第十三話 転生者と転移者
僕達は、3週間かけてフロレア王国を横断した。
ロゼリアが居るから、王都には寄らずに。
「ロゼリア、もう少しで帝国に入るよ。検問があるから出てきて」
「はい、アルフィ様」
僕はロゼリアの手を引き、荷馬車を降りた。
現役の学院生徒であるレオとユリウスが同行してくれたため、怪しまれずに帝国へ入ることが出来た。
別に疚しい事も無いのだけれど、念の為に持って来ていた魔物の素材が必要無くなってしまった。
「仕方ない、第四皇子に引き取ってもらお〜」
どれも使える素材ばかりだし、友好関係を作る為の、プレゼントだね。
帝国の国境を越えてから2週間、夜はゆっくり休みながら進んだ。
帝都に着くと、すぐ学院へ向かった。
「わたくし、帝都には初めて来ましたわ。こんなに綺麗な街でしたのね!」
綺麗……か。
細い路地にはゴミが溢れ、貧民が多く地べたに座り込んでいる。
「玄関を綺麗に整備して、物置きに物を仕舞い込んだって感じ」
「アルフィ様?」
「あ、ごめん。ロゼリア」
「素晴らしいですわ!!アルフィ様!!仕立て屋ですわ!!展示されているドレスも素敵〜!!」
「後で行ってみようか」
「良いのですか!?」
「うん、もちろん」
学院に着くと、ドゥウム寮の敷地に荷馬車を止め、僕はルーカス兄様とルイス兄様、リア、ユリウスの5人で早速学院長室へ向かった。
レンヴィス・グランベルグ、帝国の第四皇子殿下だ。
資料が山積みになった机で、忙しそうにしている青年が、第四皇子殿下か。
「初めまして、レンヴィス皇子殿下。わたくしルーカス・ドゥウムと申します」
「あぁ、堅苦しいのは良いよ。私は貴方方が来るのを楽しみにしていたんだ」
「楽しみに、ですか?」
✦ ─────────── ✦
名前 : レンヴィス・グランベルグ
年齢 : 21歳
誕生日 : 1月5日
レベル : 68
魔力量 : 025800/025800
−固有スキル−
【頭脳明晰Ⅱ】 【鑑定Ⅱ】 【身体強化Ⅸ】
【思考速度上昇Ⅷ】 【並列思考Ⅸ】
−所持魔法−
【風魔法Ⅷ】 【水魔法Ⅱ】
グランベルグ帝国第四皇子。貴族学院学院長。転生者。
✦ ─────────── ✦
「転生者!?」
「アル?テンセイ?何??」
僕が驚いて声を上げると、レンヴィス皇子殿下と目が合った。
レンヴィス皇子殿下は、ニコッと微笑んだ。
ルーカス兄様がレンヴィス皇子殿下と話を進めてくれて、明日から寮の改修を行うこととなった。
帝国の皇族や貴族は、ドゥウムに酷い態度を取る。
前回までのレンヴィス皇子殿下もそうだったはずだ。
転生者……気になる。
そして後ろの獣人。奴隷?いや従魔??
帝国をはじめ、人間の国では人間以外の種族を蔑む者が多い。
エルフやドワーフ、獣人などはドゥウムと同じく蔑まれる対象のはず。
虐待の痕もない、綺麗に仕立てられた服と、サラサラで、もふもふの尻尾と耳。もふ……もふもふ……
僕が後ろの獣人をジーッと見ていたのに気づいたレンヴィス皇子殿下が、笑いながら紹介してくれた。
フィズというらしい。男の子!
「アルフィ殿下はフィズに興味津々みたいだね」
「す、すみませんっ」
「ドゥウムに獣人は居ないのかい?」
「僕の使用人に1人居るのですが、触られるのが嫌だといつも隠していて……」
「そうだね。騎士団にも数名居ますが、アルフィはまだ幼く騎士団には行かないし街にもあまり出ないので、見る機会が無いもので」
「そう、フィズ」
「かしこまりました。レンヴィス様」
フィズは僕の前にしゃがんでくれた。
「さ、触って良いの?」
「はい」
僕がフィズの耳に触れると、フィズは少しくすぐったそうに笑う。ふわふわぁ!!もふもふ!!
