第8話「えへへ、実はアタシなんだよね」
「まず、改めてあなたの従魔をあそこまで痛めつけ、あなたに危険を及ぼしたことに対して謝罪をさせていただきます。すいませんでした」
「悪かったなッ!あぁしろってこの人に言われててなッ!」
ガハハハと豪快に笑いながら頭を下げる。それは先ほどまでの殺気まき散らしていた戦闘狂とは打って変わってどこにでもいる普通のおっさんだった
「謝罪であれば私ではなくこの子に。すでに回復しているとはいえ死んでしまってもおかしくない程の大けがだったんです」
「そう、ですね。私の浅慮でした」
そういうと合法ロリエルフことこの町の冒険者ギルドを統括するギルド支部長。フーリィニアは改めて成瀬の方へ向きもう一度頭を下げる。それに対し成瀬は顔をそっぽ向ける
「嫌われてしまいましたね……それも致し方ありませんか」
少し残念そうに肩を落としつつ、再びソファーへ腰を下ろす。ここはこのギルドの支部長であるフーリィニア専用の部屋であり、机の上には大量の書類が山の様に積まれていた。現在ピクティスと副支部長ことバグワーグと共にそんな部屋へ来ていたのだ
「それで冒険者登録試験の結果はどうなりますか?」
「筆記は満点。実技はそもそもブラッドグリズを倒す程の実力を有する従魔を仕えているあなたであればそもそも試験自体必要ありませんでした。あえて付け足すのであればそれは私の興味本位。この従魔の適性確認と言ったところです。」
「興味、本位………」
思うところがあったようで比呂の顔が曇る。
「ブラッドグリズを倒した準1級の魔獣ブラックフェンリル。高い知性を持ち、この……ひいては人間社会というものにかなり早い段階で順応していました。それだけを聴けば何も問題はないように聞こえます。実際、この町の住人ともコミュニケーションのようなものを取っています。それだけの魔獣が現れたという事は本来異常事態とも呼べます。ただでさえ魔王などという世界を滅ぼし得る存在が目覚めたというのに……」
頭を抱えながら目を伏せる。
(魔王という存在がそれほど頭を悩ませる存在とは………いや、そもそも現地人で対応できるなら神もわざわざ俺らをこっちの世界に呼ばないか。しかたない、どうせどこかで落としどころは必要だろうしな……)
成瀬は影で生成した腕でバグワーグの肩をちょいちょいと叩く
「なんだ?」
こちらに振り向くバグワーグの頬をペチっと殴る
「あぁ?なんなんだ?」
その奇行にバグワーグは怪訝な顔をする。しかし、成瀬はそれを無視し比呂へ視線を向け影の手でグッドサインを送る
「そう……君が許すのならもう何も言わないよ」
比呂へ近づくと、顔をわしゃわしゃと撫でてくる。少しこそばゆい気持ちになる。
(なんか最近、体に心が引っ張られてない?)
「先ほどの件は今ので許すとこの子は伝えたいようです。なので私からもこれ以上追及はしません」
「そうですか、ありがとうございます」
そして、その場は丸く収まるのだった。
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「それで冒険者登録なんですけど……」
「あ、そうでしたね。勿論是非こちらで登録いたします。本来であれば6級の魔獣を倒したブラックフェンリルを従えているサキさんを10級にとどめておくことは非常に度し難いのですが………」
「それは仕方ないですよ。組織というのはそういうものですから」
(だよな。組織なんてものはその規模がデカければデカいほど異例に弱いという傾向がある。上の腰はさぞ重いんだろうな)
「それではクエストの説明をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
フーリィニアとの話を終え、冒険者登録証である首飾りを得た比呂と成瀬。そして、ピクティスの三人は受付の人からクエストについての説明を受けていた
「あちらの掲示板に張られているクエストはギルドが精査し、難易度順に等級分けされています。その中から受けられるクエストはその冒険者と同等級かそれ以下となっています。これは無謀な挑戦による冒険者の死とクエストの混乱を招くことを回避する為の措置とお考え下さい」
「なるほど……」
「また、一定期間クエストを受けない。また、魔獣の死体を納品しない場合は冒険者としての義務を果たす意思無しと見做し、強制的にその資格を剥奪させていただきます」
その後もどこかで聞いたことのあるようなテンプレ説明を聞き続けた。そして、ようやく説明が終わるといつの間にかいなくなっていたはずのピクティスが戻ってきていた。その手には2枚の紙があった
「このクエストとかどうかなッ!」
それは薬草採取と毒草採取のクエストだった
(これ取りに行ってたのかよ………って、ん?)
