第十六話 御神託
──エルヴィシア寮
木の上からエルフ達が僕の目の前に降りて来た。
「アルフィ様!!」
「みんな、変わりはない?」
「はい、ありません。ですが、発生する魔物の数は少々減ったように感じます」
「そう、わかった」
お姫様が体内に溜め込んでいた魔力が減ったのと、溢れた魔力が今街に居る魔物の回復に割り当てられているんだろう。
「僕は、君達のお姫様をどうにかしてくるよ」
「な、治せるのですか!?」
「最初からそのつもりだったし、まぁ、一度殺さなきゃいけないかもだけどね〜」
僕の言葉を聞いて、エルフ達は僕に向かって弓を構える。
「え、何??」
「こ、殺すとはどういう事ですか!!」
「え、普通に治すためには、一度心臓を止めるのが最善ではあるんだよ」
エルフ達は不服そうに弓を下ろす。
「君達が一年間も放置していたのも悪いよ??」
「エルフの秘薬で治せなかったのだ。エルフの薬師では手の施しようがなかった。それに姫様に呪いをかけた人間は、信用出来なかったのだ……」
「へぇ」
「へぇって……アルフィ様……」
「じゃぁ行ってくるから、みんなはこのまま見張りよろしく」
「承知致しました」
僕はエルヴィシア寮にできた大穴の中へ降りて行った。
『アルフィ、浄化するわよ』
「お願い」
僕はお姫様を囲む魔力の塊の中へ入り、お姫様の手を握った。
「取り敢えず殺さない方法でやらないと、エルフ達に怒られそうだ」
お姫様の両手を握り、僕をフィルターのようにして、綺麗な魔力をお姫様に戻す。
汚い水を綺麗にしてまた使うイメージだ。
僕の中にルミナスがいるから、昼間より浄化がやりやすい。
浄化をし続けて、体内の呪いはほとんど無くなったはずなのに、目を覚まさない。
目を覚まさないにしても、何か反応があっても良いはずなのに。
回復魔法をかけても目を覚まさない。
心まで蝕まれているのか?やっぱり神聖魔法じゃないとダメなのか??
うーん。なんか、ずーっと眠っているお姫様のおとぎ話を、昔母様から聞いたような……
取り敢えず埒が開かないので、お姫様を抱えてエルフ達の元へ戻った。
「アルフィ様……なんだか、美しい絵本のような光景です……」
「目、覚まさないんだよね。僕おとぎ話思い出したんだけど、このお姫様好きな人とか居る?」
「おとぎ話??いえ、ご婚約者は居ません。姫様は神様の御導きにより、婚約者となる者は姫を……!!」
「アルフィ様!!」
「何……」
「口付けを!!」
「は……??何言ってるの、みんな揃って」
「『淡い色をした長髪の、癒しの力を使い皆を助け導く、金色に輝く瞳を持った者が現れた時、エルフの姫は救われる。その者の心を得た者が、精霊の国を治める皇帝となる』という天命があったと、物語で聞きました!!」
「なにそれ、変なの」
「変ではありません!!1000年も前から語られ続けている事なのです!!」
「へぇ」
取り敢えず僕は、お姫様とエルフ達を連れてドゥウム寮へ戻った。
「アル……今すぐ画家を呼ぼうか」
「何故?」
「アルフィ様は、金髪の女性がお好きですの!?赤は嫌ですの!?」
今日はずっと、みんなの様子がおかしい。
お姫様を個室のベッドに寝かせて、僕は亜空間から使えそうな物を沢山出した。
「人間の魔力、混ざっても大丈夫なのかな??」
『大丈夫でしょ〜、魔物の魔力じゃあるまいし』
「そうだね」
僕はお姫様に両手をかざして目を瞑った。
集中して、イメージする。呪いが馴染んでしまった臓器を作り替え、新しく作り替えた心臓が鼓動を始めて、魔力が血液に乗って全身に巡るイメージ。
大量の魔力がお姫様に吸われた。
不足している魔力を僕の魔力で補っているのだろう。
しばらくお姫様の様子を眺めていると、肌の血色が良くなり、目から涙が溢れた。
「大丈夫か?」
「貴方は……天命の……」
「身体が呪いで殆ど使い物にならなくなっていたから、一度殺して、臓器を魔法で作り替えた。慣れるまで違和感あるかもだけど、それくらい我慢してくれ」
「勿論でございます。命を救っていただいてありがとうございます」
「僕はまだ、お前の生み出した魔物を処分しに行かなきゃいけないから、近衛兵を呼んでくる」
「はい、お手数おかけ致します……」
「いや、お前のおかげでドラゴンの素材が入手出来そうだ」
僕はお姫様の部屋へ近衛兵達を連れて行った。
近衛兵達は、涙を流してお姫様の無事を喜んでいた。
僕が部屋を出ると、目を赤く腫らしたメリッサが寮内へ戻って来た。
「メリッサ??」
「アルフィ様……姫様を助けて頂いてありがとうございました」
メリッサは両手を握りしめて、俯いている。
「何かあった?」
