第八話 建国祭
──建国祭当日
朝から街は活気に溢れていた。
城から父様が挨拶をして、父様の隣にはフロレア王国のディンゼス国王と、伯母のアスリー王妃、第二王子のシリウス王子、第五王子のリュエル王子が並んでいた。
フロレア王国では、国王が不在の間、第一王子が国王代理を務めているらしい。
ルーカス兄様とは違って、フロレア王国の第一王子は頼りになるらしい……と思っていると、隣にいるルーカス兄様からの視線が痛い。
やっぱり心読めるんだ!!
普段あまり来ない他国の貴族や、商人なども沢山集まっている。
武道祭を見るためである。
騎士団のトーナメント戦は、ドゥウム国内だけでなく他国でも人気なのだ。
なんたって、ドゥウムは軍事国家だからね。
娯楽にもなり、強さを見定めることも出来る年に一度のお祭りなのだ。
「アルフィ、大きくなったわね」
「はい、アスリー伯母様もよりお美しくなられて」
「まぁっ!!アルフィったらなんて愛らしいのかしら!!」
「おい、アルフィ。早く戦え」
グレンが静かに近づき、背後から顔を出した。
「グレンは部屋で待っててって言ったでしょ」
「こんなに楽しそうなことをしているのに、仲間外れとはひどいではないか」
ふふんっと、グレンは父様の椅子にドカッと座る。
それを見たレオが、グレンを引き摺って別の場所に座らせた。
「あまり目立つようなことしないでよ、グレン。他国のお貴族様も来てるんだから。出来ないなら、1週間ご飯抜きだからね」
「いっ1週間だと!?アルフィは悪魔だ!!」
「悪魔はグレンでしょ」
王族や貴族の集まる会場に、料理が運ばれて来た。
僕と同じテーブルには、グレンとリュエル王子が座っている。
リュエル王子は2歳年上の6歳で、僕と歳が近いからということでアスリー伯母様が連れて来たそうだ。
目の前に並べられる料理に、リュエル王子は目を輝かせている。
グレンがフォークを握って、エビフライを食べようとした瞬間、僕はグレンの皿をサッと遠ざける。
「何をするのだ!!アルフィ!!」
「今日から1週間……」
「わ、分かった!分かった!!絶対に目立つことはしない!!大人しくしている!!」
グレンの皿を手元へ戻してあげると、目を輝かせてガツガツと食べ始めた。
今日のパーティの料理は、ダインさんがリーダーとなって作った料理だ。
リュエル王子は泣くほど美味しかったらしい。
泣きながら食べ続けている。
「アルフィ、今日はいつから戦える」
「レオは1週間忙しいから無理だよ」
「じゃぁアルフィ、お前が戦ってくれるか!!」
「すごく嫌」
「何故そんな嫌そうな顔をする!よい!!ルーカスにするとしよう」
グレンは立ち上がって、兄様達のテーブルへ行こうとしたので、僕はグレンを止めて座らせた。
兄様達は同い年のシリウス王子と、仲良くお話ししているのだ。邪魔させてはいけない。
「アルフィ殿下!すごく美味しいです!!これはなんですか??」
リュエル王子は、半熟の目玉焼きが乗ったはしまきを指差す。
「はしまきです。薄く焼いた生地を巻き付けて、ソースとマヨネーズをたっぷり塗ったものです」
はしまきと言いながら箸は刺さっていないけどね。
「ま、マヨネーズ??とはなんですか?この白いものですか??」
「そうですよ。よかったら作っているところを見に来られますか??丁度無くなったので新しく作ろうと思っていたところなのですよ」
「よろしいのですか!!あ、ですが。そのように気軽に見せても良いものなのですか??」
「はい、構いません。ディンゼス国王様にはレシピを買って頂いてまして、おそらく料理人の方々がレシピを再現しているところだと思いますよ」
「そうなのですね!!では、是非お願いします!!」
「俺も!!」
「グレンはダメ」
「何故だ!!」
「お2人は仲が良いのですね。私お友達が居ないので少し羨ましく思います」
リュエル王子は少し悲しそうな顔をして、下を向いた。
「リュエル殿下……コホンッ。リュエル君、よかったら僕とお友達になりませんか?」
「アルフィ殿下……」
「1週間滞在されるのですよね!!一緒に遊んだり、出店を回ったりしましょう!!」
「アルフィ君……!!はい!!よろしくお願いします!!」
とのことで、僕にこの世界で初めてのお友達が出来ました。
──日も暮れ 第三王子別棟
