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第十五話 帝国の災難




帝都が半壊する。


帝都を覆う程の魔物の大群が押し寄せるだろう。

その原因は、エルフのお姫様だ。もう、あのボロ寮では抑えが効かなくなっている。


そして前の人生では、この事件が、人間達をエルフの国へと進軍させる引き金となった。


エルフの国、エルヴィシア教国のエルメシア第二皇女が、『皇帝の殺害を目論んだのだ』と。


エルメシア第二皇女の呪いは、人間の仕業だったはずだ。

まんまと、犯人に仕立て上げられたって感じだね。


「ルーカス兄様、ルイス兄様、服を貸して貰えますか?」


「服??何に使うんだい??」


「三階の広い部屋借りますね」


僕はリアを連れて、兄様達の為に作った三階にある少し広めの部屋へ急いだ。


「グレティス、ルミナス、力を貸して。姿を変える」


「いいけどぉ、そのままで良いんじゃない??凄く魔力使うわよ?」


「うん、分かってる。でも今日ドゥウムの人間が街に出るのは避けた方が良い。犯人に仕立て上げられる可能性があるからね」


「ふぅ〜ん、良いわよ。私アルフィ〜!!」


「では、我はリアンだな」


「うん、2人ともお願い」


僕の身体にルミナスが入って、リアの身体にグレティスが入った。

ドクンッと魔力が共鳴しているのを感じる。


僕はリアの胸に手を当て、リアの10年後の姿を思い浮かべた。リアは10年後には、ルーカス兄様より背が高かったな。髪は今より少し長くて、目に前髪が少しかかっていた。


「アルフィ様っ、か、身体が……!!」


「大丈夫、姿を変えてるんだ。急激な身体の変化に耐える為に、グレティスを憑依させた。今はグレティスの力も借りれるから、なるべく多くの人を保護して」


「承知致しました。服が破れてしまいましたが」


「それはごめん。脱がせるの忘れてた」


次は僕だね。よしっ。

えぇ……自分の顔なんかあんま覚えてないな……どんなだっけ。まっいっか。10年後くらい〜、10年後〜。

ビリッと音を立てて、服が裂ける。


「アルフィ様……服……」


「ご、ごめん」


「それにしても、アルフィ様。凄く美しいです。天女のようです」


「そんなに褒めても何もあげないよ」


「い、いりません!!」


服を持ってルーカス兄様とルイス兄様が部屋に入って来た。

僕達の姿を見て、口を開けて驚いていた。

僕は2人の手から服を取って、ルイス兄様の服をリアに渡した。

今のリアはルイス兄様と背格好も同じくらいだし、サイズは丁度良いはず。


僕は、ルーカス兄様の服で丁度良いかと思ったけど、まだ少し大きいか……


「アルフィ様、裾だけ直します。座って下さい」


「うん、ありがとう。リア」


僕がソファに座ると、リアがズボンの裾を直してくれた。

兄様達はいつまで扉の前で待っているつもりだろうか……


「あ、アル……で、あっているのかな。リアン、だよな?え、あれ」


「ルイス兄様、合ってますよ。僕はアルフィで、こっちの美少年はリアです」


「滅相もございません、アルフィ様……その顔で言われると嫌味に感じます」


「何が??」


「いえ、なんでもございません。失礼しました」




『アルフィ、もうすぐ来るわよ』


「ルミナス。大丈夫、焦らないで。僕は別に帝国を救おうなんて、聖女様みたいな事は思っていないんだ。ただ、民には何の罪も無いと思っているだけだよ」


『分かったわ』


「ルーカス兄様、ルイス兄様、ドゥウムの寮生は寮から出さないで下さい。帝国から助力を願われるまでは。犯人に仕立て上げられかねませんから」


「わ、分かった」


「あと、フロレア寮の生徒はここへ避難してくるかもしれませんので入れて差し上げて下さい」


ルイス兄様が頭を縦に振る。

僕は立ち上がってルイス兄様の元へ行って、右手で顔に触れる。


「何でそんなに緊張されているんですか??弟ですよ??」


「いやっ、アル。急に大きくなっていて、頭が追い付いて無い上に、ほ、本当に目を奪われるほど美しくて……なんか、俺の知ってるアルじゃないっていうか……」


「ルミナスの姿が反映されたのでしょうか……」


僕は、ふと腰まで伸びた髪をクルクルと指に巻き付ける。


『私の姿なんて反映されてないわよ。似てるのなんて、髪の長さだけじゃない!!』


「そう??」


「あ、あ、アル。アル……アルアルアル!!」


「な、何ですか。ルーカス兄様……こわ」


さっきまで石のように固まっていたルーカス兄様が、何かに取り憑かれたように僕の名前を呼ぶ。


「ど、どうしたんだい!?この姿は!!なっ、なんて美しいんだ!!私の弟はどうしてこんなに美形なんだ!!絵、絵を描いてもらおう!!画家を呼ぼう!!今すぐ!!」


「何も聞いてなかったんですか……ルーカス兄様」


「アルフィ様、髪を結いますので座って下さい」


「髪、そうだね。長いのも邪魔だし切ろうか」


「何を言っているんだ!!」

「何を言っているんですか!!」


「みんなして何……うるさい……」


渋々ソファに座って、リアに髪を結ってもらいながら、兄様達とこの後の事を話した。


「だったら俺も行く、姿は変えられるんだろう?」


「いえ、僕達よりは身体の変化に耐えられるでしょうけど、姿があまり変わらないという事は、素性がバレる可能性があるという事でもあります」


「そ、それもそうだが……」


「もっと別人に変装出来るようになれば良いのですけど。まだまだです。ごめんなさい、ルイス兄様」


「いや、俺も悪かった。アルの言う通りだ」


部屋の扉が開き、ひょこっとロゼリアが顔を出した。


「あの〜、アルフィ様はいらっしゃいます、かっ!?」


「ロゼリア」


ロゼリアは何故か、顔を真っ赤にして倒れてしまった。

仕方が無いので部屋に入れて、ソファで僕の隣に寝かせて兄様と話をしていた。

しばらくしてロゼリアが目を覚まし、僕と目が合うと叫び声を上げた。……何故??