「申し訳ありません。アルフィ様……我々を助けようとしてくれていたのに、私は……」
「メリッサ、何があったの」
「アルフィ様にお任せいただいた、避難して来ていた人達……寮を飛び出して行ってしまいました……」
「そっか、分かった」
「申し訳ありません……」
「良いよ良いよ、街にはルイス兄様達もいるし、優希が演奏続けているはずだし、ちょっとやそっとじゃ死なないよ。気にするな」
「アルフィ様……」
「それにちょっとくらい危険な目に遭った方が、有り難さが分かるってもんだよ」
メリッサはばつが悪そうな顔をして、お姫様の部屋へ入って行った。
「アルフィ様!!」
「ロゼリア、どうしたの??」
「これを、身に付けておいて下さいませ!!」
「何で??」
「虫が群がるのを防ぐためですわ!!」
「これ、ただのペンダントで、虫除けの機能は無いよ」
「そんな事はどうでも良いのですわ!!」
「アル、ではこれを付けておきなさい。虫が寄って来ない」
「ルーカス兄様まで、何を言っているんですか……」
ルーカス兄様は、金色と黄緑のブローチを持って来た。
ロゼリアは、ブティックで貰った赤色のペンダント。
2人はどっちを付けるんだと言う勢いで、僕に突き付ける。
「はぁ、じゃぁどっちも付けるよ……」
何だか最近、ルーカス兄様とロゼリアは仲が良い。
いつも何か張り合っている。
「このブローチ……ルーカス兄様や、ルイス兄様の髪と瞳の色に似てる……」
「気に入ったかい?」
「はい。僕の髪色は兄様達と違うので、綺麗な黄緑の髪が羨ましかったんです。あ、でも僕の髪も父様とお揃いで好きです!!」
「うん、そうだね。アル」
ルーカス兄様は、勝ち誇った顔でロゼリアを見た。
「私も、アルの淡い紫の髪や金色に輝く瞳が好きだよ。日に当たると、キラキラと白く輝いて、天使が舞い降りたのかと、いつも目を疑ってしまう!!」
「ルーカス殿下は、少しくらいアルフィ様離れをした方が良いですわ!!」
「君に言われたく無いね、ロゼリア嬢」
2人は仲良いなぁ〜。
ルーカス兄様、婚約者居ないし、ロゼリアとか良いんじゃ無いだろうか。少し歳の差があるけれど、この世界では歳の差なんて関係ない。うん、ロゼリアなら安心だし!
2人が言い合いをしているのを横目に、僕は寮を出てドラゴンの所へ戻った。
ドラゴンは完全に復活し、破壊の限りを尽くしていた。
「胴体はあまり傷付けないようにしないとね」
『あんたねぇ、ドラゴンの皮膚って相当硬いのよ??あんたの魔法の威力が強すぎるのよ!!もっと布に針を通すように、魔力を細く飛ばしなさい!!』
「縫い物なんてしたことないよ」
『アルフィ、あんたがいつも言ってるでしょ。魔法はイメージだって』
「そうだね、ルミナス。魔法はイメージ。うん、そうだよ、魔法はイメージだ!」
魔法はイメージ。
僕は目の前のドラゴンの動きが止まり、心臓が一度、ドクンと音を立てて跳ねる。次の瞬間、ドラゴンは地面に伏せて、心臓が止まる。そんなイメージをした。
次の瞬間、ドラゴンはグルンと瞳を回し、僕のイメージした通りに倒れた。
『こわ!!あんたこわっ!!攻撃してないじゃない!!きもいきもいきもい!!』
「ひどいなぁ、ルミナスぅ」
『どうやったのよ!!イメージだけで出来るわけないでしょ!?こんなこと!!』
「えぇ??ルミナスが言ったんじゃん〜、イメージしろって」
『わ、私は!銃の魔力弾で、細かい攻撃が出来るようにしろって言っただけよ!!』
「まぁ、結果オーライ!!ドラゴンの素材手に入ったよ〜!ルミナスぅ。何作る〜??何が良いかなぁ〜!!」
『はぁ、まぁアルフィの魔力が、このドラゴンの倍、いや、何十倍、何百倍も多かったって事ね……』
14歳の姿の僕より、何倍もの大きさのあるドラゴンの顔を持ち上げた。
僕は、ドラゴンを引き摺りながら運ぶ。
メリッサ達が集めた遺体の傷を全て治し、目を瞑らせた。
1人1人綺麗に寝かせて、僕は手を合わせて目を瞑った。
「君達の運命は変えられなかった。けど、この心地良い優希の演奏が聴こえている。安らかに眠れるはずだ」
僕は、再びドラゴンを引き摺りながら優希の元へ行った。
優希の居る広場へ行くと、優希とピアノの周りを囲むエルフ達は顔色を悪くしながら、必死に帝都を囲む結界を張り続けていた。
僕はドラゴンを置いて、演奏する優希の隣に椅子を置いて座った。
「一緒に弾いても良い?」
「勿論だよ、アル」
優希の指の動きを見様見真似でなぞる。
優希は驚いたように僕を見て笑った。
「アル、好きに弾いて良い。私が合わせる」
「うん」
僕の音に、優希の音が混ざって……