リュエル君は、すごく僕のことを気に入ったらしく、王城にはリュエル君の部屋も用意されていたのだけれど、別棟の部屋で1週間過ごすことになった。
って事で、リュエル君を1人別棟で過ごさせるわけにもいかないので、僕も1週間だけ別棟へお引越しである。
グレンや、僕専属の使用人達は暮らしているけれど、なんだかすごく心配なんだよね。
リュエル君の部屋は、グレンの部屋から離れた部屋を用意した。
「アルフィ君!!早速作るのですか!?」
「はい、行きましょう」
厨房へ行きエプロンを着けて手を洗う。
ダインさんは、リュエル君が隣国の王子と聞いて倒れてしまった。
「あ〜、先に言っとけばよかったね」
「リュエル王子殿下、よろしければこちらへ」
リアが、椅子を用意してリュエル君を座らせた。
リュエル君の前で、僕とリア、フィルの3人でマヨネーズ作りを始めた。
「まずは卵〜」
卵白と卵黄を分けてボウルに入れる。
卵黄の入ったボウルに、酢と塩を加えて混ぜる。そこへ少しずつ油を入れながらかき混ぜる。
「こ、これだけであの美味しいものが出来るのですか?アルフィ君」
「はい、食べてみますか?」
「出来たて……た、食べたいです!!」
スプーンにマヨネーズを少し乗せて、食べさせてあげた。
リュエル君は頬をおさえて、美味しそうにニコニコしている。
「アルフィ君、この卵白はどうするのですか?」
「後でお菓子に使います」
「お菓子!!」
「明日ダインさんに作ってもらいましょう」
リュエル君は、パーッと明るくなって頭をブンブンと縦に振る。
作り終えたマヨネーズを、容器に移して氷魔法で作った保管庫に仕舞った。
冷蔵庫も、もう少しちゃんとしたの作りたいんだよね〜。冷凍庫も作れればアイスも食べれるし!!
アイスか……アイス、食べたいなぁ。
みんなで厨房の片付けをして、部屋に戻った。
「リア、明日リュエル君の服を街で買って来て。お祭りを回る時、目立たないような服ね」
「はい、かしこまりました」
「それだけ用意してくれたら、明日1日は祭り楽しんで来て良いよ」
「いえ、戻って参ります」
「そう?ありがとう」
──建国祭2日目
今日は朝から兵士・騎士達のトーナメント戦である。
闘技場には四つのフィールドがあり、四試合同時進行で行われる。
全てのフィールドを見渡せる観客席は、超満員である。
優秀な軍師見つかると良いな〜。レオも【軍師】持ってるけど、擬音ばっかりで統率には向いてないんだよね。
「あれ、レオは行かなくて良いの?」
「俺は出ませんよ?なんたって名誉騎士ですから。他にも各部隊の団長、副団長は出ません」
「そうなんだ」
聞いたことがなかったから知らなかったよ。
このトーナメント戦は、名誉騎士10名、騎士団の各部隊団長・副団長、兵士総団長は出場しないそうだ。
一回戦目で自分達と当たってしまった兵士達が可哀想だ、ということらしい。
加えて、事前に選抜された騎士や兵士のみがトーナメント戦に出場するそうだ。選抜されなかった者達は、最終日の軍事演習に出るんだって。
この大会で実力を示すことができれば、騎士団に入れる可能性もあるため、兵士達はこの日のために相当鍛えているそうだ。
騎士団は、兵士の中から有能な者を見つけ、勧誘出来る。
そこに今回は王子3人が追加されたため、優秀な者を取り合うことになる。
僕も真剣に見るぞぉ〜!!
ただでさえ僕が動かせる兵力が少なすぎるからね。
開会の鐘が鳴り、一回戦が始まる。
制限時間は5分。その間に相手を戦闘不能にするか、参ったと言わせれば勝敗が決まる。
5分で勝敗が決まらなければ、試合後、名誉騎士や各団長・副団長が勝敗を決めることになる。
剣がぶつかり合い、魔法を使える者は魔法も使う。
あ、だけど、魔術師団は参加できない。基本は剣の大会なのだよ。
「あ、ルイス兄様だ」
ぺこりとお辞儀をして、会場に入っていくルイス兄様。
「はい、ルイス様は副団長の弟子ですから、副団長が勝手にエントリーしていました!」
「そ、そうなんだ」
名誉騎士になるような人って変な人多いな……
王国騎士団の総団長・総副団長、第一部隊団長も名誉騎士だよ!あとの7人は騎士団ではあるのだけど、部隊のどこにも属してなくて、レオみたいに好きなことしてるみたい。
ルイス兄様頑張れ!!
ルイス兄様は、1分も経たずして兄様よりひと回り身体の大きい兵士をフィールド外に吹っ飛ばし、圧倒的な強さで勝利した。
凄いぞ兄様!!流石は兄様!!
