第10話 ”私の信念”
「あ、ようやく来ましたか」
「まさか話せるとはなッ!このことあの嬢ちゃんにも黙ってんのかッ?」
影狼を10匹ほど寝ている比呂の傍に配置した成瀬はいまギルドの支部長室に来ていた。
『あぁ、だからこの件に関して黙っていてほしい。我は主に害をなさなければ何もしない』
「おぉ……ピクティスから話は聞いてたがいざ目にすると中々驚くな」
「えぇ、私も驚きました……しかし、何故サキさんには黙っているのですか?」
『黙秘する。こちらにはこちらの事情があるんだ。詮索してくれるな。それよりも雑談はその程度にして件の話に移りたい。いいか?』
「はい。すでに受け入れの準備を済ませています。そちらに並べているベッドの上へお願いします」
『わかった』
そう言って成瀬は影の中で眠っている4人を取り出し、用意されたベッドの上に一人ずつ横にしていく。一応影で服の代用はしておいた。ここにはバグワーグもいる。せめてもの情けだ。
「ピクティスッ!今すぐ彼女たちの治療を開始しなさい」
「はいッ!」
「ワンちゃんさんはバグワーグと共にこの方たちを監禁していたゴブリンの塒へ行き身元を特定できるものを探してきてください」
「了解したぜ」
『断る。行くなら副支部長だけで行け。我はこれ以上主の下から離れたくない』
「あなたしか塒の場所を知らないのです。どうか承諾してください」
「『…………』」
互いに一歩も引く気が無い。それを傍目に聞いていたピクティスが一つの革新的な提案をする。
「わ、ワンちゃんさんは確か一瞬で場所を移動するスキルを持っていませんでしたか?」
「ッ!それは本当ですか!?」
『あぁ、だがそれは我の分身体を配置した場所のみだ』
再び支部長室に静寂が訪れる。今度は支部長がその静寂を切り開く
「あまりこの手は使いたくないのですが………もしご協力いただけないようでしたらこの件も含め全てをあなたの主であるサキさんに伝えさせていただきます」
(ッ!)
支部長本人もこんな脅迫じみたことはしたくなかったようで苦渋の判断といった様子だった
『いいだろう。しかし、案内は我の分身体にさせる。これでも十分仕事はこなす。帰りはコイツの影に入ればここと繋がるようにしておく。これでいいだろう』
「ありがとうございます。では、バグワーグッ!」
「わかったぜッ」
その後、バグワーグは成瀬の影狼と共に真夜中の山の中へと入っていった。ピクティスの方は全員の治療が終わるころには外が少し明るくなり始めていた。
「か、かなり衰弱していましたが命に関わるほどの怪我もありませんでした。多少の切り傷と打撲痕に関しては、今日丁度薬草を入手したので、それを煎じて作った傷薬で処置を施しました。化膿しないように定期的に包帯の交換が必要になります。でも、最も心配なのは心の傷です。この方たちが意識を取り戻した時自傷しないように誰かしら見張りを付ける必要があります」
「わかりました。2人程手配しておきましょう。4人の治療お疲れさまでした。ゆっくり休んでください」
「はい」
そういうとフラフラの足を杖で支えながら支部長室を後にした。
『この後はどうするつもりだ?』
「どう……とは?」
『我はこの者らを助けるべきか懐疑的だ』
そこからは成瀬自身が考えたことを全て打ち明ける。
その全てを聞いた支部長は静かに肩を震わせる。それが怒りからくるものなのかそれとも………
「確かに。貴方の言っていることはある意味では正しいとも言えます。所詮これは偽善に近しい行為。意識を取り戻した彼女たちからいっそ殺してくれと、何故殺してくれなかったのかと罵られても仕方がないことだとわかっています。しかし、それでも目の前にある命は救う。それが私の信念ですから」
そう言ってのけたフーリィニアの瞳はまっすぐに成瀬の瞳を捉えていた。
『そうか………どうやら副支部長の方も捜索が終わったらしい。来るぞ』
丁度その瞬間成瀬の影の中からバグワーグが出てくる
「わかったぞ。彼女たちはベンチェルの町の者たちだ」
そう言うとバグワーグは一枚の絵を机に広げる。そこには……
「なるほど……これは確かにベンチェルの町からですね」
絵の中にはゴブリンの被害者である一人の女性と女の子。そして、その傍にもう一人。男の人が民族衣装のようなものを着て、楽し気に踊る姿が描かれていた。
『何故これだけでベンチェルとやらの町の住民だとわかる?』
「ベンチェルの町では毎年この季節になると祭りがあります。この絵の様に衣装を着込み、豊穣を祈る踊りを踊るんです。」
『なるほど………』
「もう日が昇ります。この件については今夜にでも」
『わかった。では、我は主の下へ戻るとしよう』
「ありがとうございました。彼女たちを救ってくださり」
『………』
成瀬はそこで何を言うべきか一瞬戸惑ってしまう。何故なら成瀬は最初彼女らのことを放置しようと……あまつさえ殺そうとしたのだ。
(俺はその言葉を言われる資格なんてない。もし、それを言われるべきだとするならそれは……)
『その言葉は助けたいと我に説いたあの女……ピクティスに言う事だな』
そういうと成瀬は影の中に入っていくのだった。
「そうですね。ピクティスには治療分と一緒に特別報酬でも与えましょうか」
「それがいい」
支部長とバグワーグは今後のプランを話し合うのだった




