兄様と目が合うと、兄様は首を横に振った。
「そっ、か」
「ご飯食べようか、もうお昼だよ」
「お昼!?」
僕は13時間以上眠っていたらしい。
レオが迎えに来て、僕は兄様達と別れ別棟へ戻った。
顔を洗って、着替えをする。
ご飯を食べる前に、アレクシスさんの様子を見に行った。
アレクシスさんも泣いていたのか目を赤くしている。
「アレクシスさん、身体はどうですか?」
「はい、アルフィ殿下。おかげさまで傷も治り、元気です。ありがとうございます」
「良かったです。昼食一緒に食べますか?」
「いえ、申し訳ございません。食事が喉を通らなくて……」
「そっか、わかりました。じゃぁスープだけでも食べて下さい。後で部屋まで持って行かせますから」
「はい、ありがとうございます」
扉を閉めると、微かに鼻を啜る音が聞こえた。
今回、大人達の話し合いでは、アレクシスをどうするのかという話もちょくちょく出ていた。
けれど、ここはドゥウム王国の王城。
王城内で賓客の王子が攫われた以上、ドゥウムの警備責任もある。アレクシスだけの責任ではない。
それに攫われた場所は、僕の別棟。
僕の責任だ。
広間へ行くと、ルーカス兄様とルイス兄様が僕を待っていた。
席に座ると、ダインさんが料理を持って来てくれる。
「ダインさん、後で食べやすいスープを、アレクシスさんの部屋に持って行ってください」
「かしこまりました。アルフィ様」
いつも美味しいダインさんの料理は、味がしなかった。
「リアは、何処にいる?」
「そ、それが。リアンは帰って来ていません」
レオが気まずそうに頬を掻きながら、剣を触る。
「え?」
リアは、居なくならないよね。
昼食も食べ終え、いつもなら忙しくて自室に戻る兄様達は、僕を気遣ってか、ここでお仕事をしている。
「僕、お祭り行ってくる」
「うん、私も一緒に行こうかな」
「ううん!1人で大丈夫!!」
僕が扉を開けて出ようとした時、ダインさんが慌てて走って来て、ぶつかってしまった。
「あたた……」
「も、申し訳ありません!!アルフィ様っ!!た、大変なんです、わ、私どうしたらいいか分からなくて!早く来てくださいっ!!」
「うん?」
僕はレオに抱き上げられ、ダインさんの後を追った。
ルーカス兄様とルイス兄様も付いて来ていた。
アレクシスさんの部屋に入ると、扉の前に割れたお皿とスプーンが落ちていて、ベッドには血まみれのアレクシスさん。
机には遺書とフロレア王国騎士の紋章、それに部屋を汚してしまうからと金貨を数枚置かれていた。
僕は急いでポーションを出して、治療を試みる。
「ダメだっ。ダメだよ、アレクシスさん!」
首を剣で切っていて、即死だったのだろう。
ルーカス兄様はすぐに状況を理解して、人を呼びに行った。
僕は自分が【治癒魔法Ⅲ】を使えることを思い出して、治癒魔法を使う。
「治って、治って……!」
必死で魔力を込めるが傷が治るだけで、息が戻らない。
【聖魔法Ⅰ】……
人前で使うのはどうかと思うけど、やってみるしかないよね。
「アレクシスさん、リュエル君が帰って来た時、こんなの悲しむよ……」
薄っすらとアレクシスさんの目に光が戻った。
亡くなってそんなに時間が経っていなかったから、良かった。
僕はアレクシスさんの口に、回復ポーションを大量に流し込んだ。
しばらくすると、アレクシスさんは咳き込んで、意識を取り戻した。
「アレクシスさん!!」
「私……死んだんじゃ……」
「リュエル君の為にも生きてください」
「も、申し訳ありません!!」
アレクシスさんは僕に向かって、土下座をした。
「そ、そこまでしなくても」
「また侵入者を撃退出来ませんでしたっ」
「え、侵入者!?」
「はい。私は覚悟を決め、リュエル様を見つけに街へ行こうと剣を持った時でした。その時使用人が入って来て、襲いかかって来たのです」
アレクシスさんが言うには、ただの使用人とは思えないほど、剣術に長けていたそうだ。
まぁ、王子の護衛を務められるだけの騎士を、1人で打ちのめせるんだから、相当強いよね。
「あと、私文字は書けません!!」
「そんな誇らしそうに言うことではないけど……」
アレクシスさんは少し変わった人なのかもしれない。
おそらくアレクシスさんを襲ったのは、正体を見られたと思ったから口封じに来たのだろう。
それに使用人……もしかしたらずっと前から、王城に潜り込んで居たか?
