第9話 “生きたいか?それとも……”
「地図によると薬草の群生地は……あ、こっちか」
比呂一行はピクティスの依頼を受け、町から少し離れた森の麓まで来ていたのだが………
「ほ、本当にこっちなの?」
地球ではアプリを開けば現在地がどこで目的地はどこなのか分かる。しかし、こっちの世界ではそうもいかない。低品質の地図を片手にどのくらい歩いたから今はこの辺にいる……なんて勘に近いような方法しかない。だから決して比呂咲樹という人間が方向音痴なわけではない。
「よ、ようやく着いた……」
今まで散々影狼の背中に乗って楽して移動していたはずのピクティスが地面にへたり込みながら呟く
(クソッ!本当は乗せたくなかったのに………)
それは町を出る前のことだったのことだった
・・・・・・・・・・・
「え、ピクティスさんも来るんですか?」
思わぬ同行者に比呂は思わず再確認する
「や、やっぱり初依頼は危険がつきものだからねッ!いかにブラックフェンリルを使役しているとはいえ油断は禁物なんだよッ!だから初めは私か一緒にいてあげるッ‼心配だからね」
「ピクティスさんッ」
その優しさに感動する比呂を傍目にピクティスはチラッと成瀬の方を見る。その顔は比呂を心配している顔ではない。もしこの依頼で比呂に何かあれば己も殺されかねないという自己保身の顔だ。なにより成瀬のスキル『真実の嗅覚』がビンビンに反応している。比呂はだませても成瀬の嗅覚を欺くことは不可能だ
「あ、あのぉ~アタシも背中に乗せてもらえませんか?」
(なんて厚かましい……)
目的地までの道中、町を出てすぐの時だった。
「………」
成瀬はその言葉を無視して比呂だけを背中に乗せ歩き続ける。しかし、それに対してお優しき主が待ったをかける
「一人だけ歩きなんて可哀そうでしょッ!意地悪しないで乗せてあげなさいッ!じゃないと私も一緒に歩くよッ!」
(はぁぁぁぁ~~~~~~ッ………クソッ‼比呂さんがそこまで言うなら……いや、でもなぁ~)
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ただでさせ成瀬は他人を背中に乗せること自体にかなり抵抗があるのに更にアレまで乗せなければならない。道中何が起こるか分からない以上比呂には背中に乗っていてほしい。しかし、その場合ピクティスも乗せなければならない。葛藤の末、選んだ結論が影魔法で作った影狼にピクティスを乗せることだったのだ。
「よし!じゃあ、早速薬草採取していきましょう」
初依頼ということで張り切っている比呂は何故か疲弊しているピクティスを差し置いて、依頼になる薬草の採取を始めようとする。そんな比呂の手を影で作った手袋を被せる。薬草の他に毒草も採取しなければならないならその柔らかい手では危険だ
「ありがとッワンちゃん!」
「ヴォフッ」
「あ、あのぉ~……それ、アタシにもしてもらえませんか?」
「………」(チッ)
そのまま無視する
「そうですよね……すいません」
肩を落とし、そのままとぼとぼと反対方向に群生している薬草の方へ行き、採取を始める
「ちょっと、可哀そうでしょッ!もう一組作ってあげて」
それを見ていた比呂は成瀬を叱る
(はぁ~比呂さんがそう言うなら………ってか、なんでコイツ手袋もってないんだよ。足しか引っ張らねーじゃねーか)
渋々と言った様子で成瀬はピクティスの方へ近づく
「えッ……あ、ありがとうござッ………」
「ヴォンッ!」
「どうしたの?ワンちゃん」
影で魔獣の形を作りそれを切り裂く動作を比呂に見せる
(お願い。伝わってくれッ!)