「ほぅ、もう1人の兄もなかなかやるではないか」
「グレン……」
「なんだその目は!!今日も俺を1人置いて行きよって!!」
その後も、次々と試合は進んでいく。
剣術に長けた者、魔法を巧みに使い戦う者……
人の数だけ戦い方は異なるが、流石は軍事国家の騎士や兵士だ。
どれもレベルの高い戦いで、建国祭の間、闘技場は大盛況となる。
僕は気になる人が見つかれば、逐一リアに報告しメモしてもらう。
ゼッケンの番号でメモをして、後で名簿を見て名前を確認するよ!
──第三王子別棟
「アルフィ様、遅くなり申し訳ございません」
「いいよいいよ。お祭り少しは見れた?」
「い、いえ。それが……」
リアの報告によると、他国からの客も多く品切れで閉めている店もあるほどで、王都中を探し回ってくれていたそうだ。
「屋台は大丈夫そう?」
「はい。ですが酒屋の店主は、人の入りが多いのは嬉しいが、客の質が悪く困っているようでした」
「そうか、う〜ん」
客の質が悪いのはどうにも出来ないよね……
食材が無いなら、僕のを分けようと思ったけど。
「店内で暴れるとかでは無いんだよね?」
「はい、食べきれない量の料理を頼んで、ほとんど残して帰るくらいで、苦情を言うとかでも無いそうです」
「そっか」
食品ロス!!大問題ではあるけど……僕がどうこうしてあげれる問題じゃないし……自国の人間ならまだしも、他国となるとなぁ。
「ありがとう、リア」
リアは荷物を置き、部屋を出て行った。
「僕も疲れたし、もぅ寝ようかな」
とベッドに横になると、窓の外でピカッと何かが光る。
僕は窓を開け確認するけれど、何も見当たらなかった。
「なんだろう。凄く嫌な予感がする……」
今回は何かが違う。前回何も無かったからって、今回も何も無いとは限らないよね……
──建国祭3日目
闘技場で夕方までトーナメント戦を見た後、僕はリュエル君と服を着替える。
僕とリュエル君、リアとレオ、リュエル君の護衛のアレクシスさんの5人で街へ出た。
街は王城と違い華やかな雰囲気で、歩くだけで楽しかった。
「凄いです、美味しそうなものが沢山あります!!」
リュエル君は目を輝かせて、屋台を見る。
「こんなに沢山の出店は初めて見ました!!」
「今年から始めた企画なのですよ。楽しんでもらえて良かったです」
「私の国でも、このようなお祭りがあれば楽しいのに……」
日本の夏祭りをやりたくて提案したら、父様が乗り気でトントン拍子で企画が進み、千件以上に及ぶ屋台が王都中に並んでいる。
ちょっとやり過ぎかな、とは思ったけれど……初めてのお友達が楽しそうなので良し!!
「あ!!アルフィ君!!先日食べた、はしまきのような物が!!」
「食べますか?」
「は、はいっ!!」
屋台ではしまきを5つ買った。
リュエル君は、初めての自分でお買い物をしたと喜んでいた。
「前回と違って、竹串に巻いているので気を付けて食べてくださいね」
「はい!!」
アレクシスさんは、護衛中だからと遠慮していたけど、ソースの魔力には抗えなかったようだ。
レオとリアも口にソースを付けながら、食べていた。
その後も屋台でりんご飴を買って食べたり、輪投げでクマのぬいぐるみを取ったりと、楽しく遊んだ。
リュエル君は、本当に楽しそうに笑っていて、僕もつられて笑顔になった。
「アルフィ様、リュエル殿下、そろそろ王城へ向かって歩きましょう。帰りが遅くなってしまいますよ」
「そうだね」
「凄いね。リアンさん、僕と歳変わらないのに、凄くしっかりしてる」
「ありがとうございます、リュエル殿下」
立ち止まって話していると、路地に怪しい人影が見えた。
目……あったよね。
「リア」
「はい、アルフィ様。探って参ります」
「深追いはしなくていいからね」
「はい、かしこまりました」
リアは、フッと姿を消した。
僕はレオにコソッと耳打ちをして、リュエル君の手を引いて王城へ向けて歩き始める。
「あ、アルフィ君?」
「明日も早いので、帰って寝ましょう!!お祭りは明日も明後日も続きますし」
「はい!!」
「あと、リュエル君。今日は一緒のお部屋で休んでも良いですか?」
「も、もちろん!!」
リュエル君は、満面の笑みで頷いた。
うぅ、王子の笑顔は眩しいよ!!
