第十四話
帝国へ来て3日目。
今日は一日やる事がない。
夕方に、昨日ドレスを買ったブティックへドレスを取りに行って、夜にはロゼリアの兄上と夕食を共にする約束をしている。
「夕方まで何しよう〜」
「アル!」
「レン兄!」
「レ、レ、レン兄!?」
「ルーカス兄様?どうしたの?」
「私ですら、ルーカス兄様っ!!兄様!!様付けなのに!!」
「兄様は兄様でしょ?」
ルーカス兄様は、すっごく拗ねていた。
僕はレン兄と話し合って、ルーカス兄様には優希の事や僕達の事を話しておくことにした。
「異世界……聞いた事はあるよ。けれど転生や転移というのは初めて聞く。古い文献にも、召喚魔術で異世界の勇者を召喚したという話があった」
「実際に召喚された勇者達を見たけど、きっとあれは僕達が居た世界から召喚された人達だ。英語で話しかけたら目を輝かせていたし」
「優希は勇者と会った事があるの!?」
「うん、ドゥウムに入るのはやめた方がいいと、世間知らずの勇者様に助言しに行ったんだけどね。恋は盲目とは良く言ったものだよ。元居た世界の言葉を聞いて少しは好意的になったけれど、嘘だと言って信じてはくれなかったよ」
「実際に異世界から召喚された勇者は、その国の王族と結婚したと言われているね」
「うん、結婚はしたよ。けれど役に立たなかった勇者は、戦争から帰って5日後に殺されたよ」
「殺された!?」
「異世界の人間は、何十年以上も先の知識を持っていると言われているのに」
「そうだね。実際に聖信国のように召喚した聖女を大切に庇護して知識を得る国もあるけれど、勇者を召喚した国は数年後の未来の利益よりも、目先の利益の方が欲しかったのだろうね」
「うーん。殺すより知識を得た方が国の利益になったはずだけど」
「うん、ルーカス様の言う通りだよ。けれどその国は、王女と帝国の第三皇子の婚約が決まっていたんだ。帝国との繋がりの方が価値があると思ったんだろうね」
難しい話を大人2人とルーカス兄様が話している間、僕はフィズと遊んでいた。
飽きたのだ。みんな難しい話ばかりするんだ!!
「ねぇ〜レン兄〜、炭酸って作れないかなぁ?」
「うーん、作ってみようか?」
「いいの!?」
「うん、良いよ。他に欲しいものはある?」
「えっとねぇ、魔力を溜めておける石とかあるかな?」
レン兄は、ポンっと背後に綺麗なタキシードを着た男の人を出した。耳が長い、ダークエルフかな?
「アズ、倉庫を見てきてくれ」
「かしこまりました、レンヴィス様」
「かっこいい!!」
「そうだろう?アズはカッコいいんだ」
「ダークエルフ??」
「いいや、魔族だよ」
「げ、魔族ぅ?」
魔族と聞くと、グレンを思い出す。
てか、アイツ建国祭から姿消したけど、どこ行ったんだろ……帰ったのか。帰るなら一言くらいあっても良いと思うけど。居候させてあげてたんだから!!
しばらく待っていると、アズが小さな石を数個持って来た。
その小さな石は、子供の親指の爪ほどの大きさしか無かった。けれどその石は透明のガラスのようで綺麗だった。
「アルフィ様、どうぞ」
「ありがとう、アズ」
「どれくらいの魔力を溜められるのかな?」
「アルフィ様ほどの魔力は少々厳しいですが、この小さなカケラ1つで宮廷魔術師2人分くらいの魔力なら貯めておけます」
「僕そんなに魔力多くないよ?」
「アルフィ様は鑑定が使えるのですよね。自分のステータスはどれくらい見られますか?」
「他の人の見える範囲と同じかな」
「左様ですか、基本鑑定で見れるのは生まれてから得た能力や魔力と言われています。生まれた瞬間から持っているものは含まれません」
「ほう?」
「魔族にはその、鑑定では見えない人のステータスまで見る能力があります。アルフィ様は、使徒、いや神にも等しい程に能力を持っている」
「僕にも見えない能力や魔力を持っているってこと?」
「はい」
鑑定のランクが上がるごとに、見える範囲も増えている。
