第7話『ご主人さまが大切なら死ぬ気で守れッ』
「お前が冒険者志望の命知らずかッ!」
大声で怒鳴る大柄な男。そのすぐ後ろには数名のクリップボードを持った人がいた
「な、なんで……」
その姿を見たピクティスが唖然とする。
(この男……鍛え抜かれた筋肉と言いこの立ち振る舞い。ただ者ではない事はわかるけど誰だ?)
「えっと、はい。私が冒険者希望です」
比呂は控えめながらもしっかりと己の主張を言い張る。
「いいだろう。では、今から実技試験を始めるッ!」
「ちょッ!ちょっと待ってくださいッ!なんであなたが試験官なんですか!?副支部長ッ!」
(副支部長?)
「副支部長?」
比呂も同じ疑問だったようで一人と一匹が同時に首をかしげる。
「この人はこのカーティアの冒険者ギルドを統括する文字通り冒険者ギルド。カーティア支部の副部長。そして、今は引退して副支部長なんてしているけど元は6級冒険者だったの………なんで副支部長自ら?通常は副支部長の後ろにいる人たちの誰かが試験官を務めるものじゃないんですか?」
そう言って副支部長の後ろに控えている人たちを指さす
「聞けばそこの魔獣はブラッドグリズを倒したそうじゃねぇかッ!そんな奴相手じゃ流石のこいつらも手に余っちまう。実力を把握する為にもこの俺が適役なんだよッ」
(まぁ、尤もな意見だな。正規の方法でアレを倒すことが出来たならの話だが……)
そこで成瀬は影を操りブラッドグリズのシルエットを大まかに作る
「「「?」」」
突然の奇行に副支部長を含む全員がこちらへ視線を送る。成瀬は自身を模した影も作り、それをブラッドグリズの口の中へ入れる。その後体内から影で切り刻む様子を見せる
「「「…………」」」
その様子を見た全員が呆気にとられる
「……なるほど。このワン公は硬質で分厚い皮膚を外からじゃなく、体内から切り刻みやがったのか。ハッ!イカレてやがるッ!!試験関係なくヤりたくなってきたッ!」
隠そうともしない殺気。流石元とはいえ5級冒険者。射殺さんばかりのむき出しの殺気が成瀬へ刺さる。その瞬間、成瀬は嫌な予感を察知する。比呂を影で抱え上げ、副支部長から距離を取る。
「ワンちゃんッ!?」
突然のことにワンテンポどころかツーテンポ程遅れて比呂が反応する
それと同時に貯蔵していた影を排出し、比呂が着ている学生制服にフィットするようにそれを纏わせる。そして、副支部長を威嚇する
(影武者ッ!)
「ハハッ!勘もいいときたッ!それにその魔法の使い方ッ!面白くなってきたッ!スキル『狂喜乱舞』ステージ2解放ッ!!」
ざわッ……
副支部長がスキルを起動させた瞬間言い表せない程不気味な何かを成瀬は感知する。そして、それが間違いなく副支部長が元凶であるという事も………
『ご主人さまが大切なら死ぬ気で守れッ』
(クソッたれッ!!)