王城へ戻ると、リュエル君をアレクシスさんに任せて、レオと魔術師団の宿舎へ向かった。
「こんばんは」
「アルフィ殿下!!本日はどうされましたか!?」
「ミレニアを呼んで」
「ミレニア様ですか?少々お待ちください!!」
魔術師団副団長のミレニアは、防御系魔法を得意とする魔術師だ。
「なんだぁ、アルフィ様ぁ。アタシになんか用だってぇ〜?」
「ミレニア、至急頼みたいことがあるんだ」
「いいよいいよぉ〜。アルフィ様の頼みなら、なぁんでも聞いてあげるぅ」
肌着のような服装で、僕に抱きつくミレニア。
僕も男の子なのだ!!まだ4歳だけど!!
「急いでるんだけど……先に服着て来て!!」
「えぇ〜、いいよぉめんどくさいからぁ」
「早く着てこい、ミレニア。アルフィ様の目が腐るだろ」
「あぁ〜?レオ、お姉様に生意気言ってんじゃねぇぞぉ。こらぁ」
「もぉ!!2人ともいいから!!ミレニアは早く服着て来て!!」
ミレニアは頭を掻きながら、「わかったよぉ」と部屋へ戻って行った。
だらしないけれど、腕は確かなのだ。
ミレニアはすぐに魔術師団の服を着て戻ってきた。
「この服しか無かったぁ」
「うん!凄く似合ってるよ!ミレニア、かっこいい!!」
「そうだろぉ、そうだろぉ〜!!アルフィ様は分かってるねぇ」
僕はレオに抱き上げられ、急いで父様の元へ行った。
勝手に魔術師団の魔法を、王城の敷地内で使わせるわけにはいかないからね。
広間へ行くと、父様はアスリー伯母様と話していた。
「ベルガー、あんたも気を付けなさい。不審な動きをしている国が増えているわ」
「そうですか。フロレア王国とドゥウムの友好関係を良く思わない者は後を絶たないですね……はぁ」
「仕方ないわ。世界最高峰の軍事力と資源力が仲良しだなんて、他国からしたら嫌でしかないもの」
僕が入っていいものかと様子を伺っていると、ミレニアがノックもせず扉を開けた。
「み、ミレニア!」
「王様ぁ、アルフィ様がお話あるってぇ」
「おぉ、アル。どうした?」
「あ、はい。父様、街に不審な動きをする者が居ました。今リアが調べてくれています。僕のただの勘なのですが、嫌な予感がするのです。ですのでミレニアの力を借りて、王城に結界を張りたいのです」
「構わん。ミレニア至急頼む」
「はぁい」
ミレニアの魔法は美しく暖かい。
キラキラと魔力の粒子が降り注ぎ、王城を包み込む。
「結界の他に不審者の検知と、誰かが魔法を使ったらアタシが分かるようにしたよぉ〜。これでいい?アルフィ様ぁ」
「うん!!ありがとうミレニア」
「アル、リアンが帰って来たらすぐ報告しなさい」
「はい!」
「アルフィ、リュエルと仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてあげて、初めてのお友達なのよ」
「はい!もちろんです、アスリー伯母様!!」
僕はレオとミレニアを連れて広間を出た。
ミレニアが僕に引っ付いて離れないのを、レオが引っ張る。
「やぁめろぉ〜!レオぉ!!お前は毎日アルフィ様と居るだろぉ!たまにはアタシに譲れぇ」
「アルフィ様に、お前のダラしないところが移ったらどうする!!」
「これだけで移るわけねぇだろぉ!バカか!バカなのか!」
「2人とも……夜だよ。静かにしようね」
「アルフィ様ぁ、今日アルフィ様の部屋で寝ていいぃ〜?」
「僕、今日はリュエル君の部屋で寝るよ。部屋はあるから別に来てもいいけど。ミレニアが居たら安心だし」
「……身体強化を使った男1人、近くにあと2人……」
「どうしたの?ミレニア」
「アルフィ様、ちょっと遅かったみたいだよ」
ミレニアは走り出した。
レオは僕を抱え、ミレニアの後を追う。
「僕の別棟……?」
3階へ上がり、ミレニアはリュエル君に用意していた部屋の扉を開けた。
部屋にはアレクシスさんが倒れていて、争ったであろう跡が残っていた。
「リュエル君」
「魔力の痕跡が窓から城の裏門まで続いてる」
「ミレニア、追える?」
「アルフィ様、結界から出たらもぉ無理だよ。魔力の痕跡を追うのは時間がかかる。その間に街から出られたら……」
「そんな……」
アレクシスさんはレオに任せた。ポーションも大量に渡したから大丈夫だろう。
とりあえずミレニアには、時間が掛かってもいいからと、魔力の痕跡を追ってもらった。
僕はグレンの部屋へ行くと、グレンも居なかった。
「こんな時に……またルーカス兄様の所行ったの……」