まだ見えてないステータスがあってもおかしくは無いか。
生まれた瞬間から持っている能力は、潜在魔力や潜在能力というらしい。
潜在魔力や潜在能力は、どれだけ努力してもレベルを上げても、変わる事は無いらしい。
僕は魔力切れを起こしたことがない。
ステータスの魔力は0になっているのに、他の魔術師のように倒れる事は無かった。
あと【ルーレット】を回すのに、魔力を使っている感覚はあるのに、ステータスで見える魔力は減らなかった。
「そっか!!知らなかったよ、ありがとう。アズ」
「滅相もございません」
僕はレン兄と、追加の材料が用意でき次第建て直す、3カ国の寮の設計を考えていた。
「やっぱり寮に住んでいる生徒達に、何が欲しいか聞いてみるべきだね」
「それよりさー、レン兄。4つの寮だけ直すのは他の寮の人から苦情出ないかな??」
「いいや、大丈夫だよ。私が学院長になる前の年に、4つの寮を除いた他全部の寮は建て替えているんだ。それに他のところは、毎年冬に改修工事がされている。苦情が出るなら私の権限で改修工事は中止だね」
ここまで根付いた差別はそう簡単に無くならないだろう。それなら、畏れられたら良い。尊敬されるなどの好印象は、恐らくもう与えられない。何をしても、化け物だと言われて、理解しようと思わないだろう。
「レン兄!!文化祭しませんか!!」
「文化祭??それは私もしたかったのだけど。予算も無くて、私の持ち合わせも無いんだ……ごめんね、アル」
「僕が出すよ、僕結構お金持ってる!!」
「いや、アル。この学校は大きいから、本当に途方も無いお金が必要だよ?」
「では、私も出しますよ。アルがやりたい事なのであれば」
「ルーカス兄様!!」
僕は【ルーレット】で獲得した品を売ったお金もある。
それに、レオとユリウスの新しい剣の特訓に付き合って、四箇所のダンジョンを合計23回周回したから、売ったら高価な素材が大量にあるのだ。
「もう、今年は卒業パーティまで時間が無いから、来年、学年が変わってからにはなるけど」
「そうだね、1ヶ月半で準備は難しい」
「じゃぁ、年明け前くらいにしよう。テスト明けから年越し休みまで何も無いみたいだし」
「うん、そうしようか。ありがとう、よろしく頼むよ」
僕とレン兄は、レオとリア、フィズを連れて3つの寮へ行っていた。
建て替えをするけど必要なものはあるかと聞くと、みんな目の色を変えて喜んでいた。
獣人の国、ラグナルド獣王国の寮生は、部屋を増やして欲しいとのことだった。今は5人で使っている部屋があるほど、部屋が足りていないそうだ。
ドワーフの国、ガルドオン地帝国の寮生は、夜でも使えるような工房が欲しいそうだ。
「最後はエルヴィシア寮だね」
「うん、エルフの国だね」
「エルフかぁ〜!!」
「少々愛想の無い子も多いけど、悪い子じゃ無いから気にしないであげてね」
「うん!!」
エルヴィシア寮の敷地へ入ると、森が広がっていた。
手入れのされていない森では無く、手入れをされ尽くした森。美しい泉の近くに寮は建っていた。
すごく汚いというほどでは無いけれど、100年は建て替えられていないのだろう。
剥がれた屋根は、生徒が自分達で直して魔法をかけたのだろう。屋根から木が生えていた。
うむ、素晴らしい。
「こんにちはー!!」
僕は寮の扉の前で大きな声で挨拶をした。
「あれぇ、誰も居ないのかなぁ」
「アル、大きな声出したらダメだよ」
「そうなの??」
背後から魔力を感じ、ルミナスの指輪で結界を張る。
バチッと、魔法の矢が結界にぶつかり消えた。
「誰?」
「お前達こそ誰だ。姫様の御前で大声を出しおって」
「姫様?」
「そうだよ、アル。一昨年からエルヴィシア教国の第二皇女のエルメシア様が御入学されてね」
「へぇ」
「ルヴィタン君、ごめんね。私が伝えるのを忘れていたんだ」
「学院長様、申し訳ありません。私も冷静を欠いておりました」