僕はソファから降りて、フィズの尻尾をふわふわと触る。
「ルイス……私も耳と尻尾を生やすべきだろうか」
「何を言っているんですか。兄上……抜け駆けはさせませんよ」
「本当に何を言っているのですか、お二人共」
「リアンだって、アルにもふもふされたいだろう?」
「いえ、私はもふもふが無くとも、アルフィ様から頼られる存在ですので。必要ありません」
澄ました顔で何を言っているんだい、リア。3人のせいでユリウスが困っているじゃないか。
僕がフィズの尻尾に包まって眠っているうちに、お話は終わっていた。
ユリウスにフィズから引き離された僕はジタバタともがいだ。
離すのだ!何人たりとも僕をフィズから引き離せないのだぁっ!!
って、そんなこと恥ずかしいから言えないが、四歳児特権だ。
「ユリウス、もうちょっとだけ。もうちょっとだけフィズと居る!」
我儘+上目遣い。ふっふっふ〜、これで兄様やレオ達は僕の言う事聞いてくれるのだ!!我ながら少々ずるいが、仕方がない。フィズの尻尾がもふもふなのだから!!
「いけません、アルフィ様。学院長もお忙しいのですよ」
チッ、ユリウスは効かないのか。後ろに居る兄様のどちらかに代わってくれ!!
「構わないよ、ユリウス君。私も少しアルフィ殿下と話がしたいと思っていたところなんだ」
「しかし学院長……」
「あ、そうだ。ユリウス君、これをドゥウム寮、エルヴィシア寮、ガルドオン寮、ラグナルド寮に持って行ってくれないかい?4カ国の生徒にプリントが行き渡ってないと言われてねぇ。多めに用意したのだけれど……」
レンヴィス皇子殿下は、少し悲しそうな表情をした。
「くだらない事はしないで欲しいのだけれど……教師すらあのザマだから、もう諦めなければいけないのかもしれないね」
「学院長……学院長は良くやっていると思います!学院長が来てくださってから、大変過ごしやすくなったと先輩方も言っておりました!」
「ありがとう、ユリウス君」
大量のプリントをフィズがユリウスに渡す。
兄様達は嫌そうにしていたが、僕とリアを残し3人には先に寮へ戻ってもらった。
「リアも座らせてもらいなよ」
僕は兄様達が居なくなって、1人で座るには広いソファをポンポンと叩く。
「いえ、私はここで大丈夫ですよ」
「じゃぁ……」
僕はジーッとフィズを見た。
レンヴィス皇子殿下は、微笑んでフィズに合図をした。
フィズは僕の隣に座った。
もふもふ!!
僕はフィズの尻尾をもふもふしながら、レンヴィス皇子殿下と話をした。
「私にも動物の好きな弟が居てね」
「第四皇子殿下の弟君の話ですか?転生前の話ですか?」
「転生前だよ。君も転生者なのかな」
「僕も転生者ですよ。あ、そうだ」
僕は亜空間収納から、持って来ていた魔物の素材の入った木箱を12箱出した。
「す、凄いね。なんだい?これは」
「魔物の素材です。良かったら使って下さい」
「ありがたく使わせて頂きます」
少し転生前の話をして、帝都でおすすめのご飯屋さんを聞いたりしながら、フィズのもふもふを堪能した。
明日の寮の改修は、第四皇子殿下も同行することになった。
あまり魔法を見られたくないけど、仕方ない。
「リア、明日のお昼は街でご飯食べようか」
「レンヴィス皇子殿下におすすめしていただいたお店ですか?」
「うん」
「承知致しました」
魔道荷馬車でドゥウムの寮生のみんなと夕食を食べ、寮内を案内してもらった。
寮に一歩足を踏み入れただけで、床が抜けてしまうんじゃ無いかと思うほど、ギシッと軋んだ。
「うぅ、汚いぃ」
「申し訳ありません、他の寮と違い寮母も居ないので、あまり掃除が出来ていなくて」
「明日壊すから良いけど……ここまで汚いと身体に悪いね」
「こ、壊すのですか!?改修じゃ」
「元々そのつもりだったけど……建て直すって言ったらダメって言われそうだったから」
「嘘ついたの?アル」
「嘘じゃないです!作戦です!」
「そ、そう」
ルーカス兄様が久しぶりに僕に呆れている。
だってみんなに建て直すって言ったら、何ヶ月も掛かると断られそうだったんだよ!!