「ロゼリア、落ち着いた??」


「は、はい。申し訳ありませんわ」


「そんな事より、リア。もう良いよ切ろう」


「い、いけません!!こんな美しい髪を切るなんて、そんな勿体ない!!」


「だって、もぉ何回括り直してるのさ……」


「すぐ出来ますから!!」


「リアンさんの言う通りですわ、アルフィ様。こんな美しい髪を切ってしまうなんて言ってはいけませんわ。リアンさん変わって下さい。わたくしが結いますわ」


「いいって、ロゼリアも」


「わたくしがやって差し上げますから、お兄様とお話をなさっていて下さい!」


「はぁ、分かったよ」


ロゼリアは、息を呑んで震える手で僕の髪を櫛で梳かす。

リアと違ってロゼリアは一度で綺麗に髪を束ねた。


「黄色いリボンはありませんの?」


「何でも良いよ」


「あるよ、ロゼリア嬢」


「流石ですわ、ルーカス様!!」


「リアと違ってロゼリアは手際が良いね」


「わたくしこれでも女の子ですから、お人形の髪を結って遊んでいた事もありますわ」


「へぇ」


そういえば、リアはよく髪を結う練習をしていたな。

僕の髪が長かったからかな。やっぱり長くなる前に切ろう……。


「アルフィ様……髪を結うことくらいすぐ出来るよう、練習致します!!」


「そんな事しなくて良いよ、長くなる前に僕が髪を切れば良いだけの話だし」


「ダメですわ!!」

「ダメーー!!」


「何でそんなに嫌なの、邪魔だよ!!髪長いの!!女みたいだし!!僕、男だもん!!」


「アルはまだまだお子様だなぁ〜」


「どういう意味ですか、ルイス兄様」


「長髪の男はモテる!!ユリウスを見てみろ!!少し街を歩けば10人は女性が寄って来るぞ!!」


「あれは、顔も伴っていての話でしょう」


「あ……うん、そうだね。そういう事にしとこうか。話を戻そう」


なんかルイス兄様が僕から目を逸らした。


「アルフィ様は、お美しいですわ……今の姿はもちろん、四歳の姿も……」


「ありがとう」


社交辞令だな。


僕達はこれからの作戦について話し合い、とりあえず助けを求めて避難して来たものはどこの誰であっても受け入れよう、という話でまとまった。

防犯システムもあるし。


また、さらに強い揺れの地震が起こった。

今回は長い。何分にも感じられた揺れが収まり、僕はロゼリアを抱き上げ一階へ急いで降りる。


「ニア、エーリエ!!ロゼリアを頼む」


「はい!!って、誰!?」


「あ、あああアルフィ様!?」


「ニア、内緒」


「はっ、はいぃ!!」


「ろ、ロゼリア様っ、鼻血が!!」




みんなが僕とリアを見る。まぁ、仕方が無い。急に現れた、兄様達の服を着た少年達。気にならないはずがない。


「ルーカス兄様、これを渡しておきます」


「これは、何だい?」


「致命傷でも、一度は綺麗に治せます。怪我した人に使って下さい」


「も、もしかしてこのマジックバッグの中身全て??」


「はい、200はあると思います。足りないでしょうか」


「い、いや。これだけあれば沢山の人が助かるよ」


僕は魔法で小鳥を沢山飛ばして、小鳥達の見たものを、寮に取り付けたモニターで見られるようにした。建国祭の時、軍事演習で使用した物を改良したよ!!

そして中庭には、転送陣を取り付けた。


「リア、この手袋着けて」


「はい!」


手袋には魔法陣が刺繍されていて、手袋を着た手で魔力を込めながら人や物に触れると、転送されるよ。便利!!