「良いんだよ、誰も怪我していないし。ね?アル」
「はい、僕こそごめんなさい。レオ、剣下ろして」
「はい、アルフィ様」
ルヴィタンさんは、泉の近くに設置された机と椅子まで案内してくれて、そこで話すことになった。
「学院長様、どのような用件でしょうか」
「うん、寮を建て直そうと思ってね。君達の意見を聞きに来たんだ。必要な施設によっては追加で素材が必要になるからね」
「私達は結構です」
ルヴィタンさんの後ろに、3人のエルフの女性が現れた。
大樹に隠れていたのかな。
「ど、どうしてだい?」
「今、姫様の御身体を動かすのは危険なのです。私達は森で暮らすことに慣れている。今は屋根があって雨風凌げるだけで良い」
「何か病気なの?」
「その子は」
「ドゥウム王国の第三王子、アルフィ王子殿下だよ」
「ドゥウムか。我々は人間が嫌いだ。これは昔から、変わらない。けれどドゥウムは、我々にも人間と同じように接してくれた」
「君のようにね。私達のこと怖く無いの?」
「怖い??なんで??」
「人よりも魔力が多いし、耳も長くて、長命。何より容姿も良い」
容姿良いって自分で言っちゃうんだ〜。まぁ言い返せない程に良いけど。
「全然?」
「アルフィ殿、私達は姫様の近衛兵です。寮の建て替えが出来れば、皆喜ぶでしょう。けれど姫様を危険に晒す行為だけは出来ません」
「だから、そのお姫様は何か病気なの??」
「病気ではありませんが……」
「とにかく、有難い話ですが寮の建て替えは結構です」
「もう!!なんで動けないのか教えてって言ってるの!!ウジウジうざいっ!!この寮見て、はいそうですかって帰れるわけないでしょ!!」
「ちょっ、アル。大きい声!」
近衛兵達が僕に向かって弓を構える。僕の後ろでは、レオが剣を抜いて警戒している。
「お姫様も、もっと綺麗な建物の方が療養できるんじゃ無いの??」
「そ、それは……」
「お姫様の事を考えるあまり、みんなは未来の事が見えていないよ」
「なっ、貴様っ!!我々は全て良い方向へ進むよう考えて行動している!!」
「でも、1年も寝たきりなんでしょ?良い方向へ向かってるの??」
「何故その事を……」
「生徒の資料見ながら来たからね」
「元はと言えば、貴様ら人間が!!」
「おい、ルヴィタン!!このお方は関係無いだろう」
「も、申し訳ない。取り乱してしまった」
「良いよ。みんなお姫様が大事なんでしょ??僕達の周りを囲んでるエルフの皆さんも」
森の木々の影から、ザッと沢山のエルフが姿を現した。
そして、近衛兵達も口を噤んでしまった。
「はぁ、仕方ない」
僕は立ち上がり、寮の入り口へと向かった。
大量のエルフが立ちはだかる。
「リア、殺さないように」
「承りました、アルフィ様」
リアがエルフを怪我させないように、気を失わせていく。
僕はそれを横目にレオと寮の扉を開けた。
「はぁ、申し訳ない、みんな。アルは昔から少し堪え性がない所があってね。悪気は無い、許してやってくれないだろうか」
「いえ、構いません。もう、良いのです。エルヴィシアに伝わるエルフの秘宝を試しましたが、姫様は目覚めませんでした。もう、長くありません。せめて静かに眠って欲しかった……ただそれだけなのです」
扉を開け、一歩寮へ入ろうとした瞬間、異様な空気に吐き気を催した。
僕は口を押さえる。
「レオ、レオは来なくて良い。1人で行く」
「ですが、アルフィ様」
「レオは闇魔法の耐性ある?」
「い、いえ。ありません」
「じゃぁ、一歩も寮に入らないで」
レオは少し迷った後、頷いた。
「はい、お待ちしております。アルフィ様」
「すぐ戻るよ」
多分、これは呪いの一種だ。
一年間、ろくに浄化を施せてないのだろう。
呪いはどんどん強くなって、周りにまで災いを振り撒く。
父様が1回目で受けた呪いと一緒だ。
「ルミナス、出て来れる?」
指輪から、出てきたルミナスは少し嫌な顔をしていた。