引き続き僕達は、寮内を歩き回った。
個室は隙間風が酷く、牢獄のように窓も小さい。昼間でも薄暗いだろう。
生徒の健康と安全、学習環境を整えるのは学院の義務では無いのか……
こんな部屋に、一日中居たら気が滅入るよ!!
お風呂も無く、皆、訓練場のシャワー室を使っているそうだ。
「何度見てもこの寮は酷い……」
僕は寮から出て顔を上げると、二度目にルイス兄様が倒れていた光景を、目の前の景色に重ねてしまった。
吐き気がして、その場で座り込む。
忘れたい事は、なかなか忘れられない……
「アルフィ様!大丈夫です、大丈夫ですよ」
「リア、荷馬車に戻ろう」
「はい」
リアに抱きかかえられて、僕は魔道荷馬車へ戻った。
工房へ入り、明日使う素材の確認をした。
「ルミナス、結界を作りたいんだけど」
「すぐ出来るわよ、使ってない魔石はある?」
「扉の側に重ねている木箱は全部魔石だよ」
「邪魔だと思っていたけど、あれ全部魔石だったの!?」
「そうだよ」
ルミナスは魔石を並べて手本を見せてくれた。
魔力を込めて結界の角にあたる場所に置けば良いらしい。
見様見真似で、僕は魔石に魔力を込めた。
魔力を込めている最中に、魔石が割れてしまった。
「アルフィ。今、どれだけの魔術を組み込もうとしたの?」
「えっと、10個?」
「それじゃあ魔石の強度が足りないわよ。もう少し数減らしなさい」
「うん〜」
僕は組み込む魔術の数を減らし、少し魔石の形を整えて、飾りとして置けるように加工した。
あとはセキュリティルームに設置するモニターだね!!
すごくファンタジーじゃ無いことを言ってしまったが、結界だけで何者かの侵入を100%防ぐことは出来ないかもしれない。その時のための保険だ。
「お、繋がるねー」
「その魔石は色んな所に設置するの?」
「うん、壁に埋め込もうと思ってね」
「良いわね」
そんなこんなで、翌日。
早朝から寮生達の荷物を、寮の外へ運び出す。
「全員荷物は荷馬車に入れておいて、少し建物を広げようと思うから」
「アルフィ殿下!私共にも何かお手伝い出来る事があれば、なんでもお申し付け下さい!!」
「うん、大丈夫。少し離れて見張りをしていて。僕の側に残るのは、最低限の人数にして欲しい」
寮生達は、ドゥウム寮の敷地と他の寮の敷地の境目で見張りをしてもらい、荷馬車は寮の敷地の端に移動させた。
敷地は他の寮と同じくらいの広さがあるのに、建物は十分の一程度。見た目もボロ屋。
本当に、舐められているとしか思えない。
僕の側に残るのは、リアと兄様2人、レオ、ユリウス、マシュ、レンヴィス皇子殿下のみ。
「皆さん、今から見ることは全て、口外禁止でお願いします」
僕はルミナスとグレティスを召喚した。
亜空間から、素材を大量に出す。
「グレティス、今ある寮を壊して更地にして」
グレティスは何も言わず、闇魔法の炎で寮を燃やし尽くした。そこに寮の痕跡すら残さずに。
「ルミナス」
「はーい」
ルミナスは、ドゥウム寮の敷地全体を浄化する。
聖魔法は何度浴びても心地良い。
僕はしゃがみ込み目を瞑る。
魔法はイメージ。鮮明に、繊細な所まで……想像する。
ドゥウムの生徒は、騎士が多いし訓練場も欲しいな。
ルーカス兄様はお風呂が欲しいと言っていたっけ。
数時間経ってしまっただろうか。
「出来た……」
僕は立ち上がって、出来上がった寮に入る。
「うん、モニタールームはちゃんと作動してるね、グレティス!!魔法、寮へ向かって撃ってみて!!」
グレティスが闇魔法を撃つと、結界で防がれた後、寮内に設置した防犯システムが作動し、魔石が赤く光った。
「うん、良い感じかな」
後は、家具を揃えるだけだけど……流石に半日で終わってしまったら怪しまれるから、お昼食べてからにしよう。
僕が寮から出ると、ルミナスとグレティス以外みんな目を丸くしていた。
「あ、アルは天才だと思っていたけど、大天才だね。本当に」
うん、ルーカス兄様がいつかのニアみたいな事言ってる……
「す、凄い。凄いよ!!アルフィ殿下!!」
レンヴィス皇子殿下は興奮したように、僕の手を握った。