あり得る、前回のルーカス兄様の時もそうだった。
何年も何十年も信頼を得続けて……
ルイス兄様に頼んで、王城から誰1人出さないよう父様に伝えてもらい、僕は別棟にいる全ての使用人を集めた。
僕が自分で連れて来た人達はとりあえず除外して、残ったのはニアと、あと4人。
みんな違うと思いたいが、一応ね。
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名前 : ニア
年齢 : 24歳
誕生日 : 5月8日
レベル : 36
魔力量 : 003250/003250
−固有スキル−
【裁縫Ⅷ】 【調理Ⅶ】 【剣士Ⅶ】
−所持魔法−
【風魔法Ⅱ】
アルフィ・ドゥウム第三王子の専属メイド。
父はドゥウム王国騎士団に所属していた騎士、10年前に戦死している。
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名前 : ニーナ
年齢 : 20歳
誕生日 : 2月23日
レベル : 16
魔力量 : 005680/005680
−固有スキル−
【調理Ⅸ】 【身体強化Ⅰ】 【裁縫Ⅲ】 【毒耐性Ⅰ】
−所持魔法−
【土魔法Ⅰ】
アルフィ・ドゥウム第三王子の専属メイド。
兄が騎士になる夢を叶えるため、5年前にフロレア王国からドゥウム王国へ移住した。
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名前 : セドリック
年齢 : 58歳
誕生日 : 11月28日
レベル : 162
魔力量 : 056800/056800
−固有スキル−
【身体強化Ⅸ】 【剣聖Ⅹ】 【魔剣士Ⅹ】 【頭脳明晰Ⅷ】
【回復速度上昇Ⅴ】 【毒耐性Ⅵ】
−所持魔法−
【火炎魔法Ⅹ】 【土魔法Ⅵ】
アルフィの祖父の代から騎士団で活躍していた元英雄騎士。
騎士団を引退後、老後の楽しみとしてアルフィの指導役兼使用人を務めている。
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名前 : テオ
年齢 : 21歳
誕生日 : 8月20日
レベル : 20
魔力量 : 001250/001250
−固有スキル−
【調理Ⅴ】 【頭脳明晰Ⅱ】
−所持魔法−
【土魔法Ⅱ】
ドゥウム王国兵士団第五部隊団長の息子。
アルフィ・ドゥウム第三王子に仕える使用人。
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名前 : アレクス
年齢 : 23歳
誕生日 : 6月17日
レベル : 79
魔力量 : 003860/003860
−固有スキル−
【身体強化Ⅸ】 【魔力向上Ⅷ】 【剣聖Ⅸ】
【異常スキル耐性Ⅸ】
−所持魔法−
【風魔法Ⅸ】 【水魔法Ⅹ】
元ドゥウム王国騎士団第二部隊隊員。
戦地で負傷し、後遺症により騎士団を引退。
現在はアルフィ・ドゥウム第三王子に仕える使用人達の指導係。
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別に誰も怪しくない。
というかこの中には居ないでほしい……
アレクシスさんから、詳しい話を聞いていたアレンが、侵入者の特徴などをメモして来てくれた。
「ありがとう、アレン」
メモを受け取って確認すると、アレクシスさんを襲った使用人は、女性でメイド服、ふわふわの赤毛でフードを深く被っていて、顔はよく見えなかったそうだ。
ふわふわの赤毛で緩く三つ編みをしているのは、ニアだ。
でもニアは……
とりあえず、使用人の全員に別棟から出ないように伝え、僕はシオンと街に出た。
みんなにはすごく止められたけど、レオは有名人だしバレないように外へ出るのには不向きだ。
「シオン、これから見ることは口外禁止」
「かしこまりました。アルフィ様」
僕はまず王都の中央広場へ行き、人気のない路地でスキルを使った。
金貨ルーレットで獲得した【探索Ⅸ】。
「サーチ……」
僕は目を瞑り、地面に手を付け魔力を流し込む。
何者かが猛スピードで近づいてくるのを感じ、僕は咄嗟に手を離しサーチを切ってしまった。
「シオン!!」
「はい!」
シオンは刀を抜き、構える。
人影が近づいて来て、シオンは刀を振り下ろす。
