第四話 王国
あれから5ヶ月後──
僕はリアと街へ来ていた。
王都でも一際大きな商店だ。
「アルフィ様、本日はどういったご用向きで?」
「少し聞きたいことがある」
「はい、アルフィ様。なんなりと」
「これはいくらになる?」
僕は【ルーレット】で入手した、宝石や鉱石を持って来ていた。ルーカス兄様は、宝石や魔力の籠っていない鉱石には興味がないようで、溜まりに溜まっていたのだ。
宝石はアクセサリーなどを作れば、母様やメイド達に喜んで貰えるのだろうが、僕にはまだ工芸品を作るスキルはないからね。
鉱石も同じく、武器を作ることも出来るけど、鍛冶屋に作ってもらった方が良いものができる。
だから、本当に!!本当に使い道が無いのだ!!
商人は全てに目を通した。
「すべて素晴らしいです。アルフィ様。こちらお見積もりを出しますので、しばらくお時間を頂きます。よろしければ店内をご覧くださいませ」
「そうか、わかった。見てくる」
僕はリアと店内を見て回った。
煌びやかな品も多く、見ているのは楽しかった。
「何か気になる物はありましたか?」
「うーん特にないかなぁ」
「左様ですか。残念ですね」
「いや、これは買っておこう」
僕は解毒の魔法陣の描かれた食器セットを指さした。
「何セット買われますか?」
「そうだね。在庫分貰おうか」
「はい、後で聞いてみましょう」
「うん!」
しばらく待っていると呼ばれたので、別室に移動しソファに座った。
「アルフィ様。こちら全て買い取らせて頂いた場合の見積もりになります」
「こ、こんなに……」
「ですが、今現在私が用意できる金額がこの半分程度しかございません。ですので今回は、鉱石だけ買い取らせて頂いて宝石はまた次回……ということで」
「そうか、でも持って帰るのも面倒だから、その金額分何か売ってもらえないか?」
「はい、それはもちろん!何か御入り用の物はございましたでしょうか?」
僕は魔法陣の描かれた食器セットを在庫分買うことにした。それでも金額が余るので、商人と店内を見て回った。
「そうだ、アルフィ様。奴隷は興味ございませんか?」
「奴隷?僕はそんな趣味ないよ」
「そう言わず、見るだけで見て行ってくださいな」
商人にそう促され、渋々商店の地下へ向かった。
広い店内の奥に進むと両開き扉があり、そこへ入ると地下への階段があった。
階段を降りると広い空間が広がり、そこには小さいが個室が並んでいた。
僕が想像していたものより、良い暮らしをしているようだ。
「君は信頼出来そうだ」
「はっ!!あ、ありがとうございます!!アルフィ様。」
「食事は一日何食出している?」
「はい、朝昼晩。3食でございます。それに加えて、月1で医師の診療を受けております」
「うん、良いね。それだけでもかなりの出費だろうに……」
僕は奴隷達を鑑定しまくった。
家族で売られている者や、幼くして売られている者。
皆顔色も良く、健康そのものだ。
一際目を引いた青年と、魔力の多い少年、読み書きの出来る者達を全て買い取った。
もうしばらくすれば、父様から僕達王子全員に領地を渡される。その時の為に、僕の部下が欲しい。前回は何も備えず出てしまったから、苦労したのだ。
「では奴隷達は、明日医師の診療を受けたのち王城まで連れて参ります」
「ありがとう」
「い、いえ!!こちらこそ感謝致します」
僕とリアは、食器を受け取って馬車に乗り込んだ。
「いやぁああ!!」
子供の叫び声が聞こえ、僕とリアが馬車から出ると、そこにはボロボロの親子が居た。
父親は子供の腕を引いている。
「父様!!やぁだぁあ!!父様一緒にいたいの!!やぁぁあ゛」
「すまない、すまないな。フィル」
父親は涙を流しながら、商店へ入ろうとしている。
「リアと同い年くらいかな?」
「えぇ、7歳くらいでしょうか」
僕は父親の側へ寄った。
「あの、少しよろしいですか」
「どうしたんだい?坊や」
「お子さんを売るつもりですか?」
「……仕方がないんです。どうしても金が入り用で……」
「そうなのですね。わかりました!じゃぁ僕が買いますね!!」
「は……」
「困っているんですよね?買います!」
「い、いや。あの」
「リア、金貨余ってたよね?」
「はい、ございますよ」
僕はリアから硬貨の入った巾着袋を貰って、父親に渡した。
「どうしてお金が必要なのか教えてもらえますか?貴方方は食べ物にも困っているように見えませんが」
「はい。私は食堂を開いておりました」