より一層強い光を放つ音が、帝都を包み込む。
エルフ達の顔色が、心なしか良くなった。
「って感じで、あとはルイス兄様にお任せしてきました〜!!」
──ドゥウム寮 広間
「はぁ、アル。この大きなドラゴンはどうするの」
「何か作るのに、役に立ちます!!」
「そ、そう……」
ルーカス兄様はドラゴンが好きなのか、チラチラとドラゴンを見ている。
ロゼリアは腰を抜かしたのか、ニアに支えられながらドラゴンを見ている。
「アル、せめて置き場所どうにかならないかい??寮の庭に置くのはどうかと、兄さん思うのだが……」
「そうですか??」
「そうですわよ、アルフィ様。せっかく美しい庭園でしたのに……」
『アルフィ、亜空間に入れれば良いじゃない……』
「あ!!そうだった〜!!もう、ルミナス早く言ってよね〜」
僕はドラゴンを亜空間に仕舞い込んだ。
扉を勢いよく開け放って、レン兄が僕の元まで笑顔でやって来た。
「アル!!ドラゴン倒したって〜??」
「レン兄〜!!うん!!ドラゴンゲットした!!」
「おめでとう。これは私からのプレゼントだ。私の大切な生徒を守ってくれた御礼と、この国のいち皇子として……民を守ってくれてありがとう」
レン兄は、お礼を僕に言いながら魔導書を渡してくれた。
「魔導書!?」
「うん、そうだよ。この魔導書には聖霊が宿っ──」
「レンヴィス殿下!!何も守られていません!!私の家族は死んだ!!私の友人も!!みんな死んだ!家も財産も無くなりました。これのどこが無事なのですか!!」
「そうよ!!どうせその子がこの事件の犯人よ!!」
「忌々しいドゥウム人!!」
「あんた達がこの街に来たせいで、こんな事が起こったのよ!!」
「何を言っているんだい?君達は此処に居るじゃないか」
「良いんだよ、レン兄。生きているから、死んだ事がないから、分からないんだよ。僕だって気持ちは分かるよ。人のせいにしてしまった方が、この先楽だもんね!!」
僕は、叫んでいた人達に笑顔で応えた。
「アルフィ様……」
僕が何も言わずに3階へ行くのを、ロゼリアは何か言いたげな顔で見つめていた。
僕は何も思っていないよ、ロゼリア。大丈夫。
大丈夫なんだ。
『魔導書、良かったわね』
「うん」
『アルフィ、あんたはちゃんと守れていたわよ』
「ルミナス、リアの所へ行って来て。帰りが遅い。怪我をしているかもしれない」
『……わかった』
ルミナスは僕の身体から抜けて、壁をすり抜け寮を出て行った。
僕の中の黒い何かが、今日は一段と広がって、ズキズキと僕の身体に染み出そうとしている。
お姫様の呪いを沢山、体内に入れたからだろうか……
まぁなんでも、良いか……
✦ ✦ ✦
これは今から1380年前のこと。
エルフの国であるエルヴィシア教国の王宮に、天から光が降り注いだ。
その光景を見た者達は、神が舞い降りたと膝をついた。
王宮では、先帝が天からの光を身に浴びていた。
「神、様……」
『エルヴィシアの皇よ。吾輩は神、クエビコである』
「クエビコ神様……」
『吾輩から貴様に頼みがある』
「御自ら、頼み……ですか。何なりとお申し付けください。不肖、このアイリン・エルヴィシア、誠心誠意お応えいたします」
『うむ。まだ先の未来の話になる。
この世界に、膨大な魔力を持ち、悲惨な運命に囚われた人間が生まれる。
その者は他種族にも寛容で、エルフ達を疎かにする事もない人物であろう。
その者に、この世界の運命がかかっている。
けれども運命は、その者を25年以上生きる事を許さない。敵が多すぎるのだ。
だから、聡明なエルフの皇よ。その者の味方になってやってくれ。
その者は、陽の光に照らされると白くキラキラと輝く淡い紫の髪と、金色に輝く瞳を持つ少年である。
この少年と友好関係を築くことは、貴様達の利にもなるであろう』
「承知しました。必ずやご期待に添うこと、ここに誓います」
『あ、あと忠告じゃ。貴様の孫が長いこと眠ることがあるであろうが、案ずるな。運命は必ずや回ってくる』
そうして天命を残し、クエビコ神は天へと帰って行った。
エルヴィシア教国に降り注いだ神の光は、たった10秒。
先帝には一刻ほどにも感じられた。
先帝は、国の皆に天命を伝えた。
それから1000年もの時を経て、絵本やおとぎ話が作られ、少しずつ内容が変わりながら後世へ受け継がれた。
ただひとつ変わらず伝えられたのは、その者の容姿だけであった。
今では、姫を人間達から救う王子の物語や、眠り続ける姫を目覚めさせる美少年の物語として受け継がれている。
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