第6話「ま、満点ッ!?.....」
翌日
朝の8時頃だろうか。昨日比呂さんに回復魔法をかけてくれた回復魔法使いが来て、未だ目覚めない比呂さんの診察をした後問親指と人差し指で丸を作ってから出て行ってしまった。
(経過は良好ってことなんだろうか……)
念の為回復魔法使いの影に影狼を潜り込ませる。
(何かあった時はこれで呼び出そう)
カーティアの町に来て3日目のお昼ごろだった。新しい魔法を模索していると………
「ぅ、ぅぅう………ぅん」
(ッ!)
ヴォンッ!ヴォンッ!
合図を送ると影から影狼と一緒にパンを加えた回復魔法使いが飛び出してくる。
「ッ!?………ッ?!」
先ほどまで買ったばかりのパンを町の広場で頬張っていたはずなのに気が付くとギルドの医務室にいる。その不思議な体験に回復魔法使いは混乱する。それを一括するように成瀬が軽く吠える
「ヒャッ!」
「ぅう……な、何?」
朦朧とする意識の比呂は周囲の騒がしさから思わず声が出る
「ッ!」
それに回復魔法使いも反応するのだった
・・・・・・・・・・・・・・・・
熱を測られながら今に至るまでの経緯を回復魔法使い……もといピクティスは比呂さんへ伝えた。
「そうだったんですか……夜寝る間では記憶があるんですがその後はひどく曖昧で……寝て起きても真っ暗な中だったのはかろうじて覚えているんですけど」
(ギクッ!)
影綿の中で意識があったことに若干焦りを覚えるが憔悴しきっていたからか記憶が混濁しているようだった。それから数日間はピクティスの看護を受け続けた。
日が経つにつれ比呂の容態も順調に回復していき、1週間が過ぎるころには完全に回復していたのだった。
「あの……お金のことなんですけど………」
退院の日。比呂はピクティスにとても言い辛そうに尋ねる。しかし、それに関して成瀬は抜かりなく魔物を売り払った時に得たお金で治療費を含めた料金を支払っていたのだ。おかげでお金は残り銅貨20枚程度になってしまったが、成瀬にとって比呂の心身の方が大切なのでどうってことない。それに銅貨20枚でも人1人程度であれば向こう2、3日は暮らせる。
「そ、そうだったんですね……」
「本当に賢い魔獣だね。人の言葉を理解して、大まかだけど人と意思疎通ができるなんて……もしかして高位の魔獣なの?」
「高位……かどうかはわかりませんけど種族名はブラックフェンリルというらしいです。」
「ッ!?」
(あぁ~……なんでそう簡単に情報を出しちゃうかなぁ)
比呂が種族名を口にした瞬間ピクティスは傍目から見てもわかる程全身が震え始める
「ぶぶぶぶブラック……フェンリルッ」
青ざめた顔でへたり込みながら比呂に確認を取る
「はい、そうですけど……もしかして不味かったりしますか?」
控えめに尋ねると勢いよく立ち上がる。
「当たり前だよッ!ブラックフェンリルは文字通りフェンリルの亜種。この世界で発見されている魔獣の中でも限りなく0級に近い1級と呼ばれてるんだよ。フェンリルやドラゴンと同等の力を持つって言われてて超危険な魔獣なのッ!」
瞳孔は開ききり、鼻息を荒立てながら物凄い大きな声で語り始める。その剣幕さに成瀬も比呂も思わず後ずさりしてしまう。
「す、すいません。いせ……ゴホッ。人里離れた田舎から来たもので世間にはかなり疎いんです。よろしければその等級についてと……あと使われている貨幣について。それと探索者?冒険者?のなり方について教えてください」
そこからは魔法使い……もといミリアリスから聞いた内容と同じだった。
念の為とその日はピクティスに紹介してもらった『やすらぎ』という名前の宿に泊まることになった。お世辞にも綺麗とは言い難いがそこの主人はとても良い人で現在妊娠中の奥さんと二人で一緒に経営しているようだった。因みにすでに4歳の長女がいるらしい。
この宿は1人2泊で銅貨10枚。朝晩のご飯を付けたいなら銅貨16枚だったので銅貨を16払う事にした。
「腹が減っては戦ができぬってね!」
高原での一件があったからか旦那さんが運んできてくれたご飯を比呂はいままでより何倍もおいしそうに頬張っていた。それだけであの環境がしんどかったのだと物語っている
夜も更け、そろそろ眠たくなってきたであろうという時間
「明日はピクティスさんが冒険者ギルドへ案内してくれるみたいだからそこで冒険者登録を済ませちゃおっか。最初のクエストは何が良いかな?やっぱり薬草採取かな?それとも君がいるから魔物討伐?あ、でもあまりスプラッターなのは嫌かなぁ……」
そんな感じで独り言なのか魔獣である成瀬に話しかけているのかわからないようなことを話しながら夜が更けていくのでした
翌日
ピクティスは完全に陽が昇った頃にやってきた。
「おはよう。昨晩は良く眠れたかな?」
「おはようございます。あはは……お恥ずかしいことに緊張とワクワクであまり眠れませんでした」
照れ臭そうに笑いながら答える。実際比呂はピクティスが来る約30分前までぐっすり寝ていた
「それじゃあ支度をして、ご飯を食べたら冒険者ギルドへ行きましょうか」
その後、奥さんお手製の朝ご飯をおいしそうに完食した後、冒険者ギルドに向かうのだった。
「冒険者になるにもある程度の条件があるの。ギルドも無暗に人を死なせるわけにはいかないからね」
「なるほど……つまり、冒険者になる為の試験があるんですね?」
ピクティスの説明によると試験の内容は2つ。筆記と実技だ。筆記に関しては薬草などの特定の材料を採取するクエストなどではよく似た毒草の採取やそのほか全く違う材料を採取してクエストを失敗しないように。また、ある程度の魔物の知識を覚えておくことで危険の回避に繋がるのだ。そして実践だ。冒険者は有事の際……主にブラッドグリズなどのイレギュラーが出た際に一般の市民を守る義務がある。その為には戦闘能力は最低限必要になるのだ。
「一応気休めかもしれないけど昨日渡したアレはちゃんと目を通した?」
アレとは魔物や薬草・毒草などが記された図鑑のことだ。昨日別れ際に比呂に貸していたのだ
「テスト自体は7割取れれば全然合格できるからッ!頑張ってッ」
励ましのつもりなのだろう。しかし、それは無用の長物だ。座学において比呂咲樹という人間をなめてもらっては困る。
「ま、満点……アタシでも82点だったのに………本当に昨日初めてこの図鑑呼んだんだよね?」
「座学に関しては任せてッ!」
比呂は胸を張ってドヤ顔を決める
「じゃ、じゃあ、次は実技だね。実技は基本的に試験官を相手にどれだけ戦えるのか。立ち回れるのかを見定めるんだけど………あのブラッドグリズを倒すくらい強い魔獣を使役してるんだから余裕だよね」
「ヴォフッ!」
そして二人と一匹は試験官が待つギルドの地下訓練場へ足を運ぶのだった。