「アルフィ殿下、私から貴方にお願いがある」
レンヴィス皇子殿下のお願いというのは、ドゥウムと同じように蔑まれて改修工事の許可が下りない、エルヴィシア寮、ガルドオン寮、ラグナルド寮の三カ国の寮も直して欲しいとの事だった。
「必要な物は用意する、私個人からお金も払う!!」
ドゥウム寮の建て替えのお金も払うと言ってくれたけど、断った。なんだか、レンヴィス皇子殿下が少し不憫に思ったからだ。
皇位継承権を放棄する前から、民や他人種からの人気が高かったレンヴィス皇子殿下は、兄弟から疎まれていた。
皇位継承権を放棄した後も、嫌がらせが止む事は無かった。
兄弟の誰もやりたがらない、学院長の仕事を押し付けられ、ろくに学院へ予算を出してもくれない。
貴族方に、レンヴィス皇子殿下を持ち上げる者も居て、邪魔だからと何度も殺されかけている。
皇位継承権を放棄してすぐ、皇宮にあった部屋から追い出され、学院長になってからは、学院長室の隣にある物置部屋で暮らしているそうだ。
そんな話を聞いて、お金を貰えるはずもない。
「同郷のよしみってことで!」
「アルフィ殿下……本当にありがとうございますっ」
「アルで良いですよ」
「そうか、アル。私の事も好きに呼んでくれ、皇子殿下なんて堅苦しい呼び方で無く」
「はいっ!!」
転生者同士、仲良くしたいものだ。
昨晩、ルミナスが作ってくれた魔石をドゥウム寮の敷地の四箇所に埋めた。
聖魔法の結界だ。この結界内に居る者は、病気にもなりにくく、悪意にも染まりにくいだろう。
僕は昼食を食べに行く前に、歩きながら寮までの道を整備した。
石畳を敷いて、花を咲かせた。
花園の中には少し座れる場所も作った。
防犯面は、第一段階にルミナスの聖魔法結界!敷地の広い範囲をカバーするよ!!
第二段階には、僕の結界。攻撃を防いで中に居る人に知らせる事が出来るよ!!
という二段構えなのである!!いや、セキュリティルームも入れたら三段構えだ!!
まぁセキュリティルームは、侵入者が居た時の位置確認や、情報収集くらいにしか使えないだろうけど。
建物は他国の寮と同じくらいの広さになった。
ドゥウムは貴族社会じゃないから、生徒も少ない。もう少し小さくても良かったのだけれど……
大浴場とか、訓練場とか色々作ってたら、なんやかんや大きくなった。
まぁ、来年から兄様達も暮らす寮だし、多少豪華でも良いよね。
他国の寮もそういう理由で大きかったのだろうか。
ひと段落ついて、僕達は魔道荷馬車に戻り、ロゼリア達と合流した。
「ロゼリア、今日中に終わりそうだから、明日お兄さんに会いに行こうか」
「い、1日でですの!?」
「うん」
「お兄様に会えるのは嬉しいですけれども……し、信じられませんわ」
「ま、出来上がってのお楽しみだね」
僕達は昼食を食べに、歩いて街へ出た。
大所帯になってしまったけれど、気さくな店主は快く個室に案内してくれた。
「アル、ここは私が出すから沢山食べなさい」
ルーカス兄様は、ニコニコとメニューを広げる。
この食事処は、レンヴィスさんが代表の店だそうで、帝国では珍しく他種族のお客さんも受け入れている。
レンヴィスさんが代表なだけあって、ラーメンなど、この世界ではあまり食べられないようなメニューが多くあった。
「僕、ラーメン食べたい!!」
「アルはラーメンにするのー?じゃぁ私はどうしようかなぁ」
「兄様、餃子美味しいよ」
「ギョウザ??食べたことあるのかい??私は初めて見たけれど」
「う、うん!ちょっとねダインさんに作ってもらって……」
しまった……ついつい、日本にいた時は継兄さんとよくラーメン屋に行ってたんだよな。
みんな見たことのない料理に興味津々で、メニューを上から下まで全て頼んだ。
まぁ、人数も多いから食べ切れるだろうけど……
テイクアウト出来るなら、餃子、ルミナスとグレティスにも食べさせてあげようかな。
しばらく待っていると、大量の料理が届いた。
「ルーカス兄様、一口食べてみる?」
「いいのかい?」
ルーカス兄様は、ラーメンを一口食べると目の色を変えた。
「これは……よし、レシピを売ってもらおう」
