第5話(昔から芸術科目は苦手なんだッ)
(………ぅ、うぅぅぅ……ッ!)
眼を覚ました時。そこは光が無く、何も見ることができない。
(こ、ここは………)
混濁する意識。しかし、気色の悪い鼓動音と鼻が曲がるような激臭で、混濁する意識が一気に覚醒する
(ここはあの化け物の胃の中か…………きっと胃液で解ける速度よりも回復の速度の方が早いんだ……さぁ、どうする?あの化け物相手じゃ今の俺のステータスでは傷一つ付けられない)
足りない脳みそをフル回転させる。そんな足りない頭で一つの昔話を思い出す。一寸の武士の物語だ。その物語の主人公は一寸もの体でその何十倍もの肉体を持つ敵を倒した。その状況は奇しくも今の成瀬と近しい状況に値する
(影は……まだ貯蔵分はあるな。感触からして恐らく外皮よりは柔らかい。)
成瀬の中で思いついた打開策は二つ。一つは、影で胃を埋め尽くし、吐き出させる。イメージとしては食べ過ぎて吐き出すのと同じ感じだ。しかし、これでは根本的な解決にはならない。吐き出させてもまた喰われるか今度こそ念入りに殺されて終いだ。
だったら二つ目の案だ。それは超強化した爪で胃を破り、全身へ影を送り込み血管や筋肉に至るまでを攻撃する。これなら堅い表皮で傷つけることが出来なかったこの熊モドキを殺せる
(ってか、どれだけ気を失ってた?比呂さんも心配だ。影帷で包んで地面の中に隠してきたけど………場合によっちゃすでに朝を迎えている可能性もある。そうなったら俺の単独行動もバレちまう。取り敢えずさっさとコイツ殺すことを最優先にしよう)
周囲を見渡すが光が全く届かない体内ではどれだけ夜目が利こうとも意味は無いようで先ほどと大差なかった。しかし、これは好機でもあった。
(まずは……影刃ッ!)
成瀬は24時間絶えず吸収し続けた影を全排出し、現時点でできうる最高硬度の刃を作り出し、内臓へと突き刺す。すると………
『~~~~ッ‼‼‼』
体外から苦し藻掻く唸り声が響く
真っ暗の中で何も見えないが感触と熊モドキの唸り声が内臓を切り裂いたことを確信させる
(おッ、超強化しなくても影の刃で切れたな。よしッ!そのまま内臓を全て切り裂けッ!影刃ッ!)
しばらくすると藻搔いていた熊モドキは一切動かなくなり、同時にこの熊モドキが絶命したという旨のアナウンスが成瀬の脳内に響き渡る
【ブラッドグリズの絶命を感知しました。個体名『ワンちゃん』は経験値を獲得しました。レベルが4上昇しました。各種ステータスが上昇しました。】
(一気に4ッ⁉………どんだけ強かったんだ。超回復なかったら俺もヤバかったな……ってそんなことしてる場合じゃなかったッ!)
ブラッドグリズの体内をかき分けながらようやく体外へ脱出することに成功する。
(あ、朝日が眩しい………)
戦いに勝ったはずなのにサァーっと血の気が引くのを感じる。影袋にブラッドグリズを収納しつつ同時に比呂さんを包んだ影綿を取り出す。
(影綿解除)
ゆっくりと影は解け落ちていき、比呂さんがその姿を現す。怒った顔、不安な顔、安堵した顔……多く尾顔が脳裏に浮かぶ。しかし……
(ッ⁉比呂さんッ!)