父親が言うには、ある日貴族が来店し、虫が入っていたなどと苦情を言って帰って行った。
その日から噂はたちまち広がり、客が来なくなってしまったそう。
仕込みをしていた食材も捨てるのは勿体無いので、炊き出しなどをして消費していたそうなのだが赤字が続き、金貸しに金を借りてしまい、期限までに金を返せず店をも奪われてしまったそう。
親の事情に子供を巻き込むのは可哀想だと、奴隷への待遇も良いこの商店へ来たそう。
「そうなのですね!!じゃぁお父様も一緒に来てください!!ご飯作れるんですよね!!」
「は、はい」
「じゃぁ行きましょう!」
僕はリアと親子2人を馬車に乗せ、王城へ出発した。
王城では、僕達の別棟が建てられていた。
王城の後方に3棟。王城には繋がっているが、王子達の家臣しか居ないため、外部に漏らしたくない物事については基本この別棟で行う。
ドゥウム王国は新国家であり、まだ父様で3代目国王である。
おそらく父様は、これから次期国王を決めるため、僕達に試練を課す。
別棟を建てたのは今回が初めてだけど、王子達それぞれに試練が課されたのは今くらいの時期だ。
でも前回までは、僕は幼いからと除外されていたのに、今回は僕も含まれるという噂だ。
憂鬱だぁ……
王城に着き、馬車を降りると親子を僕の別棟へ案内した。
「アルフィ王子殿下でしたか。大変申し訳ありません、気が付かず……」
「いえいえ!!良いんですよ〜!!」
リアに2人の部屋を確保してもらい、僕は王城の部屋に戻った。
別棟があるからと言って別に、王城を追い出されるわけじゃないらしい。別棟は自分達が思うように使えば良いとのことだ。
「そうだ、リア」
「はい、アルフィ様。親子の店の件ですね」
「うん、父様に伝えておいて。この国は騎士国家、そんな騎士道精神のカケラもない人が貴族であるはずがない……」
「はい、かしこまりました。すぐ伝えてまいります」
「あ、あとリア!」
「はい、アルフィ様?」
「もう少ししたら多分、王子達に領地を与えられるはず……リアは一緒に来てくれる?」
「はい!勿論でございます!!」
「ありがとう、リア!」
リアは部屋を出て行った。
僕はボーッと窓から街を見渡した。
このドゥウム王国は、僕の曽祖父が作った国だ。
元々魔物の森と言われ、広大な森がどの国の領地にも属さず、危険だからと放置されていた。
そこで曽祖父が、騎士や有志を連れて森へ入った。
曽祖父は元はと言えば、この大陸で最も大きな帝国の貴族の生まれで、後継が他に居たため家を出た。
そこでどの国にも属さない森を見つけ、そこに国を作ることにした。
平和な国を作りたいという一心に。
数十年で王都が完成し、曽祖父はドゥウム王国の初代国王となった。
この頃はまだ、騎士を含めても国民は1000人ほど。
そこからドゥウムは栄えていった。
建国から38年後、曽祖父の末息子であった祖父が即位し、ドゥウムは更に力を有していった。
ドゥウムの騎士団の名声は他国にも轟き、隣国や周辺国から騎士になるために、ドゥウムへ入国するものが増えていった。
そして父様が15歳の頃、隣国の王女が父様の婚約者となり、父様の姉が隣国王子の婚約者となった。
祖父は貿易国家である隣国と友好を結ぶことで、今後の力になると考えたのだ。
父様は兄様達が産まれた頃に即位した。
兄が3人居たが、成人前に亡くなってしまったからだ。
ドゥウムは騎士の国であり、誇り高く強い騎士団に憧れて自国を出て来る者も多い。
また、ドゥウムには貧民街がないという噂を聞きつけ、周辺国から移住して来る者も多く、今では王国民は……
100万人ほど。
爆発的に人口が増えて祖父の代は大変だったらしい。
今でも人口は増え続けている。
騎士団の試験は厳しく、入隊出来るだけでも名誉だと言われている。
まだまだ開拓途中のため、働き口に困る者は居ないのだが。
噂を聞きつけてやって来る冒険者や移民が後を絶たず、入国審査や検査に追われる国境の兵士達は疲弊しきっているらしい。
そして近いうちに僕の配下になるであろう人物は、騎士団3万人の中で10人しかいない、名誉騎士の称号を持つ者。
これまではあまり関わってなかったから、楽しみだ。
ちなみに、騎士団試験に落ちて次の年に試験を受けるため王都に留まって仕事をする人も居れば、兵士になって働いてくれる人も居るんだって!
だからドゥウムは、全国民100万人ほどしか居ないにも関わらず兵士と騎士だけで13万人居るそう!!