心の中で悪態を付く。物凄いスピードで距離を詰めてくる副支部長に対して、その挙動による風圧で吹っ飛んできたピクティスごと成瀬は更に影綿で比呂の防御を固めつつ、身体超強化5倍を発動する
『~~~~ッ』
唸り声にも似た声を発しながら成瀬へ目掛けその拳を振り下ろす。それに合わせ成瀬も体当たりを仕掛ける。衝突の瞬間地面はおろか壁や天井にまでデカいひび割れを発生させる。試験官たちはその衝撃に耐えられず壁に衝突する形で吹き飛ばされる
成瀬の素のステータス値はブラッドグリズを倒したことによってかなり上昇している
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名前:ワンちゃん
種族:ブラックフェンリル
魔法適性《影》
LV:32
HP:320/320
MP:145/145
筋力:386
防御力:341
俊敏力:268
精神力:899
固有スキル
『真実の嗅覚』『超回復』
スキル
『影貯蔵』『障壁』『身体超強化』
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これにさらに5倍の強化だ。実質4桁に届いているといってもいい。いまなら高原にいる魔獣程度何百と束になろうと負ける気はしない。ブラッドグリズはまだわからないが………しかし、気が付けば成瀬は後方の壁に激突していた。激痛が成瀬の背を襲う。
副支部長に首を掴まれ、壁に押し込まれている状況。更に先ほどの衝突で全身の骨という骨が全て粉々に近いレベルまで砕かれた。普通この時点で死ぬか極めて死に近い状況で意識など保っていられるわけないのだが、残念なことに成瀬は普通ではない。
(グッ……クソッ!今ので全身の骨が粉砕れたッ)
精神力は凡そ900であり、超回復が傷つく傍から回復を始める。粉々に粉砕した各骨も挽肉と化した筋繊維やその他内臓もその程度の痛みでは成瀬の闘志は折れない。しかし、痛みと衝撃で魔法の操作がわずかに鈍る。その結果、比呂とピクティスを包んだ影綿が崩れる
「ひ、開いたッ……わッワンちゃんッ!」
悲痛な叫びが訓練場に響き渡る
(ッ!?クソッ影綿が解けたッ………こうなったらヤケクソだッ‼受け取れッ!影刃影刃影刃影刃ッ!)
影を副支部長の足もとに垂らし、ソレを媒介にブラッドグリズの内臓をズタズタに引き裂いた最高硬度の影刃が副支部長へねらいを定め、射出される。しかし、次の瞬間
「そこまでですッ!」
その声を聴いた瞬間成瀬は……いや、魔法を含めたその他一切の動作が停止する
(なッ!体が……魔法までッ)
「スキル及び魔法を解除しなさいッ」
「ッ!……チッもう終いかよッ」
その言葉の通り副支部長の狂気乱舞や成瀬の身体超強化。影魔法。超回復すら完全に停止する
(これは言葉にしたことを強制するスキルッ!?)
「加えて支部長は従魔の首を放しなさいッ」
バタッ………
首を掴んでいた手の握力がふっと抜けたことで重力に従いその場に落ちる。
「あ、あなたはッ!…………もしかして」
力なくへたり込むピクティスが尋ねる。その試験官はピクティスの問いに少しの間を置き、眼鏡を取り外す
(ッ!?)
メガネを外した瞬間その外見がグニャグニャと変化を始める。
「これは認識を阻害する術式が込められた魔道具でね、装着中は他者から全く違う人間と誤認させることが出来るんだよ」そう言って本当の姿を現したのは10歳にも満たないような幼女だった
「女の……子?」
「外見だけで判断するのは良くないよ。こう見えて君の100倍は生きているんだから」
そう言って耳に掛かっていた橙色の髪をそっと耳裏へすくう。そして、現れたのは異世界ではド定番といっても過言ではないエルフ特有の先が尖った細長い耳だった。しかもただのエルフではない。所謂合法ロリのエルフなのだ。
(うぉぉぉッ!アレが合法ロリッ!一度は見てみたいと思ってたけどまさかこんなところでお目に掛かれるとはッ!)
成瀬は心の中で感動していた。アニメや漫画ではよく見かけてはいたが現実にはそんなもの存在しない
非現実なのだと割り切っていた。しかし、この世界にきてソレを目撃することに成功したのだ。成瀬はこの時、ただひたすらにこの世界を創造した神に感謝していた。
「合法……ロリ」
「はい?」
「い、いえッ!なんでもありません」
成瀬が良く口にしていた合法ロリが比呂の目の前に現れた。8割成瀬のせいではあるが思わず比呂の口をついてでる。その瞬間合法ロリエルフは有無を言わさぬ圧と綺麗な笑顔で比呂へ尋ねる。その様相から比呂は思わず立ちすくむ
(あ、アレは流石にどうにもできんわ………)
一瞬ではあるが解き放たれた圧は副支部長すら比にならない程の力を秘めていた。それを理解した成瀬は、瞬間己が10歳老けたのではと錯覚するほどの疲労を感じ、その場にへたり込むのだった