その祈りが伝わったのか考えるような仕草をしたかと思えば、すぐに両手を叩く。しかし……
「あぁ~ッ!わか「多分魔獣狩りをしたいんだと思うよ」………そうなんだぁ。いいよ。行っといで」
何かを口にしようとした瞬間それをピクティスによって遮られる。
(チッ間の悪い女……)
比呂の言葉を遮ったピクティスに対して心中で舌打ちをしつつ睨みつける
「ヒッ……」
「どうしたの?顔色が悪いけど大丈夫?」
「い、いやぁ~ホントに大丈夫だよ」
だんだんとどどめ色になっていくピクティスを心配する比呂。しかし、更にその奥で待ち構えるブラックフェンリル事成瀬に睨まれるという針の筵状態
それから凡そ1時間ほど比呂たちは薬草と毒草を採取し、成瀬は影狼を駆使し、山中を駆け回り魔獣を屠っていった。…………のだが、ここで問題が生じた
「サキさん……あなた」
「ごめんなさい。本当に……」
圧倒的不器用ッッ!!!
なんと比呂が採取した薬草の大半がグシャグシャになってしまっていたのだ
(そういや比呂さんってかなり手先が不器用だったよな……まさかこんな弊害があるとは……)
「まぁ、良いかな。幸い残り半分はギリギリセーフみたいだし、それに私が採取した分もある」
そういって比呂が採取した薬草と見比べると明らかに綺麗な薬草が並べられていた
「わぁ!綺麗……え、じゃあなんで依頼なんて出したの?これなら一人でやった方が良かったんじゃ……」
「えッ!?えぇ~っと………ほら、ここって魔獣が出るんだよね。私みたいな回復魔法士だとわざわざ護衛を雇っていかないと一人では無理なんだ。それに冒険者を雇うのとこうやって採取依頼出すのだと後者の方が安いからね」
説明しながらピクティスは比呂の方をチラチラと怯えた様子で視線を送る
「あれ?でも、今日は全く魔獣と遭遇しないけど……本当にこの辺りに魔獣いるのかな?」
「多分だけど彼の所為じゃないかな?」
「彼?ワンちゃんのこと?」
「彼ずっとここにいたけど分身?のスキルか何かを使ってたよね。アレがこの山のいたるところにいる魔獣を狩りまくったのだとしたら私たちが遭遇しないのは必然だね」
「ヴォフッ!」
ピクティスの言っていることは正しい。実際に魔獣はいた。成瀬の気配に怯えていたのも事実だ。しかし、それらは逃げるよりも前に成瀬の影狼によって殺されていた。今この山には比呂とピクティス。そして、成瀬しかいない。
因みに山にはゴブリンの洞窟やリバーシブルサーペントという蛇型の魔獣。ホーンラビットなどが居た。特にゴブリン洞窟がすごかった。何がすごかったかと言えばその数だ。洞窟内にすし詰め状態と化しており、いろんな意味でまさに地獄だった。しかもその中に裸に剥かれ乱暴をされた形跡のある女性が複数人……その中にはまだ年端もいかないような女の子もいた。彼女たちのあの全てに絶望したような虚ろな目を見て成瀬は一瞬助けるか躊躇してしまう。これからの人生ずっと『ゴブリンに犯された女性』というレッテルを張られ後ろ指を指され続けられる。そんな人生に絶望を感じ、死にたいと思うのであれば成瀬はその望みをかなえてあげることが出来る。しかし、それでも尚強く生きたいと望むのであればここから連れ出し、ピクティスに相談を持ち掛けることが出来る
結局は彼女たち次第だという事だ。
“生きたいか?それとも……”
(これは比呂さんには見せたくない……でも、見過ごすわけにもいかないし殺したくもない。こういう時は……)
「じゃあ、アタシは薬草をこれに詰めるから帰還の準備お願い」
「おっけーッ!」
そういうと二人は二手に分かれ、帰還の準備を始める。見計らいピクティスの方へ近づく