父いわく、祖父が考えた制度で、騎士にはなるべく街で食事をするように言われているそう。経済の循環もあるだろうけど、騎士がウロウロしている中で悪事を働こうという人は少ないからね。
ひいおじいちゃんが作った王国。
会ったことはないけど、強くて優しい人だったことは分かる。
──翌朝
「アルフィ様」
「どうしたの〜」
「昨日の親子の件ですが、国王にお話ししましたところ、やはり本国の貴族ではないそうです」
「そう〜よかった〜!」
「はい」
父様直々に昨日の親子と話したらしく、2人が話した特徴と一致する者は居なかった。
そしてその貴族は自分を「公爵だ」と言っていたそう。
ドゥウム王国には、王家の他に騎士爵しかなく、貴族達も皆騎士のため、街で食事をする際も騎士団服を着ている。
「隣国の貴族かな?」
「いえ、隣国の貴族のものとは少々衣服が違ったようです。男性も女性のような長いドレスを着ていたそうです」
「そーゆー趣味なんじゃない?」
「いえ、女性ものというより、男性ものではあったようですよ」
「ふーん。グラミスタ王国だね」
「ご存じなのですか?」
「うん、前回もグラミスタ王国はこの国にちょっかい出してきていたんだ。多分移住する者が多いからかな。グラミスタ王国は貧富の差が激しいからね」
「勉強になります、アルフィ様」
「いや、僕は記憶があるから。あの国の人達が父様を殺したね……」
「あ、あの時の」
「うん、思い出した?」
「はい、記憶を見せていただいたのに、曖昧で申し訳ございません」
「僕ですら曖昧だから大丈夫だよ。でも今回すごく変わってるんだ。だからもしかしたら未来が変わるかもしれない……」
僕は昼食を食べ、別棟でお茶をしていた。
「フィル、ダインさん、領地へ行く時は2人にも来て欲しいんだけど、来てくれる?」
「領地、ですか?」
「あ……」
「あ、アルフィ様は将来開拓のお手伝いがしたいと、昔から言っているのですよ〜!アハハ!!」
リアが焦っているのを初めて見る。
もうすぐ公表される事ではあるけど、まだ父様からの発表もないからね。
「それよりリア、あれ持ってきて」
「かしこまりました」
リアは別棟の貯蔵庫へ米袋を取りに行った。
【ルーレット】でお米が沢山出るようになったのです!
なんと嬉しい事でしょう!!
でも、僕はまだ厨房の使用許可は出ていないのだ。
そこでダインさんである!!
「ダインさん、これで何か作ってくれる?」
「これは、穀物ですか?」
「うん、大丈夫。レシピは書いてあるから!!」
「は、はい。作ってみます!」
「材料は揃えているから、お願いね!」
夜ご飯はダインさんのご飯かぁ〜!楽しみ!
ルーカス兄様が別棟へ来て、一緒に夜ご飯を食べた。
「これは素晴らしいよ!!ダインさんと言ったかい!?私のところへ来て欲しいくらいだよ!!」
「い、いえ!!第一王子殿下。アルフィ様のレシピをなぞって作っただけですので!!」
「それでも素晴らしいよ!!」
「ルーカス兄様、僕のシェフなので連れて行かないでください」
「そんな拗ねないでよ〜アルぅ〜!!」
ルーカス兄様は、オムライスをひどく気に入ったらしい。
食べ終わると、リアが茶菓子を持ってきて、ダインさんは下がっていった。
「さっきの話だけれど」
「はい、兄様」
リアは扉の前で人が入ってこないように見張ってくれている。
僕とルーカス兄様は、お茶を飲みながらゆっくりと話した。
「領地の件だけれど、父上も急だよね〜」
「そうですね。今日聞かされて半年後には出発だなんて」
「アル。アルは賢いから分かっているだろうけど、この国の森は自然の城壁だよ。あまり開拓し過ぎてしまわないようにね」
「はい、国境から数十kmは離して街を作ろうと思っています」
「うん、いい判断だね。流石はアル」
「ルーカス兄様は、1番危険な国境付近ですよね……気をつけてくださいね」
「え〜?アル心配してくれるのぉ〜??」
ニヤニヤと僕を見るルーカス兄様を無視して、お菓子を食べ続けた。
「ふぅ、そろそろお子様は寝る時間だね」
そう笑いながら、ルーカス兄様は城へ戻って行った。
「はぁ」
「アルフィ様、明日から大忙しですよ。お部屋に戻りましょう」
「うん〜」
僕は明日から半年後までに、良い人材探しと物資集めをしなければならないのである。
──そしてひと月後、2周目でニアが亡くなった日