「アルフィ、此処は長居しない方が良い」
「分かってる、手伝って」
ルミナスは僕達の周りだけを浄化しながら、1番呪いの濃い場所へ向かって歩く。
1番禍々しい部屋の扉に手をかけた。
「ルミナス、開けるよ」
ルミナスは覚悟を決めたような顔で頷いた。
扉を開けると、それまで閉じ込めていたものが一気に溢れ出るような感覚がした。
「き、気持ち悪い」
「アルフィ、扉を閉めろ。寮が持たないよ」
「うん」
扉を閉めると、部屋の四隅に魔石が置かれていた。
エルフ達もエルフ達なりにこの呪いを抑えていたんだろう。
「これ、やばいね。窓開ける?」
「アルフィ、絶対だめ!!これ外に漏れたら、森は枯れて相当高位の魔物が出るわよ!!」
「まじか」
僕は、お姫様に近づき様子を見る。
目は開いたまま眠っているのか。
白目が黒く染まりかけている。本当に後数日ってところだな。
お姫様の身体に触れると、もぉほとんど呪いが身体中に巡っているのを感じた。
「脈も薄い……擬似心臓を作っても全身に綺麗な魔力が流れるまでに、擬似心臓をも呪いに侵蝕されかねないな」
「アルフィ、もうこれ浄化なんかじゃ無理よ。奇跡でも起きなきゃ……」
僕はお姫様の手を握って少しだけ魔力を吸い出す。
僕の身体に入った少しの魔力を浄化する。
「ルミナスは僕の周りだけ浄化しておいて」
「アルフィ、やめなさいよ。そんな事しても助からない。もう間に合わないわよ」
「大丈夫」
僕は魔力を少しだけ吸って浄化する、という作業を何度も続けた。
エルフの魔力は多い。こんな事を続けていたら、何日かかっても終わらない。浄化しても呪いに侵された魔力は増える一方だ。
「でも、浄化出来ることは分かった」
「そ、それはそうだけど」
僕は亜空間から、大量にガラスの様な石を取り出した。
アズから貰った、魔力を溜めておける石を大量に複製したのだ。
石をお姫様の周りに大量に敷き詰める。
「やば……」
僕の口から血が流れる。
ちょっと穢れた魔力体内に入れすぎたかな。
僕は血を飲み込み、自分に浄化を何度もかけて、ルミナスにも浄化をしてもらいながら、寮を出た。
エルフの作った森の空気は美味しい。
僕が寮を出ると、みんな扉の前で待っていた。
「また明日来ます。皆さん、建物を建て替えますので、どんなものが欲しいかとか決めておいてくださいね」
「我々はまだ建て替えるなど言っていないぞ!!」
「建て替えなければ、お姫様の呪いが無くなった時壊れちゃうよ?」
「だとしても、明日でなくても良いだろう!?」
「僕も忙しいんだよぉ」
僕はレン兄の服を引っ張って帰る。
「じゃっ!また明日ー!!荷物は全部出しておいてねー!!」
「ちょっと、アルっ」
レン兄は、服を引っ張られるのが歩きにくかったのか、僕を抱き上げて歩き出した。
ドゥウムの寮へ戻ると、広間にみんな集まっていた。
「おかえり、アル」
「ただいまー、ルーカス兄様。って言ってもすぐ出るけど」
「どこ行くの?」
「ブティックへドレスを取りに行かないと」
「そう、一緒に行こうか?」
「ううん、良いよ。貰ってすぐロゼリアの兄上と待ち合わせしているお店へ向かうから」
「そう?ちゃんとした服はあるの?」
「いつものじゃダメなの?」
「だっ、だめだよ!?」
僕はルーカス兄様に連れられて、荷馬車に積んであった服に着替えさせられた。
「窮屈……」
「我慢しなさい、アル」
「あぁい……」
「ふぅ、こんな事もあろうかと、ちゃんとした服持ってきておいて良かったよ」
着替え終わって、用意しておいた馬車にロゼリアとニア、リアを連れて乗り込んだ。
馬車を出し、ブティックへ向かった。
学院を出て街をしばらく進むと、ブティックに着いた。
「お姉さん、出来ていますか?」
「はいっ!!……って、お、王子様だったのですか!?」
「ん?あぁ」
馬車を少し気合い入れて作ってしまったからか。
ちょっと綺麗過ぎたかな?