そのどれもを裏切るように比呂さんはやつれ憔悴しきっていた。過労いて息はしているがそれも弱弱しい。
(まずいッ)
急いで影狼を周辺へ放ちつつ、成瀬自身も比呂を背中に固定し、平原を掛け走る
・・・・・・・・・
陽が傾き始めたころだった。ようやく町のようなものを見つける。門は既に閉じられており、普通に人間であれば入れなくなっていた。門の前には門番らしき者がいた。しかし、その門番は成瀬を見た瞬間持っていた槍を前に構え、臨戦態勢を取ってくる
「止まれッ!クソッなんだあの魔獣はッ!」
「ここは俺がッ!お前は援軍を呼んで来いッ」
底荒は大パニックである。レベルアップに伴い更にでかくなった体躯はなんと人一人を見下ろせるまでになっていたのだ。そんな巨大な魔獣が急にやってきたらパニックになるのは必然だった。しかし、そんな事を言っている暇は成瀬にはなった。ぞろぞろとやってきた冒険者や門番連中を影沼で拘束し続けた。念のために両手を影縄で拘束し、口も塞いだ。そのうえで比呂さんに障壁を貼り、成瀬の眼の前に寝かた。成瀬自身も小さくなり、その後ろに座り込むことで己は無害だと伝える。それでも敵意を向けてくる者は多い。
(チッ……面倒くさい)
影で武器や槍の形を作り、その上から被せるように罰を作る。そして、その横に人型のしんどそうにしている様子を形作る。
(昔から芸術科目は苦手なんだッ)
心の中で悪態を付きつつ不格好な絵を大衆に曝す。人の頃だったら間違いなく耳まで真っ赤になっていただろう。この時ばかりはこの体に感謝した
「「「………」」」
しばらくすると若干名が警戒を緩め始めたので、その中から魔法士らしき風貌の女性を数名選び拘束を解く。
「この子……かなり衰弱している。もしかしてあなたのご主人さまなの?」
(察しの良い人で助かる)
女冒険者の問いに大きくうなずく。
その問答を聞いた過半数が今までの行動と合わせて納得がいった様子で警戒心と敵対心が薄れていくのが分かった。
「ひどい状態だわ。すぐに処置しないと」
「回復魔法を使える人ッ!誰かいない?」
先ほど成瀬へ問いかけ来た冒険者とは異なる冒険者が声を張る。その問いに男3。女2が手をあげる。その一挙手一投足に注意しながら女だけを解放する。
(正直例え回復魔法の使い手だからと言って男には極力近づいてほしくない。何かあったらそいつを殺さなくてはならなくなる)
その後は町の中へ入り、冒険者を管理する組合。通称ギルドの医務室にて行われた
医務室には三匹の影狼を配置した。何か怪しい動きがあればいつでも動けるようにだ。更に影に潜ませた状態の影狼を10匹町中に放つ。これでこの街の構造を知る。そして、本体はというと先ほどの女冒険者に魔物の死骸を見せるとギルドの受付で買い取りをしてくれるというのでそこへ行き、買い取ってもらう事にした。その時貨幣価値についても教えてもらった。貨幣の種類は全部で5種類。鉄→銅→銀→金→白金の順で価値が高いとされていて、白金が最も高価な貨幣とされている。鉄貨10枚で銅貨1枚。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨1000枚で金貨1枚。金貨10000枚で白金貨1枚に相当する。尤も聞いて分かる通り白金貨なんてものは市場には絶対に出ることはない。それらは基本的に国家間で取引するときくらいにしか用いられない。
因みにこの世界は貴族階級で王族→貴族→平民→外民という順位付けらしい。平民の一般年収が銀貨20枚程度と言われているとか
そして、魔物についてだ。
魔物には等級なる危険度を数値化したものがあり10級が無害とされ主にスライムなどが挙げられる。逆に1級は複数の国家が連合を組んで対処すべき最悪級の魔物だ。そして、成瀬達が倒すべき敵である魔王はそれよりも上。0級と呼ばれている。世界滅亡の危機。1級が複数で連合国であるのならば0級は全国家が連合を組むべき事案である。
(しかし、教えてもらっておいてなんだが、魔獣に貨幣価値や魔獣の買取など良く教えようと思ったな……)
テイムされて飼いならされていることを示す首輪をこの街に入る際につけてもらったことと本来の姿の1/10大きさも相まって最初こそ驚かれるがすぐに順応された。
今回買取してもらった魔物は成瀬自身が倒した魔物だ。ホーンラビット(9級)57匹:銅貨57枚。レッドキャップ(8級)36匹:銅貨360枚。シャドーウルフ(8級)28匹:銅貨280枚。そして、あのブラッドグリズ(6級)1匹:銀貨1枚。合計で銀貨6枚と銅貨が97枚を得たのだった
因みに最初の3種の魔物に関しては町の冒険者で対処可能だが、最後のブラッドグリズに関しては国が騎士を派遣するレベルだったらしい。ある意味ファインプレーだった。
その後、比呂さんの容態が落ち着いたとの報告があり、見舞いに行くと朝より呼吸が安定しており、顔色もよくなっていた。気が付けば日は沈み、すでに夜となっていた。
成瀬の安堵した様子を察したのか回復魔法使いを含め他の冒険者も医務室を後にした。
(俺が不甲斐ないばかりに……もっと強くならなければッ)
しかし、その日は何もすることはなくただただ比呂の隣に寄り添うのだった
魔物等級別価値
10級:10匹で鉄貨1枚
9級:1匹で銅貨1枚
8級:1匹で銅貨10枚
7級:1匹で銅貨50枚
6級:1匹で銀貨1枚
5級:1匹で銀貨20枚
4級:1匹で銀貨100枚
3級:1匹で金貨1枚
2級:1匹で金貨100枚
1級:1匹で金貨1000枚