リアには、回復のブレスレットも渡したし、大丈夫かな。


「アル!!見てくれ!!」


「どうしたんですか?ルーカス兄様」


「え、アルフィ様??」

「あの綺麗な人、アルフィ殿下だったのか」

「アルフィ殿下って男性よね?」

「当たり前だろ?殿下だぞ??」


ドゥウムの寮生が、僕と兄様達のやりとりを見てヒソヒソと話している。聞こえているぞ、失礼だな。男だぞ僕は。


「エルヴィシア寮が……倒壊している……というより敷地に大きな穴が空いている」


「森も枯れてるね」


「きゃぁぁああ!!」


ロゼリアの悲鳴が寮に轟いた。


「どうしたの、ロゼリア」


「あ、アルフィ様!!こちらのモニターを見て下さいませ!!」


ロゼリアが指差したモニターに目をやると、大きな穴から黒いモヤを纏った魔物が大量に出て来ていた。


「そろそろ行こうか、リア。まずはお姫様を助ける為に、寮の敷地から逃げようとしないエルフ達を」


「承知致しました、アルフィ様」


「アルフィ様、本当にお二人だけで行くのですか。危険ですわ……」


「大丈夫だよ、ロゼリア。戦うわけじゃないし。僕、痛いの嫌いなんだよね」


「戦うおつもりなんでしょう……??わたくし、先程アルフィ様が回復ポーションや魔力回復ポーションを、手持ちのポーチに入れているのを見ましたわ!!」


「ロゼリア……戦わないよ。大丈夫。僕、死んでも死ねないし!!」


「ダメですわ……行かないで下さいませ!!この寮の中は安全なのでしょう??」


「安全だよ」


僕は涙を流すロゼリアに背を向けて、リアと寮を出た。

いつも僕が涙を流して蹲る側なのに、泣かれる側になるなんて初めてだよ。


「アル!!」


「ルーカス兄様??どうしたんですか」


「やっぱり私も」


「いらないです」


「アルフィ……私は家族を失うのが1番怖い……今日そうなってしまうのではないかと、思ってしまっている。行かないでくれと言ったら、兄様はカッコ悪いだろうか」


「行かないでと何度叫んでも、遠くへ行ったのは兄様達ですよ」


「アル……?」


「ルーカス兄様、大丈夫ですよ!!すぐ戻ります!!あ、そうだレン兄にもよろしく言っておいて下さい!!帰ったら隠し部屋作りますって!!」


僕はリアの腕を握るとエルヴィシア寮へ転移した。


「……分かった」




──エルヴィシア寮 敷地内


「す、凄いですよ。アルフィ様。木が、花が……全て枯れてしまっています」


「そうだね」


歩くたびに、足が重くなる。

踏んだ草は黒い霧のように消えてしまう。


「あ、あの。アルフィ様、私これ以上は……」


「そうだね、ここで待ってて。生き残りのエルフ達連れて来るよ」


「申し訳ございません……」


「大丈夫大丈夫〜」


リアを置いて、森を進むとエルフ達が大穴から出て来た魔物と戦っていた。

魔物を全て食い止められているかというと、全然止められてないが……


「無駄死にだな」


「だ、誰だ!!」


「ルヴィタン、生きてたんだ。良かったよ〜」


「私は貴様など知らんっ!!」


「昼間会ったでしょ〜。アルフィだよ。ドゥウムのアルフィ」


「何を……いや、この魔力。そうか、姿を偽っていたのだな」


「いや、昼間のが僕だよ。これは10年後の姿かな」


「そ、そうか。それより姫様が……アルフィ殿が昼間何かしたのではあるまいな」


「ちょっと寿命引き延ばしてあげたのに、その言い草は酷いなぁ」


「わ、悪い……なんか、調子狂うな……なんなんだその容姿は」


「10年後って言ってるじゃん」


「そ、そうか」


「それより、ここに居るエルフ全員に避難するように言ってくれる?」


「それは出来ない、姫様がまだ苦しんでおられる」


「その、お姫様が目覚めた時、部下が全員死んでたら悲しむと思うけど」


「私達が全員死ぬと言うのか!!」


「そう言ってるじゃん〜」


「貴様っ!!」


「やめんか!!ルヴィタン!!」


「……悪かった」


「エルフは貴重だ。いなくなるのは困る。僕はエルフの魔法技術も欲しい。だから君達のお姫様を助けてあげる。その代わり、避難して欲しい」


「……本当に助けてくれるのか」


「うん」


「分かった……今はアルフィ殿の指示に従う」


お姫様の近衛兵が全体に声を掛け、エルフ達がみんな僕の元へ集まった。


「何人死んだ?」


「……13名だ」


「そう、じゃぁ行こうか」


エルフ達は悔しそうに唇を噛み、僕の後ろについて来た。


「リア〜」


「アルフィ様!!ご無事で、お怪我はありませんか!?」


「ないよ〜」


リアがいつも以上に過保護な気がする。

リアは僕の身体を隅々調べて怪我がない事を確認した。


「リア、このエルフ達を寮へ転移させて、リアも一緒に行って兄様達に事情を話してきて。その後はリアの判断で街で人命救助。助ける助けないはリアの判断に任せる。僕は何も咎めない」