「ルーカス兄様、レシピが欲しいなら、レンヴィスさんに聞いたら?このお店のオーナーはレンヴィスさんらしいよ」
「そうか、レンヴィス皇子殿下が。そうか……」
ルーカス兄様は、ラーメンを気に入ったのか、追加で頼んでいた。
みんなお腹をパンパンに膨らませて、会計をした。
「本当に美味しかった。私は来年から学院へ通うんだ、また食べに来ます」
「学院!?やはり、貴族の方でしたか!ありがとうございます!お待ちしております!」
食事処を出た僕達は、街を回るために別れた。
僕とロゼリア、リア、レオ、ニア、エーリエが残り、学院へ着く前に見たブティックに行くことになった。
「本当によろしいのですか?わたくし恥ずかしながら手持ちがありませんわ……」
「いいよ、僕からプレゼントさせて。ロゼリアはリアの仕事を手伝ってくれているし」
「プ、プレゼント!?」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「い、いえ!!滅相もございませんわ!!」
「そう、良かった」
ロゼリアは、すぐ顔が赤くなるなぁ。やっぱりドレスって暑いのかな?
ブティックに着くと、展示されているドレスはどれも綺麗で目を惹く物だった。
「何か気に入った物はあった?」
「は、はい!アルフィ様」
なんだかすごくモジモジしているなぁ。欲しい物が高いのかな。
「ロゼリア、値段は気にしなくていいよ。好きなの選びなよ」
「はいっ」
僕は座って、店員が持って来てくれた紅茶を飲みながら、ロゼリアとニアが楽しそうにドレスを選んでいるのを眺めていた。
「エーリエは見なくていいの?」
「はい!私は騎士ですから!!ドレスは着ません!!」
「パーティでは着るでしょう?」
「は、はい。着るのですが、ドレスはあまり落ち着かなくて……」
「そう。エーリエも綺麗だから、華やかなパンツスタイルのドレスとか似合うかもね」
「パンツスタイルのドレス、ですか?」
「うん」
「そうですね。パーティでパンツスタイルが許されるようになれば、私はきっとパーティを好きになれる気がします」
「パーティってパンツスタイルダメなの?」
「はい、女はドレスというのが常識みたいな風潮がありまして。私も騎士をしていますが、ドゥウムの外では少々視線を感じます」
「へぇ、そうなんだ」
それって、エーリエが綺麗だからみんな見てるだけだと思うけどな。
紅茶を2杯飲み終わった頃、ニアがニヤニヤしながら僕の元へ駆け寄ってきた。
「終わった?」
「いえ、アルフィ様。座っているだけでなく、一緒に選んであげて下さい!!アルフィ様が選んでくれた方が、ロゼリア様も嬉しいのですよ!!」
「いやぁ、僕ドレスとかわかんないし。好きなの買いなよ」
「アルフィ様には女心のお勉強が必要みたいですね!!お城に帰ったら、みっちり女心のお勉強をしましょう」
「えぇー」
「えぇ、じゃありません!!ほら早く立って!!ロゼリア様に似合いそうなドレスを選んで差し上げて下さい!!」
僕はニアに背を押されて、ロゼリアの元へ行く。
「ロゼリア、良いのは見つかった?」
「あ、アルフィ様。あの、わたくし……まだ」
「そう、何色が良いとかはある?」
「白に近い淡い紫が好きですわ……」
「淡い紫ね」
「あとは、黄色が好きですわ」
「黄色と紫ねー」
「アルフィ様の、髪と瞳の色……ですから」
「へぇ、僕も好きだよ。僕の髪の色、兄様達とは違うけど父様と同じ色だからね」
うーん、色々ありすぎて分からないな。
こういう時の店員さん!
「すみませーん、お姉さん」
「はい、どうされましたか?」
「淡い紫と黄色が好きらしいんですけど、何か良いドレスありますか?ついでに靴と小物もセットで欲しいんですけれど」
「全身セットですか?髪飾りやお帽子はどうされますか?」
「うん、それもお願い」
「かしこまりました」
少し待っていると、店員さんは3種類のセットを組んで持ってきてくれた。
「ありがとうございます。ロゼリア、これどうかな」
「はい、アルフィ様。どれも素敵ですわ」
なんか、さっきよりテンション下がってる?