刀を杖で止めた魔法使いのような女性は、ミレニアだった。
「あ、アルフィ様!?」
「ミレニア!!」
ミレニアは街を捜索していたところ、異様な魔力を察知して急いで来たそうだ。
「アルフィ様、申し訳ない……」
「ミレニア、今まで探していたの?」
「はい」
もうリュエル君が攫われて、15時間以上……
ずっと探し回ってくれていたのか。
「西区画の広場で魔力の痕跡が途絶えて、手掛かりが無くなってから10時間ほど手探りで探していた」
「そう、ミレニアはまず城へ戻って休んで」
「いえ、一緒に探す」
「わかった、じゃぁすぐ見つけ出そう。ミレニアは建物の上から見張ってて」
ミレニアは頷き、建物の上に登って行った。
「サーチ」
もう一度サーチを使う。魔力がごっそり吸われ、汗が地面に落ちる。
何百人、何千人……何十万人もの足音、話し声が次々に流れ込んでくる。
『これ美味しい!』
『お母さん!あれ欲しい!!』
『ふふっ、良いわよ。今日は特別よ』
『早くしろ!!』
『店長!食材が足りません!』
『なんとかしろ!あるもので作るぞ!』
『ちょっとこれ高すぎじゃねーか?』
『お客さん、これは正規の値段ですよ』
『お頭、この坊ちゃんどうすんですかい?』
『祭りの最終日に始末する。祭りの間は雇い主との取引の為に生かしとけ』
『わかりやした』
「居た、見つけた」
「見つけたのですか?アルフィ様」
「うん、ちょっと待ってここは……何処だろう」
少し低い場所に居る?地下……この街に地下なんてあったっけ。
「北地区の……何処か……地下」
シオンは僕を抱き上げ北地区の広場へ向かった。
「アルフィ様」
「ミレニア、リュエル君と同じ部屋に男4人。お頭って呼ばれてる人も居た。あと黒幕は別で居るみたいだから生かして捕らえる」
「わかった」
「北地区の地下だよ」
走りながら、隣に来たミレニアに情報を伝えた。
ミレニアは別行動で、捜索にあたる。
片っ端から範囲を調節しつつサーチを使う。
『俺、祭りでメシ食ってくらぁ』
『え?お頭!?僕1人にしないでくださいよ!』
『ガキ1人の見張りくらい、1人でできるだろ。この隠し部屋は誰であっても見つけらんねぇんだからよ』
『そんなぁ』
僕が路地でサーチをしていると、ガチャッと酒屋の扉が開いて、凄く強面のおじさんが出て来た。
おじさんが見えなくなると、僕とシオンは酒屋に入った。
そこは普通に営業している酒屋で、なんら変わった所は無い。
席はほとんど客で埋まり、店員は慌ただしくしている。
店内を見渡しても、扉はトイレか厨房の奥にしか見当たらなかった。
僕は取り敢えず席に座ってメニューを見ていると、リアと同い年くらいの少女が働いているのを見つけた。
少女と目が合い、僕のところへ注文を聞きに来た。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「君、店主さんのお孫さん?」
「い、いえ!わたくし、私は住む場所がなくて、店主さんに拾われましたの」
「へぇ、そうなんだ。僕には貴族のお嬢様に見えたよ。すごく作法が綺麗だね」
「へっ!はい!ありがとうございますっ」
「お名前は?」
「わたくしはロ……ロゼッタですわ!」
「ロゼッタ?……僕はアルフィ。よろしくね」
「はい、よろしくお願い致しますわ」
僕はシオンとミレニアの3人分の料理を頼み、ロゼッタは厨房へ戻っていった。
「アルフィ様、ミレニアさん遅いですね」
「そろそろ来るんじゃないかな?」
噂をすれば、である。
ミレニアが扉を豪快に開けて、酒屋へ入ってきた。
「ここなのか?」
「うん、でも隠し部屋が見つけられそうになくてね。下手にお店の人に聞いて逃げられても困るし」
「だから取り敢えず、ご飯食べようと」
「そう!そういうこと〜!!」
ロゼッタが料理を持って来てくれた。
「お待たせ致しましたわ」
「ありがとう、ロゼッタ」
「あなたこの国の王子でしたの?」
「うん、そうだよ。今はお忍びで来ているんだ、内緒だよ」
「わかりましたわ」
ロゼッタは料理を置くと、ペコッと頭を下げて戻って行った。
「やっぱり、街には城の料理は普及してないんだなぁ」
ミレニアは不服そうにフォークを握る。
まぁ、そうだよね。僕のスキルで出た新鮮な食材や、僕のレシピを食べ慣れている人は、この世界の料理は少々物足りないかもしれない。