「承知致しました」


リアはエルフ達を転移させた。


「これで最後ですね」


「アルフィ殿、姫様を頼みます」


リアは、最後に残ったルヴィタンを転移させ、僕に一礼してリアも寮へ戻った。


「ふぅ、1人になったわけだが。ルミナス、僕はどうしようね。お姫様を助けるか、まずはこの空を埋め尽くしてる魔物達を片付けるか」


『お姫様を助けるのは時間がかかるわ。多くを救いたいのなら後者ね』


「だね」


僕は魔力探知で、エルヴィシア寮の敷地にある遺体の位置を確認した。


「丁度、13人。魔物が群がっているね、魔獣は肉を食べるのか?」


『そうね。それもあるけど、魔力を補給してるんじゃないかしら。魔法を使いそうな魔獣が沢山居るわよ』


僕は近くの遺体まで行き、木の上から観察した。


「食べてる感じじゃないね……何をしてるんだ」


『呪いから生まれた魔物のやる事なんて分からないわ……私も初めてよ、こんなの』


僕は群がっている魔物に聖魔法を放った。

すると、魔物達は逃げるように居なくなった。


「聖魔法は効くね」


『神聖魔法も使えるようになったら、もっと手っ取り早いのだけれどね』


「神聖魔法??初めて聞いたよ。聖魔法とは何か違うの?」


『神聖魔法は神が作って、神が与えた者にしか使えない力。聖魔法は魔術本などでも使えるわ。簡単に言えば、威力が違うのよ。桁違いにね』


「へぇ〜、僕今日から神様に祈った方がいい?」


『ふふっ、使いたいならね。祈って損はないわ』


僕は遺体の側へ行き、聖魔法をかける。

まだそんなに時間が経っていなければ、助けられる。


「……女神、様。私は、死んだのですか……」


「寝ぼけるな。僕は男だ。早く起きろ」


エルフは起き上がると、周りを見渡して絶望していた。


「私達の、森が……姫様は、姫様はどうなったのですか!?」


「一旦、他の12人の所へも行くから。後で良い??僕に掴まって逸れないでね」


「は、はい……」


僕は残りの12人の元を回ったが、やはり大穴の近くで亡くなった者は、時間が経ちすぎて蘇生が出来なかった。

蘇生出来たのは9人。残り3人は申し訳ないけど、このまま転移でドゥウム寮へ送った。手紙と一緒に。

兄様達は優しいから、きっと僕が渡した魔道具を使おうとするだろう。だから使わないように、と書いた。


残りの10名には、2人一組のチームを作ってもらい、僕の魔法の小鳥を付けた。


「君達は僕に助けてもらった。そうだね?」


「は、はい。もちろんです。貴方様が居なければ、私共はみんな死んでおりました」


「うむ、そうだろう。って事で、僕の指示に従って貰います」


「もちろんでございますわ。アルフィ様」


「うむ、良い心がけだ」


僕は腕を組み、少し高い所に立って鼻を高くする。

僕は作戦を話した。

2組は街の救助、3組はこのままお姫様の監視だ。


「エルフにも誇りがあるだろうけど、街に出る4人には変装してもらう」


「変装ですか?」


「うん、耳は人間と同じ形に、髪色も変える。パッと見、エルフと思わないくらいに」


「そ、それは」


「君達が人間から虐げられてきて、嫌いなことも知っている。変装するのは君達を助ける為だ。僕達も同じ理由で変装している」


「アルフィ様の場合、変装した方が目立つ気が……」


「何……」


「い、いえ!!なんでもございません!!」


「で、誰が行く??街」


「私が……行きます。ここに居ても足手纏いになるので」


「そうね、私達は弱いもの……」


「うん、ありがとう」


順調に街へ行く2組が決まり、僕は4人の容姿を変えた。

綺麗な金髪は黒髪にし、耳は人間と同じ耳にした。

僕は亜空間から、黒のクロークを10枚出した。


「みんなこれを着て、これは隠蔽の効果がある。鑑定もされない。あと、物理攻撃、魔法攻撃半減だよ〜!!」


「そ、そんなの。国宝みたいなものじゃないですか!!」


「そんな事で??」


「い、いえ。何でもありません」


魔道具の入ったマジックバッグを全員に持たせた。

僕は残った6人を連れて、大穴へ向かう。


「アルフィ様は着ないのですか?」


「だって、重いもん」


「そうですね、少し重さはあるように感じますが、これくらいなら、安全性の為に着た方が良いのではありませんか?」


「僕にはルミナスが居るし、良い。重いの嫌だし。今この服、マント付いてるのも嫌。ルーカス兄様の服だから我儘言えなかった」


「そうなのですか」


大穴に着くと、沢山の魔物が溢れ出てきていた。

僕は自分たちの周りに、聖魔法の結界を作って大穴の中へ降りる。


「僕から離れないでね〜」


「ヒッ、アルフィ様、このような所へ行かなくても良いのでは!?」


「うん、暗くて何も見えないね」


「この王子様、聞いてない!!」


「魔物もそんなに居ないな。どこから発生しているんだ」


さらに奥へ行くと、気持ち悪いモヤが溜まっていた。

多分、お姫様だ。


「みんなは、ここに居て」


「は、はい」


モヤの塊に近づくと、昼間より瞳が更に黒く染まったお姫様が浮かんでいた。

呪いがお姫様の魔力に滲んで、馴染んでしまった。

お姫様は自身の膨大な魔力を毎日必死に抑え込もうと、1年間耐え続けた。けれど、遂にお姫様の身体は耐えられなくなった。

抑え込めなくなって溢れた、濁った魔力の塊がお姫様を包んで、魔物を生み出す装置と化している。