なんでだ……これが女心?分からん。
「全部下さい」
「ぜ、全部ですか!?」
「はい、お姉さんが用意してくれた3セット全部下さい。どれも彼女に似合いそうなので」
「か、かしこまりました!!ありがとうございます!!」
「あ、そうだお姉さん。女性用のパンツスタイルのドレスはありますか?」
「はい、一種類しかありませんが。見て行かれますか?」
「はい、お願いします。あと、入り口に立ってるメイドに似合いそうなドレスも一着お願いします」
「か、かしこまりました!!すぐご用意致します!!」
振り向くと、ロゼリアは顔を赤くして俯いていた。
店員さんは、パンツスタイルのドレスと、華やかな赤とピンクのドレスを持ってきた。
「如何でしょうか」
「うん、じゃぁこれで会計お願いします」
「ありがとうございます!!!」
僕は巾着から純金貨を出して、支払いをした。
「それでは、一度ご試着をお願い致します」
3人が試着をしている間に、僕は保証書にサインをしていた。
「この度は多数の品をお買い上げ頂きましたので、サイズのお直しは無料で承ります」
「ありがとう」
保証書は、1年間のサイズのお直し、破れてしまった時なども格安で請け負ってくれるらしい。
良いお店だ。流石は高級店。
「リアは何も要らなかった?」
「はい、私は必要ありません」
「そう?」
「はい、アルフィ様。周りを見て下さい、女性物のお店でございます。本音を言うなら早く出たいです。他のお客様からの視線が痛いのです……アルフィ様はお気にならないのですか?」
「うん、何も」
「流石です、アルフィ様」
3人の試着が終わり、エーリエ以外はお直しが必要だったため、明日取りに来ることになった。
僕が紅茶を合計6杯飲み終えたところで、やっとお店を出た。
「あ、あの。アルフィ様、私まで買っていただいてよろしかったのでしょうか」
「うん、エーリエも卒業パーティでドレス着なきゃいけないんでしょ?せっかくだからね。みんなエーリエに見惚れるよ、すごく似合っていたからね」
「アルフィ様……ありがとうございます!!このドレスは家宝にします!!」
エーリエは、ドレスの入った衣装トランクを胸に抱き寄せた。
「そんなことしなくても良いよ。今後パンツドレスも増えるだろうし」
「私も買って頂いて、申し訳ありません。アルフィ様」
「ニアには、いつも迷惑をかけているからね」
ロゼリアが、僕の目の前に駆けてきて頭を下げる。
「アルフィ様、わたくし3着も買って頂いてしまって申し訳ありませんわ……」
「ロゼリア、そこはありがとうでしょう?」
僕はロゼリアに笑いかけると、ロゼリアは少し涙を見せて笑った。
「わたくし、お兄様とお父様以外の殿方からプレゼントを頂いたのは、初めてですわ。本当にありがとうございます」
「そう、どういたしまして」
僕達は学院へ戻る途中、色んなお店を見ながら帰っていた。
噴水のある中央広場に着くと、美しい音色が聴こえてきた。
「まぁ、ライアーですわ。素晴らしいわ、わたくしもこんなに上手く弾けませんわ」
「ロゼリア、ライアー習っていたの?」
「はい、お姉様が指を使う事が苦手で、ライアーの先生を困らせていて、わたくしが代わりにレッスンを受けていたのですわ」
「へぇ、凄いね。僕、楽器は弾けないなぁ〜」
「何をおっしゃっているんですか、アルフィ様。ピアノ?という楽器を作って、素晴らしい演奏をされていたではありませんか」
「ニア、ピアノは練習すれば簡単な曲なら誰でも弾けるよ」
僕のだってあんなの、小学校の頃に習っていたピアノ教室で、先生が弾いていたのを思い出して、見よう見真似で弾いてみただけだし……
才能ないからすぐ辞めさせられちゃったんだよね。
音のする方へ近づくと、光の五線譜が空中に展開される。
「これは、魔法……?」
《 センニチコウの様な恋だった 》
《 ただ君と居るだけで、幸せだったんだ 》
「歌、歌詞……日本語!?」
《 君が僕の色だった 》
《 カーネーションの様な愛だった 》
《 きっと君が居れば、それだけで良かったんだ 》
僕は声の方へ走った。
この歌の魔術は聖魔法だ。心地良くて、何処か安心する歌。
どんどん音が大きく、魔術は濃くなっていく。
「見つけた」