「これ、依頼者の名前……」
どうやら比呂も気づいたようだった
「えへへ、実はアタシなんだよね」
頬を赤らめながら答える
「実は一週間前くらいから依頼出してるんだけど中々誰もやってくれないんだ」
そう言って二枚の依頼書を比呂へ手渡す。
「ねッ!お願いッ!」
土下座でもしそうな勢いでお願いしてくる
「わ、わかったからッ!頭上げてッ」
その勢いと生来のお人好しがダブルブッキングしてしまう。しかし、成瀬は見逃さなかった。この女の口元がニヤついていたことに………
(この女。比呂さんが断れない性格だとわかってやがったな………これは少しお仕置きが必要かもしれない)
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時は遡り、比呂が未だ冒険者ギルドの医務室で深い眠りについていた頃のこと
突然だが、この世界における言語体系はどうなっているかという疑問を成瀬は常に抱いていた。あちらの言語については理解できるが、その逆はどうだろうか。また、それらは文字にしたときも同じなのか。その疑問を解消すべく成瀬は実験を決行した
(よし、これでオーケーっと………)
そこら辺に落ちていた木の板に文字を掘る。その内容は「パンを一つ下さい」というもの。それを加え、町の北側にあるパン屋へ持っていく。そこパン屋の店番にその板を渡す。すると……
「まいど!パン1個ね。銅貨5枚だよ」
よく見るとその店番はあの日成瀬が初めてこの町に来た時に門番をしていた男だった
(この男一体何の職業なんだ?)
門番かと思えばパン屋で店番をしている姿に成瀬は疑問を抱くが、それはそれとして銅貨5枚を影の中から取り出し、男へ渡す
(実験は終了だな。これなら比呂さんもそう苦労はしないだろう。俺も意思疎通の手段を得れた)
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そして、時は戻り現在
比呂はお手洗いに行くとのことだったので影の中に4匹ほど影狼を忍ばせた。これによってもしもの場合は俺の方へ影移りで離脱可能となる。それでもって比呂のいないこの部屋では………
「ヒッ……」
ピクティスは空中に浮かぶ影の文字を凝視し、影の腕によっていわば壁ドン状態になっていた。しかし、そこにロマンティックさの欠片もない。
『何が目的だ』
「あ、あなたは……一体ッ」
『質問を質問で返すな。我の質問に答えろ。もし嘘を付けば……』
そして、影刃がピクティスの喉元に食い込み、血が垂れる。腹の底から唸り声をあげる様相にピクティスの顔色はどんどん悪くなりなる
「あッ、あの依頼は1週間前から出しているのに誰も受けてくれなくてッ……それでどうせなら新人冒険者のサキに受けさせれば勉強になるかなってッ!……確かに少し報酬が少ないかもだけど」
(なるほど……真実の嗅覚は反応無し。つまり嘘はついていないか……)
真実の嗅覚は他者が嘘をつくと強烈な悪臭を感知する。このスキルの前に誰も嘘をつくことが出来ない。
『もしあの子の清い心に付け込み利用しようとするのであれば……あの子を傷つけるようなことがあれば我は断固たる態度を取る』
腹の底から唸り声をあげる。その様相にピクティスはやだひたすらに首を縦に振る。よく見ると目端に少し、涙が滲んでいた。足もかつてないほど震えている。
(脅しはこの程度でいいか………)
十分に効果をもたらしたと感じた成瀬は影刃の一部を変化させ、チョーカーに形態を変化させる。
「ッ!?」
ピクティスが反応するよりも早くソレはピクティスの首元へと引き寄せられる。首に装着されたチョーカーを見て絶望のどん底のような顔になる
『それは保険だ。もし、何かしようものならそれが容赦なくお前の首を切り裂く。首と胴がお別れしたくなければちょっかいを掛けるな。勿論この件について口外しようとしてもお前をコロス。あの子と我に危害さえ加えなければ我もお前に何もしない。わかったな?』
フンフンフンッ!
それはもうすごい勢いでピクティスは首を振るのだった