「タチの悪い呪いだ。聖魔法ですら治せない」


諦めるか、いや、エルフの反逆はお断りだ。

僕が昼間に置いていたガラスの石も、全部粉々に割れている。


「どんだけ魔力持ってるんだ、このお姫様。ドラゴンとか出てこないよな……」


僕はとぼとぼとエルフ達の元に戻る。


「みんなぁ、上に戻ろうか」


「姫様は……」


「今は何ともって感じだね。一度身体の中に溜まりまくった魔力を出して、様子見かなぁ」


「アルフィ様の、神々しい聖魔法でも無理なのですか……」


「無理だね〜、昼間もやってみたけど、何日かかっても終わらないよ」


「そうなのですか……」


僕達は大穴から出て、木の上に登る。


「君達はみんな固まって行動して。別に取り逃がしても良い。少しでも街に出る魔物を減らせられれば」


「はい!!」


「あと、君達に付けた小鳥から僕に話しかけられるし、その小鳥の目はドゥウムの寮からも見えるから、何かあったらその小鳥に知らせて」


「わかりました」


「深追いしなくていいからね。大穴の嫌な感じのモヤが少なくなったら教えて」


「御意!」


「じゃっ!気を付けてね〜!!マジックバッグには回復系の魔道具入ってるから使って〜」


僕はそう言って、夕方にドレスを取りに行ったブティックへ転移した。


「ふむ、大変だぁ〜」


阿鼻叫喚とは、この事を言うのだろうか。

ブティックの中では、瓦礫に埋もれた店員のお姉さんが倒れていた。


「お姉さん!!大丈夫!?」


「貴方、誰……イケメン。付き合って」


「それは無理」


僕は瓦礫を除けて、お姉さんの潰れた足を治した。


「お姉さんに死なれたら困るので、まず助けに来ました」


「私、貴方みたいな綺麗な人に会った事……あ、るかしら?」


僕がニコニコして黙っていると、お姉さんは僕の顔をまじまじと見る。


「淡い紫の髪、黄色い瞳に、貴族のように仕立ての良い服……金払いの良い王族の坊ちゃん!!」


「お姉さんの淹れてくれる紅茶が美味しいし、母様のドレスを仕立てて貰おうと思っているのに、居なくなるのは困ります」


「やば……超綺麗。歳の差とかどうでも良いわ。愛人でも良いわ」


「僕は嫌です」


「私、すっごい面食いなの。初めてよ、こんなに惹かれたの」


「そうですか、転移させますね」


「待って、脱ぐわ!!お姉さん脱いであげる!!誰にも見せていないわ!!」


「結構です。商品も全部マジックバッグに入れて持って行ってください。勿体無いので」


「付き合ってよぉ。私長命種なの、10年や20年待てるわ!!」


「ドレス全部入れますね〜」


「ちょっと、聞いてる!?」


「うるさい口、閉じますよ」


「きゃー!!閉じて!!閉じて欲しいわ!!どうやって閉じてくれるのかしら!!」


お姉さんは目を瞑って待っている。

僕はお姉さんに近づいて、手でそっとお姉さんの顔に触れた。

お姉さんは顔を赤くして、目を開け、僕を見つめる。

僕は顎をクイッと上げて……


魔法で縫ってやった。これで喋れまい。


「ちょっ!!そこは口でしょっ!!キッスよキッス〜!!」


「何で喋れるの」


「これくらいの魔法は解けるわよ!!」


お姉さんは怒ったのか、顔を真っ赤にしてズカズカと僕に近づいてくる。

僕の腕を掴んで引っ張ると、顔を近づけてきた。


『こらーー!!そこのアバズレーー!!アルに手を出すなーー!!私の清らかなアルを汚すな!!』

『そうだそうだー!!』

『あ、アルフィ様!?そんな大人の女性が好みでしたの!?』


そういえば、僕にも小鳥付けておいたんだった。

兄様が不安だと言うから……。


「ちょっと何よ、このうるさい小鳥!!」


「このうるさい声の持ち主達の元へ飛ばしますね」


「ちょっ!!ま──」


お姉さんは何か言いかけていたけど、ドレスを詰めたマジックバッグを持たせて、ドゥウム寮へ転移させた。


「ふぅっ」


『アルフィ様!!大人の女性が好きなんですの!?やっぱり、男性は皆さん、豊満な女性が好みですの!?』


「切るね」


僕は小鳥の音声機能を消した。


僕は目に見える範囲、助けられる人を助けて避難させた。


「助けて、誰か!!助けて!!」


「大丈夫ですか〜」


「た、助けに来てくれたわ、マリー、ほら綺麗なお兄さんが助けに来てくれたわよ。目を覚まして、お願いよ。お願い……」


「お母さん、その子が眠ってどれくらい経ちますか」


「ついさっきよ、ついさっきまで一緒にお歌を歌っていたの……どんどん身体も冷たくなっていくの。お願いよ、助けて下さい……」


「わかった」


僕はお母さんの腕の中でぐったりしている5歳くらいの女の子の蘇生を行った。


「マ、マ……」


「マリー!!よかった。よかったぁっ。ありがとうございます。ありがとうございます!!」


「今から安全な所へ移動させます」


「はい、本当にありがとうございます!聖女様!!」


「聖女じゃありません、男です」


僕はそう言って2人を転移させた。


『アルフィ様!!』


「リアか、どうしたの?」


『今、グレティスさんに頼んでルミナスさんに繋いでもらったのですが、私のいる位置は分かりますか?』


「うん、ルミナスに頼めば。どうしたの?」


『ど、ドラゴンです……』


「ドラゴン??」