路地の端に座ってライアーを弾いている、吟遊詩人。
《 また君と出逢いたい 》
「お兄さん!!」
《 ソラーレの様な君と──
「お兄さん!!日本人でしょ!?」
「──出逢いたい……へ?」
僕を見上げた吟遊詩人は、ボロボロと涙を流し始めた。
僕は吟遊詩人に手を伸ばす。
「一緒に来てくれませんか?さっきの歌、魔法ですよね」
「私は、魔法を使えない……」
無自覚か。魔力感知が出来ない者は、さっきの魔術が見えないらしい。
僕とエーリエ以外、唖然としている。
僕は吟遊詩人の耳にコソッと話す。
「僕も、日本人なんです」
「君も……」
もう一度、吟遊詩人に手を伸ばす。
僕の手を取って、見上げた吟遊詩人は、嬉しそうに涙を流していた。
「出逢えた……」
吟遊詩人はボソッと呟く。
「何か言いました?」
「何でもないよ」
「お名前は?」
「陽皐優希」
「優希さん!僕はアルフィ・ドゥウム、よろしくね」
「ドゥウム……アルフィ。そう、アルフィ。よろしく」
優希さんは悲しそうに笑った。
学院へ戻るとみんな僕達を待っていた。
「エーリエ、それは?」
「ルーカス様!こ、これは、あの、申し訳ありません!!」
「ルーカス兄様、これは僕がプレゼントしたんだ。エーリエにすごく似合うと思って」
「そう、良かったね。エーリエ。羨ましいよ、私はアルからドレスなんて貰ったことないよ!!」
「ルーカス兄様……ドレスなんて要らないでしょ」
「そうだけどぉ」
拗ねているルーカス兄様を横目に、ロゼリア達を魔道荷馬車に乗せて寮へ戻った。
寮に戻ると、レオやユリウスの意見を元に、必要そうな物を全ての部屋に設置した。
「広間とか共有部屋は僕が勝手にやっちゃって大丈夫?」
「はい、構いません。ありがとうございます。アルフィ様、もう日も落ちてきたのでそろそろ、寮生を入れても良いでしょうか?」
「うん、良いよ」
僕はみんなと別れて1人で黙々と、作業を続けた。
広間にはみんなで座って、ゆっくりできるようなソファや机。大浴場には、露天風呂も作った。
みんなで食事ができる食堂に、筋トレルーム。
「ふむ、王城より豪華かもしれない」
「アルフィ様!此処にいらしたんですか」
「どうしたの?リア」
「あ、あの。皆さん戻って来たのですが、殆どの寮生が腰を抜かしてしまって、ロゼリア様は気を失ってしまいました」
「はぃ?……なんで?」
「皆さん、1日しか経っていないのだから、寮内が少し綺麗になったくらいだろうと思っていたみたいで、庭を見た時点で、皆さん生まれたての子鹿の様になっていたのですが……寮を見て驚いたのでしょう」
「へぇ、もしかして僕のせい?」
「はい、今回ばかりはアルフィ様が悪いです」
「そっか。ルミナスぅ〜僕の尻拭いしてきてぇ」
指輪からルミナスが出てくる。
「良いように使ってくれちゃって!!私にもドレスよこしなさいよ!!」
「実体得たらちゃんと買ってあげるよ」
「約束だからね!!これ、貸しだから!!」
ルミナスは文句を言いながらも、みんなの所へ飛んで行った。
少し変な人だけど、ルミナスは良い人だよねー。
三階建ての寮の最上階には、来年の春から入学する兄様達のために少し広めの部屋も用意した。
そして三階には、転移陣の部屋や天井がガラス張りで、天体観測が出来るような部屋も作った。これは僕個人のロマンだね。
ロの字の中央に空いた中庭には、王都にある闘技場のようなフィールドも作った。
夜ご飯を食べる頃には、みんな新しい寮に慣れ、探検をしていた。
ドゥウムの寮生は、剣を持ち歩く者が多いから、壁や床は傷付いても、すぐ直るように魔術を組み込んでおいた。
寮母のいないドゥウム寮は、掃除も行き届かないだろうから、魔力を込めれば誰でも掃除の魔法を使えるように、防犯とは別に魔石を至る所に埋め込んでおいた。
最後に、建物を建てた際に一緒に設置しておいた結界の魔石を、動かないようにした。
「クマ好きですね」
「僕、動物好きだったんだよね」
「左様ですか。なんとなく知っていましたが」
四箇所に設置された結界の魔石は、人の顔くらいの大きさがある。そんな大きい魔石をただ置いておくのは嫌なので、クマとライオン、うさぎ、鳥の形にしたのだ。
どれもカッコよく出来た自信がある!