(あれ、ワンちゃん……ピクティスさんと仲良くしたいのかな?昼間はあんなにツンケンしてたから不安だったけどこれで安心かな)
そんな見当違いなことを考え、微笑みながら帰還の準備をするのだった
『ゴブリンの塒を発見した。中に複数の女性がいる。犯された形跡もある。貴様はどうしたい?』
「ッ!?」
少し、比呂から少し距離を置き、体で覆い隠す形で影文字を浮かべる
『塒にいたゴブリンは全て殺した。どうしたい?』
「出来ることなら助けるべきです」
『彼女らがそれを望んでいないとしてもか?』
「はい。カーティアでは女性の行方不明届は出ていません。つまり、他の町から来た人たちです。心配している家族がいるかもしれません。身元を特定し、家族に報告してあげないと」
そうはっきりと口にしたピクティスの表情は先ほどの間の抜けた表情とはかけ離れていた。
『いいだろう。こちらに連れてくる。だが、我が主にはこの件について何も言うな。これは我と貴様。そして、支部長、副支部長で処理する。いいな?』
コクリ
無言で頷いたピクティスは手早く薬草と毒草をカバンに詰めるのだった。
「それじゃあ、ギルドに帰ろっか」
「そうだね。行きにかなり時間がかかっちゃったから………でも、帰りはもう大丈夫だよッ!多分………」
「多分かぁ」
一抹の不安を抱きながら一行はカーティアの冒険者ギルドへ帰るのだった
「お疲れ様でした。薬草5ダースと毒草6ダース確かに受け取りました。こちらが報酬の銅貨4枚になります。あとこちらの魔獣に関してですが、ゴブリン40体で銅貨40枚。リバーシブルサーペント1体で銅貨50枚と更にその素材分銀貨1枚を加算させていただきます。ホーンラビット10匹で銅貨10枚になります」
薬草採取の依頼で銅貨2枚。毒草採取の依頼で銅貨2枚の計4枚を報酬として得た。更に魔物を討伐したことで銀貨2枚と銅貨2枚を手に入れた
(銅貨2枚って……そりゃ誰も受けんわな)
報酬のケチさに思わず心の中で愚痴る。横目でピクティスに訴えかける
「ウッ……しょ、しょうがないじゃないですかッこっちだってかなり苦しいんですッ!」
(俺銀貨をかなり払ったよな?あれどうしたんだよ………)
『それで例の件だが我が主が寝入るまで待て。それまでに支部長たちに経緯を話しておけ。我が話せることも含めてだ。いいな?』
「本当であれば今すぐにでも……と、言いたいところですけど冒険者に成りたてのサキさんにアレは少し刺激が強すぎますよね。わかりました。では、準備だけはしておきます」
ギルドを出るとすでに陽が沈みかけていたのでこの日はこれでお開きとなった。ヤスラギで夕食を済ませ、そのまま借りている部屋へ戻ると比呂は一直線でベッドに倒れ込む
「あぁ~、疲れた。ねぇ、聞いてよワンちゃんッ!」
「ワフ?」
「私の元居た世界ではね?衛生設備がとても綺麗に整えられてるのッ!でもこっちの世界じゃそれが全然でねッ!」
(ッ!)
「それにお風呂もッ!さっき聞いたけどこっちの世界じゃお風呂は身分の高い貴族しか入れないとても高級なものらしいのッ!こっちの世界にきて分かったけどそれが当たり前だった日本は本当に恵まれてたんだなぁ~……」
しみじみとした声音で呟く。
(確かに……こっちの世界は魔力や魔法がある代わりに文明レベルがかなり低いからなぁ)
こちらの世界では化学が発達しておらず、電化製品など存在しないため夜はろうそくに火を灯すか魔石と呼ばれるダンジョンでのみ採取可能な魔力を含む特殊な鉱石を動力とする魔機なる高価なものが必要となる。それもなければ月明かりの身が唯一の光源
「まぁ、仕方ないのかな……」
そうして比呂にとって初めての依頼という長い一日が終わりを迎えるのだった