『はい、ど、どうしたらよろしいでしょうか』


「勝てそ?」


『む、無理です!!』


「そっかー、じゃぁ反対側の地区回ってー」


『承知しました。申し訳ありません』


「良いよ良いよ」


『ドラゴンか』


「ドラゴンだって、ルミナス」


『ドラゴンの素材は使い道が沢山あるわ』


「そうだね、それにドラゴンねぇ。恩売れるかも」


『悪い事考えてるわね?アルフィ』


「ふっふっふ〜、ルミナス程じゃないよぉ」




僕は目の前の救助と、魔物の討伐に専念した。


『もう少し様子見る?』


「うん、大丈夫。ドラゴンの近くに人は居ないよ。リアが殆ど避難させてくれたんだね」


『出来る子ねー、リアンは』


「そう、リアは凄いのだよ!!」


『嬉しそー』


「おい!!誰か私を助けろ!!何をしている!!逃げるな!!」


「何だアイツ」


「おい!そこの白髪の女!!私を助けろ!!」


「白髪の女??」


僕は周りを見渡しても、白髪の女性は居なかった。


『いや、アルフィの事でしょ』


「僕!?」


「それ以外に誰がいるんだ!!早く助けんか!!金は払ってやる!!」


「えぇ〜」


「嫌そうな顔をするな!!私を誰だと思っている!!」


「誰ですか〜」


その時、ドンっと地面が揺れるような衝撃と共に、僕の目の前に大きなドラゴンが現れた。

隣の区画から飛んで来たのか。


「ひぃぃ!!早く私を助けんか!!」


『私、アイツ嫌いー』


「同感〜」


「おい!!何を独り言を言っている!!早くしないか!!」


僕はドラゴンに背を向け、うるさい男に近づいた。

僕はそっと指を立てて、シーっとうるさい男の唇に触れる。

男はポッと顔を赤くする。


「んんっ、ん!!」


「黙っていて下さい。五月蝿いです」


ブティックのお姉さんには効かなかった魔法だが、このうるさい男には効くみたいだ。


「さて、ドラゴンのお掃除、もう少し先延ばしにしたかったんだけど」


『やらなきゃいけなくなっちゃったわね』


「ドラゴンかぁ、やだなぁ。どんな攻撃でも受けたら、ひとたまりも無いよね」


『当たり前よ』


「うーん、どうしようかなぁ」


『アイツ、この場所から動かしてはダメよ』


「わかってるよぉ。僕はリアと違って仕事が遅いな、周辺にはまだ人が居る」


『いや、アルフィは蘇生もしてるじゃない……』


「ドラゴンの足元に、負傷者5人、重傷者2人。後方に6人。僕の後ろに、うるさい男の人含めて16人」


『その29人を、とりあえず避難させれば大丈夫そうね』


「うん」


まずはドラゴンの視界を奪って、僕はドラゴンの足元に居る7人を転移させた。


『普通に倒しちゃいなさいよ』


「だってぇ」


『怪我くらい、私がすぐ治してあげるわよ』


「いや、怪我は自分で治せるよ……」


僕は亜空間から、細身の長剣を出した。

ユリウスに渡した、ルミナスに少し似ている剣。

手が震える。軽く作った剣も重く感じる。


『アルフィ??』


腹を刺された感覚が蘇って、お腹を擦る。

息が浅くなって、気持ち悪くて吐き気がした。


僕がウジウジしている間に、1人の少女がドラゴンに投げ飛ばされた。

母親の悲痛な叫びが聞こえる。

僕に、何で助けないんだと、何故突っ立っているだけなのだと、罵詈雑言が飛び交っている。


うるさい。うるさい……うるさい……

僕は別に、帝国の奴らなんて、死んだっていい……


やめよう。助けられない人は助けないで良いって、みんなに言ったばかりじゃないか……

ここに居る奴らは、僕が助ける必要もない人間だ。

知り合いですらない。話した事もなければ名前も知らない。

僕が助ける義理はない……


『ちょっと、アルフィ!?』


僕はドラゴンに背を向けて、倒れている人達を横目に歩き出した。


「おい!!私を見捨てるのか!!」

「お願いよ!!子供だけでも助けて!!」

「妻は孕っているんだ!妻だけでも!!」

「悪かった!!さっきは取り乱して、頼む助けてくれ!!」


「頼むよ……助けて下さい……もう此処に、動ける奴は君しかいないんだ……」


『アルフィ……後が痛いわよ』


「今も痛いよ」


僕は助けを求める声が聞こえなくなるまで歩き続けた。

歩き続けて、立ち止まった。

救いを懇願する声は、叫び声に変わったから。


「はぁ、10年後僕の姿を見て文句言われても堪らないよね」


『アルフィ、あんた最高よ!愛してる!!』


僕は振り向いて、握ったままの剣をドラゴンに投げ付けた。

ドラゴンの羽に突き刺さった剣は、羽を抉るように貫通した。


「レン兄に構造を教えて貰っといて良かったね」


『やっちゃいなさい!アルフィ!!』


僕はレン兄に頼んで、銃の構造を教えて貰っていた。

訓練ですら剣を振れない僕が、実戦で剣を握れるわけ無いしね。


「イメージだけで作れたら簡単なんだけど、構造が分からないと使い物にならないガラクタが出来てしまうのが難点だな」


『そうねぇ、せっかく生産魔法使えるようになったのに』


「取り敢えず、一挺作ってみました〜」


『すっごぉい、アルフィ〜!!』


僕は銃を構えて、ドラゴンの腕を狙って撃った。

弾丸がドラゴンの腕に当たると、腕が弾け飛んだ。


「威力は十分だね」


『アルフィ、天才っ!!』


「えっへん」


銃は僕のロマンでしたから!!