夜も更け、みんなが寝静まった頃。
僕は魔道荷馬車にある工房で、魔術書を読んでいた。
「アルフィ、誰か来る」
「2人は戻って」
ルミナスとグレティスが指輪に戻ると、軽く扉を叩き優希さんが顔を出した。
その後ろには、レンヴィスさんも居た。
そういえば2人も、中に入って来れるように登録しておいたんだ。
「どうしたんですか?2人共」
「アルフィ、レンと話してしばらく、この学院でお世話になる事にしました」
「私も丁度、事務作業を手伝ってくれる方を、探して居たところだったので」
「2人はもう仲良くなったの?」
「話していたら、この世界に来る前、同じくらいの年代に生きていた事が分かってね。意気投合してしまって」
「へぇ、2人はいつまで居たの?」
「2028年だったかな」
「私は、2029年」
「へぇ、僕より10年先かぁ」
「アルは、何してたの?こっちに来る前は」
「高校生〜!丁度卒業式の日だったかな、長い話が終わって合唱が始まるって時に意識無くなって、気付いたら王子様だったよ」
「若い!」
「そう言う、優希さんは?」
「私は、音楽家をしていたよ。売れない音楽家。そんな私を支えてくれた、愛おしい女性に結婚を申し込もうとした時だった……はぁ、ちゃんと伝えることが出来なかったよ。指輪は落として来てしまった。もうこの世界に来て、130年経つというのに……彼女を忘れられない」
「優希さん……」
「私、アルの話が聞きたいな」
「僕そんな面白い話ありませんよ?レンヴィスさん」
「動物は好き?食べ物はラーメンで味噌が好きだった。私の醤油ラーメンを横から少し食べたりなんかして、ラーメンだけじゃ足りなくて餃子を一皿頼んで、私にひとつもくれなかったりして」
「レン?」
「ゲームが下手な私に勝って、本当に嬉しそうにして、でもボードゲームは私の方が強くて、負けたら半日口を聞いてくれない」
「6つも年の離れた、父さんの再婚相手の連れ子。最初は大嫌いだったのに、本当の兄のように好いてくれて、可愛くて可愛くて仕方がなかった。そんな継弟が、卒業式の最中に姿を消して、10年間ずっと探していた」
「レンヴィスさん……?」
レンヴィスさんは、何か愛おしいものを見つけたかのように涙を流した。でも何処か、苦しそうな表情で。
「私は、君と会った瞬間から……君が学院長室の扉を開けて入って来た時から、なんとなく継弟と重ねてしまった。君を見ているうちに、どんどん確信に変わっていった……」
「レン?どうしたんだ……」
「私は、高城朔耶。君の名前は、高城柚紀。私の継弟……そうだよね」
「朔兄?」
「些細な仕草も、笑い方も、欲しい物がある時の強請り方も、全部全部一緒だ。昔と何も変わらない」
僕は勢い良く朔兄の胸に突進した。
姿も声も何もかも違うのに、なんとなく僕の知っている継兄さんだと分かる。
「2人は前の世界で、家族だったんだね。再び出逢えて良かった。これはきっと運命なんだね」
優希さんは、吟遊詩人が天職だと思う。
いつも僕じゃ思い付かないような、温かい言葉を使う。
「私のことは、レン兄って呼んでくれ」
「レン兄」
「うん、言いやすいだろう?」
「うん!!優希さんも僕の事はアルって呼んで!!」
「私のことも優希で良いよ。アル、レン」
この2人と居ると、心が休まる。
全ての運命を忘れてしまいそうだ。
転生者と転移者。今までの人生では出会わなかった者達。
僕の周りに、現れて……
きっとこれは神様が、僕にくれたラストチャンスなんだと、何となく感じる。
今回で、残酷な未来を変えなさいと。




