第11話「あなたに指名依頼を出します」
比呂が起きたのはそれから1時間後のことだった。昨日は適度に運動したおかげか昨日はかなり寝付くのが早かった。心なしか寝起きも清々し気な表情をしていた。
「ワンちゃんッ!おはよッ」
(その笑顔だけで俺は戦える。その笑顔は絶対に無くさせない。君の彼氏……俺の大親友に誓って。絶対にッ)
朝食を食べ終え、宿で一息ついていた時のことだった。
コンコンコン
静かな部屋に響くノック音。
「誰だろう……」
比呂は成瀬とかおを見合わせる。すると……
「こんにちは。少し、お話があるのですがお時間いただけませんか?」
それは支部長ことフーリィニアだった。
比呂たちはフーリィニアに連れられ再び、支部長室へ来ていた。
「まずは、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「?……はい、昨日はよく動きましたからぐっすりでした」
「そうですか、ソレは良かった」
紅茶を飲み、一呼吸置くとフーリィニアは引き出しから一通の封がされた洋封筒を取り出す。
「これは?」
「あなたに指名依頼を出します」
「指名……依頼?私個人にですか?」
「はい、こちらの手紙をベンチェルのという町のギルド支部長の下まで運んでほしいのです。できれば早急に」
「1つ質問いいですか?」
「……どうぞ」
「1つ目は何故私なのかという事です。私は昨日冒険者登録をした新人です。指名依頼というものがどういうものかよくわかりませんが、他にも冒険者はたくんさんいるのでは?」
「それは認識の齟齬ですね」
「齟齬?」
「はい。そもそもあれだけ大量の魔物を狩ってくる従魔を従えた新人冒険者などいません。本来であればすぐにでも7級……6級に昇格させたいところです。しかし、依頼をこなすという実績が無いサキさんを不用意に昇格させることが出来ないんです。確かにあなたは新人です。しかし、同時にあなたはこの町で4番目の実力者でもあるという事です」
そこまで言うとフーリィニアは口を閉じ、比呂の反応を伺う。
(確かに……ワンちゃんは影魔法を使った分身で魔獣をたくさん倒すことで常にレベルアップをしている。移動もワンちゃんの背中に乗っていけば普通の人の何倍も早く目的地に着けるかも……私の最終的な目標は魔王の討伐。手紙をペンチェルの町まで運ぶだけの簡単な依頼。実績を作るという意味ではこれ以上ないほどの好条件………いや、まずは町の場所の確認かな?)
「そのペンチェルの町はどのあたりにありますか?」
「町の場所に関してはこの地図をお使いください」
取り出した地図には赤く記された箇所と黄色で記された箇所があった。
「こちらの赤色がこの町カーティアの町です。そして、この黄色がペンチェルの町。徒歩の場合何事もなければ1週間と少し程。馬車でも1週間はかかります」
(なるほど……でも私にはワンちゃんがいる。馬車の3倍は早く移動できると考えれば3日……往復で凡そ1週間と言ったところかな……)
「わかりました。その依頼受けさせてもらいます。」
「ありがとうございます。報酬に関してですが、銀貨1枚となります。あちらのギルド支部長からの手紙を私が受け取った時点でこの依頼は成功となり、報酬をお渡しすることになります。いいですか?」
(あ、報酬……すっかり忘れちゃってた)
「わかりました。では、準備を済ませ、今日中にはこの町を発ちます」
「よろしくお願いします」
「話は聞いたわッ!初1人で依頼。しかも指名でッ!旅の準備はアタシも手伝ってあげる」
ウッキウキで現れたのは朝方まで急患の対応で粉骨砕身していたピクティスだった。
「え、良いんですか?確か昨日の夜に急患が入ったとかで夜通し対応していたって支部長さんから聞いたんですけど」
「いいのいいのッ!」
口ではそうは言うが目元には微かに隈のようなものが出来ていた。
それから比呂とピクティス。そして、成瀬の2人と1匹は町のお店を回り、旅に必要な物資の調達を行った。とはいってもほとんどが非常食や旅に適した服。そして、調理道具などだった。本来であれば最後の調理道具はかさばって邪魔になるだけなので必要ない物なのだが、成瀬の影の中に収納が可能だと知るや否やそれらを躊躇なく買った。そして……
「サキは後衛よね?なら杖がいるんじゃない?」
「杖?」
「そう杖は使い手の魔法効果を高め、消費魔力を抑えてくれる補助具なの。私の魔法適性は《聖》だからこの聖属性を強化してくれる杖を使うの。杖の品質にもよるけど国宝クラスになると消費魔力が半減したり、けが人を何十人と回復できるくらい効果範囲がとんでもなく大きくなったりするものもあるんだって」
「へぇ~……私の魔法適性は水なんですけど。水の魔法ってどんなのがあるんですか?」
ピクティスの杖を触りながら比呂は問う。
「ウゥ~ン……アタシは聖属性の魔法しか勉強してないからあまり詳しくはわからないけど噂だと干ばつに苦しむ国を救った大魔法使いがいたとか……その御仁は天候さえも変えたっていう伝承があったかな」
「天候をッ!?」
それを聞いた比呂は少し興奮する。しかし、それとは逆に成瀬はあまり気分が良くなかった
(確かに比呂さん自身でも戦える力があった方が良いに決まってる。でも、比呂さんの魂はあまり良い状態とは言えない。レベルが魂にどの程度……どんな風に作用するか分からない。魔力もどの程度体に影響がでるか分からない。水魔法は飲料水として使う程度で抑えてほしい)
「でも、私にはこの子がいるし、あまり魔法の使いどころはないかな?せっかくだけど杖はまたの機会にしておきます」
「そうね……確かに。彼が居ればまずサキに危険が及ぶことはないものね。」
結局杖の購入は見送られ一時的にではあるが、成瀬は少しほっとした。
「それじゃあ、行ってきますッ!」
「行ってらっしゃい。大丈夫だと思うけど魔獣には気を付けてね」
「ありがとうございます」
比呂にそう言うと成瀬に近づき……
「あと、最近野盗に襲われる事案が多数報告されています。あれらは非常に狡猾です。特に夜はお気を付けください」
『理解した』
そうして、初一人依頼が始まるのだった