前回も作ろうとしたんだけど、構造が分からなくてただのおもちゃになっちゃったんだよね。


「これをこうして、弾を聖魔法で作ってみよぉう」


『死んだ愚民の治療をしてあげるのね!?優しいわ、アルフィ!!』


聖魔法で弾丸を作り、銃に弾を込める。

探知で、息をしていない者達に向けて、聖魔法の魔力弾を撃ち込んだ。


「も、戻ってきてくれたのか。天女のようなお方が……」

「助かったわ。助かったわよ!」

「聖女様、いえ、勇者様かしら」

「何でも良いわ!救世主様には変わりないもの!!」


『ほんと、現金な奴らね』


「まぁ、そんなもんだよ」


僕は一際大きな銃を作り出して、ドラゴンに撃った。

弾がぶつかると、ドラゴンは少し後退りした。

直後、腹の肉が抉れ、大きな穴が開いた。

その穴は少しずつだが閉じている。


「再生するのか、やっぱりお姫様をどうにかするしか無いかなぁ」


『そうね。このキモいモヤが、魔物の再生の魔力を補っているわ』


「取り敢えず、大量に撃ち込んで、再生する為に動きが鈍くなったら怪我人達を移動させようか」


『賛成ー!!』


僕はドラゴンに何十発も撃ち込んだ。


「こんなにボロボロなのに、まだ復活しようとするのか」


『無理やり生み出された魔物だからね、意思が無いのよ。だから何度でも復活するわよ』


「そっか」


僕はドラゴンが再生している間に、残っていた22人をひとかたまりに集めた。


「救世主様……」

「か、かっこいい!!父ちゃん!!」

「そうだな、かっこいいな。お前もいつか、この方のように強くなればいい」

「俺、強くなる!!」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「お姉さん、綺麗……」


「全員怪我も治したし、飛ばすよ」


「ちょっと待って!!お兄さんの戦いもっと見たい!!」


「無理、あのドラゴンは何度でも回復する。だから僕も移動する」


「そんな。じゃぁ、俺たち何処に逃げても……」


「いや、大丈夫。安全な所がある」


「安全な所って?」


「僕の国の寮だよ」


「この帝都の学院にか……?学院から魔物が発生したと聞いたぞ!!」


「大丈夫。街に居るなら好きにすれば良いけど、もう僕は戻ってこないよ」


「わ、わかった。行く!!避難するっ!!」


「はーい、じゃぁみんなもう転移させるよ。言い残した事はないね?」


「いや、あの。聖女様」


「僕、男だよ」


「ご、ごめんなさいっ!!救世主様、あの方はどうされるのですか?」


女性が指差した先には、馬車が倒れ下敷きになっている、貴族のようなうるさい男が取り残されている。

僕はその人以外を集めていた。


「あぁ、みんなアイツ助けたい?」


「い、いえ……いつも威張っていて、あまり好ましくは思いませんが」


「僕も嫌い。助けなきゃダメだと思う?」


「そ、それは。貴方様の好きにすれば良いかと」


「はぁ……」


僕は男を助け出し治療した後に縛り上げて、全員まとめて転移させた。


『それよりさー、アルフィ。1人1人助けるなんてまどろっこしい事しないで、街中一気に転移させた方が早くない?』


「いや、ルミナス忘れたの?ドゥウムは帝国では嫌われている。恩を売って助ければ、多少、色眼鏡を外して見てもらえるかもしれない。何も知らないまま助けられて、疎んでいるドゥウム寮へ飛ばされたらどう思う??」


『それは……』


「仕方が無い事もあるんだ。命を選ぶ訳じゃないけど……全員助けて、守られるだけの能無しが寮に入るのだけはダメだ」


『わかったわ』


「運命だよ。元々は全員死んでいた命だ。助かった人はラッキーくらいに思ってもらわないと、やってられない」




『アルフィ様!!重傷者までは避難させました。御遺体はどうしましょう?』


「エルフの……えっと」


「メリッサです!アルフィ様!!」


「メリッサ、遺体は一箇所にまとめておいて」


『かしこまりました!』


僕はドラゴンの羽を撃ち落として、まだ避難出来ていない人達の元へ急いだ。

魔物は、時間が経つ毎に増えている。


「ルミナス……これ」


『えぇ、帝都の外からも魔物が入って来ているわね』


「人の血の匂いに誘われて来たか……」


『沢山の人が血を流しているから、こればかりは仕方ないわ』


僕は寮へ転移した。

寮は、人で溢れかえっていた。扉は開け放たれ、寮の外にもテントを張っていた。


「アル!!!」


「兄様、エルフ達は?」


「モニターの前に居るよ」


ルーカス兄様と並んで歩いていると、人から凄く見られた。

ルーカス兄様はかっこいいからね。ザ・王子様って感じ。


「あ、あの!聖女様!!私先程助けていただいた者です。主人は……主人は見ていないでしょうか。定食屋を営んでおりました。買い出しへ行って、それきり帰って来ていないのです!」