「ロゼリア、じゃぁ行こうか」
「い、いえっ。あの、アルフィ様。早速ドレス着て行っても良いでしょうか」
「それは構わないけど、今のドレスでも良いと思うよ?」
「いえ、私がアルフィ様に買って頂いたドレスを着て行きたいのですわ」
「そう」
「お客様、どちらを着て行かれますか?」
「これにしますわ」
ロゼリアは、3つ並んだドレスの中で1番淡い紫が多く、胸元に大きなフリルが付いたドレスを選んだ。
ニアと店員のお姉さんに着せてもらって、ロゼリアは嬉しそうに笑っている。
「お帽子はどうされますか?」
「このドレスに合うかしら」
「えぇ、もちろん」
「じゃぁ被ろうかしら!」
僕が紅茶を2杯飲み終わった頃、リアはソワソワしていた。
「リア、外でレオと居てもいいよ?」
「い、いえ!!アルフィ様と居ます」
「そう??まだ時間かかりそうだから、無理しなくても良いよ」
「い、いえ。皆様がアルフィ様を見ていらっしゃるので……その、視界に入ってしまうのが少々気恥ずかしくて」
「まぁ、貴婦人しか来ないようなお店だし、男が珍しいんでしょ」
「い、いえ。そういうわけじゃ無いと思いますけれど……」
リアはモジモジしながら、ロゼリアの着替えが終わるまで僕の隣で立って待っていた。
「やっと終わったみたいだよ、リア。エーリエを呼んできて」
「承知致しました」
エーリエに衣装トランクを2つ持ってもらい、ニアとリアが1つずつトランクを持った。
「お客様、この度は誠にありがとうございました。こちらは当店からの心ばかりの品でございます」
「ありがとう、また来ますね。もうすぐ母の誕生日なので」
「は、はい!!お、おお王妃様!?はい!!ありがとうございます!!」
馬車の荷台に衣装トランクを乗せ、急いで待ち合わせしているお店へ向かった。
「お店の方に何か頂いたのですか?」
「うん」
小さな紙袋に、淡い紫の宝石のペンダントと、もうひとつ赤い宝石の付いたペンダントが入っていた。
「あの!わたくし、淡い紫のペンダントを頂いても宜しいでしょうか」
「どちらもロゼリアが持っていたら良いよ」
「い、いえ!!もうひとつのペンダントは、アルフィ様に持っていて欲しいのですわ」
「でも僕使わないしなぁ、ニアいる?」
「アルフィ様っ!!ほんっっっと、もう!!」
「え、何……」
「よく見てください、赤い宝石のペンダントですよ。赤い宝石!!」
「うん、赤い宝石だね」
「本当っ!!鈍感なんですから!!誰が育てたのですか!!ニアでしたぁ!!」
「大丈夫??ニア」
「ロゼリア様の髪色と同じ色ではありませんか」
「あー、そうだね。綺麗な赤だ」
「き、き綺麗!?わたくしの髪は綺麗だと思われますの!?」
「うん??」
なんだか2人がすごく変だ……早くお店に着かないかなぁ。
帝都でも名高い高級料理店に着いた。
僕は先に馬車を降りて、ロゼリアに手を差し出す。
「ありがとうございます、アルフィ様」
2階の個室に入ると、長髪の綺麗な男性が出迎えてくれた。
「待っていたよ。遅かったねロゼリア」
「お兄様!!」
個室の真ん中にポツンとあるテーブル席に座って、ニコニコと微笑んでいるのがロゼリアの兄上か。じゃぁこの長髪の男性は、護衛か使用人。
使用人かな、線が細くて綺麗な人だし。
「2人とも早く座りなさい」
長髪の男性は、ロゼリアが座る椅子を引いてあげている。
僕が椅子に座ると、ロゼリアの兄上は長髪の男性に何か耳打ちして、男性は部屋を出て行った。
「アルフィ殿下は、僕の付き人が気になるようだね」
「も、申し訳ありません!!綺麗な方だと思って」
「アイツはローワンという、仲良くしてやってくれ。そして僕はブライア。よろしく頼むよ、可愛い妹の恩人君」
なんだかロゼリアの兄上は、少しルーカス兄様と似ている。笑っているのになんだか目が笑っていないよ!!
「それよりアルフィ殿下、僕に言うことがあるんじゃないのかな?」
「いえ、心当たりがありませんが」
「そうかそうか、君は随分と鈍感なようだね」
「そうでしょうか??気配りはするよう心がけていますが……」
背後でニアがあわあわとしているのを感じるが、何か僕は見落としているのだろうか。
「じゃぁ、君はロゼリアの事をどう思っている?」
「ロゼリアの事ですか?可愛らしく、よく気の利く方だと思っています」
「……アルフィ殿下は、まだ四歳だったな。申し訳ない、忘れてください」
「??はい」
「お兄さんからひとつアドバイスだ。無闇矢鱈と婚姻前の女性に自身の色を身に付けさせるものでは無い。それも、一国の王子が」
「お、お兄様!!これは違うのです!!わたくしがこの色が良いと言ったのですわ!!アルフィ様は何もご存知ありません!!