「うん、でも美味しいよ。ミレニア」
「本当ですね、アルフィ様。店主の腕が良いのでしょうか、お肉がすごく柔らかいです」
ゆっくり食事をして、さっき出て行った強面のおじさんが戻って来るのを期待していたけど、戻って来なかった。
「はぁ、どうしようかなぁ。店主もグルの可能性がある以上、店員に聞けないし……いや、1人居るか……」
僕はロゼッタをチラッと見た。
追加注文をするついでにロゼッタを引き留める。
「な、なんですの?」
「ロゼリア・ローゼス、君にお願いがある」
「な、なんで私の名前を!?」
「君が何者で、どうしてここに居るのかは追及しない。お願い。この店に隠し部屋があるなら教えて欲しい。僕の大事な友達が居るかもしれないんだ」
「わ、わたくし、知りませんわ」
「ロゼリア」
「わたくしは、ロゼッタですわ」
「そう、じゃぁロゼッタ。どうして、フロレア王国ローゼス侯爵家のご令嬢がこんな所に1人で居るのかな」
ローゼス侯爵領は、ドゥウムから1番離れた場所だったはず。馬車で来るのにもひと月以上かかるはずだ。
「知ってしまったからには、ローゼス侯爵に一報を入れなくてはいけないね」
「それだけは……やめてっ」
「あ〜アルフィ様。女の子泣かせたぁ〜」
「え!?ご、ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだよ!」
「家出をして来ましたの……母の元へ帰りたくありませんわ……お願い致します。両親へは言わないでっ」
「わ、わかった。わかったから、ごめんね。」
ロゼリアは、兄と姉に比べられ母から冷たく当たられていたそうだ。
兄は魔法や勉学に長け、姉は花も見惚れるほどの美貌で、他の婚約者候補を蹴落とし、フロレア王国の第一王子との婚約をもぎ取った。
それなのに、ロゼリアには魔力がなく、体調をよく崩して兄の手を焼かせる出来損ないと、母から毎日のように叱責された。
兄は帝国貴族学院に入ってあまり帰って来なくなり、唯一の味方だった父が王都へ出て、母のロゼリアへの態度は悪化した。
姉は兄のように庇ってはくれず、母と一緒になって蔑んだ目でロゼリアを見るそうだ。
耐えられなくなったロゼリアは、父が懇意にしていた商人に頼み込んで、ドゥウムへひと月も前に来たそうだ。
うん、美しい花には毒がある……
「ロゼリア、君は魔力が無いんじゃないよ」
「え?でも、魔法は何も使えません……」
「うーん、そうだね」
✦ ─────────── ✦
名前 : ロゼリア・ローゼス
年齢 : 8歳
誕生日 : 3月28日
レベル : 5
魔力量 : 019860/019860
−固有スキル−
【身体強化Ⅰ】 【頭脳明晰Ⅲ】
−所持魔法−
フロレア王国ローゼス侯爵家令嬢。
✦ ─────────── ✦
「魔力は多いのに、それを目に見えて使える魔法を持ってないってところかな。だからよく体調崩すんじゃないかな」
「ルイと同じですね」
「そう、幼い身体に器から溢れるほどの魔力を元々持ってしまっているから、魔力の使い方がわからない子供は、よく体調を崩すんだよね」
「そ、そんなこと、誰も……」
「まぁ、仕方ないよ。高位の鑑定スキルを持っている魔術師でないと、正確な魔力量やスキルまでは見られないから」
「……わかったわ。取引をしましょう」
「取引?」
「えぇ、夜隠し部屋へ連れて行って差し上げますわ。その代わり魔法の使い方を教えて。お母様を見返したいの」
「うん、良いよ。でもロゼッタ、スキルは使えるけど魔法は使えないよ?」
ガシャンと、ロゼリアは手に持っていたお皿を落とした。
「そ、そんな……」
「まぁ、使えるようになる方法は無くはない」
「ほ、本当ですの!!」
ロゼリアは僕の手を握り、グイッと顔を近づけて来た。
「近いよ。ロゼッタ」
「も、申し訳ありませんわ!あと……ロゼリアでよろしくてよ」
顔を赤くして髪を触るロゼリアは、花も見惚れるほど可愛らしい女の子だと思った。
「うん、じゃぁロゼリア。また夜に来るよ」
「えぇ!お待ちしておりますわ!!アルフィ様!!」
酒屋を出ると、ミレニアがニヤニヤしながら僕をつっつく。
「人たらしぃ〜」
「なに言ってるの、ミレニア。早く城へ戻るよ」
「はぁい」