「どんな人?」


「髪は短く、エプロンを付けております。おそらく首にはペンダントがかかっているかと……」


「エプロン付けた人は見てないな。後で一緒に見に行こうか」


「よ、よろしいですか!?」


「うん」


「ありがとうございます!!聖女様!!」


「服見て、服〜。王子様の服だよ〜、男だって言ってるでしょ〜」


僕は色んな人に引き止められながらも、モニターの前に着いた。ソファに座っていた者達が皆、立ち上がって僕達に席を譲ってくれた。

僕は真ん中に座って、ルイス兄様とルーカス兄様が両脇に、僕を囲むように座った。


「ルヴィタンは??」


「呼んで参ります。アルフィ様」


「お願い」


モニターに目をやると、帝都の4割近くが破壊された景色が映っていた。


「うん、被害は食い止められているね」


「ど、どこがですか!!人が沢山亡くなって居るのですよ!?それを見てどうしてっ!!」


僕は、そう叫んだ女の口を塞いだ。


「何も知らないくせに口を出さないで、守られるのは当たり前じゃない」


僕が魔法で口を閉じた女性の前に、沢山の人が立ちはだかった。


「みんなその人と同じ考え?何を見て来たの?何を見て、此処へ避難して来たの?」


「そんな言い方は無いだろう!!俺達の中には家も、家族も失った者もいるんだ!!」


「だから何?家、お金……自分の命を助けて貰っておいて、気に食わないなら此処から出ていけば良い」


「俺達に死ねと言うのか!!」


「死なないように助けてあげたのに、気に食わないなら勝手にしろと言っているんだ」


「アル、やめなさい」


「兄様、誰ですか。この人達を寮に入れたのは」


「エルフの女性2人組だよ」


「メリッサ達か、わかった」


「アル、少し疲れて居るんじゃないか。休んだ方がいい」


「大丈夫です」


「アル……」


自分でも、ピリピリしていることも、八つ当たりしていることも分かっている。

優希やレン兄にも会って、兄様達も元気で、安心していた。少し、心が弱くなっている……

人から理不尽に責められるのも、前は何とも思わなかったのに。今はこんなに苦しい。


今、僕は「助けてあげたじゃないか」と思ってしまっている。

家族を失う辛さは、僕が一番知っているのに。


僕は小鳥をトントンと叩く。


「メリッサ、すぐに寮へ戻って来い」


『あ、アルフィ様!?ですが、まだ……』


「良いから、帰って来て」


『承知しました』


しばらく待っていると、すぐに2人が帰って来た。

僕はメリッサ達の変装を解いて、エルフの姿に戻す。


「この人達の対応は、君達がやって。2人が連れて来たんでしょう。僕はやる事がある、文句に付き合う暇はない」


「も、申し訳ございませんでした!!アルフィ様っ!!」


2人は、僕の背後で暴動を起こしかねない人達を外へ連れ出した。


「ルイス兄様、優希を連れて来て下さい」


「優希さんか??わかった。すぐ呼んでくる」


ルイス兄様と入れ替わりで、ルヴィタンを呼びに行っていた騎士が戻って来た。


「ルヴィタン。エルフ達は結界を張る事ができたね」


「は、はい。よくご存知で」


「帝都全てを囲えるような結界を張るには何人必要だ?」


「10人前後居れば可能かと……」


「じゃぁ、すぐに15人集めて」


「は、はい。承知致しました」


ルヴィタンが去った後、身体の力が抜けてルーカス兄様の膝に倒れた。そして僕の身体は縮んでいった。


「アル!?」


「ごめんなさい、エルフが集まって、優希も来たら、起こして下さい」


「うん、分かった。おやすみ、アル」


僕は目を瞑った。

薄っすら周りの声が聞こえる。


「さっきの美しい人がこの少年……元の姿も少年だったけど。まだまだ幼児じゃない……」

「俺達はこんな幼い子に助けられたのか」




「アル、アル起きて」


「……ルーカス兄様……」


「おはよう、アル。みんな集まったよ」


「うん、じゃぁ行こうか」


寝ぼけて服を引き摺りながら外へ出た。


「アル!!姿!!それに服!!」


「あ、忘れてた」


僕は再び10年後の姿に戻して、エルフ達と優希を連れて帝都の中央広場へ向かった。


「アル、私は何をすれば良いのだろうか??戦闘もできなければ、魔法も使えないよ??」


「優希、ピアノ弾けるよね」


「うん、楽器は一通り弾けるけれど……」


「優希はピアノをただ弾いていてくれたら良い。好きなように」


「う、うん」


広間へ着くと、結界を張った台を設置してその上にピアノを出した。

椅子に優希を座らせて、その台を囲むようにエルフが並び帝都を囲む結界を展開した。


僕はピアノに、音を広い範囲まで届かせる魔法をかける。


「優希、好きなように弾いてくれ。僕が戻るまで弾き続けられるか?」


「音楽家を舐めないでもらいたい、三日三晩弾き続けろと言われたら、弾き続ける」


「そっか、お願いね」


優希が演奏を始めたところで、僕はピアノの台の結界を作動させた。

この結界は優希とピアノを守る結界だ。


「す、すごい。これは神聖魔法か。いや、聖魔法なのか……」


「やっぱりエルフには見えるんだな、優希には黙っていてくれ、今は。落ち着いて話す」


「かしこまりました、アルフィ様」


優希の音が帝都を包む。

僕がエルフ達の姿を変えようとした時、ルイス兄様が騎士達を連れて広場へ来た。


「ルイス兄様!?」


「やっと、皇帝から応援要請が来たぜ」


「そっか、じゃぁ姿も変えなくて良いね」


「あぁ、そうだな!」


「じゃぁ救助と魔物はルイス兄様達に任せて良いですか?」


「勿論だ」


「魔物は倒しても回復するので気をつけて下さい」


「わかった」


ルイス兄様は騎士達を連れて行った。

僕は兄様達を見送って、エルヴィシア寮へ向かった。




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