にも関わらずドレスを三着とそのドレスに合うような小物や靴も三組もプレゼントしていただきましたの。
わたくしに手持ちがありませんでしたから……わたくしが考え無しだったのですわ、申し訳ありません。アルフィ様」
「そうだったのですか、僕は別に好きな色を着たら良いと思ったのですが。そうでは無いのですね。勉強になります」
「まぁ、僕もその意見には賛成だ。好きな色を着れば良い。実際にロゼリアは、淡い紫も黄色も似合っている。
けれど社交界ではそうはいかない。婚約者でない者の色のアクセサリーやドレスを身に付けるのは誤解を招きかねない。相手が王族であれば尚更だ。知らなかったでは通せない事もある。ロゼリアも気をつけなさい」
「はい、お兄様」
「相手が王族であれば、批判の矛先はロゼリアだ。アルフィ殿下とこれからも仲良くしたいのであれば、しっかり社交界のお勉強もしなければいけないよ」
「分かりましたわ、お兄様」
「いやぁ〜!!それにしてもロゼリアは可愛いなぁ!!少し見ないだけでこんなに愛らしくなるなんて!!」
この世界は、ブラコンかシスコンしか居ないのか……?いや、違うか。いつ失ってしまうか分からない世界だからこそ、愛おしいと失いたくないと思えるのかもしれない。
僕も最初は、大切な人はずっと側に居てくれると思い込んでいた。そんな事なかった。全部失った。
僕も絶対に失いたくない。
僕も、人の事言えないな。十分ブラコンでシスコン、ファミコンだ。ファミコン??ファミリー、ファミコンで良いのか??やっ、ダメか??
料理が運ばれてきて、食べながら世間話をしていた。
窓がガタガタッと音を立てたと思うと、次の瞬間、ガタッと大地が跳ね上がるように建物が揺れた。
「またか……」
「ブライア様」
「また間隔が縮まったな」
「はい」
「ブライア様??」
「あぁ、アルフィ殿下。ここ1年、地震が多く続いていまして」
「地震……1年前……」
僕は亜空間から、ルミナスと作ったブレスレットを2つ出した。
「ブライア様、宜しければこちら受け取って下さい」
「これは、ブレスレットかな。とても綺麗だけど、良いのかい?」
「何かあった時にっ――」
また大地が天へ突き上がるように揺れた。
今度は数回。大地が呼吸しているようだ。
「ブライア様に、もし何かあったらロゼリアが悲しみますから!このブレスレットには瀕死の状態でも治るくらいの魔法が込められています!!一度限りですが、使って下さい」
「そ、そんな高価な物貰えない!!」
「ロゼリアの為です」
「わ、わかった。有り難く頂くよ」
再び突き上げるような揺れがあった後、何かがゴゴゴゴゴッと音を立てて揺れ続ける。
「ロゼリア、父上への手紙は渡した?」
「あ、まだですわ」
ロゼリアは、急いで手紙をブライア様に渡した。
「ブライア様は、どうされますか?」
「僕は一度、フロレア寮へ戻って王子の指示に従う」
「そうですか、ロゼリアはどうする?ブライア様と行く?僕達とドゥウム寮に戻る?」
「アルフィ様と行きますわ」
「わかった。ブライア様、何かあればドゥウム寮へ来て下さい。それに戦えない者はすぐドゥウム寮へ避難させた方がいい」
「ドゥウム寮に??」
「昨日建て替えました。結界があります。少なくとも帝国の中では今1番安全なのはドゥウム寮です」
「わ、わかった。ブレスレットも感謝する。ローワンと大事に使わせて貰うよ。妹を頼む……」
「はい!!」
ブライア様とローワンは急いで店を出て行った。
その瞬間、また揺れ出してロゼリアがバランスを崩して、僕に抱きついてきた。
「も、申し訳ありませんわ!!」
「いいよ。そんなことより、僕らも早く兄様達の所へ戻った方が良い」
僕達は急いで馬車へ戻り、馬車と一緒に全員ドゥウム寮へ転移した。
「エーリエ、ルーカス兄様にも言われているだろうけど、今日はロゼリアの護衛を離れないで」
「はい!もちろんです」
寮の広間には寮生が集まっており、ルーカス兄様の指示で剣を腰に下げていた。
「兄様!!」
「アル!!良かった、心配したよぉ」
僕はルーカス兄様にコソッと耳打ちをする。
「多分、次の揺れで魔物が出ます」
それを聞いたルーカス兄様と、隣で聞き耳を立てていたルイス兄様が、ガタッと立ち上がる。
「どうしてそれを」
「僕はその発生源も分かります。でもその発生源は止められません」
「そ、そうか」
僕は馬鹿だっ、忘れてた。忘れてた忘れてた!!
家族に関係が無かったから!!
今日、帝都は半壊する。




